贖罪(「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢」「お題:会話文のみ」)  投稿者:AIAUS 投稿日:5月19日(金)04時02分
「拓也さん」
「・・・・・・」
「拓也さん。どうして、こっちを向いてくれないの?」
「・・・・・・」
「後ろめたいの? 私を壊したことが。怖いの? 自分が犯した罪が」
「・・・逆さ。僕は君を壊すことにためらいなんか感じなかったし、罪に震えてもいない」
「じゃあ、どうして振り向いて私の顔を見てくれないの? 恐ろしいの? 私の傷だらけの顔が」
「傷はすぐに治るさ。長瀬君が上手くやってくれたみたいだからね」
「そう・・・じゃあ、なぜ振り向いてくれないの?」
「自分に絶望している」
「絶望?」
「君を壊したのは僕だ」
「それは長瀬君から教えてもらいました。拓也さんも苦しい目に会ったんだって。だから・・・」
「だから?」
「・・・憎んではいません。心配なんです」
「フッ、フハハハハ・・・」
「・・・・・・」
「どうして笑うのかって顔だね? いいか、僕は君を壊した。だけど、元通りにする
こともできたんだよ。いつもの理路整然として意見を言う、毅然とした君にね」
「・・・・・・」
「でも、僕はしなかった。わかるかい? 君を壊したのは僕だ。そして、元の世界に
戻したのは僕じゃない。長瀬なんだよ」
「はい・・・」
「僕と瑠璃子はね、昔から兄妹二人っきりだった。お互いにたった一人しか信頼する
相手がいなかった・・・僕は瑠璃子しか見ない。だから、僕は他の誰にも価値を感じる
ことができないんだよ!」
「・・・・・・」
「・・・だから、自分に絶望している。こんな事件を起こしてしまっても、後悔する
こともできない人間って人間と呼べるのかい? 大田君・・・もう行ってくれ。君が
傷ついたら悲しむ人がいるだろう?」
「拓也さんは悲しんでくれないんですか?」
「・・・言っただろう? 僕は瑠璃子以外の人間に価値が見いだせないんだって」
「私にはわかりません」
「わかってくれなくていい・・・わかっちゃいけない。君はもう僕の近くにいては
いけない」
「違います。拓也さんがどうして、自分が後悔していることを認めたがらないのか。
それがわかりません」
「・・・僕が後悔している? 太田君、僕は壊れているんだよ」
「拓也さんは壊れていません。壊れていないから、壊れるのを怖がっていた・・・
そう思います」
「違う! 僕は壊れている! 壊れた君を見ても後悔も絶望もない! 僕には瑠璃子
しかいないから! その瑠璃子はもう僕の側にはいてくれないから! 僕はこの世界
にたった一人だから! 僕は壊れている!」

「拓也さん!」

「・・・・・・」
「一人じゃないんです・・・この世界にいるのは、あなた一人じゃないんです」
「僕は怖い・・・壊れるのが怖い。また誰かを傷つけるのが・・・いや、そうじゃない。
人を傷つけて、それで愉悦に浸る自分になるのが怖いんだ・・・」
「あなたが恐れているのは、一人ぼっちになること。狂気の世界に一人、君臨してしまう
ことなんです!」
「そうだ! 僕は君臨する。全ての人を壊し、瑠璃子以外の人間を壊し、この世界を
破壊する。そんな人間は生きていてはいけないんだ!」
「拓也さんが壊れた私を戻さなかった理由・・・わかりました」
「罪の意識がないからさ」
「違います。あなたは私が怖かった。元通りの太田香奈子が、再び自分に壊されに
来るのが怖かったんです!」
「・・・・・・」
「私の顔を見て下さい」
「僕は・・・」
「私も怖い。それはわかってくれますよね?」
「僕に壊されることが?」
「あなたが壊れていくことが」
「僕は・・・きっと君を壊してしまう」
「それが後悔するという感情。拓也さん。私を信じて下さい。お願いです」
「君はどうして僕を信じられる?」

「好きなんです! 拓也さんのことが・・・」

「僕は・・・」

「・・・やっと、私の顔を見てくれましたね」

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競作初参加。
うーん。こんなものでいいのだろうか?