宮内さんのおはなし その三十八 投稿者:AIAUS 投稿日:12月22日(金)23時03分
 雪が降り続けている。
 白い雪の中からピョコンと二本出ている触角。
 あれは、雛山理緒の前髪だろうか。

「くぺっ!」
 葵の頭に白い弾丸が直撃し、不自然な方向に首が曲がる。
 葵は奇妙な悲鳴を上げたあと、膝から雪面に崩れ落ち、白い雪が積もるグラウンドに倒れた。
「Hit! これで、残ったのはアタシとアヤカの二人だけネ」
 八重歯をのぞかせて不敵な笑みを浮かべているのは、固めた雪玉を右手で弄んでいるレミィ。
「あなたか好恵のどちらかが残るとは思っていたけど……なかなかやるじゃないの」
 その正面で同じく不敵な笑みを浮かべているのは、腕組みをして猫笑いしている綾香。
 二人の足元、白く雪が積もった学校のグラウンド一杯に、『スノーサバイバル』に敗れた生徒達が
倒れ、無残な屍をさらしていた。
(註:全員、生きてます)
 
 スノーサバイバル。
 発案者であり、命名者でもある長岡志保は、すでに雪の中に埋まっている。
「せっかく雪が降ったんだから、派手に雪合戦やっちゃおー!」
 そう言った時、彼女はこんな惨事が起こるとは予測していなかっただろう。
 積もった雪から出た彼女の腕が、そのことを物語っていた。

 Biz! Biz! Biz!
 雪の塊が出すとは思えないような金属質の音を立てて、綾香のいた場所にレミィの投げた雪玉が
突き刺さる。綾香はそれを横っ飛びにかわして、鋭い一撃を投じた。
 ボスッ!
「まだまだ甘いヨ、綾香」
 綾香の投げた雪玉を自分の投げた雪玉で撃墜したレミィは、再び綾香に向かって連投を開始した。
「これで終りだなんて、思わないでねっ!?」
 綾香は後ろへ跳躍し、一気にレミィとの距離を取る。
 有効射程外に離脱した綾香を追って、レミィはすぐに前進を開始した。
「ごっ、ごっつう寒いっ……死んでまう」
 そのレミィの体温を求めるようにして、雪面に倒れていた保科智子が彼女の体に抱きついてきた。
「さっ、寒い……」
「おっ、俺も……」
 それに触発されるようにして、他の生徒達もまるでゾンビの大群のように寄ってきた。
「Shit! どきなサーイ! アヤカにやられちゃうデショ!?」
「チャーンスっ!」
 レミィの悲鳴を証明するかのように、容赦のない雪玉の連射が彼女のいる場所を襲った。
 Bizzzzzzzzzzzzzzzzzzzz!!!
 鋭い音を立てて、着弾点にある雪面が白い雪柱を上げて砕けていく。
「やった!?」
 綾香は舞い上がった雪の柱を見上げるようにして、自分の勝利を確認した。

 ボスッ!
「……なんで?」
 側頭部に固めた雪玉の一撃を受けた綾香が、信じられないといった顔で横にいる人物を見た。
 強烈な一撃を食らった綾香は、そのまま横倒しに雪面に倒れる。
 優しい笑顔で倒れた綾香を見ていたのは、最初に脱落したはずの神岸あかりだった。
「油断大敵だよ、来栖川さん」
 ドサっ!
 とどめの雪ダルマを綾香の上に置くと、あかりは舞い上がったままの雪柱に向き直った。
「レミィ。これで、本当に二人だけになっちゃったよ」
 雪柱の中から出てきたのは、綾香に倒されたはずのレミィだった。
「アカリが寒さに強いのは、やはり犬だからデスカ?」
 盾に使っていた保科智子を投げ下ろすと、レミィは両手に雪玉を構える。
 あかりもそれに応じるように、雪玉を手に持った。

 寒いですね、綾香。
 姉さん、ここにいたの?
 はい。最初に、ここであなたに盾にされましたから。
 ……もしかして、怒ってる?
 ……どうして、怒ってないなんてハッピーな想像ができるんですか?

 雪の中で姉妹喧嘩が行われている頃、あかりとレミィは雪面を滑るように走っていた。
 舞い散る雪が、雪面に倒れる黒と赤の制服を次々と白に染めていく。
 Biz! Biz! Biz! Biz! Biz! Biz! Biz! Biz!
 フォォォン……ボスッ! 
 レミィの連射に対して、あかりは精密な狙撃でそれに対抗する。
 お互いに有効な打撃を与えられないまま、膠着状態が続く。

 空手着が雪に埋まっている。
 坂下好恵は激戦の末、ここで倒されたのだろうか?
 地面に置かれた黒帯が、戦闘の激しさを物語っている。

「これでFinishネッ!」
 あかりにむかって強烈な連射を放とうとしていたレミィの腕が、ブランと地面に向かって垂れた。
「What?」
「気付かなかったの、レミィ? 私、わざと腕を狙っていたんだよ」
 あかりが優しく微笑んだ。
 レミィの顔に恐怖が浮かぶ。
「たくさん雪玉を投げてつかれたでしょ? 今、楽にしてあげるね」
「Nooooo! 一人では、やられまセーンッ!」
「えっ!?」 
 レミィが、自分の横にある銀杏の木を力いっぱい蹴りつけた。
 突然、空が暗くなる。
 ドサドサドサドサドサ……。
 銀杏の枝に積もった大量の雪が、最後の生き残りであるレミィとあかりを押しつぶしたのだった。
グラウンドではもう、動く者はいない……全てが、雪に包まれていく。
(註:全員、生きています)

「雪って綺麗ですねえ」
「はい。そうですね、マルチさん」
 舞い落ちる雪に素直に感動を覚えているのは、二人のメイドロボットだけであった。
 他、全員、雪の中。

 寒いね……浩之。
 いいから、近づくな。
 知っている? 雪山で遭難したら、どうするか?
 それ以上言ったら、俺は舌を噛んで死ぬぞ、雅史。

 雪の中で、男同士の友情を変な方向で深め合っている浩之と雅史も、例外ではない。

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 おまけ

 雪から助け出された後、教室でレミィと浩之は毛布にくるまれてガタガタと震えている。
「さっ、サブいヨっ、ヒロユキ……」
「……サブ……ぎぃやあぁぁぁぁあぁぁぁあああ!!」
「ふふっ」
 悲鳴を上げる浩之の横で、雅史はツヤツヤとした頬で微笑んでいた。


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