宮内さんのおはなしR その十四の弐 (反則版)   投稿者:AIAUS 投稿日:6月24日(土)23時00分
前回までのあらすじ

:母親がメイドロボ関連企業のトラックに轢かれかけました。そして、企業からお詫び
の品として、矢島君の家にメイドロボがやってきました。名前はHM−12、マルチ。
彼女はとっても働き者なので、お父さんとお母さんは大喜びです。
さて、矢島君はというと、今日も今日とて女の子にフラれていました。
どこかの目移りの激しい、目つきの悪い少年よりはMO(もてる男)になる素質はある
のですが、女運の悪さからMNO(もてない男)になってしまいます。
そんな矢島君が部屋の中で、HM−12の説明書を読んでいると、突然、HM−12が
部屋の中に入ってきました。
そして・・・?
                                                            (本編へ)          
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:Fan Side


「ジーク・ナオンっ!」

突然、俺の部屋に入ってきたジーパン姿のマルチは、高々と右手を挙げてそう叫んだ。
「なっ、なんだぁ?」
俺がビックリしてベッドからズリ落ちそうになると、マルチは口の片端を上げてニヤリ
と笑った。
「わしの名はマルチ。月から植民にやってきたムーンレイスじゃよー・・・というのは
表向きの話で、実はナオンだけの国を建国しようとやってきた亡国の王なのじゃよー。
あっ、これは軍事機密ですので、オフレコでお願いします」
人差し指を口に当て、「シー」と言うマルチにつられて、俺も「シー」とやってしまった。
・・・・・違ふ。
「ムーンレイスとか王様とかって・・・メイドロボだろ、おまえ?」
HM−12に、ウイルスでも入ったのだろうか? 
こういう時はサポートセンターに相談すればいいのかな?  
俺がそんなことを考えていると、マルチは背を反らしてカラカラと笑った。
「何をぬかすか、ボンクラ。どこから見てもブランドマークのわしを、メイドロボ
と言うのかね?」
「耳のアンテナに来栖川のマークが入っているが・・・」
「これはアンテナではないのじゃよ。突起物! ムーンレイス特有の角みたいなもの
じゃな」
ディアナには、そんもん生えていなかったと思うが・・・。
そう言いながらマルチは、自分の耳のところについた白いアンテナを撫でる。
「選ばれた者の恍惚と快楽、ここにありといったところですよ。うへへへ・・・」
マルチはアンテナを撫でながら、口を半開きにして怪しい表情で笑っている。
なんか気持ちいいみたいだが・・・何なんだ、こいつ?
「うへへへ・・・」
「まあ、いいから。アンテナを撫でるの止めて、そこに座れよ」
マルチを座らせて、話を聞いてみることにした。

マルチは床に正座をしてチョコンと座ると、話を切り出した。
「庶民にしては迅速な判断。さすがに、わしが見込んだことだけはあるのじゃよ。
スケベビッチ・ヤジマスキー」
ちょっと待て、コラ。
「俺の名前は矢島だ。そんなロシア人みたいな名前じゃないぞ」
「でも、下の名前がないんじゃよ?」
「うっ!?」
「名前がない人の名前は勝手につけてもいいという事になりました。25日の国民選挙
の結果で」
「・・・・・・」
「待て、待て。マルチノゲボク・ヤジマスキーの方がよかったかニャー?」
とりあえず俺は、棒を持ってマルチを追い回すことにした。
「ギニャー!?」

「で、なんなんだ。結局?」
「ぼっ、暴力で自白するほど、甘い訓練は受けておらんのですよ・・・」
俺が再び棒を握ると、マルチは涙目で頭を押さえた。
「精神注入はもう勘弁ー! 気力150って感じですよ。ほら、コスモノヴァ?」
変なポーズで何かを出そうとするマルチを放っておいて、俺はサポートセンターに
電話することにした。
ピッ、ポッ、パッ・・・。
「はい。来栖川電機サポートセンターですが?」
「すいません。返品したい商品があるんですけどね・・・」
すると、電話の子機をつかんでいる俺の足をつかんで、マルチが叫んだ。

「モテモテの男になる千載一遇のチャンスをドブに捨てますか!?」

ガチャン!
「くわしい話を聞こうか」
俺は子機を置くと、マルチに詰め寄った。
「やっ、矢島さん?」
「やだなあ。ヤジマスキーでいいっすよ」
怖がるマルチの警戒心を解く、素敵な笑顔だったと思う。(下心アリ)


「古今東西、強い男にナオンは惚れるものじゃよ。特に、ピンチになったヒロインを
颯爽と助けに現れる男。もう、一発でメロメロじゃよ? 昼はハードブロウで、夜は
ハードコア、というところじゃな」
俺はマルチに連れられて、路地裏で説明を受けていた。
ナオンっていうのは、「年齢十五から二十五までの女性」を表す暗号らしい。業界用語
みたいだが。
「危機が恋愛感情を高めるという事実は、吊り橋の実験で確認されているのじゃよー。
レッツ救イング! ヤジマスキー!」
ピンチを救われた女の子が救ってくれた男に惚れるっていうのはわかるが・・・。
「そんなに簡単に、ピンチになった女の子って見つかるのか?」
「そこはそれ。すでに謀略を仕込んであるのじゃよー。見れ、そこの道を歩くナオンの姿を!」
マルチが指差す先には、寺女(矢島の学校の近くにある、お嬢様学校のこと)の制服
を着たロングヘアーの女の子が歩いていた。

「うっ、うわー。あんな高エネルギー体には手が出せないだよ、マルチどん」
なぜか、お百姓さん言葉で言う俺の背中を、マルチはバシバシと叩いた。
「何を言うとるのかね。もうすぐ、あのナオンが君の腕の中で「アハーン、ウフーン」じゃよ?」
あの女の子が俺の腕の中で・・・。
あはーん、うふーん・・・。

「ヤジマスキー! 妄想はこれから一生ずっとでも出来るのじゃよ!? 出陣の用意を!」

「はっ!?」
マルチのデカい声で正気に返ると、さっきのロングヘアーの女の子が、ガラの悪い連中
五、六人にからまれていた。
みんな図体が大きくて、顔に傷が入っている奴までいるけど・・・。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「行くのだ、ヤジマスキー! 今夜はハードコアじゃよー!」
マルチの声に後押しされて、もの凄い勢いで突進を開始した俺。
しかし・・・?


シパッ!
空気を切るような音がして、ガラの悪い男達の一人が地面に倒れた。
ロングヘアーの女の子が、その場で宙返りをしながら男の顎を蹴り上げたのだ。
さっ、サマーソルトキック!? 格ゲーみたいだ。
バキッ、ドカッ、ゴンッ・・・。
鈍い音や何かが折れる音が響きながら、男達は悲鳴を上げる暇もないぐらいに手早く
倒されていく。
おっ、俺の出番は?

「ふう・・・あら、あなたもあいつらの仲間?」
男を全員、叩きのめした女の子は、息を乱した様子も見せずに、俺に聞いてきた。
「いっ、いえ! 違います! なんか困っているようだから、助けようと思ったんだけど・・・」
「ダッシュを強化するべきだったかニャー? 今度からはローラーブレードが標準装備じゃよ。
ヤジマスキー」
路地裏に隠れていたマルチも、ヒョコヒョコと歩いてやってくる。
それを見て、女の子は嬉しそうな顔で言った。
「あら、量産型のマルチ? うちの製品、使ってくれているの?」
うちの製品?
電気屋さんの娘だろうか?

ハラリ・・・。

俺がそんなことを思っていると、女の子の背中から何かが剥がれて落ちてきた。
「何か書いてあるぞ? えっと・・・「ただいま、発情中」?」
女の子は黙って俺から紙を奪い取ると、目を通してから、それをクシャクシャに丸めた。
なんか、怒っているみたいだけど・・・。
「なんかさっきから、変な連中ばっかり寄ってくると思ったけど・・・もしかして、
あんた達が私の背中に貼ったの?」
「ちっ、違うよ!」
女の子の背中に立ち上る殺意の波動を感じ取って、必死に首を横に振る俺。
そこに、マルチの脳天気な声が響いた。

「「一発、三千円」の方がよかったかニャー?」(声/堀江由衣)

ボキボキボキ・・・。
拳を鳴らしながら、女の子が俺に近寄ってくる。
ああ、神様。どうして俺は、こうなのですか?
「ウギャー!? ウーマンリブ?」
マルチが変な格好でブッ飛ばされるのを見ながら、俺は目をつぶった。

バキャ!!

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:Cool Side

壊れた体をベッドに横たえ、マルチは天井を見つめていた。
その手を握っているのは、涙目のHMX−12、プロトタイプ・マルチ。
「わっ、わしはもうダメですじゃ、お姉様・・・」
「そんなっ!? 気弱なことは言わないで下さい、ヤジマルチさん」
どうやら、矢島の量産型マルチをヤジマルチと呼んでいるらしい。
「さっ、最後に一つだけ、お願いがありますのじゃ・・・」
「あぅー。何でしょうか?」
「残された者達のために、遺産について言っておきたいのですじゃ・・・」
「はっ、はい! 私にできることなら!」
力強くうなずく、プロトタイプ・マルチ。
「わしのスイス銀行の口座に、矢島の全財産を振り込んで下され・・・」
「わっ、わかりました!」
「できれば、長瀬主任の財産も・・・」
「はっ、はい!」
意味がわかっていないプロトタイプ・マルチは、ヤジマルチの言うことに力強く
うなずくのであった。

その様子を、ガラス越しで見ている人間がいた。
「Very sad! アヤカがバカ力で殴ったから、あの子が壊れちゃったヨ!」
レミィの非難に、綾香は抗議の声を上げる。
「もとからあんな性格だったのよ。私は悪くないわ」
「矢島は入院だってな・・・」
やはり非難している浩之の目に、綾香は下を向く。
「私、悪くないもん・・・」
そこに、いじけた綾香を救う声が響いた。

「そうです。ライオンの檻に手を突っ込んだ人が悪いんですよ。ライオンは悪くない」

部屋に入ってきたのは、長瀬主任。来栖川でメイドロボの開発を担当している人で、
マルチを作ったのもこの人だ。
「フォローになってない・・・」
いじけた綾香の視線は無視して、長瀬は話を続ける。
「あのHM−12を調べてみたんだけどね。確かに、外見はうちのマルチだけど、
内部を別の人間がいじっているみたいだね。痕跡がいくつか見つかった」
「ハードは一緒でも、ソフトウェアが違うってことか?」
「そう。未完成みたいだけど、感情回路みたいなものを積んでいる。たいしたもんだよ、これは。
あの子は僕の名前を知っているみたいだから、うちの関係者がやったのかな?」
嬉しそうに解析図を眺める長瀬。よく事態が飲み込めないレミィは、浩之の腕をひっぱった。
「ネエ、ネエ、ヒロユキ。ハードとか、ソフトとかって何?」
「俺の家にゲーム機があるだろ?」
「ウン。シューティングが家で遊べるやつだよネ」
「そう。それのカセットやCDが違うってことだ。具体的に言うと、矢島のマルチには
長瀬さんが作ったマルチの心じゃなくて、別の奴が作った心が入っているってことだな」
「マルチ、オバケにのりうつられているノ?」
「あー。そうじゃなくてな・・・」

レミィに説明を続けているマルチと、いじけて部屋の隅に座って「の」の字を書いている
綾香を見ながら、長瀬は椅子に腰かけた。

「できれば、お姉様のパンツも売ってきて、現金に換えて欲しいのじゃよ・・・」
「はい。わかりましたぁ!」

まだ漫才を続けているマルチとマルチ。
「面白そうだから、しばらく様子を見てみますか」
そう言った長瀬の顔は、穏やかに笑っていた。

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おまけ

「無事に治ってよかったですね、ヤジマルチさん!」
「感謝の極みですじゃ、お姉様。お礼に重要情報をリークするのじゃよ。ほれ、
こうやって突起物を触ってみてくだされ」
ナデナデ・・・。
「こっ、こうですか?」
ナデナデ・・・。
「うへへへへへ・・・」
「はわぁぁぁぁ・・・」
マルチ二人は、同時に恍惚境に入った。

「やっぱし、おっさんが作ったんじゃねえか?」
浩之の疑惑を晴らすのに、長瀬は小一時間を要したという。

                                                              (つづく)
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ヤジマルチ、いかがだったでしょうか?
このSS、「人格」をテーマにしておりますので、単なるギャグでは終わりません。
お楽しみに。

感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

付記:「わかりにくいSSのためのわかりやすい解説」
   
   Q:AIAUSさんの作品って、オリキャラが多くて混乱するのですが?
   A:「宮内さんのおはなし」は、東鳩世界が基軸になっており、レミィが
     出てくることが条件になっております。故に、出しやすいように変更
     を加えられたキャラクターが多いです。
     これからは変更が加えられたキャラクターについては登場人物説明を
     加えますので、ご容赦下さい。  

登場人物説明

矢島  :本作品においては、高い身長、ナイスなルックス、バスケ部のスポーツマン
    という資質を備えながらも、女運が悪いために全くモテない悲運の男子高校生
    になっております。隠れ矢島ファンの女の子は多いです。