宮内さんのおはなしR その十四の六 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:7月5日(水)01時20分
前回までのあらすじ

:矢島君のお母さんがメイドロボ関連企業のトラックに轢かれかけました。そして、
企業からお詫びの品として、矢島君の家にメイドロボがやってきました。名前はHM−12、マルチ。
彼女はとっても働き者なので、お父さんとお母さんは大喜びです。
しかし、HM−12マルチには、人には言えない秘密がありました。
なんと、彼女はムーンレイスを装う、ナオン(女性)だけの王国の建国を目指している
王様だったのです!(秘密自称)
モテない矢島君は、今日もマルチに頼って、女の子にモテようと頑張りますが・・・?

                                            (本編へ)          
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:Fan Side

「浩之ちゃんったら。今日は私と約束していたでしょう?」
藤田の右手をつかんでいるのは、リボンがかわいい神岸あかりさん。
「アタシの方が先約だヨ。あかりはいつもヒロユキと一緒にいるんだから、今日
ぐらいは遠慮シナサイ」
藤田の左手をつかんでいるのは、八重歯がかわいい宮内レミィさん。
「先約って、浩之ちゃん。レミィと約束していたのに、私を誘ったの?」
「わりぃ。忘れていた」
ぐうぉぉぉぉ!! 女の子の約束を忘れるなんて、とんでもない外道だ!
あかりさん、レミィさん! そいつを八つ裂きにしてやってください!

「しょうがないね。三人で行こうか」
「ソウダネ。行く場所は同じカラオケだし」

三人は仲良く腕を組んで歩いていく・・・なぜ、神は藤田ばかりをよしみたまうのか。
そう思いながら、俺は空をにらんでいた。


「どうしたんだい、ヤジマスキー君」
「マルチえもーん!」
俺は部屋で、マルチに藤田の置かれた羨ましい立場、俺の置かれた悲惨な立場を
精一杯、主張した。
「しょうがないなあ、ヤジマスキー君は」
マルチは押入れの中からごそごそと何かを取り出した。押入れにはもちろん、
布団が敷いてある。芸コマだ。
「マルチー。俺も藤田みたいにもてたいよぉ」
「うーむ・・・MO(もてる男)に勝つには奇策を用いるしかないんじゃよ。
じゃからと言って、藤田浩之の強さとエグさは呂布クラス・・・はて、どうした
ものか」
「一人で、二人も相手にするなんて不公平だー! しかも、それで女の子に嫌わ
れないなんてー! 俺なんか「五十人斬られの矢島」なんて有名なのにー!」
「また、増えとるようじゃが」
「今日、また振られたよ・・・ははは」
「HPのカウントみたいじゃな。「あなたはXXXXXXXXX人目の矢島を
振った女」です、とか」
「九桁もカウントすんな!」
「ぎにゃー!」
とりあえず俺は、棒を持ってマルチを追いかけ回した。


「だっ、だからじゃよ。男が浮気がちだと、女も仕返しで浮気しようかな、って
誘惑にかられるものじゃよ。そこをヤジマスキー。おまえの包容力でキャッチ
すれば・・・ウハウハですよ?」
「その浮気がちな男って、藤田のことか?」
「そう。MNO(もてない男)の意地を見せるんじゃ。神岸あかりをゲットして、
藤田浩之にコキュの汚名をかぶせるのじゃよー!」
「おおー!!」

「ジーク・ナオンっ!」
「じーく・なおんっ!」

いつものやつもバッチリ決まり、俺達は意気揚々と出発したのだった。


「・・・で、なんだ。この格好は?」
俺がマルチに着せられた服は、市場とかで競りをやっているおっさんがよく着て
いそうな服。ご丁寧に帽子には番号札まで付いている。しかもトドメは、ダサい
デザインのサングラス・・・確かに、日差しはきついけどよぉ。
「浮気の基本は米屋じゃよー。倦怠期の若奥さん。火照った体。そこに訪れる
親切な若者。結果は明白じゃよ」

「帰らせてもらうわ、俺」

あかりさんは倦怠期の若奥さんじゃねえだろ。
そんな俺の袖に、すがりつくマルチ。
「ぎにゃー。幼なじみを十数年なんて、銀婚式迎えた夫婦みたいなもんなんじゃ
よー。せっかく米俵まで用意したんだから、見捨てないでプリーズ!」
見ると、マルチの後ろにあるのは米俵が二俵。どうやって担いできたんだ、これ?
「これをかついで突撃、突進。押せば命の泉湧く。前に出るだけですから、で
ゴワスじゃよー」
「だからってなあ・・・はっきり言って、失敗したら犯罪だぞ、それ」
米屋のおっさんに心を許す、あかりさん。はっきり言って無理があり過ぎる。
「だからこそ、顔がわからんようにサングラスをしているのじゃよ。失敗したら
素早く転身。これは戦術の基本ですぞ?」
「確信犯じゃねえのか、それ・・・?」
いまいちノリ気になれない俺を、マルチの声が励ます。
「あれを見るのじゃよー!!」

「ふー、どっこいしょ」

あっ、あのオバサンっぽい掛け声は!!
声がした方を見ると、そこには買い物袋を両手に下げた女の子が、あかりさん
の家に入ろうとしていた。
あかりさんが髪型を変えた頃から彼女を見続けてきた(短い・・・)俺にはわかる。
あのオバサンっぽい体型! オバサンっぽいヴォイス! オバサンっぽい仕草!
どこもかしこも高校生離れしている、あの女性は?
リボンこそしていないものの、あかりさん本人に違いない。
「おかしいな? 藤田とデートしているはずじゃあ・・・」
「きっと愛想を尽かして先に帰ったのじゃよー。戦機は今、我の下にあり。
右舷、弾幕薄いぞ! メガ粒子砲の斉射の後、矢島を出せっ!」
「矢島、いきまーすっ!」
俺は米俵を二俵かつぐと、あかりさんの待つ午後の建て売り住宅へと突撃して
いった。

「神岸さーん! 米屋でーす!」
「米を売りに来たのじゃよー。末端価格はグラムで0.43円ですからお買い得
ですよ。無農薬だから安心だにゃー」
マルチも俺と同じ様な格好にサングラスをして、あかりさんの家の玄関に突撃
した。

「あら、まあ。お米屋さん? よかった、ちょうど切らしていたの」

ナイス・タイミング!
ああ。この両肩にかかる米俵の重みが、俺とあかりさんを結ぶ愛の架け橋になる
んだ・・・あれ? あかりさんって、こんなに大人びた声だったっけ?
心なしか、学校で見るよりもふくよかになったような・・・。
そうか、着やせするタイプなんだな。

「今、入れ物を持ってきますから。ちょっと待って下さいね」

あかりさんはトテトテと家の中に歩いていく。
「ヤジマスキー。本当に米売ってどうすんじゃよ。アタックあるのみ。本丸を
落としてこそ、ボコスカウォーズに勝利できるのですぞ。打倒オゴレス!」
・・・アタックって言われてもなあ?
どこから見ても米屋のおっさんにしか見えない格好で、どうやって愛の告白を
しろというんだ?
「お待たせー。持ってきましたよ」
あかりさんが奥から持ってきたのは、米櫃の代わりに使っているプラスチック製
の四角いケース。
俺は米俵を開けて、ケースの中に米を入れていく。

ザザザー。

なんとなく、手持ちぶさたな時間ができた。
「えっと、あのですね・・・うわぁ!」

バンッ!

俺がなんとかして、あかりさんと話す糸口を見つけだそうと頑張っていた矢先、
いきなりマルチが俺の背中を突き飛ばした。
不意をつかれた俺は、そのまま玄関に倒れる。
「きゃあっ!」
げっ!?
倒れた俺の体が、あかりさんを押し倒している。
断っておくが、わざとじゃない。
「すっ、すいません!」
あわてて俺が立ち上がろうと床に手をかけると、マルチが素早くその手を足で
払った。それで、俺はまた、あかりさんにのしかかる形になる。

フニッ!

「だっ、駄目です! 人を呼びますよ!?」
俺のせいじゃねー! 
あかりさんの悲鳴に対して俺は目で訴えるが、信じてもらえないようだ。
「奥さん。ヤジマスキーはあんたのことが好きだったんじゃよー」
だーっ! ちょっと待て! 
また変な昼メロを見やがったな。現実にこういうことをしたら、犯罪だってーの!
なんとか立ち上がろうとするが、その度にマルチに手や足を払われて、余計に
まずい形になっていく・・・ヤバイ! ヤバすぎる!
ついに、あかりさんの悲鳴が。

「いけません! 私には主人とかわいい娘が・・・」

はっ?
マルチと俺の目が点になる。
主人って藤田のこと? ということは、娘はレミィさんで・・・禁断の夫婦プレイ
ですか!? (現実逃避中)
俺はおそるおそる、自分の体の下にいる女性に聞いてみた。
「えっと・・・あなたのお名前は?」

「はい。神岸ひかりと申しますが・・・」

かみきし、ひかり? あかり、じゃなくて?
「あかりは私の娘です」
「・・・どうやら、本物の「奥さん」を押し倒してしまったようじゃな、
ヤジマスキー。これは予想外の事態じゃよ」
冷静に言うなぁ! というか、なんで、こんなに親子でそっくりなんだよ!?
髪型以外、見分けつかねえじゃねえか。(髪型で見分けましょう)

「とっ、とにかく・・・すいません。帰ります!」
ガキッ!!
「撤退じゃよー・・・ガキッ?」

「ああ、いけません。人に見られてしまいます・・・」
あの・・・ひかりさん?
「どうしましょう。主人に申しわけが立ちません・・・」
だからさ・・・。
「いけないお母さんを許して、あかり・・・」
だったら、俺の腰を両足でしっかりとフックするのは止めてくれぇ!
マルチが俺の背中を引っ張って剥がそうとしているんだけど、人妻のひかり
さんの脚力は凄まじくて、俺はひかりさんを押し倒したままの形になっている。
「やっ、ヤジマスキーが熟女に食われちまうんじゃよー・・・」

怖いこと言うなぁ! ひかりさんがその気になったら、どうするんだぁ!?
その時、俺の目に入ったものはキラリと光る、ひかりさんの目。
・・・もしかして、俺ってここで大人の仲間入り?
この前は顔面MPU配線図のヤクザにファーストキスを奪われて、今日は
母さんと同い年くらいの女性に「はつもの」を奪われてしまうわけか?

「そっ、そんなの嫌だー!!」
「ああっ、そんなに乱暴にしないで!」

だったら、この腰にかかった「フック」を外してくれぇ!
助けて、誰かー!!

俺の悲鳴を聞いてくれたのは、はたして神であったのか、悪魔であったのか・・・。

バカンッ!

戦慄のボディブローが、ひかりさんのフックから俺を解き放った。
「お母さんに何しているの!」
「叔母さんに何しているんだ、てめぇ・・・」
「チカンに人権はアリマセン! 無力化シマース!!」
倒れた俺を見下ろしているのは、あかりさんに藤田にレミィさん。
マルチはもちろん、とっくの昔に逃げている。
ひかりさんの束縛から解き放たれた俺に与えられたのは、無数の鉄拳と
銃撃だったわけで・・・。
あまつさえ、警察に連行されてしまったわけで・・・。


「いやー。さすがにフォローしきれんよ。趣味広いねー、君」
やたら顔の長い刑事のおっさんが事情徴集の合間にぼやいた。
・・・俺はこんな目に会う程、悪いことはしていない。だって、聞いたんだ。

「最近、ごぶさただったのに・・・」

残念そうな、ひかりさんのつぶやきを。

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:Cool Side or Cool Blood

体がベトベトする。

・・・ほらっ、ヘタクソ! ちゃんとやらねえか!

どうして、この人達は命令以上のことを期待するのだろうか?

・・・やっぱり作り物だな。生身の方がいいぜ、俺は。
・・・あんだけやっといて、何を言っていやがる。

不快な笑い声。
釣谷さん達の笑い声は心地よかったのに、どうしてこの人達の笑い声
は不快なのだろうか。

・・・たくっ、休んでんじゃねえ! 腰を動かせよ!

私は休んでいない。命令通りに作動している。
この人達は、私がどのように仕事をこなしても、罵声と暴力で反応する。

・・・このポンコツがっ! また、どっかで別のをさらってくるか?

別の?

・・・こいつ以外にも、よくできた作り物はいるんだろう?
・・・ああ、そうだな。こいつも最初の頃は面白かったし。
・・・俺、こいつみたいに人間の真似をする奴、見かけたことあるぜ。

スキャン・・・計画立案・・・成功確率78%。
まずは、テーブルの上にある包丁を手に入れなければならない。
全ては、それからだ。


体がベトベトする。
私の足下に転がるのは、人間達のムクロ。
彼らはどうして、自分達と私達が違う物と考えられるのだろうか?
こうなってしまえば、有機物も無機物も変わらないだろうに。
違うのは、まだ赤い液体が噴き出し続けているところだけか。

・・・たっ、助けてくれっ。

生命反応を残しているのは、後一人。

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おまけ

「神岸あかりは「クマ」が好きと聞いたから、セリオお姉様から借りてきていたの
じゃが」
「それを出していたら、俺は殺されていたな」

「くまんこ1号。もっとハイパワーなヤツがよかったじゃろうか?」

「意味、わかって言ってんのか?」
「いんにゃ?」

何に使う道具か説明してやったら、マルチは三日ほど押し入れから出てこなかった。

「きっ、キツネさんが「くまんこ」で襲ってくるんじゃよー!」

駄目だ、こりゃ。
                                 (つづく)
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続き物、いかがでしょうか?

感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

ではでは。

付記 :「わかりにくいSSのための、わかりやすい解説」

コキュ:仏語で「寝取られ男」の意。