宮内さんのおはなしR その十四の九 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:7月13日(木)21時30分
前回までのあらすじ

:助けて。
マルチの悲鳴が、矢島の耳に響く。
マルチを誘拐したのは、矢島に彼女を譲ったメイドロボ関連の会社。
彼らは新規格の感情回路[GHOST]の実験のために、一般家庭に
[GHOST]入りのマルチ達をばらまいたのだ。
だが、G−20が起こした殺人事件によって、彼らは[GHOST]計画の
隠匿を謀ろうとしていた。

自らの夢に疑いを持ち始めた、[GHOST]の生みの親である釣谷。
粗暴な行動が目立ち始めた、山路と彼の部下達。
どこかで悲鳴を上げている矢島のパートナー、HM−12G−7マルチ。
彼女を救うべく、夜のハイウェイを疾走する矢島。

物語は今、終焉の時を迎えようとしていた。

                                                             (本編へ)          
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:Fan−Side、もしくは熱血。

山路の回収命令が出てから半日後。
彼の優秀な部下達は、すでに19体のHM−12Gシリーズの回収を終えていた。
若干、後処理が面倒な手段で行われた回収もあったが、行動の迅速さは満足のいく
ものだった。

「何すんだ、てめえら。出しやがれ!」
「怖いよぉ、お婆ちゃん・・・」
「あの、わたくし、お使いの途中なのですが」
「ぎにゃー。そこの悪役面のおっさん、早く出しくされ。今なら金、銀、パールを
プレゼントいたします」

ケージに入れられたHM−12Gシリーズ達は、それぞれ勝手に騒いでいる。
全員がすぐに喋らない人形へと戻されるのだ。
山路は無感動な一瞥を彼女たちに向けると、後ろにいる釣谷に言葉をかけた。
「今回の実験の成果はこんなものじゃないかな? G−20が犯したミスは
致命的なものだったが、他の人形達は上手く動いてくれたようだしな」
「山路さん・・・彼女達をどうするつもりですか?」
釣谷が予想通り、不満そうな言葉を口にする。困った奴だな、と考えながら、山路
はわかりきったことを聞くな、と言いたげな調子で返事をした。
「すべて消去する。我々が[GHOST]に関わっていたという証拠を隠滅するため
にね。仕方がないだろう?」
「・・・僕は反対です。犯した罪は償うべきです」

罪。
馬鹿げた話だ。少なくとも山路の考えでは、今回のことは不幸が重なって起きた
些細な事故であって、誰かが反省したり償ったりするようなことではない。
壊れたのは、人形が一体とチンピラが三人。
[GHOST]が生み出す金と比べたら、全く取るに足らない存在だ。
すでに成長が始まっている[GHOST]のサンプルを全て失ってしまうのは痛手だが、
警察に不正改造や違法実験について問いただされるよりはマシである。
それに、[GHOST]計画の資金がどこから出ているのかを警察に勘ぐられるのは
面白くない。
釣谷や他の技術者のような世間知らずの青ヒョウタン達を騙すのはわけがないこと
だったが、今、警察に自分の存在を知られるのはまずい。
山路は突き出た腹の中にある黒い感情を押し込めながら、諭すように釣谷に言った。

「釣谷。人間のパートナーとしてのメイドロボを作る。それがおまえの夢だったろう?
この程度のことで諦めてしまうのか?」
「僕の夢のために命を失った者がいる・・・僕にはもう、夢を追う資格はありません」
「何を馬鹿な。チンピラが三人死んだ程度のことでビビッているのか?」

「僕の言っている命とは、G−20のことです」

山路は思わず吹き出しそうになって、あわてて口を手で押さえた。
冗談かと思って釣谷の顔を見るが、その顔はあくまで真剣だ。
「山路さん。あなたが証拠隠滅を謀るというのなら、僕は自首しますよ」
「なに?」
恰幅のよいサラリーマンにしか見えなかった山路の顔に、凶暴な表情が浮かんだ。
「事件の責任は、開発責任者である僕にあります。色々と尽力いただいた山路さんには
申し訳ないと思いますが、僕は逃げるつもりはありません」
どこまでも真剣な釣谷の瞳。
山路は呆れて、溜め息をついた。
「困った奴だな・・・この坊ちゃんがっ!」

ガスッ!

「ゲホッ!」
釣谷の鳩尾に、山路の拳がめり込んだ。
山路は気絶した釣谷の体を抱えると、側にいた部下に命令する。
「技術者達に命じて、[GHOST]シリーズの消去を始めさせろ。ハードは回収しておきたい
からな・・・それと、父親は娘達の後を追いたいそうだ」
「釣谷を処理しろ、ということですね?」
山路は何でもないことのように、首を縦に振った。
部下は釣谷を背負って、下の階へと消えていく。

メイドロボの誘拐は、誘拐事件ではなくて盗難事件である。
まして、今回は製造元のメーカーが「回収」した、という名目がある。
警察が動き始めるにしても、その捜査の網は翌日にならなければ拡がらないはずだ。
その前に、自分達は[GHOST]のデータとハードを持って悠々と立ち去ればいい。
何も問題はない。
山路はビルの下に広がる夜景を見ながら、にこやかに微笑んでいた。



特にすることもなく、ロビーでタバコを吸っている二人の男。
「あのガキ共、やっぱり消されちまうのかな?」
「だろうな。別にいいじゃねえか。ただの人形なんだから」
面倒くさそうに答えたのは、矢島のマルチを誘拐した男。頭の中は、ボーナスの
使い道でいっぱいである。
「いや・・・俺さ、遊んでやったことがあるんだよ。まだ、あいつらが基本的な
生活訓練をやっていた時に」
「だからなんだよ。ただのプログラム学習だろ?」
「・・・もういい。おまえにはわかんねえだろうから」
「ちぇっ! 今さら感傷にひたれるような商売かよ・・・」
男の言葉が止まる。
ロビーの入り口に照らし出される、ハイビームのライト。

ヴォン、ヴォオオオオオオッ!

吼えるようなバイクのエンジン音。
刹那。

ガシャアアアアンッ!!

ビルの入り口のガラスをかち破って入ってきたのは、一台の赤いフルカウルの
バイクだった。

ギャキキキキキッ!!

ロビーで椅子に座っていた男達二人をはね飛ばすと、バイクは床に丸い跡を
着けながらターンして止まった。

「・・・なっ、なん、だ?」
「ちっ、畜生・・・誰だ?」

床に倒れた二人が見たのは、バイクに乗っている高校生くらいの少年。
顔は怒りに燃え、猛々しい表情で部屋の天井をにらんでいる。
いきなりバイクでビルに突入してきた危ない少年は、男達の側に近寄ってきた。
そして、一言。

「マルチは、どの階にいる?」

「何を言って・・・」
バキィ!
Gシリーズの捕獲を担当していた男の顎が、少年の拳の一撃で砕かれた。
「あがぁ・・・」
「さっさと答えろよ」
バキィ! ゴキィ! メシャ!
「まっ、待て! 教えるから、そいつを殴るのを止めろ」
マルチ達に同情的な意見を発していた男は、少年がGシリーズのサンプルとして
選ばれていたことを思い出して、事情を察していた。
おそらくは、自分と一緒に生活していたHM−12Gを奪い返しに来たのだろう。
ドサッ。
ボロボロになった男を投げ捨てて、少年は答えを聞こうと向き直る。
怖い目だな。
無事な方の男はそう思いながら、質問に答えた。
「最上階に研究室がある・・・もう間に合わないかも知れないが」
「いや、間に合うさ。急がないといけないけどな」
「なぜ、そんなことがわかるんだ?」

「まだ聞こえるんだ、あいつの声が」

そう言い終えると、少年は再びバイクに跨り、突進するようにして階段を
駆け登って行った。



都市の上空を飛ぶ大型ヘリコプター。
浩之とレミィは今、その中にいる。
長瀬がいきなりヘリコプターで迎えに来た時は驚いたが、事態は驚いている暇も
与えてくれない程、切迫しているらしい。
大型ヘリの中にいるのは、長瀬と丸顔の刑事。そして、武装した警察官八名。
浩之とレミィは、緊張した面持ちで刑事の説明を聞いている。

「私が追っていたのはね。山路というテロリストの足取りだったんですよ。
あいつが最新の電化製品であるメイドロボの回路を資金源に選んだのに気づいたのは、
ごく最近のことなんですけどね」
汗を拭きながらも、丸顔の刑事の目は怜悧に光っていた。
「テロリスト!? ちょっと待ってくれ! そんなヤバい連中のアジトに、矢島は
一人で突っ込んでいったのか?」
驚愕する浩之。
「「糸」の報告では、全員が山路の直属の部下というわけでもないみたいだがね。
職を失った暴力団員を金で雇っているようだ」
「それでも、矢島の命が危ないヨ!」
「いや、随分と健闘しているみたいだよ。今、ガードマンをなぎ倒しながら、ビルを
駆け登っているそうだ」
丸顔の刑事は、「糸」とつながっている無線機の端末を浩之に投げ渡した。

「・・・どきや・・がれ!・・・じゃま・す・・るな!」
バキッ! ドカカッ! グシャ!

ボリューム最大で響き渡る矢島の怒声。
響き渡る悲鳴と破壊音。
「すげえな、本気で怒ると」
「でも、すぐにやられちゃうヨ。相手はプロなんだヨ?」
半分呆れ、半分感心する浩之と心配して叫ぶレミィ。
「ああ。矢島のマルチだって、危ないみたいだしな」
浩之の言葉に、長瀬は無言でうなずいた。

丸顔の刑事は一同の話がまとまったのを見て、話を続けた。
「殴り込んだ少年はじきに捕まってしまうでしょう。山路の直属の部下は本職だから。
でも、部隊を展開するまでの時間稼ぎにはなる」
「おっさん・・・」
怒気がこもった浩之の声に、刑事は言葉を継ぎ足す。
「山路はプロだ。不必要な殺生はしないよ。不必要な場合はね」
「小さな針を抜いて油断している山路を、一気に叩くつもりなのネ?」
レミィの言葉に無言でうなずく刑事。
戦闘は今、始まろうとしていた。



「こっ、殺してやふっ! 絶対に殺してやふぅ!」
矢島に顎を砕かれた男が、ピストルを片手に叫んでいる。
諦めたように呟く、相方の男。
「おい・・・また来たぞ」

パー、パパパッ!!

けたたましいクラクション音の後に続くものは。

ガシャアアアアアンン!!

ビルの入り口に突入してきたのは、白塗りのキャデラック。

バンッ!

「「ひいっ!」」
車の中から出てきた「もの」に、二人は恐怖の悲鳴を上げた。
「・・・・・・」
「もの」は無言で、エレベーターに乗って上の階に上がっていく。
二人は口を開けて、その様子を見送っていた。



「高校生くらいのガキが、バイクで突っ込んできて暴れている?」
直系の部下の報告に、山路は露骨に顔をしかめた。
プロである山路が最も嫌うのはイレギュラーである。予想外のファクターは
計画全体の進行を狂わせるだけではなく、時には無視できない損害を招くことも
ある。
「どうやら、回収されたHM−12Gを取り返しに来たようです。「マルチを返せ!」
と叫びながら暴れ回っている、と報告がありましたので」
「人形にのぼせ上がった子供が、ナイト気取りで取り返しに来たというわけか。
実に、微笑ましいことだな」
そういう山路の顔は笑っていたが、目は冷たい輝きを保っている。
「技術者に命じて、HM−12Gの消去を始めさせろ。子供の方はすぐに捕らえろ。
騒ぎを聞きつけた一般人が警察を呼んだら、厄介なことになるからな」
「生かしたままで、ということですね?」
山路がさして重要なことでもない様子でうなずくと、部下は一礼して部屋を去った。

ナイト気取りの無謀な少年は、すぐに捕獲できるだろう。
問題なのは、少年がHM−12Gの回収をいつ、どこで知ったのか、ということである。
別に、少年が重要な情報を握っているとは思っていない。
だが、こうした小さな要素を見逃さないことでこれまで生き延びてきたのだ。

何も知っていなくても、状況によっては処理した方がいいかもしれないな。

ぞっとするような冷たい目で、山路は命の扱い方について計算をしていた。


「なあ、本当にこいつらを消去してしまうのか?」
行動を停止させた19体のHM−12Gをベッドに並べ終わった技術者は、気乗りがしない
顔でつぶやいた。
「仕方がないだろう。もしも、不正改造が告訴されたら、そこで[GHOST]計画は終わって
しまうんだぞ? 釣谷さんや俺達の夢と一緒に」
「いや、しかしなあ・・・なんか後味が悪いよ。自分の子供を殺すみたいで」
「言うなよ。俺だって気分が悪い。「保育所」で育成を担当したのは、おまえだけじゃない
んだからさ」
「なんとかならないかなあ・・・」
「上司の言うことは絶対。天下の来栖川から逃げたって、どこも変わらないってことだな」
空しそうにつぶやいた男は、マルチの頭部を胴体から外して、脊髄にケーブルを接続した。
「消去作業は俺がやっておくからさ。おまえは少し休んでいろよ」
「・・・人に嫌な仕事を押しつけるつもりはないよ」
研究室で作業している二人の技術者。その顔は暗く沈んでいた。


「各部隊、展開を開始せよ。展開終了後、命令があるまで待機」
丸顔の刑事は、やはり汗を拭きながら無線機で連絡を続けている。
「あのおっさん、ただの刑事じゃねえな」
「日本のFBIみたいな人でショウカ?」
「公安の方だろうねえ。テロリストを追いかけているくらいだから」
目的のビルを指定した後は、特にすることがない浩之とレミィ。
ビルの上空でホバリングをしているヘリの中で、「草」の報告を待っている。
数々の事件を引き起こした山路は、おそらく捕らえられるだろう。
気がかりなのは、矢島の身の安全。
「あいつら、無事に帰って来るよな?」
「今は信じまショウ。神様はきっと、私達のことを見ていてくださるヨ」
友人の心配をしている二人の様子を横目で見て、長瀬は自嘲気味に笑った。

きつく言ってでも、釣谷を止めるべきだったのかもしれない。
新しい存在を受け入れるには、まだ社会は未熟なんだ。
僕はそう信じていて、釣谷は別の可能性を信じた。
それだけのことなのに。
・・・運命は実に残酷だ。

「部隊の展開は終了しました。ご協力を願うことになり、まことに恐縮ですが、
活躍を期待しております」
来栖川の調査員の仕事は、山路が屋上に逃亡したら、そこで彼を捕らえること。
調査員といっても、体は最高品質のボディアーマーで固め、武器は鋼鉄の球を
打ち出すランチャーを装備している。
針が抜かれる時。
それが山路の運命が終わる時である。


「イレギュラーを連れてきました」
殴られて顔を腫らした矢島は、自分の腕を押さえている山路の部下の顔をにらみつけた。
「随分と元気のいい若者です。荒くれ共が手を出す暇もなく倒されていましたよ」
部下の報告に、山路は人のよさそうな顔で笑った。
「君はたしか、HM−12G−7のサンプルとして選ばれた、矢島君だったね?」
「・・・なんで、俺の名前を知っている?」
「知っているとも。君のマルチの行動はモニターされていたからね。もちろん、君が
うちのマルチを大事にしていてくれたことも知っている。団扇を買ってもらったことを
とても喜んでいたよ。あの子は」
毒気のない山路の言葉に、矢島は低い声で答えた。
「・・・だったら、あいつを返してくれ」
「もちろん、前と同じ状態で君に返すとも。いや、我が社にとって深刻な事故が起きてね。
きちんとした回収手段を取る時間がなかったんだ。許して欲しい」
山路は最敬礼で、矢島に頭を下げる。

騙せるものなら、騙しておこう。

山路の行動は、そういう計算があってのことである。
だが、矢島が発した声は低いままで、より一層の怒気が含まれていた。

「・・・聞こえるんだよ、あいつの声が」

バキッ!
矢島は後ろで自分の腕を押さえていた山路の部下の鼻に、後頭部で頭突きを食らわした。
そのまま一緒に仰向けに倒れ込んで、部下の体を床に叩きつける。
昏倒して力を失った体を振り払い、そのまま山路に向かって突進。
「うおおおおおっ!!」
ドガッ!
振りかぶった拳が、山路の顔にめり込む。そして、続けざまに腹、肩、胸元に矢島の
渾身の一撃がたたき込まれた。
・・・だが、そこまでだった。

「躾がなっていないガキだな」

山路はつまらなそうに言うと、軽く円を描くように手を動かした。
ズルッ。
すると、まるで床に油が塗ってあるかのように、矢島は足を滑らして床に倒れる。

「こっ、このや・・・ガハッ!」
ドカッ! ドカッ! ドカッ!
立ち上がることも出来ないまま、矢島はいいように山路に蹴り続けられる。
「ガキが立ち入る問題じゃないんだよ」
さっきまでの温厚そうな笑顔は消え、本性である冷酷なテロリストの表情が山路の顔に
浮かんでいた。
ガシッ!
鼻から吹き出した血で赤くなった矢島の手が、山路の足をつかむ。
「返せ・・・あいつを」
「しつこいな、矢島君・・・もういい。消えろ」
懐から拳銃を取り出し、眉間に銃口を当てる。

「助けて、助けて、って悲鳴を上げているんだよ、マルチは。いいから、あいつを返してくれ」

電波野郎め。

BANG!!
拳銃は、花火が弾けるような音を立てた。
床には、赤い液体。


ベッドにG−シリーズが並んだ研究室。
電算機のディスプレイが、無感情に結果を表示していく。

[HM−G19...............deleated!]
[HM−G18...............deleated!]
[HM−G17...............deleated!]
[HM−G16...............deleated!]
          ・
          ・
          ・

「[GHOST]の消去っていうのは、随分と時間がかかるもんだな」
「・・・文字通り、魂だからな」
「こいつら、いろんなことを学んで、一生懸命覚えていたんだろうな」
「ああ。俺らのやっていたことって、何だったんだろうな」
「俺が聞きたいよ、そんなこと」
まるで自分達の魂を消去しているかのような、何かを失った表情で、
技術者達は作業を続けていた。


BANG!!
拳銃は、花火が弾けるような音を立てた。
床には、赤い液体。

「はあ?」

山路は信じられないという目で、自分の右手を見た。
自分の頭よりも巨大な拳が、自分の右手を握りしめている。
さっきまで握っていた拳銃ごと。
弾丸は発射されたのではなく、暴発したのだ。
岩塊のような拳に握り込まれた、山路の手の平の中で。

「・・・・・・」

自分の目の前にいるのは、身の丈2mを越す大男。顔は隙間がないくらい
に傷だらけで、着ている白のスーツとシャツの柄から、暴力団関係者であること
は理解できる。
ヌルッ。
自分の手が、まるで抵抗なく大男の握り込まれた拳から抜ける。
右手は、手首から先がなくなっていた。

「うっ、うわあぁぁぁぁ!!」

感情は恐怖を告げていたが、訓練された体は反撃の一撃を男のこめかみに放っていた。
左の一本抜き手の一撃。どんなに強靱な戦士でも、まともに食らえば倒れるはず。
「・・・・・・」
大男は致命傷とも成り得るはずの一撃を、全く意に介さない。
山路の血で濡れた大男の右手が、虚空に振りかぶられた。

ブンッ!

後で逮捕した刑事の話によると、山路はまるでトラックにはねられたような格好で、
床に倒れていたそうである。


「・・・起きな。迎えに行くぞ」
職業犯罪者の山路を歯牙にもかけなかったのは花山カヲル。
「手は貸さなくてもいい。自分で歩ける」
矢島はその手を振り払うと、研究室へと歩いていった。
ダメージは限界を超えている。
だが、歩みは止まらない。

まだマルチの声は聞こえる。
俺が助けなきゃ・・・。

ただ、その思いだけが矢島を支えていた。


                                                                  (Fan−Side END)
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:Cool−Side、もしくは冷血。


「マルチ! おい! しっかりしろ! 今、助けるから・・・」

「もう、駄目なんじゃよ。矢島、助けに来てくれてありがとう・・・」

「馬鹿なこと言うな! もうすぐ消去が止まるんだよ! おまえは家に帰れるんだ!」

「・・・矢島。玲奈とは仲直りした? それだけが心残りじゃよ・・・」

「おっ、おい・・・」

「女の子に好きになって欲しい。それが矢島の願いじゃったのに・・・結局、わしは
なにもできんかったんじゃよ・・・ごめん、矢島」

「しっかりしてくれよ、頼むから・・・」

「最後のお願いじゃよ。仲直りして、玲奈と・・・」

「する! するから、おまえもあきらめるな!」

「矢島と一緒にいて、楽しかった。もう会えないのは残念じゃけど・・・」

「マルチっ!」

「夏祭りに連れていってくれて、とても楽しかった。団扇ありがとう、矢島」

「・・・・・・」

「わすれない・・・たとえ、わたしがきえても、けっしてわすれない」

「なんでだよっ! さっきまで一緒に馬鹿やっていたのにっ!」

「だけど、あなたはわたしのことをはやくわすれて」

「・・・嫌だ」

「わたしもいや。あなたが・・か・・・な・・しむ・・・の・」

「マルチ?」

・・・・・・。

「嘘だろ!? おい!!」

・・・・・・。

「返事してくれよ、おいっ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・[HM−G7...............deleated!]

 
                                                                (Cool−Side END)
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「宮内さんのおはなしR その十四 (反則版)」

        
リクエスト元:                     OLHさん

 内  容 :                   「マルチの人格SS」
 
御 助 言 :                     水 方 さん


登 場 人物:

 矢島        HM−12G−7 マルチ     矢島のお母さん
  
 藤田 浩之       宮内 レミィ         宮内 シンディ   

来栖川 綾香     HMX−12  マルチ      HMX−13 セリオ

 けんたろ         スフィー          小出 由美子   

 神岸 あかり      神岸 ひかり         姫川 琴音

 長瀬 源五郎      花山 玲奈          花山 カヲル

 釣谷            HM−12G−4 マルチ     HM−12G−20 マルチ

 山路          橋本             ATAさん 


 作  者 :                     AIAUS                                                        
 

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