宮内さんのおはなし その三十七 投稿者:AIAUS 投稿日:12月21日(木)00時01分
「ヒロユキ?」
 俺と腕を組んでいるレミィが、不思議そうな顔で俺の横顔を見ている。
「うん……どうした、レミィ?」
「ずっと夕日を見つめているから、どうしたんだろうって思ったノ」
「なんだよ、俺が夕日を見つめたら変か?」
「あんまり、似合わないデス」
 いつも通り思ったことをはっきり言うレミィに、俺は苦笑を浮かべた。
「つまんねーなら、どっか遊びに行くか?」
「ううん。アタシはヒロユキとこうしているだけで幸せだから」
「じゃあ、しばらくこうしてっか」
 俺とレミィは公園のベンチに座ったまま、立ち並んだビルの向こうへと消えていく
夕日を見つめ続けた。
「ねえ、ヒロユキ?」
「なんだ?」
「ヒロユキは、アタシとこうしていると幸せ?」
「……あったりめえだろ」
 照れくさそうに鼻をかく俺の腕を、レミィは優しく抱き締めている。

 ヒュウ!

 ビルの合間を抜けてきた風が、公園にいる俺達に吹き付けてきた。
「Oh!」
「……もう帰るか?」 
 突然の冷たさに悲鳴を上げたレミィに俺は声をかけたが、彼女は無言で首を横に振った。
「大丈夫。ちょっとビックリしただけダヨ」
「でも、お腹の子に悪くねえか?」
 俺はレミィの丸く膨らんだお腹に、そっと手を当てた。
 彼女の中で眠っているのは、俺とレミィの子供だ。
「甘やかして子育てすると、後が大変ダヨ」
「産まれてないのにスパルタ教育開始とは災難だよな、おまえも」
 レミィは笑って、腹に当てられた俺の手に自分の手を重ねる。
「まだ産まれていないのに、パパとママの愛の一時を邪魔する権利はアリマセーン」
「最初に覚えるのは英語かな、やっぱり」
「そうダネ、きっと。アタシとヒロユキが日本語で話すのは、二人っきりの時だけダカラ」
「二人だけの秘密の言葉ってわけだ」
「エヘヘヘ……」
 寒さが本格的になってきた。
 俺とレミィは一度だけ唇を重ねると、そのまま家路へと向かう。

 夕日の向こうにあるのは、俺が産まれた国。
 そして、今から帰るのは、俺の新しい家。
 横で一緒に歩いているのは、俺がこれから一生守っていくべき家族。

 背を向けて歩きだした俺の背中を、夕日の赤い日差しが見送るように照らし続けていた。


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