宮内さんのおはなし その三十四(VER1.01) 投稿者:AIAUS 投稿日:6月19日(月)16時09分
「ねえねえ、ヒロ。今日、ゲーセン行かない?」
「あー? なんか新作が入ったのか?」
「シューティングゲームで久々に、硬派なやつが入ったのよ」
「なんだよ。また画面いっぱいに弾が飛んできて、敵がバキュラみたいに固いやつか?
面白くねーんだよな、最近のマニア向けシューティングは」
浩之はいつものように、やる気のなさそうな返事をした。
「違うの。今回は昔の名ゲー「ぐたでぃうす」の作者が監修しているのよ。見逃せない
わよー、これは」
「「ぐたでぃうす」かー。なつかしいな、大コアとか鉄乙女とか・・・裏技で、大コアの
中に入れるってやつ、まだ覚えているか?」
「あったわよねー。それなら、ヒロ。隠しでペンギンが使えたのも覚えている?」
「あったなー。ミサイルが腹で滑っていくやつだろ?」

「Oh! シューティングですか?」

ゲームの話で熱中している浩之と志保の間に、レミィが乱入してきた。
「そうか。レミィもシューティングが好きだったよな?」
「Yes sir! 大好きでアリマース!」
おどけて敬礼して見せるレミィに、志保も興味を持ったようだ。
「レミィもシューティング好きなの?」
「あまり上手じゃないけど、playするのは大好きデース」
「それじゃ決まった。今日は三人でゲーセンに突撃よー!」
「Sir,yes sir!」
「ほいよ。放課後なー」
やる気のなさそうな浩之。しかし、その右手はすでに連射の練習を開始していた。


「あっ、あった、あった。あそこよ、「ぐたでぃうす」があるのは」
「「ぐたでぃうす」じゃなくて、「ぐたでぃうす」を作った人の新作だろ、志保」
「いちいち、うっさいわねー。いいのよ、「ぐたでぃうす」で! 魂は同じなんだから!」
「魂って、おまえ・・・」
「What? 誰かいますヨ」
レミィが指差した先に、どこかで見たような顔の二人がいた。ロングヘアーの二人組で、
黒髪の方の女の子が「ぐたでぃうす」の新作をプレイしているようだ。ジョイスティック
を握りしめたまま、黒い髪の女の子がキャーキャー騒いでいる。耳にアンテナをつけた
女の子の方は、それを後ろから静観しているようだ。
来栖川のお嬢様の綾香と、そのお付きのメイドロボのセリオである。

ボカーン!
砕け散る先鋭型の宇宙戦闘機。画面いっぱいに拡がる「game over」の字。
「これで三十回目ですね」
冷静なセリオの言葉とは対称的に、綾香の声は怒りで震えていた。
「なんなのよ、これ? どう考えてもクリアできるように作ってあるとは思えないわ!」
「はい。このゲームの難易度は、綾香様の処理能力を遙かに凌駕していると思います」
「てい!」
セリオにデコピンをかますと、綾香はポケットの中を探る。
「あちゃー。また両替に行かないと・・・あれ、浩之?」
ようやく三人に気づいた綾香は、三人が今まで自分のプレイを見ていたことに気づき、
照れくさそうに鼻をかいた。
「理不尽に難しいわよ。この「めだるおん」とかいうゲーム」
綾香の言葉に、浩之と志保は余裕の表情で指を横に振る。
「わかってねえなあ、綾香」
「そうよ。こういうのは理不尽じゃなくて、面白い難しさっていうのよ。あんたみたいな
素人にはまだ到達できない領域でしょうけどねー」
浩之と志保の言葉に、綾香はカチンと来たようだ。白い頬が赤く染まる。
「なら、やってみなさいよ。難しいんだからね」
綾香は、すぐにその言葉を後悔することになった。


ゲームが始まって、何面かクリアした後。
浩之がプレイしている機体の周りに大量の敵が集まり、無数の弾をばらまいてきた。
「ヒロユキ! ボムを使いマショウ!」
「そんなもん、このゲームにはねえ」
静かな声でレミィの忠告に答えた浩之は、巧みなレバーさばきで敵を撃破し、弾を回避
していく。だが、さすがに初プレイでは限界があるようで、ついに一発の敵弾が浩之の
操る宇宙戦闘機を破壊してしまった。
「Oh・・・やられてシマイマシタ。でも、まだ予備戦力がありマース!」
「よびせんりょく? もしかして、残り機数のこと?」
「甘いわね。ここまでは私だって行けたんだから・・・」
「綾香様の場合は、残り機体数がありませんでしたが?」
「てい!」
セリオがデコピンをかまされている間に、浩之の操る宇宙戦闘機が再び、戦場へと発進する。
先程までは並みいる敵を貫くレーザーや強烈な爆風でなぎ倒すミサイルを装備していたのに、
今は貧弱な機銃しか装備していない。移動の速度も遅く、これでは先程の熾烈な攻撃を防ぎ
きれるとは思えなかった。
しかし・・・。

「うっそー。どうして、あんなに綺麗に避けれちゃうわけ?」
「It's cool play!」
「「ぐだでぃうす」のプレイヤーなら、あんなのはピンチのうちには入んないわよ。
ねー、ヒロ?」
敵の猛攻撃を辛くもしのぎ切った浩之に驚く綾香とレミィ。当然よね、という表情の志保。
「まかせとけって」
かくして藤田浩之は、このゲームセンターで初めて「めだるおん」をクリアしたプレイヤー
となった。

このゲーセンには、休憩用のベンチがある。綾香と浩之は、そこに座っている。
「なんで、あんなに綺麗に避けれるの?」
レミィがゲームをプレイして、志保がその後ろでアドバイスしているのを横目で見ながら、
綾香は浩之に聞いていた。浩之は訳知り顔で、その質問に答える。
「あのゲームな。敵の撃ってくる弾の角度が、敵キャラごとに決まってんの。だから、
大体こういう感じで弾の壁ができるな、って予測できるわけだ」
「・・・そんなの、覚えていないと避けられないじゃない」
頬をふくらませる綾香。その頬を、浩之が指でつついた。
「わかってねえな。爆弾で誤魔化すような作りじゃねえ、ってことがさ」
「うー・・・」
「ほらほら。この俺が珍しくおごってやるから、機嫌なおせって」
ふてくされる綾香をなだめるために、浩之は自動販売機からヨーグルトを買ってきた。

「Auch! Game over デス!」
大げさな身振りで残念そうに叫んだレミィが席を立つと、志保がおもむろにその場所に
座った。そして、鞄から消毒スプレーを取り出す。
シュー、シュー。
「What? 何しているの、シホ?」
「えっ? いや、あたしってデリケートだから、人の後でするのって抵抗があるのよ」
「だったら、ゲーセンに来んなー」
「うっさいわねー。あんたは綾香とだべってなさいよ」
ベンチに座って文句を言う浩之に言い返すと、志保は消毒スプレーを鞄にしまった。
「レミィは気にならないの? バイキンとか」
「アンマリ。というよりも、失礼じゃないノ、シホ?」
「そうですね。そこまで神経質になるほど、不潔な状態ではありませんが」
自分のプレイした後で消毒されて、レミィは少し怒っているようだ。ずっとゲームを
観察していたセリオも調子を合わせる。
「えー? でも、近頃って変な病気が多いじゃない? 自衛するのは当然でしょ?」
負けずに言い返す志保に、セリオはデジタルカメラのような機械を手渡した。

「マイクロスコープ(顕微鏡)の機能もあります。観察してみて下さい」

志保はセリオに言われた通りにゲームの筐体を覗いた。すると、消毒した台には細菌は
見えず、消毒していない隣りの筐体にはわずかだが動いている細菌がいる。
「やっぱり、いるじゃないの! バイキンマンズが」
「どれも無害なものです。それに、ご自分の手を見て下さい」
言われて自分の手を見てみる志保。そこには、うじゃうじゃと動く細菌の姿が見えた。
「きゃー! うっそー! なんで、こんなに志保ちゃんの手の上にいるのよー!」
「消毒するのは、シホが先みたいネ」
「はい。金属で出来た筐体の上では、バイキンはあまり長く生きられません。そんなもの
を消毒するよりは、御自身の清潔を保ったほうが効果的と思われます」
「うー・・・わかった。志保ちゃんが間違っていました。ほら、気にしないでゲーム
するわよ!」
「自分で言うなよ」
浩之のつっこみにも負けず、志保も無事に「めだるおん」をクリアーしたのだった。


「やっぱ、ゲーム上手よね。志保も」
「こいつは他に取り柄がないからな」
ヨーグルトを食べ終わり、ゲームを終えた志保を迎える浩之と綾香。
だが、志保は無言だった。
「どうしたの、シホ?」

「あっ、あんた達! 公衆の場で何やってんのよ!?」

震えながら、綾香のスカートを指差す志保。その先には綾香がこぼしたヨーグルトが
乗っていた。ばつが悪そうに、綾香は言い訳をする。
「えっ? ・・・あっ、やだ。こぼしちゃったみたいね」
その言葉を聞いて、さらにおののき震える志保。
「飲むつもりだったの? ヒロのせいえ・・・」
全部言い終わる前に、セリオの一撃が志保の意識を奪っていた。  


「このバカ! 公衆の場で、何を口走ってやがんだよ!」
「なによー! あんた達がそういうことをやってないって証拠はないでしょ!?」
そそくさとゲームセンターから逃げ出した四人は、公園で言い争っていた。
「私はただ、ヨーグルトを食べていただけよ!」
とんでもない言いがかりをされて、綾香はまた機嫌を損ねている。
「嘘、嘘よ! そうやって、背徳の遊技を続けていくつもりなんだわ、この二人は!」
「このガセネタ女。どうやったら、そういう発想になるんだよ」
激しく首を振って、綾香と浩之の言葉を無視する志保。完全に、自分が見ていない間
に二人がいけない事をしていたと思いこんでいるようだ。
そこに、レミィの脳天気な言葉。

「でも、ヒロユキのって、あんなに濃くないヨ?」

公園を包む静寂。
五人は、再び逃げ出すことになった。


「バカ! 子供も遊んでいる公園で、何てことを言うのよ!」
「・・・Sorry。ヒロユキの無実を証明したかったのデス」
路地裏に隠れ、レミィに文句を言う綾香。志保はまだ疑っているようで、浩之と言い争っている。
「証拠よ、証拠! 身の潔白を証明しなさいってば!」
「そんなもん、あるか! この冤罪名人!」

「無実を証明すればいいのですね?」

今まで沈黙を保っていたセリオは、鞄から二つのシャーレを取り出した。


「こちらの粘液が綾香様のスカートから採取したもの。で、こちらが藤田さんから採取
したものです」
セリオが説明しているのも聞かずに、三人は先程のマイクロスコープを使って、シャーレ
に乗せられたものを一生懸命に見ている。

「きゃー、きゃー! ものすごい数!」
「ピクピク動いてマース!」
「すっごい元気! 最近の男性は数が減っているって言うけど、浩之は大丈夫そうね」

セリオは三人が、綾香のスカートに付いていたものが浩之のものではない、ということに
納得したことを確認すると、浩之に向かって微笑んだ。
「無実が認められてよかったですね、藤田さん」

「ううっ。もう、お婿にいけなひ・・・」

初夏の風。
しかし、下半身裸で路地裏に横たわる浩之にとって、その風は冷たかった。

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バイオSS。いかがだったでしょうか?
・・・いえ、そろそろシリアスも書きますので。

苦情、感想、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで。

ではでは。