宮内さんのおはなしR その十六改 投稿者:AIAUS 投稿日:8月20日(日)22時04分
あ〜、夏の授業はたまんなくつらいわよね〜。

退屈な時間が終わり、やっと昼休憩になったので、あたしは昼食を食べるために屋上に行ったの。
たまには気分変えて御飯食べたいじゃない?
で、購買部でパンを買ってから行ったから、もうそこかしこに人が座っていんの。
う〜ん、どこに座ろうかしら?

おっ、あそこにいるのはヒロとレミィじゃん。

パンを食べながら、何か楽しそうに話しているわ。
あたしも混ぜても〜らおっと。

「レミィって、本当に目立つよな」
「Oh! そうなのデスカ!?」
「ああ。学校のアイドルって感じだぜ。けっこう、ラブレターとかもらったりするだろ?」
「ウ〜ン。そんなにもらわないヨ。もらっても断っちゃうネ」

さて、あたしも混ぜてもらうことにしますか。
「あたし、ラブレターなんかもらったことないけど?」
「ゲッ、志保!!」
あたしの乱入に、とても迷惑そうな顔をするヒロ。
「ゲッ、っていうのは何よ、あんた? 相変わらずかわいくないわね〜」
「おまえにかわいいって思われたくないっての。なんだ、メシか?」
憎まれ口を叩きながらも、ヒロはあたしが座る場所を空けてくれた。
えへへ。
三人で囲むようにして座ると、あたしはパンの包みを開ける。
いっただきま〜す・・・。

「What!? シホ、ラブレターもらったことないノ?」
ブホッ!
レミィがいきなり、「そんな女の子が世の中にいるのか?」というような顔であたしを
見て叫んだので、あたしは口の中にあったパンを吹き出してしまった。
「べっ、別にいいでしょ、そんなの!」
「お年頃になって恋文の一枚も送ってもらえないっていうのは、女として問題あるぜ?」
ヒロがニヤニヤ笑いながら、レミィに調子を合わせている。
この〜。
「ソウデース、シホ。男の子に注目されないっていうのは、女として悲しいデスヨ?」
あっ、あんたらねえ・・・。
別にいいじゃないの、そんな紙切れ一枚もらえようと、もらえまいと!
「そんな偉そうなこと言っているヒロだって、ラブレターなんかもらったことないじゃん!」
「いいや。先月、理緒ちゃんからもらった」

ガビ〜ン!!

平然としたヒロの答えに、あたしはショックを受けてフラフラになってしまった。
「まっ、まさか・・・ダメ人間大将と言われたあんたに、愛を書き綴った手紙を送る女の子が
いるなんて」
「だれが言った、だれが」
ヒロの言葉は無視して、あたしはこの理解しにくい状況を打ち破るべく、必死に答えを捜した。

「あっ、わかった!! 志保ちゃんってばみんなのアイドルだから、きっと声がかけにくいのよ」

「それはないデ〜ス」
「ああ、そんなことはありえねえ」
即座に息をピッタリ合わせて、あたしの言葉を否定するレミィとヒロ。

クッ、ククク・・・どうしてくれようか、この二人。

「どっちかと言うと、親しみがありすぎて声かけられないんじゃねえか? おまえって、だれと
でも友達感覚になっちゃう奴だろ?」
「ソウデスネ。シホはsteadyよりもfriendっていう言葉が似合ってイマス」
う〜、そうなのかな?
あたしって、友達にはなりたいけど恋人にはしたくないタイプってこと?
「少なくとも、アイドルじゃねえな」
「Yes. コメディアンですネ」
「レミィ、あんたには言われたくないわよ〜」
そんな感じで、今日の昼御飯は過ぎていった。


学校の帰り。
友達と適当に時間をつぶしてから、あたしはすることもなく商店街を歩いていた。

「・・・おい、あの女の子、緒方理奈じゃねえの?」
「・・・あん? そう言われれば、似てっけど」
「・・・俺、声かけてこようか?」
「・・・バーカ。ヒットチャートで1、2位を争うトップアイドルが、こんなところ
歩いているわけねーじゃん。他人の空似だよ、空似」
「・・・すげぇ似てんだけどなぁ」

??
突然、志保ちゃんイアーが、街をブラついているお兄さん二人の会話をキャッチしたの。
その内容は、「緒方理奈に似ている女の子が歩いている」ってこと。
確かに、こんな何もない場所を、あのトップアイドルが歩いているっていうのは変な話
だけど、あたしの記憶が正しいのなら、彼女はこの間まで「寺女」の生徒だったはず。
仕事の都合で自主退学しちゃったけど、何かの用事でひょっこりやって来たってことは
考えられるわ・・・。
二人が話していたのは、あっちの方角よね。

「緒方理奈、発見〜!(小声)」
トレードマークの赤いリボン二つは外しているけど、あのやんごとなき御顔はまごうことなき
緒方の理奈ちゃん! 変装のつもりなのか丸眼鏡をかけて、辺りを警戒しながら街中を歩いて
いる。パッと見、地味な格好をしているんだけど、やっぱり中身が違うとダサダサの服も別物
になってくるのよね〜・・・うらやまし。
いきなり声をかけて、「今、オフですから」とか言われて逃げられても嫌だし、しばらく追跡
させてもらうことにしましょうか。
ウフフ。これって何だか、芸能レポーターみたいよね。
 
・・・あっ、そうだ。
今日のお昼、ヒロとダベっていて疑問が浮かんだのよ。
「アイドルって、どういう意味なの?」
人気者ってだけじゃないのかな?
あたし、みんなには結構ウケていると思うんだけど。
どうもヒロ達の話を聞いてると、もっと別の意味があるみたい。
本物のアイドルに聞いてみれば、絶対に間違いはないわよね。
学校のアイドルになるためにも、これは必須だわ。

あたしは緒方理奈の一ファンとしての興味と個人的な疑問から、変装してこの街を歩いている
理奈ちゃんを追跡することにした。


カラン、カラン、カラン・・・。
カウベルを鳴らして、理奈ちゃんは甘味屋さんに入っていく。
ここは有名なお店で、雑誌にはよく紹介されている。休日になると行列ができたりするのよね。
あたしもよく、あかりや友達を誘って食べに行くんだけど、最近はダイエットしているので寄る
のを控えていたの。だって、ここのメニューってどれもおいしいから、つい食べ過ぎちゃうのよ。
あたしは理奈ちゃんに続いて甘味屋さんに入り、彼女の姿が見えるテーブルに座った。

「お汁粉とパフェ、お願いします」

おっと、アイドルって体重管理とかが大変ってイメージがあるんだけど、理奈ちゃんには関係
なかったみたい。食べても、お肉になりそうにないタイプなのね。
せっかくだから、あたしも理奈ちゃんと同じものを注文してから、彼女の様子を見張る。
すぐにお汁粉とパフェが届いたんだけど、理奈ちゃんはそれに手を着けずにずっと店の入り口の
方を見ていた。
だれか待っているのかしら?
あたしは注文したものをパクパクと食べながら、そんなことを思った。

「ごめんなさい。遅れちゃったね」
「駄目よ、遅刻しちゃ。休みだって、私達には分刻みのものなのよ」

理奈ちゃんのテーブルに座ったのは、赤いサングラスをかけている女の子。
えっと・・・誰だったかしら?
どこかで見たことがあるような気がするんだけど、かけているサングラスが個性的なので名前が
浮かんで来ない。
理奈ちゃんの知り合いだから、多分、サングラスの彼女もアイドルなんだろうけど、理奈ちゃん
よりも変装が上手いみたいだ。

スッ、スッ、スッ。

合計三口。
「さあ、行くわよ」
理奈ちゃんはお汁粉とパフェの表面だけをすくうように食べると、そのまま席を立った。

えっ?
あたし、全部食べちゃったんだけど・・・。

うう・・・やっぱり、美しい体型は努力なしには生まれないのね。
あたしは今日の風呂上がりに乗る体重計の数値を予想して恐怖を抱きながら、理奈ちゃんの後を
追うべく店を出たの。


「ねえ、これって可愛いと思わない?」
「う〜ん。そういう服ばかりじゃなくて、たまにはセクシーな服も着たら彼も喜ぶんじゃないの?」
「そうかなあ。冬弥君って、私がそういう服を着ると嫌な顔をするんだけど」
「独占欲強いからねえ。気が弱いわりに」
誰か男の人を話題にして、コロコロと笑う二人。

あたしが今いる場所は、どこにでもあるブティック。
こんなところで、今をときめくアイドルの緒方理奈が服を選んでいると知ったら、店のおばちゃんは
ビックリして倒れてしまうに違いない。
「すいませーん。これ下さい」
「私はこれ、お願いします」
そんな彼女が買ったのは、店の最高級品なんかじゃなくて、ただのバーゲン品のブラウス。
でも、それは時間をかけて選んだだけあって、あたしやあかりみたいな普通の女の子でも欲しくなる
ような、かわいいブラウスだった。
・・・なんかこうして見ると、本当に普通の女の子よね。


アクセサリーショップ。
ファンシーショップ。

その後、理奈ちゃんがまわった場所は、本当にあたし達がいつも普通にまわっている、そんな場所
ばかりだった。
歩き回って疲れたのか、理奈ちゃんと赤いサングラスの彼女は、公園のベンチに座って休憩している。
なんと、あたしやヒロがいつも腰掛けているベンチなのよ、これが。
「それじゃ私、飲み物でも買ってくるね」
「コーラ、お願いね」
赤いサングラスの彼女が、理奈ちゃんから離れて自販機へと走っていく。

おっ、そろそろ話しかけるチャンスかな?

そう思ったあたしは、不自然に思われないように気をつけながら理奈ちゃんに近寄ったんだけど。

ガクン。

急に、ベンチに座り込んでいた理奈ちゃんの首が傾いた。
疲れ切った様子で、ベンチに座ったままで倒れ込んでいる。

「えっ!? だっ、大丈夫、理奈ちゃん!?」

驚いたあたしは、慌てて理奈ちゃんに駆け寄ろうとしたんだけど、それよりも缶ジュースを両手
に持った赤いサングラスの彼女が走り寄る方が近かった。
心配した様子で、すぐに理奈ちゃんを抱き起こす彼女。
その拍子に、赤いサングラスが地面にポトリと落ちた。
あっ・・・なんで気づかなかったんだろ、あたし。

「だっ、大丈夫よ、由綺。なんでもないわ」
「疲れているんだから、無理しちゃ駄目よ」

理奈ちゃんに優しい声をかけているのは、やっぱりトップアイドルの一人の森川由綺。
嘘ぉ・・・本物のスーパーアイドル、生で二人も見ちゃったわ、あたし。
驚きなのか喜びのあまりか、あたしは二人に話しかけるのも忘れて、その場に立ちすくんだままで
二人の会話を聞き続けていた。

「本当に久しぶりの一日オフだし、たまには普通の女の子してみたかったんだけどね。少しはしゃぎ
すぎたみたい」
そういう理奈ちゃんの顔は青冷めていて、声には力がない。
「ごめんね。私が連れ回しちゃったから」
「そんなことないわ。私も楽しかったし」
ああ・・・アイドルって大変なんだな。
みんなの人気者にはなれるけど、甘いものは食べられないし、休みもない。
仕事で疲れ切って倒れるなんて、あたし達の年齢では考えられないもの。
それに・・・普通の女の子として、街を歩くこともできないんだもの。

それからかなり時間が経って、体力が回復した理奈ちゃんは由希ちゃんに支えられるようにして、
ゆっくりと歩きながら公園を去っていった。
顔は青冷めていたけど表情は笑顔で、本当に今日一日を楽しんでいたようだった。

「よかった・・・お邪魔にならなくて」

あたしらしくないセリフだ。
でも、今日だけは本当にそう思った。


翌日。
あたしは緒方理奈と森川由綺に出会ったことは、誰にも話さなかった。
だって、噂とかになって彼女達がオフをこの街で楽しめなくなったら嫌だから。
「おう、学校のアイドル様。今日は志保ちゃんニュースとかはねえのか?」
「うっさいわねえ、ヒロ!」
今のあたしはこれでいい。
別にアイドルなんかじゃなくったって、ラブレターなんかもらえなくたって、あたしのままで
いられる今。
それが一番、大切なんだ。

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おまけ

「ねえ、藤田君。お手紙のお返事、もらえるかなぁ・・・」
「えっとね、理緒ちゃん?」
「私、一ヶ月も待たされているんだよね・・・」

ボキボキボキ。

「だからさ、後ろであかりが拳鳴らしているしさ」
「好きって言ってもらえれば嬉しいけど、嫌いでもいいんだ・・・だって、答えてもらえないのが
一番悲しいよね?」

チィーーーー。

「レミィのスナイパーライフルのレーザーサイトが俺の頭に当たっているしさ」
「ねえ、藤田君? 私のこと、どう思う?」

藤田浩之。
ラブレターは一通しかもらったことがないが、学校の寂しい男子一同には怨念のこもった目で
にらまれている男であった。

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水方さんリクエストの「追跡SS」をお届けしました。

今回は、僕の方の不徳により「宮内さんのおはなしR その十六改」としてお届けすることに
なりました。
くわしいことは過去ログを見てもらえればわかりますが、人間って調子に乗ると駄目になりますね。
以後、このようなことがないように気をつけます。
怒ってくれた方々、ありがとうございました。
理奈を追跡する志保、お楽しみ下さい。

リクエスト、質問、苦情などがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
までお気軽にどうぞ。

ではでは。