宮内さんのおはなしR その十四の八 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:7月10日(月)23時05分
前回までのあらすじ

:HM−12マルチが殺人事件を起こした。
このショッキングな事件に混乱する様々な人々。
矢島はその頃、憧れの先輩である玲奈に別れを告げられ、傷心の思いで
街をさまよっていた。
背後で、自分の相棒に忍び寄る影があることにも気づかずに。

                                                             (本編へ)          
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:Fan−Side、もしくは愚者の宴

玲奈さんにフラれた俺は、家に帰る気も起きずに街をさまよっていた。

まあ、当たり前なんだよ。
フラれた数が五十回っていうことは、五十回も女の子に声をかけたってことだもんな。
玲奈さんはずっと、我慢していたのかもしれない。
自分の好きな男が、別の女の子に気を回していることに。
最近はマルチと一緒に、「ナオン狩り」とかいって派手にやっていたしな。
・・・フラれるのは慣れっこなはずなのに、なぜこんなに胸が痛いんだろう?
もっとキツい言われ方をしたことだってあるはずなのに、こみ上げるのは
後悔ばかりだ。
ああすればよかった、こうすればよかった・・・。
そんな、今更言っても仕方がないことばかりが頭に思い浮かぶ。
玲奈さんの笑顔と一緒に。

「よお、矢島。何しているんだ、こんなところで?」

俺に背中から声をかけてきたのは、三年生の橋本先輩。昔、先輩が女の子にモテる
って話を聞いたから、コツを聞いたことがある。
「いえ、何もしていないッスよ。暇だから、ブラブラしているんです」
「なんだ。暇なのか。だったら、俺に付き合えよ。約束していたツレがドタキャンした
せいで、人数が合わないんだ」
「人数? カラオケでも行くんですか?」
「まあ、そんなもんだ。おまえにもいい思いをさせてやるからさ」
家に帰る気も起きなかった俺は、橋本先輩に言われるままに、その後についていくことにした。


橋本先輩と一緒に入った店は、あまり流行っていない感じのカラオケスタジオ。
「あっ! 橋本さん、約束やぶりー!」
「そう、そう。駄目だよぉ。女の子、待たせたら」
ボックスの中にいたのは、金髪に黒塗りの女の子二人・・・なんか、眉毛白いんですけど。
「ゴメン、ゴメン。蒲田の奴がドタキャンかましやがってさあ。代わりに、バスケ部のエース
を連れてきたから勘弁してくれよぉ」
えっと、なんかホッペタにラメが入ってキラキラしているんですけど。
「やだぁ! なんか格好いいジャン! 誰、誰?」
「あっ、はい。矢島です」

「かわいいっ! もしかして、緊張してる?」

はい。あなた方の部族に食人の風習があるかもしれないと思って、緊張しております。
「固くならなくていいぜ、矢島。さあ、いっちょ楽しもうか!」
橋本先輩の掛け声で、宴は始まった。


流行りの音楽、流行りの歌手、流行りの歌。
ガングロの女の子が、ソファーに座った俺の前で熱唱している。
「格好いいね、矢島君。そうやって黙って座っていると、凄く渋いよ」
体を擦りつけるようにして、もう一人の女の子が俺に話しかけてくる。

フニュ!

「うっ、うわっ!」
彼女の胸が腕に当たったので、俺はうろたえて後ろに下がった。
「やだぁ! かわいい!」
「本当に橋本さんの後輩? ウブすぎるよぉ」 
「俺がウブじゃねえみたいじゃないか。ははは」
橋本さんはこういう雰囲気になれているのか、慣れた手つきで女の子の
腰に手を回してデュエットをしている。

「ねえ、ねえ。触ってもいいんだよ。どうせ後でいっぱい触ってもらうんだし」

「はあ?」
女の子の言葉に俺がビックリすると、橋本先輩は「そういうことだ」という表情で
俺に目配せした。
これって、もしかして・・・?

「ホテル代はワリカンだよ。三千円くらい持っているよね?」

だー! ちょっと待て! それは困る! 心の準備がっ・・・。
準備が・・・。
いや、いいのか?
別に困らないのか、俺は?
玲奈さんにはふられてしまったし、格好つけたって仕方がないのか?
このままホテルに行って、そういうことをしたって、別に構わないのか?

「・・・や・じ・・」

その時、まるでノイズみたいな感じで、俺の耳に誰かの声が響いた。
「あれ? どうしたの、矢島君」
「いや、なんか耳鳴りがして」
気のせいだろうか?

「たす・・け・・て・・」

助けて?
・・・この声は、まさか?
俺の疑問が確信に変わったのは、まるで頭を揺さぶるような大声が耳に
響いた時だった。

「矢島ぁー! 助けてぇ! 壊されるのは嫌なんじゃよー!」

「マルチ!?」
俺は耳に響いた声に反応して、ソファーから立ち上がった。
「きゃあ!!」
俺にのしかかるようにしていた女の子が、はねとばされてソファーから落ちる。
「おいおい。何やってんだよ、矢島。それに、マルチってなんだ?」
不思議そうに聞いてくる橋本先輩。
俺は財布からカラオケ代とメシ代を取り出すと、机に叩きつけるようにして置いた。

「すいません、橋本先輩! ちょっと用事ができたんで、抜けさせてもらいます!」

「はあ? おまえ、何言って・・・」
俺は橋本先輩の言葉を最後まで聞かずに、夜の街に飛び出していった。



「マルチ! どこにいるんだ、マルチ!」
耳に響き続けるマルチの悲鳴。
・・・あいつ、前に俺の耳に何かの細工をしたと言っていたから、それが鳴っている
のかもしれない。さっきから声は聞こえても返事はない。

くそっ! あいつはどこにいて、何が起こっているんだ!?

焦りばかりが、夜の街を走る俺の体の中につのっていった。


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:Cool−Side

ここはトラックの中。
「HM−12G−7。確保完了しました」
携帯電話で男が何かを連絡している。
荷台の中にいるのは、緑色の髪をした少女が二人。口に粘着テープを貼られ、
両手両足も同じようにテープで縛られていた。
つい先程、男達にさらわれた二人は、この男達の正体を知っていた。
[GHOST]計画の金集めを担当していた山路の部下で、「保育所」にいた頃から
好きになれないと思っていた男だ。
何かにつけて人間と自分たちを比較し、所詮は機械人形だと吐き捨てるように言っていた。
彼女達が人間を好きになれたのは、釣谷や他の研究者のような優しい人間がいたからで、
この男のような人間ばかりだったら、決して人間を信頼するようなことはなかっただろう。
男は携帯を切ると、トラックのキーを回す。
そして、座席越しにマルチ達に残酷な宣言をした。


「お遊戯は終わりだとさ。おまえらは消されちまうんだ」

嬉しそうな男の言葉に、矢島と一緒に暮らしていたHM−12G−7マルチは震え上がる。
消滅するのは怖い。
しかし、それよりも遙かに、矢島ともう会えないことの恐怖が、彼女の[GHOST]を
脅かしていたからだった。

「怖くはないさ。おまえらは機械だからな。また新しい「おまえら」が入って、同じ
ことの繰り返し。それだけさ」

マルチを一体確保すれば、かなりのボーナスが支給される約束になっている。
なんと、それを二体も確保できた。
「おいしい仕事だったな」
ボーナスの使い道を考えながら、男はアクセルを踏む。

男の誤算は、その一部始終を見ていた人間がいたことに気づかなかったことだった。


「Kidnap!? ヒロユキ、警察に早く連絡して! トラックのナンバーは・・・」
「おっ、おう!」
いつもの朗らかな表情からは想像の出来ないレミィの厳しい表情にびっくりしながらも、
浩之は近くの公衆電話に走っていった。
レミィはその間に、自分が持っていた携帯電話で矢島に連絡を入れる。
「ヤジマ! ヤジマ!」
まだ相手が電話を取っていないのに、レミィは大声で自分の携帯電話に向かって叫び続けた。

「誰だ!? 今、急がしいんだよ!」
「マルチがさらわれちゃったヨ!」

電話越しでもわかるくらいに息を切らしている矢島の怒鳴り声に、レミィは負けないくらいの
大声で返した。矢島が落ち着くのを待ってから、自分が見たことを説明する。

マルチが一人で街を歩いていたこと。
怪しげな男が突然、マルチを後ろから抱えてトラックに押し込んだこと。
トラックに書いてあった、ある会社の名前。
矢島は落ち着いて、その一つ一つを聞いていた。

「今、浩之が警察に連絡しているカラ。矢島は一度、家にもどってクダサイ」
帰宅を促すレミィに、矢島は落ち着いた声で答えた。
「・・・教えてくれてありがとう。あいつがいる場所はわかるから。後は俺が助けに行く」
「ムチャだヨ! 相手は凶悪犯かもしれないんだヨ?」
レミィの心配する声。だが、矢島の決心は固かった。
なぜなら。

「聞こえるんだよ、あいつの悲鳴が」 

その後、レミィに聞こえたのは、誰かが殴り倒されてあげた悲鳴と、けたたましく
響くバイクの音だけだった。

「レミィ。警察はメイドロボが相手だと誘拐ではなくて盗難事件になるから、対応が
難しくなるって言っていた。だから、長瀬のおっさんに連絡を入れたぜ。すぐに来栖川の
調査員が、あの会社に行くはずだ」
「ヒロユキ。ヤジマがあぶないヨ!」
「なんだって?」

レミィと浩之が長瀬に合流しようと来栖川に向かっていた頃、矢島はヘルメットも着けずに、
120km/hオーバーでバイクを走らせていた。
マルチの悲鳴が聞こえる場所に向かって。


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おまけ

「矢島の奴、びびったのか?」
「橋本さんと違って純情そうだったからね」
「全くよぉ。三人でやれっていうのかよ。冗談きついぜ」
「私達はそれでもいいけどぉ?」
「本気?」

ホテルの前にて。
「おい! 六万円って何だよ!」
「だって、二人相手でしょ? 安い方だよ」
「そうそう。ホテル代は半分、こっち持ちだしねぇ」
「馬鹿野郎! 払えるかよ、そんな金・・・」
橋本は自分の肩を掴むヤクザ風の男に気づき、息を飲んだ。
「持ち合わせがないって言うんなら、体で払ってもらうしかねえな、兄ちゃん。
ちょっとタコ部屋に行ってみるか?」
「ひええっ・・・」

札ビラを数えながら、ガングロの女の子二人はヤクザ風の男に礼を言った。
「阿多さん、サンキュー。最近、ああいう手合いが多くてさ。自分がモテるって
勘違いしているナンパ男。嫌になっちゃうよねぇ。こういう黒人みたいな格好して
いないと、客も引っかからないし」
「そう言えば、阿多さん。今日は花山組の若大将はどうしたの?」
「カヲルさんか? いや、知らねえよ。さっき、もの凄い勢いで屋敷から飛び出して行った
けど・・・また一人で、出入りにでも行ったかな?」
「喧嘩師だからねぇ」
「カヲルさんのお姉さんって厳しいんでしょ?」
「ああ。今日も大喧嘩をやらかして、お嬢さんも機嫌が悪かったみたいだが・・・」
「お姉さんも喧嘩師なんだねぇ」

「「違うって」」

明るい笑い声が夜の盛り場を包んでいた。
足下に転がっている橋本は別にして。

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ではでは。