「競作シリーズその弐」「日々野英次 VS AIAUS」「お題:綾香」 投稿者:AIAUS 投稿日:6月3日(土)23時22分
今日も私は、浩之といつもの対決をした。
河原での簡単なスパーリング。
最初は遊び半分だったんだけど、最近は浩之も私の体に当てることができるように
なってきた。
これって自分で言うのも何だけど、本当に凄いことなの。
長年、空手をやっている道場の子達でさえ、私の動きは追いきれない人が多いの。
今まで全く格闘技をやったことがない人が、私の動きについてこれるようになるなんて
才能っていうのは本当にあるもんね。

バシュ!

最初の頃とは比べ物にならないほどの鋭いストレートが私の右横をかすめる。
浩之って確かに上達はしたけど、まだセオリーってものを知らないのよね。
私に体の外側に避けられて浩之は戸惑っている。大振りするとこうなる、っていつも
教えているのに。体で教えてあげないとね。

「いただきっ!」

私は一気に間合いを詰めると、浩之の顔めがけてストレートを放った。

バンッ!

突然、私めがけて飛んできたのは肩での一撃。
そこまではわかったんだけど・・・。
カウンターで痛いのをもらっちゃった私は、情けないことにそのまま気を失って
しまった。

「あれ?」
気がつくと、私は河原で寝ころんでいた。
「大丈夫ですか、綾香様」
セリオが私の顔を丁寧に濡れたハンカチで拭いてくれていた。
「わりぃ! 葵ちゃんに習った技を試してみたんだけど、あんなに強烈だとは
思わなかったんだ」
手を合わせて私に謝っている浩之・・・そうか、負けたんだ、私。
浩之は私のステップインからのストレートにあわせて、それよりも低い位置で私に
肩での体当たりを食らわせたんだ。技の名前はわからないけど、決まれば威力はある
はずよね。これからは気をつけないと。
「綾香様、大丈夫ですか?」
「おっ、おい。大丈夫か、綾香?」
あら、反応するのが遅れちゃった。結構、ショックなのかな。
「大丈夫よー、ちょっと目が回っているけど」
セリオと浩之は目を合わせてから、やっぱり心配そうな顔で私を見た。
「救急車を手配いたしましょうか?」
「ああ。なんか変だぞ、おまえ。頭打ったのか?」
「失礼ねー。女の子を殴り倒しておいて、変だぞ、はないでしょ?」
ようやく調子がもどってきた。最近、負け知らずだったからなー。
「大丈夫・・・かな?」
「脈拍、呼吸、その他異常は見られません」
もう。まだ心配しているの、あんた達。
「いつも浩之がやられて倒れても救急車なんか呼ばないでしょ? 大丈夫だったら!」
「ああ! そうか! 俺、勝ったんだよ!」
浩之は今更のように気づいて、ポンと手を打つ。そして、わざとらしいニヤニヤ笑いを
して、私にこう言った。

「さーて、綾香には何をしてもらおうかなー」

そう。浩之と私は約束をしたのよ。
私に勝てたら、何でも一つだけお願いを聞いてあげる、って。
「言っておくが、聞いただけ、っていうのはナシだからな」
誰がそんな古い手を使うもんですか。
「そうだな、いざとなると思いつかないもんだなー・・・」
悩んでいる浩之の顔を、私はそっと両手で抱える。

チュッ!

「・・・??」
「綾香様?」
浩之とセリオはびっくりした顔で私を見ていた。
あら、セリオの目を丸くした顔って初めて見るわね。
「おっ、おい。何のつもりだよ・・・ムグッ」
「それでお願い、おしまい。次も頑張ってね」
悪戯っぽく笑って人差し指で唇を押さえてあげると、浩之はすぐに顔を赤くした。
あっ、なんか今の浩之ってかわいいかもしれない。
「じゃあねー、浩之!」
なんとなく照れくさくなった私は、セリオを置いて先に帰ることにした。

指で唇を触ってみる。
「一応、ボーイフレンド相手ではあれが初めてになるのよね」
私にキスされて驚いていた浩之の顔を思い出す。
やー、何か今頃になって恥ずかしくなってきちゃった。

「あれ、綾香じゃない? 何やってんの?」
「来栖川さん、こんにちはー」

げっ! 何となく気まずい相手が!
後ろから声をかけてきたのは、カラオケ仲間の長岡志保と浩之の友達の神岸あかりさんだった。


「・・・それでねー」
「あはは、そうなんだ」
二人の言っていることが頭に入らない。
やっぱり気まずい。神岸さんが浩之に惚れているっていうのは志保から嫌になるほど
聞かされていたことだし。私は早くこの時間が過ぎるように祈りながら、足を前に
進めていた。
「あれー、綾香どしたん? なんか調子悪げよ」
いや、悪いわけじゃないんだけど・・・。
神岸さんもバツが悪そうな顔をして、私に話題を振ってきた。
「ごめんね。私と志保だけで喋っちゃって。そういえば綾香さん、浩之ちゃんと
アレやったことある?」

はあ?
なんで、こんな他人も歩いている歩道で、そんな爽やかな笑顔で、好きな男の子を
対象にして、そんなことが聞けるの?
(浩之ちゃんとアレやったことある?)
私の頭の中で、神岸さんの言葉がリフレインし続けた。

「あー、アレってアレでしょ? うんうん。あたしもよくヒロとやるよ!」

なにー!! 志保までやっているの!
ショックで電柱にぶつかりそうになった私は、何とか気力で持ちこたえた。そして、
二人に聞いてみることにした。 
「それで、その・・・浩之とはどれくらいまで進んでいるの?」
私はキスまでだけど・・・。

「えっとねー、Dくらいかなー」
「あかり、まだ甘いわね! 私なんかNまで進んでいるわよ!」
・・・D? N?
なんですか、それは?

その後の話は全て頭に入らなかった。白紙になった頭を抱えて、私は家に帰り着いた。


「やっぱり載っていないわよねー、こんなこと」
家にあるデータベースや雑誌、辞書までひっくり返して調べてみたが、Cよりも先に
ある事なんて書いていない。当たり前か・・・。
Cが(検閲)ってことは、Dは(検閲)よね。じゃあ・・・志保の言っていたNって
なんだろう?
なんか想像もできないようなことなんだろうか。
「あら、もうこんな時間」
とりあえず今日はもう寝ることにした。

私はそのとき、雲の中にいた。
私の目の前には浩之がいる。
「えっ、やだ! なんで裸なのよ!」
「綾香・・・」
いつもより美形に見える浩之の手が私の手を掴む。気がつくと、私も裸。
「いっ、いや! やめてってば!」
私は嫌がって抵抗したんだけどしたんだけど、浩之の手が私の体の上を優しく流れていく。
頭にピンクの霞がかかったような感覚。私がおとなしくなったのを知ると、浩之は私の体を
抱え上げた。
「だっ、駄目! 浩之! 無理! 無理だってば! 痛いからやめて! あっ、いや・・・」

「みみのあなはいやー!!」

はっ!
目を覚ました私は、少し怯えながら耳の穴を触ってみた。
「よかった・・・拡がってない。夢だったんだ」
まだ胸がドキドキしている。

「どうかなされたのですか、綾香様?」

隣の部屋で待機状態だったセリオが、心配して扉の外から声をかけてきた。
「大丈夫よ。なんでもないから」
「うなされていたようですが・・・」
「大丈夫だったら!」
あちゃ・・・声が大きくなっちゃった。
「わかりました。おやすみなさい、綾香様」
セリオが立ち去ったのを確認すると、私は再び眠りにつくことにした。
今度は変な夢を見ませんように。


翌日。
久しぶりに葵の様子を見に行ってみることにした。早いとこ部室をもらえばいいのに、
まだあの子は山籠もりみたいな練習を続けているのよ。

「そりゃー!!」

あれ? なんで好恵の声がするの?
不思議に思った私は、耳を澄ましてみることにした。

「よっ、好恵さん。ちょっと締め過ぎなんじゃあ?」
「馬鹿ね。これぐらい縛っておかないと緩んでしまうでしょう」
「でも、藤田先輩。苦しそうですよ」
「俺のことはいいから、早く縄を縛ってくれ・・・」

かすれた声で響く浩之の声。
縄? 縛る? 苦しそう?
私は三人のところに寄るのは止めて、家に帰ることにした。

私はそのとき、雲の中にいた。
気がつくと、後ろ手に縛られていた。
「痛くないか? 綾香」
なぜか横で浩之も縛られている。
「ちょっ、ちょっと! なんなのよ、これは!」
「しっ! 好恵様が来るぞ!」
浩之が平伏すると、雲の合間から着物を着た好恵が現れた。
「綾香。今日は思い出に残る夜にしましょう・・・」
艶然と微笑む好恵の表情に思わず、私は叫んでいた。

「おにろくはいやー!!」

はっ!
「団先生ですか?」
目を覚ますと、セリオが首をかしげて私の顔を見ていた。
きっ、聞かれちゃったかな、今の悲鳴?
「・・・いつの間に寝室に入ったの?」
「綾香様が、あまりにもうなされておりましたので」
セリオの手に握られているのはキーピック。
「大丈夫。大丈夫だから」
私はまだモヤモヤしている頭を振ると、セリオを部屋に戻らせた。
今度は変な夢を見ませんように。


次の日。
レミィに誘われて、ホットドッグを食べに行った。
「いい。私、いらない」
「Why? おいしいヨ?」
こんなものを食べたら、また変な夢を見るに決まっている。レミィに差し出された
フランクフルトを手で押しやると、私は別のことを聞いてみることにした。
「ねえ。神岸さんや志保がDとかNとか言っていたんだけど、何のことか知っている?」
「What? パズルゲームのことですか?」
レミィは熱々のフランクフルトを美味しそうに食べながら、私の質問に答えた。
「パズルゲーム?」
「Yes! ヒロユキ達が今、夢中になっているゲームで、二人同時に遊べるノヨ。それで、
Eレベルまで行ったとか、よく昼休みに話しているヨ」
・・・よかったぁ。やっぱり、勘違いだった。
多分、好恵の方も神社の補修か何かを三人でやっていたんだ。
それを私が変な方向に想像しただけなんだわ。
これでもう、変な夢は見ないだろう。


「のめないってば!!」
はっ!
夢から覚めた私は、激しく自己嫌悪をしていた。なんで、毎日いやらしい夢ばっかり
見ちゃうんだろう・・・しかも、必ず浩之が相手に出てくる。
これってやっぱり・・・。

「欲求不満ですね」

いきなり横から声をかけられた私は、びっくりしてベッドから転げ落ちた。
「なっ、なにやっているのよ、セリオ!」
セリオは私のベッドの上でチョコンと正座している。
「サテライトサービスを駆使して、綾香様のお悩みを解決する方法を探した結果、
該当する答えを得ることが出来たので、お知らせにきました」
「えっ、あるの? そんな方法?」
私はベッドに飛び乗ると、あわててセリオに聞いた。
こんな変な夢を見続けたくはないもの。
「つまりですね。コレをすれば解決してしまうのです」
そうやって、セリオは拳を作り、中指と人差し指の間に親指を・・・。

「はさむんじゃなーい!!」

私はセリオを部屋から叩き出すと、そのまま眠ることにした。
今度は変な夢を見ませんように。


私はそのとき、雲の中にいた。
あれ? 一度、変な夢を見たら、その日はもう見ないのに。
目の前には裸の私がいる。
「ちょ・・・ちょっと! いくらなんでも、そういう趣味はないわよ、私は!」
「・・・・・・・」
無言でもう一人の私の手が、私の体に伸びる。
「いやー! これはちょっと勘弁! やめてってば!」
「・・・・・・・」
もう一人の私の顔が近づいてくる。
あれ? もしかして、この人って・・・姉さん?
「・・・・・・・」
姉さんの唇が、私の唇に重な・・・。

「あいしまいはいやー!!」

ゴイン!!
いつもの調子で跳ね起きた私の額に、誰かの額がぶつかった。
「姉さん?」
涙目で私を見ているのは、寝間着姿の芹香姉さん。
右手には紙でできた筒を持っている。左手には・・・?
「愛の日記、って何? 姉さん」
「・・・・・・」
嫌がる姉さんの手から赤色の日記帳をひったくってめくってみると・・・。

姉さんって、欲求不満だったのね。

「それで、夜な夜な妹の部屋に忍び込んで、耳元でささやいていた、と」
「・・・・・・」
猥談をするのは確かに解消方法の一つだけど、姉さんにはそういう相手はいないしねー。
「浩之相手にすればよかったんじゃない?」
冗談めかして言うと、姉さんは驚いた顔でフルフルと首を横に振る。
「・・・・・・」
ごめんなさい、と頭を下げる姉さんに、私は笑いかけた。
「今度は起きている時にしよう。姉さんの悩み、私もわかるしね」
こくん。
姉さんがうなずくのに合わせて、私は微笑んでいた。


でも、姉妹って不便よね。欲求不満になる時期も、その夢に出てくる人も似てくる
んだもの。
姉さんと私が取り合ったら、浩之はどんな顔するだろうな。
私はその顔を想像して笑うと、またベッドに寝ころんだ。
今度はいい夢が見られますように。

できれば、彼が出てくる夢で。

-----------------------------------------------------------------------
おまけ

「その時、厳作の太い指が久江のふとももに・・・」
「・・・・・・・」
「あっ、駄目! いけないよ、厳作どん!・・・」

セリオは朗々と官能小説の朗読を続けている。
眠っている芹香の耳元に紙の筒を押し当てて。

どうやら、メイドロボも欲求不満になるようである。

----------------------------------------------------------------------
日々野さんは正統で来るだろうから、僕は崖っぷちを狙ってみたのですが、何か
よくわからない作品に(笑)。要修行といったところですか。

感想、苦情、リクエスト、競作してみたいという方がおられましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

ではでは。