宮内さんのおはなしR その十四の壱 (反則版) 投稿者:AIAUS 投稿日:6月23日(金)08時56分
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放課後の校門。
俺は部活を終えて、家に帰るところだった。

「あっ、あの矢島君! 一緒に帰らない?」 

いつも通り、一人で校門を通り過ぎ去ろうとしていた俺を呼び止めたのは、先輩の
玲奈さん。ウェーブのかかったロングヘアーが特徴的で、優しい性格から男達の
間で人気が高い。かくいう俺も、玲奈さんに憧れていた。

「えっ、ええ。いいっすよ」

俺はすぐにOKしたが、その心境は複雑なものだった。
・・・実は、俺は玲奈さんに告白したことがある。
かなり本気だったんだけど、返事もしてもらえずに逃げられてしまった。
だから、玲奈さんとはもう、話すこともないだろうとあきらめていたんだけど・・・。
なぜか、玲奈さんは俺と並んで、帰り道を歩いていた。

「矢島君。いつも部活で大変だよね」
「いえ。俺はレギュラーっすから。いい加減なことはできないですよ」
「えらいなあ・・・私も見習わなくちゃ」
そう言って、俺に向かってニッコリ微笑んでくれた玲奈さんの笑顔は、とっても
かわいらしかったわけで・・・。

「「あっ、あの・・・!!」」

声をかけようとした俺の言葉と、何か言い出そうとした玲奈さんの言葉が同時にぶつかる。
「れっ、玲奈さんから、どうぞ」
「いっ、いいよ。矢島君から先に話して」
なぜか、玲奈さんの頬は赤い。きっと、俺の頬も同じ色で染まっている。
今度こそいけるか!?
「あっ、あのですね。俺、玲奈さんのことが・・・」

ジャーン! ジャーン! ジャーン!

清水の舞台から飛び降りる覚悟で、玲奈さんに告白しようとした俺の耳に響いたのは、
中国風のドラが打ち鳴らされる音だった。

にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ

やってきたのは、猫。
なんだ。猫ぐらいで騒ぐなよ、と言わないでくれ。
いきなり突撃してきた猫の数は、地面を覆い尽くさんばかりの数で、まるで津波
のようだったんだ。
俺はびっくりして猫の大群を見ていた。で、玲奈さんは顔を青くして叫ぶ。
「ひぃ! ねこぉ!? ごっ、ごめん、矢島君! 私、猫アレルギーなの!」
そして、玲奈さんは俺からダッシュで逃げていく・・・。

にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ

俺の足下を走り過ぎていく猫の津波。
どんどん小さくなっていく、玲奈さんの背中。
「やったー、けんたろ! この子だよね!?」
「凄いな、この猫寄せドラの力は」
遠くで、大学生くらいの男と小学生くらいの女の子が何か話している。しかし、
今の俺には何も聞こえなかった。

「まっ、またフラれた・・・四十五回目」

俺は45個目の被撃墜マークを手帳に書き入れると、心の中で泣きながら家に帰った。


家に帰った俺は、ふてくされてベッドに寝転んでいた。

ああ、玲奈さん。なんで逃げちゃったんだろう。
猫アレルギーって本当かなあ・・・。

逃がした魚は大きい。
というか、いつも女の子に逃げられっぱなしの俺にとって、玲奈さんの存在は鯨、
いや、リヴァイアサンって感じだった。
今度こそ、返事がもらえると思ったのにー!

そうやって自分の部屋でウジウジと悩んでいると、一階で夕食を作っていた母さんが
俺を呼んだ。
「届いたわよー! 来栖川さんのところから、「お詫びの品」が!」

トントントントン・・・。

二階の自分の部屋から一階に降りて、母さんのいる台所に行く。
「ほら。そこにある大きなダンボール箱。その中に入っているんだって」
夕食の準備を進めながら、俺に説明する母さん。左手はギプスで覆われて使えないのに、
右手一本で器用に夕食を作っていく。
居間に置いてあるのは、棺桶ぐらいの大きさがある巨大なダンボール箱。

バリバリバリ。

俺はすぐに、ダンボール箱を開けた。
そして、その中に本当に、手紙で言われた通りの「お詫びの品」が入っていることに
驚いていた。だって、そう簡単に人にあげられるような値段の品物じゃなかったからさ。
七冊くらいある説明書を取り出し、ダンボールの中にある緩衝剤を取り出すと、
そいつは顔を出した。学校で見かけた奴とそっくりだが、まだ動いてはいない。
やっぱり、パソコンみたいに初期設定をしなくちゃいけないんだよな・・・。

「えっと・・俺がセットアップするの?」
「あたしやお父さんがわかるわけないでしょ?」

納得。
父さんも母さんも機械音痴で、ビデオの録画予約まで俺に頼むものな。
俺は必要なものをまとめると、お詫びの品である「HM−12マルチ」のセットアップ
を開始したのだった。


母さんが交通事故に会ったのは、今から一週間前のことだった。
原因は完全に相手の不注意。横断歩道の信号が青に変わるのを待っていた母さんに
向かって、左折の時にハンドル操作を誤ったトラックが突っ込んできた。
幸い、とっさに後ろに飛んで逃げることのできた母さんは、尻餅を着いた時に左
手を折ったくらいで済んだんだけど・・・。
慌てたのは、トラックの会社の方。
来栖川の下請けをしている会社で、メイドロボの部品を製造しているらしい。
これからの家電の主力になるだろうメイドロボの部品を運搬している時に、一般人を交通
事故に巻き込んだというのでは会社の信用に関わる。
それで、「お詫び」と「黙っていてくださいね」という意味を込めて、安めの高級車が
買えるくらいの値段がするメイドロボ、HM-12を送ってきた、というわけ。
父さんと母さんは人がいいから、しきりに恐縮していたけど、これぐらいの謝罪は
当たり前だよな。下手したら、母さんは死んでいたんだから。
でも、家事手伝いが増えるのはありがたいかな?


マニュアル通りに端末を操作し、工場から出荷されたばかりのHM−12を、矢島家の
メイドロボにするべく、俺はセットアップを続けていた。
と言っても、わかりやすく絵文字で書かれたマニュアルを見ながら、アイコンを操作
していくだけ。


「オ名前ハ、矢島様デ、ヨロシイデスネ?」
「はい」
この時に、「おう」とか「いいですよ」とか答えたらいけないらしい。
「ユーザー登録ヲ完了イタシマシタ・・・矢島様。ゴ命令ヲ、オ願イシマス」
ボディスーツ姿のままで、無表情に言葉を発するHM−12。
そこで俺は思わず・・・。

「はあ・・・女の子にもてたいなあ」

口にしたことを気づいてから、恐る恐る回りを見る。
母さんは夕食を作るのが忙しくて、こっちを見ていない。
HM−12の方は・・・。

「矢島様。ゴ命令ヲオ願イシマス」

ほっと胸を撫で下ろしてから、なんだかひどく間抜けなことをしている気になった。
ロボットに聞かれたって、別にどうってことないだろ。

「矢島様。ゴ命令ヲオ願イシマス」
俺は母さんを手伝うようにHM−12に命令すると、再びフテ寝をするために自分の
部屋にもどった。


HM−12が家に来てから一週間経った。
彼女は本当に働き者で、文句も言わずによく働く。母さんもあれで働き者だから、
ヒマが出来過ぎて困るって笑っている。
「マルチちゃんは、本当にいい子ねー」
「おお。それに、女の子が家にいると家の中が華やぐな」
目を細めて喜んでいる父さんと母さん。
母さんなんか特にひどくて、ボディスーツとメイド服のまんまじゃかわいそうだって、
HM−12のために洋服まで買ってきている。
「こうやって、娘に服を選んで上げるのが夢だったのよねー」
「まったく。どうして、男なんか産まれたんだろう」
・・・。
いいかげんグレるぞ、あんたら。


その一週間。
玲奈さんとは顔も会わせないまま、時間が過ぎた。
今は悪友の藤田から借りたCDを聞きながら、自分の部屋で、あいつが書いたメイド
ロボの扱い方についての注意書きを読んでいる。
HM−12が発売される前に、試作機のHMX−12って奴がうちの学校に来たんだ
けど、その時の経験らしい。
藤田の奴、なんかメイドロボを人間扱いしていたもんな。
悪いとは言わないけど、なんか変だと思う。

ガチャ。

俺がベッドに寝転んで、パラパラと藤田の作ったマニュアルを読んでいると、突然、
部屋の扉が開いた。
開けたのは、ジーパン姿のHM−12。
「なんだ? 今は別に頼むことはないよ、マルチ」
最初の頃はHM−12って呼んでいたんだけど、母さん達が嫌がるので、今は俺も
マルチって呼んでいる。藤田と話す時に、オリジナルのHMX−12マルチの名前
とこんがらがって、とても話しにくかったぜ。

「・・・・・・」
「だから、何か用なのか?」

俺が何も答えないでいるマルチを不思議に思って質問してみると、いきなり、マルチは
右手を高々と挙げて、デカい声で叫んだ。

「ジーク・ナオンっ!」

!!??

                              (つづく)

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OLHさんよりリクエストの「人格ネタ」にお応えしました。
非常に毛色の変わった作品になるとは思いますが、どうかご勘弁下さい。

感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

付記:「わかりにくいSSのためのわかりやすい解説」
   ご質問がありましたので、お答えします。

   質問:「宮内さんのおはなしRの「R」って何ですか?」
   
   解答:「R」はリクエストの「R」です。みなさんからメールなどで、ネタを
      提供してもらった作品には、全て「R」がついております。
      バッドエンド系の作品以外なら大抵のSSは書けると思いますので、
      興味がある方はメールしてみて下さい。