宮内さんのおはなしR その十壱(VER1.01) 投稿者:AIAUS 投稿日:5月17日(水)04時22分
「あのね。私、佐藤君のことが好きみたい・・・」
また松本が始まったよ。
まったく・・・この前は藤田がどうした、こうしたって言っていたのに。
「はい、はい。それで、今度は誰が松本のお眼鏡にかなったって?」
「岡田ぁ。なんか、その言い方って冷たいよ。ねえ、松本。佐藤君のどこが好きになったの?」
よせばいいのに、吉井が松本を焚きつける。いつもマッチの役をするのよね、こいつ。
「えー・・・だって、佐藤君って格好いいし、スポーツ抜群だし、優しいし・・・」
「そうだよねー。佐藤君ってポイント高いよねー。うん、藤田君よりランク上だよ、絶対に」
前の前に、松本が矢島君のことをどうこう言っていた時も、吉井は同じことを言ったよ。
だったら、佐藤君はお月様、藤田はスッポン、矢島君はプラナリアぐらいになるのだろうか?
「うん・・・この前もね、私が授業で先生の質問に答えられなかったら、そっと答えを
書いた紙を渡してくれたんだよ」
「きゃー! それって、絶対に松本に気があるって」
そんなことぐらいで気があるって思われたら、佐藤君も困るでしょうに。
「それでね、思い切って私、佐藤君に告白してみようと思うんだ・・・」
真っ赤な顔で、うつむいてつぶやく松本・・・。

「やめなよ!」

気がつくと、私は大声で松本を止めていた。
「えっ? どうしたの、岡田?」
「岡田?」
あれ? なんで私、大声なんか出しちゃったんだろう?
「あっ、あはは・・・なんでもない。なんでもないよ」
「・・・へんな岡田」
「まだだよね、岡田のが来るの?」
「ごめんね、松本・・・吉井! 教室の中で、そういう話をするんじゃないの! 
大体、なんであんたが私の周期を知ってんのよ!」
周期、という言葉を聞いて、まわりのみんなが一斉に私の方を向く。
「墓穴掘りー」
「自分で広めてどうすんのよ、あんた」
冷たい目で私を見る松本と吉井。
・・・ううっ、あんた達きらいだ。


「ごめん・・・他に好きな人がいるんだ」
がっくりと顔を下に向ける松本。
佐藤君は校舎裏で松本に呼び出されて、告白された。
松本は今、佐藤君にふられて泣きながら私と吉井のところに走ってくるところ。
「ふえぇぇぇぇん!! 岡田ぁ! 吉井っ!」
「あー、よしよし」
私が松本の頭を撫でながらにらみつけると、佐藤君はすまなそうに笑いながら、教室へと帰っていく。
残念だったね、松本」
「うう・・・本気だったのに」
何回目の本気やら。
「しょうがないよ、佐藤君にも好きな人がいるんじゃ」
私に抱きついてピーピー泣いている松本を、吉井が慰めている。
「でも、私も佐藤君のことが好きだったのに・・・」
「うん、でも・・・あきらめるしかないよね」
「だって、だって・・・」
あー、うっとうしい。
「よしよし。帰りに一緒にヤックに行こうねー」
「ふみゅう。ありがとう、吉井・・・」
まったく。藤田君の時もこんな調子だったよね。


「あー、やってられないわよ、まったく」
私は松本と吉井を連れてヤックに行った後、怒りながら家に帰るところだった。
なんで怒っているのかは自分でもわからない。
松本が思いつきのように好きになった男の子にふられるのはいつものことだ。
でも、今回はなぜか腹が立つ。

「あっ、さっきはごめんね。岡田さん」

女を泣かしたというのに、いつも通りさわやかな佐藤君。どうやら、クラブの帰りのようだ。
「よく話しかけられるわよね、あんた」
「いや、謝っておこうと思って」
やっぱり笑顔はさわやかだ。
「私に謝っても仕方がないでしょ。もういいから、離れなさいってば」
「うーん・・・でもさ。岡田さん、怒っていたから」
「友達泣かされて、冷静でいられるほど人間できてちゃいないわよ。ほら、もういいから」
佐藤君と話していた、なんて噂が立つと、またややこしいことになる。
「一応、謝らせてもらえるかな?」
「あんたね! いいかげんに・・・あれ?」
急に立ちくらみがして、体の感覚がなくなる。駄目、貧血だ・・・。
「どっ、どうしたの? 岡田さん? 岡田さん!?」
私の体を抱きとめて、佐藤君が何か叫んでいる。
でも、もう意識が・・・。
私は佐藤君の腕の中で、そのまま意識を失った。


頬がヒンヤリと冷たい。
誰かが、濡れたハンカチで私の頬を拭いているようだ。
「・・・・・・?」
「気がついた? 岡田さん」
私の一センチ前には、佐藤君の顔。
「えっ・・・うわっ!」

ゴチーン!

びっくりして起きあがった私のオデコと、佐藤君のオデコが激突する。
「いだー!!」
「あっ、あたたた・・・石頭だね、岡田さん」
失礼なことを言いながらも、さわやかな佐藤君の笑顔。
「貧血みたいだね。立てる? 僕が背負って帰ろうか?」
とんでもないことを言い出す佐藤君。天然なんだろうけど、そんなところを誰かに
見られたら、それこそまずい。
「いいわよ! 一人で帰れるから・・・ありゃ?」
立ち上がろうとして地面に降ろした足は、私の体重を支えきれずに曲がってしまう。
「わっ! 大丈夫、岡田さん?」
私の体を受け止めて、心配そうな顔で聞いてくる佐藤君。
あちゃー・・・ウエスト絞ろうと思って、ダイエットしたのが効いているのかな?
私、もともと低血圧だし。
「だっ、大丈夫だってばぁ・・・」
自分で聞いても大丈夫じゃなさそうな声で、私は佐藤君に答える。
「とにかく、今日は僕が連れて帰らせてもらうから。よいしょっと!」
軽々と私の体を持ち上げ、背中に背負う佐藤君。
「ちょ、ちょっと・・・駄目だって・・・」
ああ・・・駄目。本当に駄目。なんか意識が朦朧として抵抗できない。
「それじゃ、帰ろうか。岡田さんの家はどっち?」
抵抗するのをあきらめた私は、黙って自分の家の方角を指差した。


「・・・ねえ。そろそろ回復したから、降ろしてもいいわよ」
ようやく意識がはっきりしてきた私は、佐藤君の背中に揺られながら言った。
「駄目だよ。またさっきみたいに倒れたら大変だろ? ここは自動車も走っているし」
そういう道でおんぶされている私も、大変恥ずかしいんですけど・・・。
「でも、岡田さんっていい人だね」
はあ?
「それ、どういう意味?」
いぶかしみながら、私は佐藤君に聞いてみた。
「いや、貧血を起こすまで怒るなんて、友達思いな人だなって」
「それは、そんなんじゃ・・・」
どうだろう? 噂になって松本に聞かれたら困るとは思ったけど、松本のことを思って
怒ったんだろうか? 告白する前に大声で止めちゃったけど・・・それもうっとうしかった
だけだったと思うし。
「あんた・・・好きな人がいるって言ったわよね」
答えに困った私は、別の話題を振ることにした。
「あっ、あはは・・・聞かれてた?」
「頑張んなさいよ、あんたならきっとOKをもらえると思うから」
「・・・うん。ありがとう、岡田さん」
まあ、佐藤君も松本を傷つけようと思ってやったことじゃないし、今回はしょうがないか。
佐藤君は優しくてルックスもいいから、きっと好きになった相手にいい返事がもらえるだろう。
私は穏やかな気分になって、佐藤君の背中に体を預けることにした。


翌日。
「ねえねえ。岡田って、佐藤君とつき合っているって本当?」
予感的中。
どうして、この学校はこんなに暇な奴が多いのか。
佐藤君が私をおんぶして帰ったことは、すでに噂になっている。
「熱愛発覚ー! なんと、あの岡田さんと雅史が・・・グェ!」
とりあえず、私はスピ−カー女の長岡の後頭部に筆箱をぶつけると、誤解を解くために
二人がいつもいる階段の踊り場へ行くことにした。

「裏切り者・・・」
松本が涙にうるんだ目で私をにらむ。
吉井はオロオロとして私と松本の間を行ったり来たりしている。
「だから、そんなんじゃないって。たまたま、帰り道が一緒だっただけなの!」
「雅史君の背中って暖かいんだろうなー・・・冷たい岡田にはお似合いよぉ・・・ヨヨヨ」
わざとらしく泣き崩れる松本。
「岡田ぁ・・・」
困ったような顔で私を見る吉井。

「あんたね! 本気じゃなかったくせに、イヤミな真似はやめなさいよ!」

あっ・・・。
ビックリしたような顔で私を見る松本と吉井。
「ひどい・・・そんな言い方ってないよ・・・」
「言い過ぎだよ、岡田!」
私は何も答えられずに、踊り場から走り出していた。


口が滑った。
そんなもんじゃすまされないことを言っちゃった・・・。
私を見る二人の目が忘れられない。
責めるような、悲しむような瞳。
当たり前だ。友達としては、そんな言葉は言ってはいけない言葉だ。
こりゃ絶交かな・・・。
あの二人とは中学からの付き合いだけど、許してもらえるとは思えない。
あはは・・・。

「オカダ? 泣いているの?」

いつの間にか涙をこぼしていた私を不思議そうな顔でのぞきこんでいたのは、お天気
娘のレミィだった。

とりあえず近くの喫茶店に入った私は、レミィに泣いていた理由を話すことにした。
「ふーん? マサシ、また女の子をふったんだね?」
「そこ、ポイント違う」
つっこみを入れる私の顔を見て、レミィは屈託のない笑顔で笑う。
「Don't worry! そんなに心配することないと思うヨ」
「あんたは悩まない性格だから、それで済むでしょうけどね・・・」
チッ、チッ、チッ。
人差し指を左右に振って、得意そうな顔をするレミィ。
外国人って、本当にこういう身振りをするんだ。

「そのとおり だから余計に 腹が立ち」

?? 俳句?
レミィが突然言った言葉に、私は怪訝な顔で答えた。
「そんなに心配することないヨ、オカダ。明日には元の仲良しトリオだヨ」
レミィはそう言うと、目の前に置かれたジャイアントパフェにかぶりつく。
「あんたね・・・ダイエットとかしないの?」
「アタシ、そんなのしたことないデース!」
私の目の前で、発達したレミィの胸が揺れる。

「店員さーん! 私もジャイアントパフェ! 二つお願い!」

レミィの言うとおり悩むのを止めて、私は長期的な問題から解決することにした。


「岡田! 岡田ってば!」
二人に話しかけられないで、教室でボンヤリしている私に、吉井が話しかけてきた。
「松本が話があるってさ」
あちゃあ・・・絶交宣言かな?
仕方ないよね、ひどいことを言ったのは私だし。
生気を抜かれたような顔でトボトボと吉井についていった私。
そんな私を待っていたのは、松本の意外な言葉だった。

「ごめんなさい! 昨日は大げさすぎました」

なぜか頭を下げてくる松本。
「ちょ、ちょっと・・・謝るのはあんたじゃないでしょ?」
「ううん・・・確かに、岡田の言うとおり、そこまで本気じゃなかったんだと思う」
松本は私の手を取ると、じっと私の目を見つめる。
「佐藤君から事情は聞いたよ。ごめんね、泣いたんでしょ?」
レミィのやつぅ・・・気を利かせてくれたつもりなんでしょうけど、余計なことまで
言い過ぎだっつーの。
「私もごめん・・・仲直りしてくれる?」
「うん。帰りにヤックに寄ろうね、岡田ぁ。吉井も来るでしょ」
吉井は笑顔で、その問いにうなずいていた。


ヤックにて。
「あのね、あのね! 今度こそ、本気で好きな人ができたの!」
「えー、本当なの、松本?」
懲りずに話を合わせる吉井。
「岡田も聞いて! 今度こそ本気なの!」
私は・・・あきれて机に突っ伏していた。

だめだこりゃ。

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おまけ

「三年の先輩が噂していたけど、佐藤君の好きな人って・・・」
「まさかねえ。ダークホースもいいところだわ」
「・・・佐藤君。私は応援するからね。頑張んなよ」

私は熱い瞳で、教室で話している佐藤君と藤田を見つめていた。

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お待たせ過ぎました。すいません。
伊勢さんよりリクエスト、「三人娘SS」いかがでしたでしょうか?
やはり、岡田が中心で話が回ってしまいますな。一番、性格が前面に出ているキャラクター
ですから。
気に入っていただければ、幸いに思います。

では、感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
までお願いします。

ではでは。