宮内さんのおはなしR その十四の四 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:6月28日(水)03時05分
前回までのあらすじ

:矢島君のお母さんがメイドロボ関連企業のトラックに轢かれかけました。そして、
企業からお詫びの品として、矢島君の家にメイドロボがやってきました。名前はHM−12、マルチ。
彼女はとっても働き者なので、お父さんとお母さんは大喜びです。
しかし、HM−12マルチには、人には言えない秘密がありました。
なんと、彼女はムーンレイスを装う、ナオン(女性)だけの王国の建国を目指している
王様だったのです!(秘密自称)
モテない矢島君は、今日もマルチに頼って、女の子にモテようと頑張りますが・・・?

                                            (本編へ)          
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:Fan Side

チクチクチクチク・・・。
左手をギブスで固めている母さんの代わりに、マルチが繕い物をしている。
縫っているのは、俺の一張羅のスーツ。
母さん達は出かけているから、マルチは変な年寄り言葉の方を使っている。

「やはり、男は第一印象から攻めてみるんじゃよ、ヤジマスキー。眉を剃って山籠もり、
といったところですか? 顔も白く塗って、暗黒舞踏にチャレンジしてみましょう」

・・・嫌だぞ、そんなの。
「しかし、おまえって、料理も裁縫も上手いよなあ」
「メイドロボだから当たり前じゃよ」
マルチは特に威張ることもなく、手早くほつれた袖口を直していく。
「でもさあ、藤田と仲がいいマルチ・・・えっと混乱するから、HMX−12って呼ぶぞ。
あいつは荷物運びもまともにできないって聞いたぞ」
料理も洗濯も下手で、まともにできるのは掃除ぐらいだって話だな。
「お姉様はテストのために作られた方だから、別にいいんじゃよ。繕い物や料理なら、
他のメイドロボだってできるんじゃから」
プチ。
マルチはそう言いながら、糸球を作って縫い目を閉じた。
「テストって・・・HMX−12を使って?」
「説明しても、わかってもらえんのじゃよ。それよりも、みなさんの心が一つになったところで、
いつものやつを1・2・3でお願いします。では、いーち! にー! さーん!」
マルチは俺の質問には答えずに、右手を高々と挙げて、いつものアレをやった。

「ジーク・ナオンっ!」
「じーく・なおんっ!」

慣れてきたなあ、俺・・・。


きっちりプレスが効いたスーツを着て、髪型も決めてみる。
「しかし、ヤジマスキー。金色に染めたら、どこかのスーパーサイヤ人みたいじゃよ。
貴様はツインビーとか、ジョー東ですか?」
「わかっていないな、マルチ。この尖り具合が危険な男のダンディズムをだな・・・」
「髪の話はもういいんじゃよー。顔の毛も剃って、清潔感をアピールするべし。無駄毛、粛正!」
ちぇっ。
このヘアスタイルについては、一晩中だって話すことがあるのにな。
昔の主人公は、この髪の尖り具合で身分が決まったんだぞ(コックさんですか?)。
残念に思いながらも、俺はマルチの言うとおりにケアを進めていく。

キラリ!

さわやかな笑顔が、ばっちり決まった。
「歯がまぶしいんじゃよー。対閃光防御! 下心砲発射準備完了。ナオンエネルギー
充填120%、といったところですか?」
「発射しにいくぜー!」
「おおっ! 陣形を方形から魚鱗に変更! 突撃じゃよー!」
かくして俺とマルチは、ナンパをしに街に繰り出した。


ターゲットを捜しに、街に出た俺達。
「しかし・・・その格好は何だ?」
「男の子みたいに見えるじゃろ? ストリートファッションじゃよ」
確かに着ている服はダブダブで、パッと見では男の子に見えるが・・・。
「そのアンテナはなんとかならないのか? 変だぞ、絶対に」
「この突起物は外せないんじゃよー。我が国の国権の象徴にして神器。このアイテムが
外されると不幸が起きることは、数々の記録で証明されているのじゃよ」
「いや、やっぱ、まずいだろ」
俺が外そうとして手を伸ばすと、ヤジマルチは慌てて逃げてしまう。
「エッチー! 触っちゃイヤじゃよー!」
・・・まあ、いいか。

で、何人かに声をかけてみたんだけど、なかなか成功しない。
完全に無視する子。怒り出す子。愛想笑いだけして、逃げていく子。
気がありそうなフリをする子もいるけど、みんな断り方が上手いんだ。
あー、やっぱダメかなあ。まともな作戦だから、成功するかと思ったんだけど。

「ヤジマスキー! 手柄を立てるチャンスじゃよ!」
と、マルチが指差したのは、ストリートを凛とした姿で歩く、知的な外人のお姉さんだった。
顔、めっちゃきれい。髪、めっちゃ金色。体、めっちゃスーパーモデル。

「たっ、隊長! 無謀でありますっ!」
「バカモン! 無茶をやるのがサイクロプス隊なんじゃよー!」

マルチに背中を叩かれて、お姉さんの前まで押し出される俺。
「あっ、あのー、こんにちは。ちょっとお話させてもらっていいですか?」
「ボケー! それじゃ、キャッチセールスみたいじゃよ? 相手は外人さんなんじゃから、
アイニーヂューくらい言ってください。アイウオンチューでも可」
「ばっ、バカ! 初対面の人にそんなことが言えるかい!?」
なぜか、俺とマルチの間で漫才が始まった。
お姉さんはそれを見て、面白そうに笑っている。

「凄いわね。君が改造したの? そのHM−12」

マルチの正体がばれてる?
「ヤジマスキー。敵のスパイかもしれませんよ? 流暢な日本語。わしの正体を知っている。
デリンジャーが隠れていそうな太股」
失礼なことばっかり言うな。
「残念。私はハーフなのよ。で、拳銃なんか持っていないわよ」
「ボディチェックをしない限りは、入国を許可できません・・・って、ギャワ!」
「すいません。こいつ、いつもこんな調子なんで」
俺はマルチの頭を小突くと、お姉さんに話しかけた。
「メイドロボとかの仕事をされているんですか?」
「ええ。全般的に担当する何でも屋ですけど。何かのお誘い?」
「えっと・・・お茶をご一緒できたら、嬉しいんですが」
勇気を出して、お姉さんを誘ってみる。
すると、お姉さんはまるで品定めをするように、俺を頭の上からつま先までジロジロと眺めた。
そして、残念そうに言う。

「うーん・・・ごめんなさい。あなたがもう少したくましかったら、OKしていたんだけど」

ガーン!
お姉さんは手を振って、俺から離れていく。
「うう。無念」
「彼我戦力を見誤ったのが敗因だったのじゃよ。偵察分隊の増強を急がねばな」
マルチの戯言につっこむ気力も、今の俺にはなかった。


「ヤジマスキー! 今回の敗戦にあたり、我が軍は増強の必要に迫られたのじゃよ。
それは痛感しておるな」
マルチの言葉にうなずく俺。あの時、ブルーワーカーさえ買っていれば、俺はお姉さんと
仲良くなれたはずなんだ。
「それで、貴様のために特別施設を用意した。来るんじゃよ」
と、マルチが俺を引っ張って連れてきた場所は廃ビルだった。
その一室に、マルチは俺を押し込める。
「胸囲105cmを越えるまでは退室は許さん! トレーニングに励むんじゃよー」

ガチャ。

ガチャ・・・って。

水も食料もない廃ビルの一室に閉じこめられた俺が、栄養失調寸前の状態で発見されたのは、
それから五日後のことだった。

「ボケー! 痩せてどうする!? ビルドアップが貴様の任務だったはず。
メンズビームが撃てるぐらいにならないと、あのナオンはゲットできんのじゃよー」

最後の気力を振り絞り、俺はマルチにパンチを食らわせた。


マルチのせいで強制断食状態になった俺は、しばらく病院に通うことになった。
結構大きな病院で、十二階建てくらいある。
エレベーターの待ち時間が長いんだよなー、ここ。
プシュー。
「やっと来たんじゃよー。無駄な時間は嫌い。降りる時は自由落下にすれば、かなりの時間短縮に
なるんじゃが」
死ぬだろ、それ。
俺はマルチをエレベーターに押し込めると、目的の階のボタンを押す。

「あっ、すいません。私も乗ります」

スリッパをパタパタさせて小柄な女の子が走ってくる。俺は「開」のボタンを押して、
彼女がエレベーターに乗るまで待っていた。
「はあ、はあ・・・ここのエレベーターって、待ち時間が長いんですよね」
体が弱そうな子だな、色も白いし・・・どっかで見たことがあるような?
あっ、そういえばこの子、一年生に超能力少女が入学してきたとかで噂になったことがあったな。
確か名前は、姫川琴音さんだったな(女の名前は忘れない男)。

エレベーターが登っている時の時間って、妙に変だ。話すわけでもない他人が、凄く近くにいる。
できることといったら、階数のランプを眺めていることぐらい?

プシュー。

あれ? まだ目的の階に着いていないのに、止まっちまったぞ?
待っていても動き出す様子がないので、焦ってインターホンなどを押してみるが、全く反応がない。

「閉じこめられたみたいですね」

落ち着いた声で姫川さんが言うけど、怖くないのか?
「密室殺人じゃよー! エレベーターに横たわる、謎の二つの死体。まあ、わしは息しないから関係
ないんじゃけどね」
不吉なことを言うな。
「でも、マジでやばいな。空気とか大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。エレベーターは空気が入るように作ってありますから、窒息することはありません」
・・・線が細い、気弱そうな子だと思ったけど、姫川さんって落ち着いていて格好いいな。
しばらくすると、インターホンから声がした。

「もうしわけありません。復旧まで、もう少しお待ちいただけますか?」

仕方がないので、俺達は世間話をしながら、時間をつぶすことにした。
「へー。藤田のこと、知っているんだ?」
「ええ。いつもお世話になっています。とっても優しい人なんですよ」
なぜ、俺以外の男は女の子に注目してもらえるんだ?(被害妄想)

「ギニャー!!」

突然、マルチが素っ頓狂な声で叫んだ。
「なっ、なんだ?」
「エっ、エマージェンシーなんじゃよ!研究者はすぐに、シェルターに避難してください。これは演習
ではありません!」
「無茶言うな、どこに逃げろって言うんだよ」
「でっ、では、脱出計画を敢行するであります。ヤジマスキー、梯子になれ!」
俺が返事をする前にマルチは俺の体をよじ登って、エレベーターの天井をガンガンと叩き始めた。
「開けろー! 開けるんじゃよー! 危険がピンチなんじゃよー!」
「大丈夫よ。もうすぐ助けが来るから。怖がらないで」
俺の肩の上に両足立ちになって暴れるマルチを落ち着かせようとして、姫川さんが優しい声をかける。
・・・なんかいいな、この子。

「もっ、もうリミット・ブレイクなんじゃよー!!」

プシャー。
突然、俺と姫川さんの頭に雨が降ってきた。


「マルチ・・・これってまさか?」
「違うんじゃよー。ただのきれいな水なんじゃよー!」
ウルウルした瞳で弁明するマルチ。
「で、でも。これって色がついているんですが?」
ちょっと冷静じゃない声で、自分にかかっている液体について説明する姫川さん。
「燃料電池の仕様の違いなんじゃよー。信じて、プリーズ!」
まあ、ロボットがするわけねーんだけど。

ペロリ。

うん。やっぱり、ただの水だ。
「ひっ!」
?? なぜか、姫川さん表情がひきつっている。

ガタッ!

扉がこじ開けられ、
「すいません! 大丈夫でしたか?」
心配した病院の関係者達が声をかけてきたのだが・・・。

「いやー! この人、オシッコ飲んでいるー! ヘンターイ!」

姫川さんは、そんな人達を突き飛ばしながら逃げていったわけで・・・。
残されたのは、水浸し(色つき)になった俺と、俺の肩の上に両足立ちになったマルチだったわけで。
そこに、お医者さんの一言。

「君、自分のを飲まないと効果がないぞ」

違う、違うんだ!
俺はそんな健康法はやっていなーい!


そのことが学校で噂になり、しばらく誰も寄りつかなくなったのは、思い出したくない後日談である。
(落涙)

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:Cool−Side

「ううっ・・・あうぅぅ」
「どうしたのですか、マルチさん?」
部屋の隅でいじけているマルチに、セリオは声をかけた。見ると、マルチは新しいワンピースを着ている。
「藤田さんに頂いたのですか? 破ってしまったのなら、私が修繕しますが?」
セリオの提案に、マルチはプルプルと首を横に振る。

「違うんですぅ。この服、ヤジマルチさん(矢島のマルチ。マルチ語)が作ったんですぅ。妹のヤジマルチさん
がこんなに上手に作れるのに、私は何も出来ないのが情けなくって」

「布を縫われただけなのでは?」
「いいえ。デザインまで、自分で起こしたと言ってましたぁ」
その言葉に、セリオは耳を疑った。
メイドロボが独創的な作品を作ることは、現状の技術では困難であるとされていたから。


「マルチ。かわいいワンピースだネ!」
「あうぅぅ・・・レミィさんって、お裁縫はできますか?」
「What!?」

訂正:人間でも、無理な人には無理なようです。

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おまけ

「ジーク・ナオンっ! セリオお姉様!」
「・・・もう一度、言って下さい」
「ほえ? どうなされた、セリオお姉様?」
「お・ね・え・さ・ま・・・不思議な感覚です」
「ほえ?」
「ヤジマルチさんは、女だけの王国を作ろうとしているのですよね」
「そっ、そうですけど・・・」
「レスボス島って、御存知ですか?」

「ギニャー!?」


パチン、パチン。
「どうしたの、セリオ。突然、爪を切ってくれるなんて」
「いえ。先程、ヤジマルチさんに引っ掻かれましたので」
綾香は、この後に起こる自分の運命を知らない。
                                        (つづく)
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続きもの、いかがでしょうか?

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aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

ではでは。

付記:「わかりにくいSSのための、わかりやすい説明」

来栖川綾香:最強のディフェンス。
セリオ  :最強のオフェンス。
ヤジマルチ:どっちも弱いみたい。