東鳩ラン外伝/シャドウエッジ Episode-4 投稿者:AIAUS 投稿日:3月14日(水)20時59分
>>>>>[Hoi! 今日のビズは最高だったぜ。これでしばらく、アサクラのWorst-Saurceからオサラバだ!]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[おめでとさん]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[んだよ、いつにも増してノリが悪いな、Squeaky?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[挑発しているつもりなの? 放っておいてよ]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[別によ。Simsenseの番組なんて腐るほどあるんだからさ、一回くらい降板されたって落ち込むこたぁないぜ?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[ほら、俺なんざ一回もSimsenseに出たことないけどよ、こんなに元気だぜ?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[レスが来ねえな? 余計なお世話だったか?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[その通りよ……でも、THX]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[なあに。同業のよしみってやつだ。さて、他のゴロツキ共はどこにいるんだ?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[古臭いLove-Simを見てたよ。おかげで、Shadow-Talkに入れなかった]<<<<<
--Murasame

>>>>>[Samurai-Murasameらしくねえな? Kozukaが出払っちまったんで、寂しくなったのか?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[Black-ClockとTokihime、あんたら二人のことじゃよ]<<<<<
--Multi

>>>>>[うげっ……]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[おい、こら。嫌がってんのが自分だけだと思うなよ、Tokihime?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[やれやれ、まだ古臭いLove-Simが続きやがる]<<<<<
--Murasame

>>>>>[Love-Sceneは、何時頃ですか?]<<<<<
--Multi

>>>>>[教えてくれ。俺は見たくない]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[Murasame-sama。私とのLove-Sceneは、何時頃になりますの?]<<<<<
--Kozuka

>>>>>[第七世界まで待ちやがれ]<<<<<
--Murasame

>>>>>[Rage-Horn、Kozuka。あんたたち、今、HIROSHIMAにいるの?]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[Linear-Trainで、すぐに着きましたわ。滞在のパスも問題なく取れましたし]<<<<<
--Kozuka

>>>>>[俺の方は大変だった。やはり、RepoとMercenaryでは扱いが違うようだな]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[Gateで立ち往生していたが、KozukaのBody-Guardということで納得してもらった]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[三人とも、一緒にHIROSHIMAにいるのか?]<<<<<
--Murasame

>>>>>[わしはご主人様と一緒にビズをしているから、会うことはできんのですよ]<<<<<
--Multi

>>>>>[正当な理由だ。ここではChummerであっても、顔を合わせれば撃ち合いになるかもしれないからな]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[で、HIROSHIMAってのは、どんな都市だい? やはり、線香の匂いばっかりすんのか?]<<<<<
--Black-Clock

>>>>>[影のない都市ですわ。まるで、作り物みたい]<<<<<
--Kozuka

>>>>>[道路も明るくて走りやすいんじゃよ]<<<<<
--Multi

>>>>>[反面、ディアブロに「解放」された地区は電気も通っていないがな]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[ディアブロの連中には会ったのか? やはり、角とか牙は生えてんのかよ]<<<<<
--Black-Clcok

>>>>>[そんなもの、Trogで見慣れているでしょ]<<<<<
--Tokihime

>>>>>[ディアブロが見たいのなら、明日のNewsで見れますわ。KANZEROという名前のテロリストですが]<<<<<
--Kozuka

>>>>>[ついに捕まったのか。騒ぎの割に、あっさりと決着が着いたな]<<<<<
--Murasame

>>>>>[違う。KANZERO自ら、犯行声明を出した。HIROSHIMAは今、そのNewsで持ち切りだ]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[モザイクだらけで、よくわからんのじゃよ]<<<<<
--Multi

>>>>>[HIROSHIMAにだって子供はいる。それに、Gurdianにも家族がいる。当然の処置だ]<<<<<
--Rage-Horn

>>>>>[悪趣味な男ですわ。なぶり殺しにした死体を、まるで宝石箱の中身みたいに見せびらかしたんですもの]<<<<<
--Kozuka

>>>>>[馬鹿な男ね。自分から足を付けるような真似をするなんて]<<<<<
--Tokihime




   Chatting from"NET-TENGOKU#674"(??:??:??/03-14-XX) 

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   「東鳩ラン外伝/シャドウエッジ」


 episode-04「0か1か」


 ディアブロによるものと思われる、一般人を含む大量殺人事件。そして、大胆不敵な犯行声明。
 犯人の名前はカンツェロ。自分がどうやって「楽しんだか」、事細かな描写付きの写真で説明していた。再びアークタワー一階の
大広間で集会が開かれ、「教団」の一同は改めてディアブロへの怒りを共にしたのである。
 その中で、佐野司祭はパジェントリー司祭と同じ、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
 集会が終わった後、佐野司祭の研究室にやって来たウジェーナク司祭は愉快そうに佐野に尋ねた。
「どうしたのですか、佐野司祭。すべて、あなたの望むままに進んでいるではありませんか」
 全身、白装束の司祭ウジェーナクに指摘されて、佐野は煩わしそうに手を横に振る。
「状況の進展が早すぎる。このままでは、「教団」とディアブロの全面戦争になりかねない。そこまではスポンサーは望んでいないのだよ」
「スポンサー、ですか?」
「そうだ。スポンサーだ」
 佐野はウジェーナクに腹の底を見透かされているような不気味さを感じて、話題を変えることにした。
「ところで、貴様に任せた実験体はどうした? 飼い犬のように、いつも引き連れていると噂になっていたが」
「那美には別の任務を与えております。お気にかけるようなことではありませんよ」
「ふんっ……あまり変な様子を見せるなよ、ウジェーナク。貴様が培養槽に戻るかどうか決定するのは、私なんだからな」
「御意」
 ウジェーナクが部屋から出て行く。佐野はあまり愉快ではない気分で、その様子を観察していた。


 芳晴とエビルの働いている孤児院。
「こら、待てっ、シュラムっ! あんた、男の子でしょっ!」
「克美ちゃんの方が強いじゃないか。なんで、僕に捕まえさせようとするんだよぉ〜」
 仲がいい二人の子供が、元気よくグラウンドを駆け回っている。
「カンツェロ、か」
 芳晴はベンチに座ったまま、仲間を殺した者について思いを巡らしていた。昨夜、殺された者達の中にはヘヴィー級ガーディアンや
高レベルの魔法使いが含まれていた。重武装の彼らがほとんど抵抗できずに殺されたとなれば、自然、互角に戦える可能性を持つのは
Sランク・ガーディアンの自分たちだけということになる。
「また、「教団」のガーディアンが殺されたらしいな」
 少し沈んだ調子の声。エビルはそう言いながら、芳晴の隣りに腰掛けた。
「カンツェロという犯罪者の仕業らしいです。もっとも、犯行声明文にそう書いてあっただけなんですが」
「私達ディアブロの仕業だと、「教団」は思っているのだろうな」
「いっ、いや、まだ、そんなことは……」
 エビルの紅玉のように澄んだ赤い瞳が、芳晴の瞳を静かに見つめる。曇りのない瞳の前では、芳晴は嘘を
つきつづけることができなかった。
「……すいません。ほとんどの人達が、そう思ってしまっているみたいです」
 エビルは少しうつむいた後、ためらいがちに芳晴に尋ねた。
「悪くすれば、「教団」と私達は衝突することになるかもしれない。芳晴、おまえはその時……」
「その時?」
「私と……」
 いつの間にか、エビルの細い手が芳晴の指を強くつかんでいた。芳晴はエビルの指の柔らかさに
狼狽する以上に、彼女が何を言おうとしているのか、不安な気持ちで言葉を待っていた。

「ねえ、芳晴先生とエビル先生、赤い顔でなにしてんの?」
「克美ちゃん、こういう時は邪魔しちゃいけないんだよ。お馬さんに蹴られるって、他の先生がいっていたもの」

「なっ!?」
 エビルの顔が珍しく驚きと羞恥の表情を浮かべる。
「なっ、なんでもない。なんでもないぞ、シュラムに克美。いい子だから、向こうで遊んでいろ」
「や〜だ。なにしていたか教えてくれないと、あっち行ってあげないもん」
「克美ちゃ〜ん、やめなよ〜」
「はっ、ははは……」
 テロの緊迫した空気も、ディアブロと人間の混血として産まれた少女の苦悩も、知りたい盛りの
子供には関係がないらしい。久しぶりに空気が和むのを感じて、芳晴は長い溜め息をついて空を仰いでいた。


 廃屋の中に辛うじて通っている電気。そのささやかな電力で映っているテレビで映されているニュースを見て、
イビルは野球帽を跳ね上げ、喝采を叫んでいた。
「ざまあみやがれ! 「教団」の連中も、これで少しは懲りたってもんだろっ!」
「ああ、そうだ、そうだ。これで、殺された連中もちったぁ浮かばれるってもんだっ!」
「このカンツェロって奴は、俺達のヒーローだな」
 イビルの周りで一緒にテレビを見ている他のディアブロ達も無責任にニュースで放映された事件を喜んでいた。

 ……昨夜、再びHIROSHIMAで凶悪事件が発生しました。今回は「教団」関係者の他に一般人を含む15人の人間が
殺傷されており、「教団」関係者は二日前に起こった殺人事件と関連付けて警戒を強めております。これを受けて、
日本ヒューマニス・ポリクラブはディアブロ解放地区への強制捜査の要望と資金、人的協力を「教団」に申し出ており、
他の人権団体との衝突が懸念されております。

 淡々とニュースを告げるキャスターの後ろに映っているのは、モザイクで隠されたガーディアン達の死体。それを喜ぶ仲間達を
見て、ルミラは溜め息をついた。そして、自分の隣りで同じように気だるげに寝転んでいる女メイジ、メイフェアに質問をした。
「はぁ……メイフェア、次は何が起こると思う?」
「先手を取るのはテロリストのカンツェロでしょうね。でも、「教団」側が本気で動き始めたら、始末されるのはすぐでしょうね。
問題なのは、火花がこっちに散ってくるだろうってこと」
「そうね。きっと、この事件を影で喜んでいる奴がいるんだわ」
「私達でカンツェロを捕まえるわけにはいかないんでしょうか?」
 テレビを見て騒いでいるディアブロ達に聞こえないように注意しながら、部屋の中でもヘヴィーボディアーマーを着ている
少女アレイは、ルミラに耳打ちをした。ルミラはすぐに手を横に振った。
「たとえ、すぐに捕まえることができたとしても、急進派の連中にでっち上げだと言われるのがオチよ。無駄に血が流れるだけだわ」
「そうね。ガーディアンを楽に片付けるような相手じゃ無傷で捕まえるのは不可能ね」
「何かが起こるまで、待っているしかないんですか?」
「そう。その意味じゃ、あの子が一番賢いのよ。見習いなさい、アレイ」
 ルミラは心配で目を潤ませているアレイにそう言って、こんな騒ぎの中でも堂々と丸くなって寝ている、たまを指差したのだった。


 コリンはその頃、いつものように「壁抜けくん」で芳晴の部屋の扉を開け、勝手に中に入っていた。自分の部屋と同じように、
少しも悪びれた様子もなく芳晴のベッドの上へ寝転がり、部屋に流れる軽快な音楽を楽しんでいる。
 ガチャ。
 コリンがそうして楽しんでいると、いつも通りの時間に扉の鍵が開いた。
「……またか」
「おまたー。芳晴、今日も時間に正確だね」
 机の上に荷物を置きながら、文句を言う芳晴。コリンはいつものように聞き流しながら、仕事の話に移った。
「一応、定石どおりにカンツェロという名前と、それに関連するような単語を調べまくったけど、成果はなし。ただの偽名みたいね。
もっとも、SIN(市民登録コード)を持っていないディアブロだったら、本名だってことも考えられるけど」
「まだ、ディアブロがやったって決まったわけじゃない」
 強い調子で言う芳晴に、珍しくコリンが真剣な表情になった。
「芳晴。あんた、どうするつもりなの?」
「どうするつもり?」
 幼い頃から同じ時間を過ごしているパートナーの真剣な表情に、芳晴は口ごもる。
「あんたがどう思っていたって、近いうちに大きな衝突が起きるのは間違いないわ。あたし達「教団」とディアブロのね。もう百人
以上の血がこの街に流れたもの。何もなしで済ませられるほど、あたし達もディアブロもお人好しじゃないわ」
「悪いのは、カンツェロだろうっ!」
「ディアブロ解放地区で無力なスクワッター(浮浪者)を皆殺しにしたのは、カンツェロじゃない。少なくとも、ディアブロ達は
そう思っている。あたし達がカンツェロをディアブロの一人に違いない、と思っているのと同じようにね。芳晴、あんたが優しいのは
知っている。あたしは、あんたの横にずっといたんだもの。そのことはよくわかっている。だからって、あなたは「教団」の
ガーディアンとしての義務を放棄することはできないわ」
「……エビルさんのことを言っているのか?」
 沈む芳晴の言葉に、コリンは黙ってうなずいた。
「俺は、「教団」の人達もディアブロの人達も両方守りたい。それこそがガーディアンの本当の役目だって、アルテー様だって
おっしゃっていた。この力は人を殺すために与えられたんじゃない、守るために与えられたんだ……」
「0か、1か」
 厳しい表情のコリンに、今度は芳晴が押し黙る。
「どっちもなんて選べやしない。それが現実ってもんなのよ、芳晴」
 暗く沈んだ芳晴の部屋に、再生デッキだけが場違いに軽快な音楽を奏でていた。


「以上、配置の変換を命じる」
 淡々とした様子で命令文を読み上げるウジェーナク司祭。白いフードの奥に光る瞳は、何の感情も映してはいない。
これとは対照的に、芳晴とコリンは非常に驚いた顔をしている。
「どうして、この時期に配置の変換なんか」
「……よろしく」
 そう言って頭を下げたは、この前、ディアブロ解放地区で芳晴に斬りかかってきた白いレザースーツを着た無表情な少女、
七枝那美であった。パジェントリーは困った様子の笑顔を浮かべて、スタンザに二人を納得させるようにうながした。
「カンツェロは武装テロリストである可能性が高い。それなら、デッカーのコリンと組んで巡回するのは危険だろう。
幸い、七枝那美はSランク・ガーディアンに任命されたばかりで、パートナーが決まっていない。芳晴、おまえが適任だ」
「いや、いきなりコンビを組め、って言われても。ツーマンセル(二人組)は息があってなければ逆に戦力ダウンになりますよ。
確かに、コリンはデッカーですから戦闘能力は高くないですけど、確実に俺をサポートしてくれています。考え直してもらえませんか」
「あー……いや、これはアルテー様の印が押してあるからなあ。今回ばかりは、わがままは言えないぞ」
 古典的な問題、芳晴とコリンの二人を引き剥がすという難題を任されたスタンザは、苦笑しながら権威主義で
押し切る手段に出た。芳晴とコリンがガーディアンとエンジェルに任命されたのは15歳の時。以来、
二人の配置を換えようとする度に本人達の猛烈な反対にあって、その試みは挫折してきた。芳晴とコリンの二人は
高い成果を上げているため、管理する側もあまり強いことが言えなかったのだ。結果が出せるのであれば、
ランクにこだわる必要はない。それが「教団」の出した結論であった。
「那美と二人でカンツェロを狩れ。命令は以上だ」
 有無を言わせないウジェーナクの口調に、芳晴はなおも反論しようとするが、コリンは横からそれを止めた。
「仕方ないよ、芳晴。事態が事態だもの。あきらめよう」
「でも、コリン……」
「あたし、あんたの足手まといにはなりたくないもの。この事件が終わったら、また戻してもらえばいいじゃない。だから、
那美さん、芳晴をよろしくお願いね」
「……」
 那美はコリンの言葉に、無言でうなずいた。芳晴はまだ不満そうだったが、コリンがそう言うのでは折れるしかない。古典的問題が
特に難航することもなく片付いたので、パジェントリーとスタンザの二人は安心して胸を撫で下ろした。
「コリン。君には情報部でデータ分析、オペレーティングを勤めてもらう。これもカンツェロを追い詰めるために必要な方法だ。よろしく頼む」
「アイサー。マトリクスならお任せください」
 くだけた敬礼をしたコリンは、部屋を出て行く間際、冗談めかした口調で那美に忠告をした。
「芳晴には気をつけた方がいいわよ。そいつ、あなたみたいなクールビューティに弱いから」
「……弱い? 戦闘で苦手な相手、という意味なのか?」
 不思議そうに尋ねる那美に、コリンは意地の悪い笑みを浮かべて言葉を続けた。
「違うわよ。変なことされるかもしれないから、覚悟しておけってこと」
「コリンっ!」
「あはは、そんじゃねーっ!」
 芳晴に怒鳴られて、コリンは部屋から去っていく。パジェントリーとスタンザは苦笑しながら、ウジェーナクは無表情にその様子を
見ていた。那美はと言うと、やはりまだ不思議そうな顔をしている。
「……変なことをするのか、ヨシハル」
「しないよっ!」
 とぼけているのか、それともそれが自然なのか。
 那美は白い髪を指でいじりながら、芳晴の顔を珍しそうに観察していた。


 夕闇のハイウェイを疾駆する深緑色のフォードRX-21。
 ハンドルを握っているのはレーサー上がりのシャドウランナー矢島。パッセンジャーシートに座っているのは、なぜかクスクスと
笑っている花山玲奈であった。彼女が笑っている原因は、後部座席の風変わりな人物のせいである。
 ガスッ!
 また、後部座席で派手な音がする。
「すごく後ろが窮屈な車でござるな。これが「本格派すぽおつかあ」というものでござろうか」
 珍しそうにフォードRX-21の狭い後部座席から室内を見回しているのは、黒装束、いや正確には忍者のコスプレをしている大柄な男性。
ご丁寧に顔には黒い覆面をつけ、正体をわからなくしている。
「おっさん、いいかげんにするんじゃよ。これで、わしの屋根にカタナの柄をぶつけたの七回目ですよ」
 忍者マニアの男性に文句を言っているのは、矢島のフォードRX-21に搭載している人工知能「マルチ」。彼が背中に背負っている
忍者刀の柄が、さっきから車の天井に当たっているのである。
「ニンジャーたる者、いつ何時でもカタナを身に付けておかなくてはならない。これは絶対の掟でゴザルよ」
 指を変な形に組みながら、その男性はマルチに言い返している。マルチもすぐに言い返した。
「ボケー! すぐに抜けなきゃ意味ないんじゃよー! あんた、その状態から、どうやってカタナ抜くつもりですか?」
「ぬっ? ……カタナが抜けない? ふっ、不覚! ニンジャーは奥が深いものでござるな」
「あんたが変なんじゃよー!」
 マルチと忍者マニアの男性のやりとりに、運転している矢島も堪えきれずに笑い出してしまった。
「おい、マルチ。フェザーさんにあまり失礼なこと言うなよ。それに、おまえは忍者映画のファンだったろ? もう少し喜んだらどうだ?」
「わしの好きな忍者は、こんな変なおっさんじゃないんじゃよ! 本当にシャドウランナーなんですか、この人?」
「ああ、とびっきりの腕利きだ。なめてかかってストリートのゴミになった連中は数知れないぜ」
「闇に生き、闇に死す。それがニンジャーでござる」
 矢島の言葉に満足したのか、フェザーという名の忍者マニアは腕を組んで何度もうなずいていた。その様子もおかしいのか、
玲奈はまだ楽しそうに笑っていた。
「悪いな、フェザーさん。隣りのお嬢さんは適当なベッドに寝かせておいたら、悪い連中にさらわれそうなんでさ。洗浄は
済んでいるから、心配はしないでくれ。依頼はいつもどおり受けるからさ」
 逃亡依頼中の玲奈が助手席にいることを釈明してから、矢島はフェザーを促した。
「硝煙と血の臭いがHIROSHIMAを覆いつつあるのは、貴殿も御存知であろう」
「ああ。なんだか知らないが、線香の匂いがする連中と悪魔呼ばわりされている連中が喧嘩しているみたいだな。
「ナイト・オブ・レイジ(激怒の夜)」がまた起こるんじゃないかって、噺好きの連中は噂しているぜ」
「私達の責任なのかしら……」
 HIROSHIMAのヤクザ・グループの娘である玲奈は、気に病んだように言った。彼女の父親が急死したことによって、今は
暗黒街の勢力に真空状態が出来ている。自分達の無秩序状態が間接的に「教団」とディアブロの抗争につながっている、
と言えないこともないからだ。
「まさか。どのみち、どっちかが皆殺しになるまで終わりはしないのさ。「教団」はメガコーポ(巨大企業)の援助を受けているから、
そっちが勝つと俺は踏んでいるけどね」
 矢島は循環線になっているハイウェイで退屈なドライブを続けながら、玲奈をフォローした。
「今回の事件は、全て何者かに仕組まれたものでござる。いつもの仕事と事情は変わらないでござるよ」
「利権の奪い合い、知らされない真実、関係無いのに殺される連中。ありきたりなシャドウランってやつだな」
「そう。闇の仕事でござる」
「まかせろよ。そう来ると思って、ミサイルも新品を仕入れておいたんだ。撃ち放し式のクールなやつだぜ」
「契約内容はいつも通り。派手に騒いでもらいたいでござる」
「了解。合図はいつでもいいぜ。あんたが好きな時に、あんたが望むだけの部隊を引きつけてやる」
 微笑を浮かべながら、矢島とフェザーの二人はビズの内容について語り合っている。
「なんだか怖い話をしているわね、マルチちゃん」
「玲奈もこんな話を聞きながらにっこり笑っているから、充分、怖いんじゃよ」
 トリプルロータリーエンジンの咆哮が響く。HIROSHIMAの夜はさらに騒がしくなりそうだった。
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 Glossary of Slang 

l001.Worst-Saurce……最低のマズい食事の意味。アサクラの代用食は低価格の割には品質が良く人気があるのだが、なぜか
Black-Clockは目の仇にしている。彼はミュージシャンになる前はアサクラの社員だったらしく、その関係のようだ。
l015.Thx………………Thank youのくだけた言い方。ネット用語。
l019.Love-Sim………恋愛番組。日本では相変わらず人気が高い。
l019.Shadow-Talk……ランナーが好んで使うチャットソフト。理論上は使用者を特定することは不可能とされている。
l041.Linear-Train……日本の大都市間を結ぶ超高速軌道鉄道。
l043.Repo………………レポーター。Kozukaはドイツ出身のフリージャーナリストである。
l043.Mercenary………傭兵。Rage-Hornはトロールの傭兵で、組合の中では上位ランクの成績である。
l045.Gate………………検問。HIROSIMAは「教団」が治める特別自治区なので、このような機構が存在する。これは
メガコーポによって管理されている自治区でも同様である。
l049.ビズ…………………ビジネスの略称。シャドウランナーは自分達の仕事をそう呼ぶ。
051.Chummer…………仲間、ご同輩ぐらいの意味。「やあ、よお」などの挨拶にも使われる。
162.SIN…………………国家、都市、企業などにおいて、それぞれ個人に割り振られた身元照会番号。この荒廃した
時代では、SINを持っていないと警察や病院などの公的機関は相手にしてくれない。しかしながら、シャドウランナー達は
身元を特定されることを嫌うのでSIN-Less、つまり身分登録していない者が多い。


http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/