宮内さんのおはなしR その十四の参 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:6月26日(月)03時25分
前回までのあらすじ

:母親がメイドロボ関連企業のトラックに轢かれかけました。そして、企業からお詫び
の品として、矢島君の家にメイドロボがやってきました。名前はHM−12、マルチ。
彼女はとっても働き者なので、お父さんとお母さんは大喜びです。
しかし、HM−12マルチには、人には言えない秘密がありました。
なんと、彼女はムーンレイスを装う、ナオン(女性)だけの王国の建国を目指している
王様だったのです!(秘密自称)
モテない矢島君は、今日もマルチに頼って、女の子にモテようと頑張りますが・・・?

                                            (本編へ)          
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:Fan Side

トントントントン・・・。
左手をギブスで固めている母さんの代わりに、マルチが器用に包丁で材料を刻んでいく。
まるで料理人はだしで、とてもロボットが作業しているようには見えない。
「マルチちゃんが家に来てくれて、とっても助かるわー」
「アリガトウゴザイマス、オクサマ」
にこにこと笑う母さんの言葉に、マルチは無表情なままで頭を下げる。
今日の格好は白いワンピース。料理をしていると汚れるんじゃないかと思ったが、
マルチはほとんどミスをしないので、新しく買ってきた服はきれいなままだ。
「ほら、後は私がやるから、マルチちゃんは休んでいて。手伝ってくれてありがとう」
母さんに頭をなでられてから、マルチは俺の部屋に戻る。
あいつの充電用ベッドが、なぜか俺の部屋に据え付けられたからだ。
他の場所の電源だとブレーカー落ちるらしい。
でも、あいつの正体を知っていたら、母さん達はどうするだろうか?
・・・あんまり変わんねえだろうな、脳天気だから。


俺が部屋にもどると、マルチは座って本を読んでいた。母さんや父さんの前では
普通のメイドロボのふりをしているが、なかなか大した化けっぷりだ。
マルチは本を本棚に戻すと右手を高々と挙げて、いつもの挨拶をする。
「ジーク・ナオンっ!」
「じっ、じーく、なおん・・・」
あまり気乗りしなかったが、俺も右手を挙げて挨拶を返した。
そして、マルチはいつもの変な年寄り言葉で話し始める。
「ヤジマスキー。調子はどうかニャー?」
「ああ、うまかったよ。おまえが手伝った肉じゃが」
これは本当。きれいに大きさがそろえられているから火の通りが均一で、とてもおいしかった。
「そういう、ありふれた日常の一コマではなく、今日はナオンにモテたかということ
ですよ、ヤジマスキー。パンのみでは人は生きられないのじゃよ?」
「モテたかって・・・いや、別に普通の一日だったけど?」
「いかんのじゃよー! ナオンに対して石ころ帽子が標準装備の現状のままでは、
いつまでたってもMNO(マルチ語:もてない男の略)のまんまじゃよ? 構造改革
以前に、国民の意識改革の必要があるとは・・・道のりは遠いのです、ナポレオン君」
「あー・・・つまり、どうしろって?」
マルチはニヤリと笑って、言った。

「賢い奴はモテる」

おおっ・・・なんか説得力がある!
「世の中は情報化時代。もはや、腕力が勝負を男の価値を決める時代は終わった。
これからは知性が勝負を決めるのですよ。少年漫画名物の五重塔マッチも、下から
国語、算数、理科、社会、英語の順になるのですよ」
・・・そんな漫画読んで、子供が喜ぶのだろうか?
「ヤジマスキー! インテリジェントな男がモテモテでウハウハーじゃよ?」
「モテモテでウハウハー・・・?」
「早速、特訓じゃよー!」
俺は、マルチに従って、インテリジェントな男になるための特訓を開始することにした。

「なーんで、そんなに物覚えが悪いんじゃよ? 貴様の頭はザルですか?」
「無茶言うなっ! おまえはメモリに記憶するだけだろ。俺みたいな人間はそんなに
簡単に記憶できないんだよっ」
「甘えは不許可。モテモテでウハウハーな男になるんじゃろ?」
「モテモテでウハウハー・・・?」
「だったら、覚えるんじゃよー!」
・・・しかし、モビルスーツの型番だとか、魔女ッ子の変身シーンのかけ声なんかを
覚えて、何かの役に立つのだろうか?
「黙って覚える。レッツ、学びング!」


とりあえず、マルチの特訓メニューを消化した俺は、街に出てみることにした。
眼鏡をかけ、ノリが効いたシャツを着て、手には哲学書なんか持ってみる。
横には、タンクトップにトレパン姿のマルチ。
「・・・おい。知性派を目指すんじゃなかったのか?」
お爺さんの朝のジョギングに付き合っている、お孫さんみたいだぞ?
「ボケー! わしはどんな格好をしても知性がにじみ出るのですよ。それよりも、ヤジマスキー?」
「なんだ?」
「貴様が眼鏡をかけると、変態度プラス200%って感じですかね?」
俺は拳を握って、マルチを追いかけた。
「ギャワー!!」

頭を押さえて痛がっているマルチ。
「ううっ、暴力反対。ノーモア・力也じゃよー」
「おっ、おい。あの人なんかどうだ?」
マルチの抗議は無視して、道行く知的なお姉さんを俺は指差す。
丸眼鏡にタイトなミニスカート。手には何かの本。太股がまぶしいー・・・じゃなくて、
知的な感じが素敵ー。
「なんと? 相手は強敵じゃぞ。それでも行くのか?」
「ああ。俺が行かなかったら、誰が地球を守るんだ?」
しばらく見つめ合う、俺とマルチ。
「・・・了解じゃよ。子孫繁栄・・・ではなくて、人類繁栄のために、ヤジマスキー!
男になって来て下さい」
「おうっ! 外には出さないぜ!」
だんだんヤバくなってきたか、俺?


「・・・えっと、どこにあるのかなー?」
丸眼鏡のお姉さんは、何かを探しているようだ。さっきからキョロキョロしながら、
同じ場所を行ったり来たりしている。
「何かお探しですか?」
マルチに教わった知的な笑顔というのを演じつつ、俺はお姉さんに話しかけた。
「えっ・・・ええ。私が行っている研究の資料が、ここの街の図書館にあると聞いた
もので。それで図書館を探しています」
図書館・・・ここからだと結構、歩かないといけないな。
「俺、図書館の場所を知っていますよ。案内しましょうか?」
「えっ! 本当ですか!? キャー、嬉しいっ!」
手を重ね合わせて喜ぶ、丸眼鏡のお姉さん。
よっしゃ、第一段階は成功!
ビッ!
俺は路地裏に隠れているマルチにサインを送ると、マルチも親指を立ててサインを返して
きてくれた。
やったるでー!(なにを?)

「あっ、私は小出由美子と言います。大学で日本文学の研究をしているんです」
「俺は矢島と言います・・・」
えっと、どうやって紹介すればいいのかな?
(高校で、文学部の部長をしていると言うんじゃよー)
突然、俺の耳にマルチの声が響く。
えっ、どうなってんだ?
(貴様が寝ている間に、通信機を埋め込んでおいたのじゃよー。耳小骨を直接揺らす
タイプだから、盗み聞きされる心配はないですよ?)

「俺はソリッド・スネークか!?」

「えっ?」
いきなり叫んだので、由美子さんはびっくりして俺の顔を見た。
(ボケー! せっかく、フックしたナオンが逃げてしまうのじゃよ。キャッチ&イート。
これはバス釣りの基本ですぜ)
マルチのツッコミは無視して、驚かせてしまった由美子さんのフォローをする。
「いっ、いえ。アイデアが閃いたものですから・・・」
ダテ眼鏡をなおしながら、もったいぶって言ってみる。
「本、お好きなんですか?」
「はい。文学部で部長をしております」
(そう。そのとおり。金とルックスがない分は、嘘とハッタリで誤魔化すんじゃよー!)
うるさいやい。

「えっとね。小説だと、ジョルジュ=サンドなんかが好きなの」
「「愛の妖精」とか? あれはいいですね。ヒロインの変貌がいい」
「わー。矢島君って、よく本を読んでいるんだ? 仲良くなれそうだね」
うおぉぉぉ・・・好感触。神様、ありがとうございます!
(神様じゃなくて、わしに感謝するんじゃよ、ヤジマスキー。お布施は一万円から
受け付けております)
・・・こいつ、俺の脳の中にも何か埋めこんだんじゃないだろうな。
後で拷問にかけることにしよう。

「ねえ、ねえ。矢島君は何か好きな作家さんとかいるの?」
「ルイス=キャロルなんか好きですね。「アリス」の」
ここまではリハーサル通り。いかにして、知的な会話で相手の警戒心を解くかが鍵。
鍵を開けた後は・・・うへへへへ(マルチ菌感染中)
「「モモ」も面白いよねー。じゃあ、他には、他には?」
無邪気な顔で聞いてくる由美子さん・・・って、他の作家!?

げっ!?
えっと・・・好きな他の作家? 赤松けX、じゃまずいよな。
ちょっと待て、イタバシマサヒX。もっとまずいな・・・うーん、うーん。
(ナボコフじゃよー)
マルチの声が俺の耳に響く。
ナボコフ? 聞いたことがない名前だな。
(とにかく、言うのじゃよー。善は急げ。急がば直進。赤でもアクセル)
よっ、よし。文学者の名前なんか知らないからな。言うしかねえ。
「ナボコフも好きですね。ロシアの亡命貴族の」

ヒクッ!

あれ? なんか由美子さんの眼鏡が白くなったような・・・(漫画的表現)。
(今じゃ。畳みかけるのじゃよー)
俺はマルチの言葉に従って、とにかく流れるように喋った。
「最近はそうですね・・・フランスの「花びらめくり」なんか面白かったなあ。ああ、
そうそう。写真集でいいのが出ましたね、「美少女紀行」・・・って、ちょっと待て!」
固まっている由美子さんを放っておいて、俺を尾行していたマルチに詰め寄る。
「なんで、文学作品の話で、写真集なんか出てくるんだ?」
「くっ、苦しいのじゃよー。胸ぐらをつかむのは勘弁ー!」

ビリビリビリ・・・。
ポロリ。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙する、俺とマルチ。
解説すると、怒った俺がタンクトップのマルチの胸ぐらを掴んで持ち上げたのだが、
マルチの体重でシャツが破けて・・・その、胸がポロリと出て。

「きゃぁあああーーー!!」

これはマルチの悲鳴じゃなくて、俺の後ろにいた女性の悲鳴。つまり、由美子さん。
由美子さんはワナワナと肩を振るわせると、深く息を吸い込んだ。
まさか・・・。

「お」
   待ってくれ!
「ま」
   頼む!
「わ」
   違う、違うんだ!
「り」
   我不行痴漢的行為!(何故か、エセ中国語)
「さーん!!」

ピーポー、ピーポー、ピーポー・・・。


一時間後。
「君。若いのに、ロリコンとは感心しないな」
俺は黙って、カツ丼を食っていた。
「しかも、ロボットで露出プレイとは・・・なにからツッコんだらいいのか、私も
困ってしまうよ」
妙に面長の刑事は苦笑いしながら、事情を聞き出そうとしている。
なにから話したらいいのか・・・。
「モウシワケアリマセン、ヤジマサマ」
後で逆さ縛り決定。
俺は普通のメイドロボのふりをしているマルチを見ながら、そう思った。
「さあ、正直に話して楽になるんだ」
・・・神様。どうして、俺はこうなのですか?

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:Cool Side

証拠不十分により、矢島が解放された後。
矢島の愚痴を聞かされた浩之は、それをそのまま長瀬主任に伝えた。
「そりゃあ驚いたねえ」
呑気そうにいう長瀬に、浩之は呆れ顔だ。
「おっさん。自分の作った娘が変なイジラレ方をされているんだろ? もうちょっと、
焦るとかしないのかよ」
「いや、おかしなイジリ方じゃないよ。他人に自分の正体がバレないように演技したり、
自分で必要な情報を調べてくる辺りは、僕が作った感情回路よりも上かも知れないねえ」
「そう思っていないから、笑っているんだろ?」
「イヤイヤ、これは厳しい」
手応えのない長瀬の反応に、浩之の方が焦ってしまうようだ。
「マルチみたいなメイドロボを改造する連中が出てきているんじゃないか? 犯罪者
集団とか?」

「マルチ、テロリストなのですか?」

黒装束のマルチの姿を想像して、長瀬と浩之が吹き出す。
「いっ、いや、そうじゃなくてな。何か悪いプログラムに感染しているんじゃないって・・・」
少し考え込むレミィ。
「・・・ヤジマのマルチは、phantom(オバケ)に取り憑かれてイマース!」
「だからさ・・・」
レミィに説明しようと四苦八苦する浩之にむかって、長瀬は一言だけ言った。

「Ghostさ」

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おまけ

「おかしいのじゃよー」
「何が?」
「近所の医大生から聞いて、お勧めの文学書をリストアップしたはずなのじゃよー」
「その人って、もしかして小さな妹さんがいる人?」
「月島とかいう名前じゃったかなー」

合掌。
                                (つづく) 
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小出由美子SS、いかがだったでしょうか?
いや、ごめんなさい(汗)。
リクエストをして下さった敦厚さんには許可をもらっておりますので。

感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ