「ヒロユキ?」 俺と腕を組んでいるレミィが、不思議そうな顔で俺の横顔を見ている。 「うん……どうした、レミィ?」 「ずっと夕日を見つめているから、どうしたんだろうって思ったノ」 「なんだよ、俺が夕日を見つめたら変か?」 「あんまり、似合わないデス」 いつも通り思ったことをはっきり言うレミィに、俺は苦笑を浮かべた。 「つまんねーなら、どっか遊びに行くか?」 「ううん。アタシはヒロユキとこうしているだけで幸せだから」 「じゃあ、しばらくこうしてっか」 俺とレミィは公園のベンチに座ったまま、立ち並んだビルの向こうへと消えていく 夕日を見つめ続けた。 「ねえ、ヒロユキ?」 「なんだ?」 「ヒロユキは、アタシとこうしていると幸せ?」 「……あったりめえだろ」 照れくさそうに鼻をかく俺の腕を、レミィは優しく抱き締めている。 ヒュウ! ビルの合間を抜けてきた風が、公園にいる俺達に吹き付けてきた。 「Oh!」 「……もう帰るか?」 突然の冷たさに悲鳴を上げたレミィに俺は声をかけたが、彼女は無言で首を横に振った。 「大丈夫。ちょっとビックリしただけダヨ」 「でも、お腹の子に悪くねえか?」 俺はレミィの丸く膨らんだお腹に、そっと手を当てた。 彼女の中で眠っているのは、俺とレミィの子供だ。 「甘やかして子育てすると、後が大変ダヨ」 「産まれてないのにスパルタ教育開始とは災難だよな、おまえも」 レミィは笑って、腹に当てられた俺の手に自分の手を重ねる。 「まだ産まれていないのに、パパとママの愛の一時を邪魔する権利はアリマセーン」 「最初に覚えるのは英語かな、やっぱり」 「そうダネ、きっと。アタシとヒロユキが日本語で話すのは、二人っきりの時だけダカラ」 「二人だけの秘密の言葉ってわけだ」 「エヘヘヘ……」 寒さが本格的になってきた。 俺とレミィは一度だけ唇を重ねると、そのまま家路へと向かう。 夕日の向こうにあるのは、俺が産まれた国。 そして、今から帰るのは、俺の新しい家。 横で一緒に歩いているのは、俺がこれから一生守っていくべき家族。 背を向けて歩きだした俺の背中を、夕日の赤い日差しが見送るように照らし続けていた。http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/