純白に包まれた結婚式場。 そこで、あかりはウェディングドレスを着て、浩之が来るのを待っている。 「あっ、浩之ちゃん」 白のタキシードを着て、右手と右足を同時に前に出しながら、浩之が部屋に入ってきた。 「……」 静かに、あかりは浩之の言葉を待つ。 「きれいだ、あかり。本当に、きれいだ」 それしか言えなかった。 その横では、あかりの両親が泣いている。 あかりの頬にも、一筋の涙が伝っていた。 「病めるときも、健やかなるときも。永遠の愛を誓いますか?」 宣誓。 静かに、二人で神の前に愛を誓った。 その時、浩之の目に、一人の女性が目にとまった。 やけに体格がよくて、ドレスを着ているけれども、どこかで見たような……。 「がっ!」 何かに気づいて、浩之が口を開けた時。 彼は、矢島たち友人や同僚に胴上げされて、舌を噛んでいた。 「あの、あかり。女性席にいたのって、もしかして……」 「うん。私の同僚の保母さんで、タカシさん。通称、タカさん」 「それじゃ、お見合いして婚約したっていうのは……」 「嘘だよ。だって浩之ちゃん、せっかく会えたのに、はっきりしてくれないんだもの」 「ふおっ!」 あかりは、嘘をつくような女の子ではなかった。 いや、もしかしたら、自分の目が節穴だったのか。 新婚旅行で泊まった、外国のホテル。 初夜を前にして、浩之は自分を今まで縛り付けていた鎖が解けるのを感じた。 それは、結果としてよかったのだろう。 結婚して二年後。 丸い大きなお腹をさすって、あかりはベッドに腰掛けている。 妊娠七ヶ月。 そのお腹を見て、 「なあ、あかり。今更、言ってもしょうがないんだけど……」 「嘘をついたことなら、謝らないよ。だって、一番いい結果になったでしょ」 「そりゃ、そうなんだけど……」 俺が悩み苦しんだ年月は何だったのか。 あかりも同じように悩んで苦しんだのはわかるが、男の純情というものが……。 悩んでいる浩之を置いて、あかりは次の話題へと移る。 「それよりも、名前を決めなくちゃ。出生届の受付期間って二週間しかないんだよ。 今から考えないと間に合わないよ」 「男だったら、光輝なんてどうだ?」 「女の子だったら、どうするの?」 「んー。照子なんてのは」 「駄目だよ、それは字画がね……」 何時の間に買っていたのか、あかりは姓名判断の本を取り出して、浩之に説明を始めた。 あかりらしいって言えば、あかりらしいのか……。 もしかしたら、幸せなのかもしれない。 浩之は、そんな風に思い始めていた。 そして、さらに年月を経て。 もう三歳になる長男、光輝を膝に抱いて、浩之は笑っていた。 「あなた、コウちゃんーっ。御飯ができたよー」 フライパンを持った、妻あかりの声。 「わかった、今、行くよ。ほら、光輝。ごはんできたぞーっ」 「ごはん? うん、わかった」 変わることのない、あかりの笑顔。 それは、かけがえのない息子の笑顔という、新しい喜びをもたらしてくれた。 あかりがついた、一つの嘘。 そんなことは、もう浩之は忘れてしまっていた。 「あかり」 「なに、あなた?」 「ありがとうな。それと、愛している」 「なっ……もう、コウちゃんがいるのに」 真っ赤になって照れ笑いをする、あかり。 ずっと、この笑顔を守っていこう。 浩之は心の底から、そう思った。 (サラリーマン藤田浩之 輪違 了)http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/