「競作シリーズ その参」「水方 VS 犬丸 VS AIAUS」「お題:ネタふりは別の人」 投稿者:AIAUS 投稿日:6月3日(土)00時50分
『俺の7日間戦争』                  (犬丸さんのネタふり) 


 目がさめるとそこは戦場だった。

 やっぱり……。

 俺はため息を漏らす。
 そしてこの俺の運命を呪った。
 神様、仏様。
 もしかして、アンタ達が本当にいたら……お前ら――
 敵だああぁぁぁぁぁぁぁ!!


「ハアィ!」
 廊下を歩いていると、そんな声と共に、突然後ろから目隠しをされた。
「アタシはダレデショー!」
 真夏の太陽のように、突き抜けて明るい声が俺の耳元で広がる。
 もちろん、誰なのかは一発でわかる。喋り方でもわかるんだが、何よりも、この俺の背中に確かに
感じられる、弾力のありまくる巨大なふくらみ。
 ううむ、ナイスフィーリング!

「レミィだろ」

 目を隠していた手を取りながら、俺は笑いながら言った。
 後ろを振り向くと
「Oh! どうしてワカッタんですカ!?」
 と、言いながら、本当に驚いた表情を浮かべたレミィがいた。
「それはなあ」俺は軽く微笑むと「そいつのおかげだああぁぁぁ!!」と叫び、ずびしとその二つの
ふくらみを指す。
「エッ! Why!?」
 頬を染め、あわてて胸を手で隠すレミィ。
 いつもはあんだけ誇示しときながら、改めて指摘されると恥ずかしいみたいだな。
「ふっ……そんなとんでもないモノを後ろから押し付けられたら、俺でなくともわかっちまうって。
その国産では味わえない甘露な双丘。――いや『丘』じゃねえ、むしろ『山』!! それもチョモラ
ンマクラスのクライマー垂涎の山だっ!! つうか、なんだその胸は。俺を喜ばせるにしても程があ
るぞ! それとも何か? 俺を喜ばせて悶死させるつもりかっ!! 大体、そんなに立派なものを二
つも付けやがって、あかりとか琴音ちゃんとか葵ちゃんとかマルチとか、いわゆる『貧乳カルテット』
へのいやがらせか!? 一つくらいあげようとは思わんのかっ、ええっ!!」
 最後の方は、自分でもよくわからんが、俺は感情の赴くままに叫んだ。
「ヒロユキ……ワタシの胸、キライなの……」
 少し哀しそうに眉をしかめ、瞳を潤ませながら俺を見つめるレミィ。
「何言ってんだよ。ちゃんと話聞いてなかったのか?」
「デモ……」
 それでもまだ哀しそうな表情を浮かべている。
 俺は安心させるように、春風のように爽やかな笑顔を浮かべると
「大好き――いや、死ぬほど好きだぜ、レミィの胸」
 と、レミィの肩をぽんと叩いて言った。
「ヒロユキ……」
 今度は嬉しそうな顔をして俺を見つめてくるレミィ。
 多分これで、レミィ内部での俺のイカスポイントが5ポイントは確実にアップしたことであろう。
 女の子には、何事も素直に誉めてやんないとな。

「そういや、どうしたんだ急に?」
 俺は、レミィが急に目隠しをしてきた事を聞いた。
 レミィがこんなふうにスキンシップを求めてくるのは、大体俺に話があるときだ。
 毎回、俺に話をしに来る度に、手を変え品を変えスキンシップしてくるので、俺としては嬉しい事
限りないのだけど。
「Oh! ソーデシタ!」
 レミィは手をぱんと叩き合わせるという、わかりやすいリアクションをする。
「ヒロユキ、今度の日曜日、暇ですカ?」
 にっこりと微笑んで訊いてくる。
「日曜日か? 暇といえば暇だな」
 今度の日曜は、特に何もやることは無かったはずだ。
 あってもゲームかビデオを見ることくらいだろう。
「Really?」
 目を輝かせて、レミィが言う。
「ああ、レミィがなんかに俺を誘ってくれるっていうなら、喜んで付き合うぜ」
「Marvelous! ウレシイヨ! それじゃあ、今度の日曜日、ワタシのFamilyと一緒
にCampに行かない?」
 本当に嬉しそうな表情をしてレミィは言ってきた。
 こういう風に、素直に喜びを表せるのって、ホント、レミィのいいところだよな。
「キャンプか。ああ、いいぜ。そんな事、久しくしてなかったからな。たまにはそうやって自然を満
喫するのも悪くねえな」
 俺は軽く笑って言った。
「ヤッター! それじゃあ日曜の朝8時。ヒロユキの家に迎えに行くヨ!」
「OK。楽しみにしてるぜ」
「アタシも楽しみだヨ」
 レミィは、大輪のヒマワリが咲いたような、本当に明るい笑顔を浮かべた。


「Goodmorning! ヒロユキ!!」
 日曜の朝。珍しく朝寝坊もしないで、しっかりとキャンプの道具を揃えた俺がリビングでテレビを見
ながら待っていると、チャイムの音と共に、レミィの声が聞こえた。
 ディパックを掴んで、ヘビーデューティなトレッキングシューズを履いて外に出る。
 扉を開けると、そこにはアメリカ陸軍のカーキ色の軍服を来たレミィが立っていた。

 をい。
 ちょっと待て。

「レミィ。なんだその服は」
 とりあえず指摘しておく。
「エッ! ダッテ今日はCampでしょ? ウチではCampといったら、いつもこのスタイルヨ」
 不思議そうな顔をして、レミィは言ってきた。
 確かに、動きやすいし機能的だから、キャンプには向いてるだろうな。
 それに、日本でもそうだが、それぞれの家には、その家でしか通用のしないルールってのがあるも
んだ。あえてそれを異を唱える必要もないのかもな。
「まあ、レミィの家がそうだったらいいか。悪いな、変な事聞いちまって」
「ウウン。気にしなくてイーヨ。それじゃあ、いこ」
 首を可愛らしく傾げてレミィが言う。
 そして俺は、ジョージさんの運転する巨大なジープに乗り込んだ。

「Goodmorning、ヒロユキ」
 車に乗り込んですぐ、ジョージさんが陽気に挨拶してくる。
 そして、シンディさんにあやめさん。それにミッキーも挨拶してくる。
 俺もそれに挨拶すると、車の後部座席、シンディさんとレミィの間に収まった。
 このジープは、異様に広く、後ろに四人座ってもぜんぜん平気だ。
「ソレデハ、行クゾ!」
 ジョージさんが、そう声を掛けるとイグニッションを捻り、エンジンに喝を入れる。
 途端にエンジンが唸り出し、アクセルを踏むと、とたんに速度を増していく。

 それにしても……。
 俺は、この車に乗った宮内家の人々を見た。
 シンディさんとミッキーも、レミィと同じ野戦服を着ている。ジョージさんはもうちょっと黒っぽ
い、随分と着古した感じのSEALS(米海兵特殊部隊)の野戦服を着ていた。あやめさんもまた、普段
の和装とはうってかわった野戦服。しかしデザインは、レミィ達とも、ジョージさんとも違う、SAS
(英国特殊空挺部隊)のものであり、赤いベレー帽を被っていた。
 綺麗な人だけに、これがまた意外と似合ってたりする。
 こういうのもなかなか……。
 ……。
 ちょっとまて、いくらアメリカに住んでいたといっても、なんで一般人がこんな服を持っているんだ?
 ……。
 いや、日本でも軍服マニアというか、そういった服が好きな人もいるし、ファッションでも軍用品は、
結構需要が高いからな。たぶんそういう事だろう。

 ――そういう事だと信じたい。

「そっ……それにしても、そんな服をみんな着てるなんて、随分と凝ってるんですね」
 俺は、さりげなく聞いてみる。
「ソウカネ? ヤハリCampト言エバ、コレダロウ? ミンナ違ウガネ」
 ジョージさんはそう言うと、大きく笑った。
「ええ、キャンプに向かうときは、この格好の方が身も心もひきしまりますね」
 あやめさんが、ゆったりとした口調で言う。
 この家族では、どうもこれが常識らしい。
「うん、お母さんはそれを着ている時が一番カッコイイよ! にいちゃんもそう思うだろ」
 ミッキーがガムを噛みながら、嬉しそうに言う。
 俺は「ああ」とだけ答えた。
「ソウダロウ。あやめハ何ヲ着テモ似合ウガ、ヤハリソノ姿ノ時ガ一番ダ! 
ソノ服ヲ着テイルあやめヲ見ルト、あやめト初メテ会ッタ時ノ事ヲ思イ出スヨ」
「もう、お父さんったら、またのろけ話? 耳にタコが出来たわ」
 シンディさんが、くすくすと笑いながらジョージさんをからかう。
 しかし、何であの格好だと、出会いの事を思い出すんだろうな。
「シンディ。親ヲカラカウモンジャナイゾ。ソレニシテモ、あやめノ、ソノ格好ヲ見ルト、
20年以上前、あやめガ『Bloody Valkyrie』――鮮血ノ戦乙女ト「チェチェン」
デ呼バレテイタノヲ思イダスヨ。アノ時ノあやめハ美シカッタ……モチロン、今デモ美シイノダガネ。
HAHAHA!!」

 ちょっと待て。
 『鮮血の戦乙女』って何だ?
 チェチェンがどうした?
 なんの話だ。

「あら、貴方こそ『Ogre』なんてコードネームで呼ばれる、SEAL最強の鬼軍曹って有名だっ
たじゃありませんか」
 少し頬を染め、照れながら、あやめさんは言う。
 だから『SEAL最強の鬼軍曹』ってなんだよ……。
「OH! 昔ノ話ダ。あやめニ特殊行動中ノ部隊ヲ全滅サセラレテ敗レタ時、ソノ名ハ
葬リサッタノサ」
「まあ、わたくしと唯一、対等に闘えたあなたが」
 ほほほと笑いながらあやめさんは言うけど、それって洒落になってねえぞ。
「イヤ、負ケタサ――君ノ美シサニネ!」
 ジョージさんは一際大きな、男らしさ満載な笑い声を出す。あやめさんも、シンディさんも、みん
な笑い出す。俺はさすがに笑えなかった。
「あの……ジョージさんって、確か貿易商でしたよね」
 俺は恐る恐る訊いてみた。
 過去はどうあれ、今は普通の人だろうからな。
「表向キハ、ネ」
 ナイスガイな笑顔で言うジョージさん。
 表向きって事は……。
「あのね、パパはね、今はホントーはCI……」
「レミィ、うかつに言っちゃ駄目よ」
 ピシャリとシンディさんがレミィをたしなめる。
 CI……後に続くのはなんだろうな?
 まさか……『CIA』。アメリカ中央情報局の事かぁ!?
 宮内家の皆さん!

「そうそう、どこでモサドとかが目を光らせているかわからないからね」
 ミッキーが明るく言う。
 モサド――イスラエルの諜報機関だったな。
 普段漫画を読んでいると、なぜかこういう知識が深まっていくが、今回は知っていて本気で後悔し
た。人間、知らない方が幸せなことが結構ある。
 しかし、これで宮内パパ、スパイ確定。
 俺、どうしたらいいんだろう。
「そういや、キャンプっていっても、どこに向かってるんですか?」
 俺はなんとか現実に戻ろうと、あたりさわりの無いことを訊いてみた。
「横須賀よ」
 シンディさんが、微笑んで言い、
「もっとも、そこからは飛行機なんだけど」
 と付け加えた。
「えっ……ちょっと横須賀って米軍基地があるところでしょ? そこから飛行機ってなんでなんですか?」
「ダカラ、Campに行くからって言ったじゃナイ。ダイジョーブ、一週間くらいだし、ガッコウに
はパパがあとで言っとくカラ、No Plobremヨ!」
 レミィがあっけらかんと言う。
「いや、だからキャンプってのは、アレだろ。山に言ってテント張ってみんなでカレー作ってってい
うの。大体なんで一週間も行くんだ? 一体何処に向かってるんだ」
「Camp――野営。天幕の仮小屋。また、天幕を張って泊まること。兵営、抑留所、収容所。の意。
この場合『兵営』の意が的確でしょう」
 後ろから急に声が掛かる。
 後ろの荷物を積んであるスペースに居た、毛布を被っていた物体が、むくりと起き上がる。
 毛布がずれ、その顔があらわになる。
 こげ茶色のゆるやかにウェーブした髪。無表情だけど、理知的な瞳。そして鋭角的な耳カバー。
 メイドロボだった。
「あっ……駄目じゃない、勝手に起きちゃ。浩之君、紹介するわね。私達の家のメイドロボ。マギーよ」
 シンディさんがそう言うけど、俺はそんな事より、彼女の言った『兵営』って言葉が気になった。
「それよりも『兵営』ってなんですか? 何処にあるんですか、そんなモノ?」
「あら、キャンプっていったら、それが普通ですよね、あなた」
 あやめさんが言う。
「モチロン、ダ。ソウ言エバ、シンディ。マギーハ『砂漠地帯仕様』ニ、カスタマイズヲシタカネ」
「ええ、勿論よパパ。他の装備もばっちりよ」
「へえ、そりゃ楽しみだ。今回のマギーにはどんな武器を入れたんだい?」
 ミッキーが嬉しそうにシンディさんに訊く。
「ちょっと待って、皆さん。それじゃあ、俺が行くところってまさか……」
 俺の声が上ずる。
 最悪の想像が浮かんでくる。
「そのマサカだと思うヨ、多分」
 レミィが笑って言う。
「いっ……」
「いっ……何、ヒロユキ?」

「いやだああぁぁぁぁぁ! 俺はまだ死にたくねええぇぇぇぇぇ!!」
 俺は叫んだ。

「HAHAHA! ヒロユキハ、マダ「ヒヨッコ」ダナ。ヨーシ、私ガ一人前ノ海兵隊ニ仕上ゲテヤロウ」
「降ろしてくれええぇぇぇぇ!!」
 俺の絶叫が、車の中にこだました。
 しかし、そのあと首筋に何かが当てられ、痺れるような感覚があった後の記憶はなくなっていた。

(ここから、AIAUSに作者変更)

「一日目」

頬が冷たい・・・ここは?

気がつくと、俺は洞穴の中にいて、誰かが俺の顔を冷たい布で拭いていた。
「気がつきましたか?」
レミィ・・・じゃないな。日本語が上手い。
ぼやけた俺の視界に写っているのは、ウェーブがかかったブルネットの髪。
「私に与えられた任務は、あなたが目を覚ますまで安全を確保すること。目が覚めて
からあなたを守るのは、あなた自身です」
ぼやけた頭に、なにか無機質な印象を与える声が響く。
「あなたに与えられる装備は、M16A2小銃M203・40mmグレネードランチャー付属タイプ。
30連弾倉20本、560発入り。40mmグレネード弾は20発。全てHE(高性能炸薬榴弾)です。
他、発煙手榴弾は5発。個人用防衛火器としてはベレッタ92を与えられます」
うーむ・・・よくわからん。頭がぼやけていなくてもわからないだろう。
「食料と水は三日分。一週間、浩之さん一人で生き延びることが出来れば、訓練は終了です」
はあ?
一週間・・・レミィの言っていたキャンプも一週間だったような?

をい!

「ちょっと待て! 俺は一人で何かやらされるのか?」
・・・あっ、ダメだ。急に起き上がったから、立ちくらみが。
「大丈夫ですか? 浩之さん」
たぶん、レミィの家のメイドロボだろうマギーの声が俺の耳に響く。
そして、右手に暖かく柔らかい感触が生まれた。
消えていく視界で右手を見ると、マギーが俺の右手を自分の胸に押し当てている。

「レミィさんから、あなたへのメッセージです。苦しい時は、これを思い出して」

そのマギーの言葉を最後に、俺は再び気を失った。


「くっそー! 冗談じゃねえぞ、あのバカ親父!」
俺は洞穴の中に積まれた「装備品」を目の前にして怒っていた。
映画に出てくるような軍用のライフル(丸い筒付き)。マガジンがたくさん。ちびた
クレヨンみたいなデカい弾。SMOKEって書かれた、丸い輪っかがついたスプレー缶
みたいなやつ。そして・・・レミィがいつも持っている拳銃。
ためしに拳銃を洞穴の壁に向かって撃ってみると、BANG! という乾いた音が響いて、
壁に穴が開いた。
「全部、本物かよ・・・いつか捕まるんじゃねえか?」
まだ状況を把握していなかった俺は、この砂漠地帯がまだ日本のどこかだと信じていた。
一番大事な食料と水を確認してみると、本当に三日分くらいしかない。
しかも、全部が缶詰やパック食品ばっかり。
一週間これで過ごすのはちょっと無理だな・・・。
仕方がないので俺は、念のためにライフルと拳銃を持って洞穴の外を探してみることに
した。

岩砂漠、とでも言うのだろうか?
周りにあるのは砂と岩だけ。いつの間にか着替えさせられたコンバットブーツが、
そのどちらかを踏みしめている。もちろん、服装は砂漠用の迷彩らしい柄の軍服。
「こりゃ・・・死ぬかな?」
四方には地平線が広がり、どこにも文明を思わすような場所はない。
食料の確保どころか、生命の維持まで怪しくなってきたぞ、これは。
俺は滝のように流れる汗を拭いながら、何かが見つかるまで歩き続けた。

その、「何か」がいた。
白い箱みたいな物体が、不釣り合いに大きい二本足に支えられて走ってくる。
何だありゃ? 旧式のメイドロボか?
「Drop your arm! Drop your arm!」
その箱形ロボットは、何か叫びながら俺に近づいてくる。
あいつ、何かの特番で出ていたような・・・

!

閃いた瞬間、俺は横っ飛びに岩陰へ飛び込んだ。

BUDDA! BUDDA!

俺のいた場所の岩場に弾丸が命中し、岩のかけらが空中に舞う。
思い出した。あいつの名前は「機械化偵察歩兵 LMT-013」。地雷が使えなくなった
代わりに、歩兵への抑止力として開発されたとかでニュースで話題になっていた。
機械に戦争をやらせてもいいのか! って、議論になったんだよな、当時は。
本当にそんなもんが使われていて、俺が目標になるとは思わなかったけど・・・。

BUDAA! BUDDA!

そいつは俺がいる岩陰に向けて、箱の上に空いた二つの目のような小さな穴から弾丸
を連射してくる。これじゃ、動けないぜ。
俺が途方にくれていると、いきなりLMT-13の銃撃が止んだ。
もしかして、弾を込め直しているのか!?
チャンスとばかりに俺は岩陰からライフルを出し、そいつの箱形の頭に狙いを定める。

カチ。

トリガーを引くが、弾は出ない。
げっ! なんで・・・そうか、安全装置!

BANG!
BUDAA!

俺の30cm横にあった岩場がかけらになって舞い上がる。
箱形ロボットは俺の銃撃を受け、穴だらけになって砂の上に倒れた。

「やばー。もう少しで俺が穴だらけになるところだったぜ」
冷や汗を拭いながら、俺はロボットを調べた。念のために遠くから銃を構えてゆっくりと
近づいたのだが、もう完全に機能を停止しているようだ。
「この弾・・・使えんのかな?」
バラバラになったロボットを分解していると、俺のライフルとそっくりの弾が何発も
出てくる。変形して使えなくなった弾もあるが、もらっていて損はなさそうだ。
「弾なんかいいんだよ。ロボットじゃなくて、動物はいないのかよ」
ぼやいてみたが始まらない。俺はキャンプ地である洞穴に戻ることにした。

マギーにもらった食料を食べる。なかなか上手い。
ちょっと甘いのがなんだが、味付けはまあまあだ。
水はかなりたくさん用意してあったので、遠慮なく飲む。しかし、この調子では
一週間も過ごせそうにない。
「あかり、俺は今、こんなひどい目にあってんだぜ。泣いてくれるよな」
つまらない愚痴がこぼれる。
だが、俺は弱音を吐いても生きて帰らなくてはいけない。本当に泣いちまうだろうからな。


「二日目」

あの物騒なLMT=13がいるんだったら、装備はちゃんとつけていくべきだ。俺はマガジン
を何本かとグレネード弾を2個ほど用意してあったバックパックに入れると、再び
探索を開始した。
生えているのはサボテンばかりで、他には何もない。トカゲがたまに歩いているが、
なんか毒でもありそうだしな・・・。
食い物と水。これが最優先だ。

「Drop your arm! Drop your arm!」
予想通り、LMT-13が俺を見つけて近づいてきた。しかも、今度は二体。

BUDDADADADADADADA!!!

十字型に銃弾を撃ち込まれて、反撃する暇がない。
くっそ! 本気でこれまでか!?
俺は死を覚悟したが、ふと腕の中にあるライフルに付いた丸い筒のことを思い出す。
グレネードっていうんだから、手榴弾を遠くに撃ち出すんだよな・・・。

PONG!

想像以上に強い反動に俺は驚きながら、山なりに飛んでいくグレネードの軌道を
見守った。

BKANG!!

耳を裂くような爆音。爆風に巻き込まれた一体目のLMT-13は作動を停止する。

BUDADADADA!!

危険を察知したのか、二体目のLMT=13は後退を始めるが、すでに俺はライフルを
構えている。

BLAAMMM!!!

フルオートで銃撃を食らった二体目のLMT-13は酔っぱらいのようによろけると、
そのまま砂漠の中で倒れた。
よっし、ピンチ脱出。
俺が汗を拭いながら立ち上がると、後ろから嫌な声が響いた。

「Drop yuor arm! Drop your arm!」

やばい!
俺はとっさに後ろを振り向いたが・・・。

BUDADADADA!!

飛び散る液体と湿った物質。
それが砂漠の中にまき散らされる。

BANG!

三体目のLMT-13が命中させたのは俺ではなく、サボテンだった。同時に放った俺の
銃弾が偶然、脚に当たり、バランスを崩したのだ。
俺はそいつにとどめを差すと、俺の代わりに砕け散ったサボテンを見た。
「悪いな・・・あれ?」
砕けたサボテンを見ると、それはあふれんばかりに水にあふれ、果肉はおいしそうに
光っている。
サボテンって毒はないよな・・・。
俺は誘惑に耐えきれずにサボテンの果肉を口に含んだ。

・・・うまい。

いや、多分まずいんだろうけど、砂漠の中で水気のあるものを口に含むとやたらに
うまい。当たり前だと思うだろうけど、これは驚きだった。
サボテンって食えるんだな。
これは大きな発見だった。俺はライフルの先についた銃剣で丁寧に鋭い棘を削ぐと、
洞穴に持って帰ることにした。

「雅史。おまえ、今夜は何を食っているんだ? 肉じゃがか? 里芋の煮っころがしか?
俺はヘルシーにサボテンのステーキだ」
やはり、愚痴も出る。


「三日目」

開き直ってトカゲを食べてみる。なかなかおいしい。火を通せば毒はないだろう、
という考えは間違っているとは思うのだが、保存食はあきた。
普段なら絶対に食べないと思うのだが、一人で三日も砂漠にいると食べること以外に
楽しみがない。
明日は蛇にチャレンジしてみるか・・・。
「志保。これが究極のアウトドアだ。絶対におまえにも体験してもらうからな」
愚痴ではなく、決意表明。だんだん慣れてきたな、俺。


「四日目」

敵の行動が組織的になってきた。
こうなると残骸から弾丸を回収している暇もなくなってしまう。
残弾はライフルが残り200発ぐらい。グレネードも半分使ってしまった。
やばいな・・・このペースだと一週間が来る前に弾切れになっちまう。
もしも、そうなったら・・・。
嫌な想像を振り払って、俺は生きるために頭を使うことにした。どうやら、LMT-13
の集団は俺が洞穴にいることを知っていて、その周辺で待ち伏せしているようだ。
まだ洞穴に攻め込んでくる様子はないが、もしそうなったら防ぎきれない。
なら・・・逆に攻め込ませてやればいいんだ。
俺は寝るのをやめて、LMT-13の軍団を撃滅する準備を始めた。

「待っていろよ、レミィ! 絶対にもう一回、会ってやるからな」
もう、愚痴は出ない。


「五日目」

俺はLMT-13に遠くから軽い攻撃を加えては洞穴に逃げ込むという戦い方を何度も
行った。最初は警戒して洞穴に近寄ろうとしなかったLMT-13も、だんだん焦れてきて
洞穴に近づき始めた。
俺はその頃、昨夜から用意しておいた作戦を開始していた。

BUDADADADA!!!!
BUDADADADA!!!!
BUDADADADA!!!!

俺の反撃がないと知るや、連中は退去して洞穴の中に殺到し始めた。
全ての機体が洞穴の中に突撃していく。

「待っていたぜ! この時を!」

昨日の間に発見しておいた抜け穴から出ていた俺は、ありったけのグレネードを
LMT-13の集団がいる洞穴の中にぶち込む。荷物は昨日の間に外に隠しておいたのだ。

BLANG! WHANG!

凄まじい爆音が響いて、洞穴を支えていた岩壁が崩れる。
LMT-13の集団はこうして、全て破壊された。

「よっしゃ! 後、一日だ!」
この一週間の中で、初めて笑った気がする。


「六日目」

失敗した。
隠していた水と食料をトカゲに食われてしまった。
そのトカゲは責任を取って俺の腹の中に収まってもらったのだが、水がなくなった
のが痛い。
砂漠ではどうしても汗をかく。それを防ぐ手段はない。脱水症状にならないためには
水を大量に飲まなくてはならない。
サボテンを切ってみたが、今日は砂漠でも暑い日なのか水が出ない。
「・・・もうダメかな」
俺は今、日陰でじっと動かないで夜になるのを待っているが、すでに体力はない。
力無く、手元の岩をつかむ。

堅いな、この岩。

当たり前だ。だが、何か大事なことを思い出しそうな気がする。
レミィ・・・そうか、レミィだ。

「苦しくなったら思い出してくれ、だったよな・・・」

マギーから伝えられたメッセージが俺の頭をよぎる。
「死なないぜ、今の俺は」
俺は飽きずに照りつける太陽をにらみながら、そうつぶやいた。


「七日目」

脱水症状を起こした俺を迎えてくれたのは、レミィの熱い抱擁と他の家族の笑顔だった。

「マリーン(海兵)ノ顔ニナッタゾ。ヒロユキ」

俺はジョージさんを殴ってやろうと思ったのだが、すでに拳を上げる気力もなかった。
「訓練を受けた兵士でも完遂する人は珍しいのに」
「すげえぜ、浩之兄ちゃん!」
半ば感心、半ば呆れた顔で俺を見ているシンディさんとミッキー。
「あら。私とお父さんは最初から出来ると思っていましたよ」
あやめさんはいつも通りの表情で笑っている。
「・・・こっ、殺されるかと思いましたよ」
最後の力を振り絞って、俺はみんなに文句を言った。
「あれは全部、模擬弾だったのよ。致命傷を受ければ、そこで訓練は終わり。あなた
の場合、上手過ぎたのよ」
「そうだよ。一発も食らわないで、ターゲット全滅なんて普通いないぜ」
「ヒロユキ。すごいデス!」
レミィの笑顔がまぶしい・・・が、なんか俺、バカみてえ。
「ヒロユキ。ドウヤッテ、アノ照リツケル砂ノ地獄ニ耐エラレタンダイ?」
ジョージさんの優しい笑顔が、逆に俺の神経を逆なでした。

「こいつですよ!」
「キャァァァァァ! ヒロユキ! ミンナノ前ジャ駄目ダヨ!」
俺は残った力を振り絞って、レミィの胸をつかんでいた。
「ムッ! ヒロユキ。私ノ娘ノ胸ヲ揉ンデ、生キテ帰レルト思ッテイルノカ?」

「To heart me!(こいつに勇気づけられたのさ!)」

ジョージさんのパンチが飛んでくる前に、俺は都合良く気を失った。


「後日」

「浩之ちゃん! どうしたの? 一週間も休んだと思ったら、真っ黒になって帰ってきて」
「ああ。ちょっと家族旅行にな」
「エヘヘー。一緒に行きマシタ!」
レミィがいらんことを言って、あかりとまた喧嘩を始めた。

「戦争はもういいよ・・・」
俺はそんな二人を見て、本気でつぶやいたのだった。

                          (おしまい)

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おまけ

「藤田先輩! 私も軍服を着てみました!」
「あの・・・葵ちゃん?」
「どうです? 私も少しは凛々しく見えますか?」
「だからさ・・・」
「探したんですよ。いろんな店。十三軒目にやっと見つかったんです」

迷彩ブルマ・・・軍服というのか? はたして?

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水方さん、ごめんなさい(笑)
ではでは。

感想、苦情、書いて欲しいSS、挑戦状などがありましたら、
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まで、お気軽にどうぞ。