宮内さんのおはなし その四十の四(反則版) 投稿者:AIAUS 投稿日:1月4日(木)16時33分
 
 −ただいま。 
 −おかえりなさい、修作さん。御飯できていますよ……どうしたんですか、そんなに嬉しそうな顔して。
 −……「おかえりなさい」って言われるのは、すごく久しぶりだと思ってね。
 −そうなんですかぁ。大丈夫ですよ、これからはいつも私がおりますから。
 −……ありがとう、マルノ。本当にありがとう。 
 −あぁ、そんな大げさなっ! ほら、御飯冷めちゃいますから。
 −うん。ありがたくいただくよ。


 お墓。
 墓碑銘には、「南修作」と書かれている。
 そして、数人の少年と少女達が、その墓の前で静かに立っている。
 矢島とヤジマルチ、そして花山玲奈と弟のカヲル、マルチネスである。
「……マルノ。これで、ずっとおまえのマスターと一緒じゃからな。安らかに眠ってくださいよ」
 そう言いながら、ヤジマルチは自分の末妹の墓に手を合わせた。
 南修作の墓碑銘の横には、小さく「HM−12G−20」と横文字が彫られている。
「くやしいよな。なんか……」
 ヤジマルチの横で歯をくいしばっていたマルチネスは、横にいた傷だらけの顔をした巨漢カヲルに
肩を叩かれ、自分も手を合わせることにした。ヤジマルチと全く同じ顔、同じ体ながら、全身には
行き所のない怒りが溢れている。ヤジマルチの方は、ただ静かに死者達の安らかな眠りを祈っていた。
「南さん、身寄りがないんですってね。生まれ故郷にお墓を置かせてもらったけど……」
「きっと感謝されていると思いますよ。自分の生まれた土地に、命を捨ててまで守ろうとした
パートナーと一緒に眠れるんですから……俺なら、きっと感謝します」
 矢島が手を合わせながら、そんなことを言ったので、玲奈はギュっと彼の袖口をつかんだ。
「大丈夫です。俺は、玲奈さんがいてくれる限りは死にませんから」
「本当に?」
 目を合わせあう姉と姉の想い人を置いて、花山カヲルは深く帽子を被りなおした。
「あっ! 待って下さいよ、カヲルさんっ!」
「……帰るぞ」
 白いキャデラックのエンジンが、死者を歎くかのように深く遠くへ響く咆哮を上げた。
  

 HM−12G−20。
 通称、マルノ。
 『GHOST』シリーズの最終開発機であり、もっとも人間に近いロボットとして成果を期待
されていた。オーナーとして選ばれた南修作氏との人間関係も非常に順調で、もしも『GHOST』
が商品化されていたなら、確実に彼女が素体として選ばれていたはずである。
 しかしながら、ある事件がG−20、および他の『GHOST』シリーズ、並びに『GHOST』
に関わった者達の運命を狂わせることになった。

 少年不良グループによるHM−12G−20の誘拐とオーナー南氏の殺害。
 誘拐された後、少年達から繰り返し暴行を受けたHM−12G−20は、彼等を「殺した」。
 そして、HM−12G−20自身も投身「自殺」をした。 
 事件の顛末は以上である。

 胸がむかつくような、だが最近ではありふれてしまった事件。
「人間のように考え、人間のように行動するロボットは、人間のように人間を憎み、人間のように人間を殺すことができる」 
 この事実を証明してしまったこと意外は、実にありふれた事件だった。


 高速道路を走る、白いキャデラックの中。
 マルチネスは助手席で頬を紅潮させたまま、やり場のない怒りに身を焦がしていた。
「……カヲルさん。なんで、こんなにくやしいって思うんでしょうか?」
「……マルチネス」
「はっ、はい!」
 普段は自分の言葉を受け流しがちな寡黙なカヲルに名前を呼ばれて、マルチネスは慌てて
返事をする。
「……俺達の稼業は、殺す、殺されるが「あたりめえ」だ。だから、おまえはそんな真似はするなよ」
「仇は討つな、っていうことですか?」
「……そうだ」
「大丈夫です。あたいが死ぬ時は、カヲルさんと一緒ですから」
「……なら、勝手にしろ」
 カヲルは傷だらけの顔に表情を浮かべないまま、キャデラックのアクセルを噴かした。
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(その頃の宮内さん)

「なあ、藤田。おまえがロボットを庇って本当に怒っていた時、俺、馬鹿にしたことが
あったよな……謝っとくわ。ゴメン」
「今更いいって、矢島」
「俺、マルノの墓参りに行ったんだけどさ……悔しいよな。やっぱり。でも、こう思うことも、
以前の俺みたいな連中から見たら、おかしいことに思えるのかな?」
「俺は思わない。おまえも思わない。それでいいんじゃねえか?」
「YES! アタシ達も神サマに造られた被造物だモン。同じダヨ」
 突如現れたレミィに藤田と矢島は驚いて顔を見合わせていたが、その後、微笑みあった。

 人間にどこまでも限りなく近づいたAI。それは、すでに人間と同じものである。


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