眼鏡の活用法 投稿者:AIAUS 投稿日:6月17日(土)23時35分
カリカリカリカリ・・・。

1コマ:ジー・・・・。
2コマ:「What? どうしたの、マルチ」
    「あっ、いえ! はわわわわっ!」
3コマ:「そんなに、アタシの胸が珍しい?」
    「あうー」
4コマ:「大きいですねー、レミィさん」
    「Ahahahaha! 勝手に育ったのヨ」
5コマ:「あうー。私も大きくなりたいですぅ・・・」
    「OK! いい方法があるヨ」

カリカリ・・・ピタッ!
「うーん。なんか違うんだよなあ」
千堂和樹はペンを止め、まだ下書きしか済んでいない原稿を見て悩んでいた。
机に置かれた原稿に書かれた漫画は、すでに1P目からオチがばれている。
「なんて言うかなぁ。ありきたりなんだよな、このネタ」
「何、今さら泣き言を言うとんのや? 今月は「ちち」ネタで書く言うたのは、あんたやろ?」
和樹の向かい側で発破をかけているのは、漫画家仲間である猪名川由宇。今月は合同本を出す予定
なので、和樹の部屋で共同作業をしているのだ。いつもは神戸にある実家の旅館で家事手伝いを
しているが、「こみパ」、つまり、こみっくパーティという同人誌即売会がある時だけ
和樹の部屋に居候をすることが慣例となっている。
「そうよ。チョー売れっ子のあたしが、あんたやパンダなんかと組んであげているんだから、
チャッチャッと進めなさいよねー」
和樹の横にいるのは、やはり漫画仲間の大庭詠美。今年の初春、ちょっとした問題を
起こして漫画から離れていたが、和樹と由宇のはげましによって再び同人漫画家として
復帰している。
「そや。大バカの言うとおりや。常連サークル三つの合作本なんやからな。噂になっとる
でー。落としたら、ほんまに洒落にならんわ」
「そうそう、パンダの言う通り・・・って、誰のことよ、大バカって?」
「あらー? ついに詠美さんはカタカナもわからんようになったか? ひらがなだけ
やったらフキダシ大きくなり過ぎて、漫画書かれへんようになるんちゃうか?」
「この・・・」

「うーん・・・キャラを変えてみるか」

いつも通りの喧嘩が始まろうとしていた矢先、和樹の言葉がそれを止めた。
二人とも漫画が好きなだけあって、ネタの打ち合わせは好きなのだ。
だからこそ、三人で合作本を出すことになったのだろう。

まず、詠美がいつもの調子で提案した。
「「ちち」って言ったら、沙織と梓しかないでしょ! これにレミィを加えてモロ出し
すれば、部数倍増まちがいなーし!」

スパーン!

軽快な音を立てて、詠美の頭を由宇のハリセンがどつく。
「ド阿呆! それで南さんにスミ塗り食らったの、もう忘れたんか!」
「ふみゅーん! 書いたのは、「ちち」じゃなくて、「縦線一本」だもーん!」
「よけい悪いわー!」
「あー・・・俺、今回は健全サークルだから、そのネタは没な」
いつも通りにフォロー役に回る和樹。
その言葉に、由宇は大きくうなずいた。
「当たり前や。規則は間もランとあかん。それで面白いのを描くのが同人作家の心意気
ってもんや」
「じゃあ、パンダはなにがあんのよ?」
「ふっふっふっ。あんたら、乳がデカいのはさおりん達だけやあらへんで・・・
うちがおすすめするのは、委員長や!」

「「おおー!!」」

和樹と詠美は感心して声を上げた。
「なるほど。一見大きくなさそうで実は、ってやつだな」
「でも、委員長って難しくない? あたしは書けるけどー」
「うーん・・・確かにな。委員長萌えの奴がいないから、資料が少ないし・・・」
「ふっふっふっ・・・甘いで、お二人さん!」
二人の疑問に、詠美は不敵な笑いで答えた。その表情は自信に満ちている。
「眼鏡っ子! 勝ち気! 神戸! ここにおるやないか。委員長の生き写しが!」
堂々と胸を張る由宇。

「いや、胸がなあ・・・」
「どっちかというと、マルチよね。パンダは」

スパン! スパン!
由宇は二人に、ハリセンでツッコミを入れた。
「ド阿呆! 5cmや10cmの違いは気合いでカバーし! いくで! うちの「いいんちょ」
を見て腰抜かすなや」
さっそく髪を編み直す由宇。
そして、背景に炎を背負い、委員長の真似をする。

「あんた、日本語わからへんのか!?」

由宇の気迫に、和樹と詠美は無言である。それを賞賛と受け取ったのか、由宇は少し
弾んだ声で二人に聞いた。
「どない? 参考になるやろか?」

「やっぱなあ・・・」
「胸ネタなのに、胸がないのはダメってカンジー」

スパーン! スパーン!
「はっ!? そうか、閃いたぞ!」
和樹は由宇に頭をシバかれた途端、そんなことを叫んだ。そして、おもむろに由宇の
眼鏡を奪う。
「なっ、なにするねん! 見えへんようになるやろ!?」
血相を変えて眼鏡を取り戻そうとする由宇を、後ろから詠美が羽交い締めにする。
「なっ、なんのつもりや、詠美?」
「バカパンダ! 見えないの? あいつの背中に宿るオーラが!」
「あっ、あのベレー帽は・・・」
息を呑む由宇をおいて、主人公張りに和樹と詠美は声を合わせる。
「いくぞ、詠美!」
「わかってるわ、和樹!」
めくり。

「今よ、和樹! 魂の続く限り、スケッチするのよ!」
「うおぉぉおおおおおおおお!!」
「・・・詠美?」
スケッチブックに一心不乱に書き込んでいる和樹、自分を羽交い締めにしている詠美、
むき出しの自分の胸を見て、由宇は呆然とした顔をしていた。
「なんで、和樹はうちの眼鏡をかけとるん?」
「あんたのミニマム乳も、ド近眼眼鏡をかけて見たら、チョー巨乳に見えるのよ!
そんなこともわかんないの?」
「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
・・・プチ。

ゴン! ガキ!
ゲシゲシゲシゲシゲシ・・・・。


今回のこみパに「ブラザー2」と「CAt OR FISH!?」は参加しなかったが、なぜか
「辛味亭」との合作本だけは無事に出店された。

「血の赤って、ベタの代わりに使えるんやなあ・・・」
以降、猟奇系作家として、猪名川由宇の名前は同人界に知れ渡ることになる。

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眼鏡SS、いかがだったでしょうか?
宮内話ではないのは、内部事情のためです。
どうしても知りたい方は、メールにて。(笑)

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ではでは。