宮内さんのおはなしR その十  投稿者:AIAUS 投稿日:5月15日(月)05時57分
   「あたしのなりたいもの」
                        二年二組 あい田きょう子

 このまえの日よう日、親せきのおねえちゃんがけっこんしました。
 白いウェディングドレスをきたおねえちゃんはとてもきれいでした。
 あたしが、
「おねえちゃん、とってもきれいだね」
と言うと、おねえちゃんはにっこりとわらいました。
「ありがとう。きょうこちゃん」
 おねえちゃんはそう言うと、花たばの花を一本、あたしの頭にさしてくれました。
「きょう子ちゃんがおよめさんになる時は、わたしもよんでちょうだいね」
 あたしとおねえちゃんはやくそくをしました。

 だから、あたしははなよめさんになりたいです。
 まっ白なきれいなウェディングドレスをきた、きれいなはなよめさんに。
 
                               おわり



「ふー、私って待つのは苦手なのよねぇ」
喫茶店で何本かのタバコを消し、私はつぶやいた。
私の名前は相田響子。
記者という仕事でゴハンを食べている。
「週間レディジョイ」っていう女性向けのビジネス雑誌で、割と大手なのだ。
うちの雑誌、景気がいい時は「女性の自立」とかいう標語と一緒に、かなり売れた
んだけどねえ・・・。
はっきり言って、今の就職不況は最悪。
男の子はまだ何とかなっているんだろうけど、女の子はかなりきついだろう。
雑誌で組まれる記事は就職案内や就職活動のマニュアルばっかり。
まあ、要望の半分以上がそういう内容を求めていちゃあ、しょうがないよね。
オバサンっぽい言い方だから嫌なんだけど、昔は良かったわよね。
実際に社会で活躍する女性の経営者や技術者にインタビューして、それを記事にする。
(女だって男以上に働ける。私はそれを証明しています)
インタビューをした人達はみんな輝いていた。
自分の描いていた夢を実現した人達。そういう人ばかりだった。
「んー、でも、今の世の中、自分が就きたい職につける子っているのかなあ」
そんなことを考えていると、何年か前に会ったボンヤリした大学生の顔を思い出した。
たしか、柏木グループの会長の娘さんの従兄弟だったかな?
あの子も就職して社会で働いているぐらいの年のはずだ。
要領が悪そうな子だったから、ちゃんと自分のしたい仕事を選ぶことができたのだろうか?
いや、インタビューした柏木グループの若い女会長さんは、私の見たところ彼にご執心
のようだったから、意外と逆玉にでものっているかもしれない。
どのみち、強力なコネが身近にあるわけだ。
「私もおばさんのコネで記者になったようなもんだから、人のこと言えないけどねー」
別にコネに頼るのは恥ずかしいことじゃない。今の時代、甘いことを言っていたら
人に追い抜かれるだけだしね。

ピピピピピピ

約束の時間が来たことを、左手の腕時計が伝える。
さって、お仕事といきますか!


白亜の豪邸というのは、こういう家のことを言うんだろうか?
日本の住宅地にアメリカの家を丸ごと持ってきた。
インタビューする宮内シンディさんの家を見て、私はそういう印象を受けてしまった。

今日は珍しく、「週間レディジョイ」本来のお仕事。
最近になって急激に業績を伸ばしているメイドロボの業界で働く、宮内シンディさんに
インタビューをするのだ。

ピンポーン

「はい、どなたでしょうか?」
インターホンを押すと、大人びたハスキーな声が私を迎えた。
「先日お電話した「週間レディジョイ」の相田響子というものですが、シンディさん
はご在宅ですか?」
「・・・ああ、約束していた記者の方ですね。門は開いておりますからお入り下さい」

ガチャ!

鍵が外れると、門は音もなく開いた。
「うーん。なんか、お金持ちって感じよね」
私は少しプレッシャーを感じながら、宮内さんの家にお邪魔することにした。

「・・・それではシンディさんは、女性であることにハンディを感じたことはない、
ということですね」
「ええ、そうですね。特に意識したことはありません」
私の質問に流暢な日本語で答えるブロンドの美人は、今日のインタビューの相手の
宮内シンディさん。
アメリカにある会社の社長さんの娘で、お母さんが日本人の日系ハーフ。英語も日本語
も達者で、現在はメイドロボを作っている会社の技術者として働いている。
彼女の凄いところはソフトとハードの両方を扱う技術者だっていう点。
つまり、プログラムも機械の修理もできちゃうというスーパー技術者なのだ。
ちょっと前まではメイドロボなんて目玉が飛び出るような値段で、金持ちが楽する
ための道具に過ぎなかったけど、最近になって車くらいの値段で買えるメイドロボ
が普及してきた。
なんていっても、私の家で購入を検討しているくらいだからねぇ。
(娘が飛び回ってばかりいて、家事を手伝ってくれないからねぇ)
あう・・・お母さんのイヤミを思い出しちゃった。

「響子さん?」
あっと、仕事の方がおろそかになっていたわ。
「えっと、最後に質問をよろしいですか? シンディさんはこれからもずっと、
今のお仕事を続けられるつもりですね?」
私がそう質問すると、シンディさんはおかしそうにクスリと笑った。
「なにか変なこと言いました?」
私が不思議に思って質問すると、シンディさんは落ち着いた声で答えた。
「結婚するつもりがあるか、ということでしょう?」
・・・ありゃ、やっぱりシンディさん、頭いいわ。
なんだかんだ言っても、仕事と家庭の両立って難しいからね・・・シンディさんの国
だと、そんなことは問題にならないのかもしれないけど。
「仕事はずっと続けるつもりですよ。今の仕事は私に合っていますから。結婚は・・・
そうですね。結婚したい相手に出会えたらします。出会えなかったらしませんね」
うーん。やっぱり、しっかりした女性ね。インタビューの相手に選んで正解だった
みたい。
結婚か・・・みんなに見合いとかを勧められるけど、まだしたいとは思わないな。
(行かず後家になっちまうよ!)
あう・・・親戚の叔母ちゃんのイヤミを思い出しちゃった。

私がテープや資料などをしまい始めると、シンディさんはまたクスリと笑った。
「よかったら、妹にも会ってみませんか? 参考になるかもしれませんよ」
「え? 妹さんも働いていらっしゃるんですか?」
「いいえ。まだ高校生ですが、きっと面白い話が聞けると思います」
私はとりあえず、シンディさんの妹のレミィさんにもインタビューをしてみることにした。


「Hi! アタシ、シンディの妹の宮内レミィといいマス」
シンディさんの妹というから、落ち着いた感じの女の子を想像していたんだけど、
二階から降りてきたのは典型的なアメリカンガール。
ポニーテールに元気のいい声。高校生とは思えない豊かに育った体・・・ちょっと
負けているかもしれない。
「私は「週間レディジョイ」の記者の相田響子といいます。レミィさんにインタビュー
させてもらいますね」
「Yes! なんでも聞いてクダサーイ!」
「えっと、まず最初に。レミィさんは将来、どんな仕事に就きたいですか?」
指を唇に当て、少し考え込むレミィさん。

「アタシ、ヒロユキのお嫁さんになりたいデース!」
ズルッ!
思わず私は、座っていたソファーから滑り落ちてしまった。

レミィさんにインタビューを終えた私は、軽い頭痛を覚えていた。
・・・なんか、小学生の女の子にインタビューしたみたい。
シンディさんはというと、そんな私の様子を見てクスクスと笑っている。
「・・・なんというか、大らかな妹さんですね」
「驚きましたでしょう?」
全然動じていないシンディさん。
「お嫁さんになりたい、なんて答え、この仕事をやっていて初めて聞きました」
あはは・・・ちょっと記憶に残る日になっちゃったかもしれない。
「でも、みんな子供の頃は花嫁を夢見るものですわ」
私の言葉に、シンディさんは遠くを見る目で答える。
「そりゃ・・子供の頃はそうですけど・・・」
言葉を濁す私に、シンディさんは穏やかな顔で言った。

「あの子の言っていた浩之っていう男の子ね、あの子の初恋の相手なんですよ」

ありゃあ・・・それは随分とロマンチック。
私の初恋はどうだったかな、もう相手の顔も覚えていないけど。
「それもほんの小さな子供の頃。幼稚園の頃に出会ったのかしら」
「それじゃあ十年越しの恋ですね。羨ましいです」
「いいえ。妹と浩之は出会ってから、まだ二年も経っていませんよ」
・・・どういうこと?
「レミィが初めて浩之君と出会って一週間後、私達家族はあの子を連れてアメリカに
帰国したんです。日本に戻ったのは、あの子が高校生になる直前」
もしかして、それって・・・?

「あの子は十年間、ずっと初恋の相手の男の子を忘れなかった。最初にお嫁さんに
なりたいと思った男の子のことを、ずっと忘れなかったんですよ」

シンディさんの言葉は、彼女の家を出た後もずっと私の頭の中に残っていた。


自分の机の上でシンディさんの記事をまとめた後、私は悩んでいた。
今まで、結婚すると仕事が出来なくなると思っていたけれど、結婚するということも
一つの仕事に就くということなのかもしれない。
「編集長。書いてみたい記事があるんですが・・・」
気が付くと、悩む前に行動する性格の私は、記事の草案を持って編集長に掛け合っていた。

一ヶ月後。
「週間レディジョイ」に載った私の記事、「お嫁さん」は意外に好評を得たのだった。


「響子ちゃん。あなたの記事読んだけど、ついに決心してくれたんだねえ」
見合い写真の束を持参して、私の部屋に押しかけてきた親戚の叔母さん。
「だからさ・・・私はまだ結婚する気はないの。何度も言っているでしょう?」
頭痛を覚える私に、叔母さんは大げさに驚いた。
「何てこと言うんだい。結婚式に私を呼んでくれるって、あんたが小学生の頃に約束
したじゃないの。忘れちまったのかい?」
覚えていないわよ、そんなの・・・。
「ほら、これがあんたの書いた作文。これが証拠だよ」
叔母さんから渡された、黄色くなった作文を読んでみる・・・。

「やだぁ! こんなもの、大事に取っておかないでよぉ!」
「叔母不幸な娘だよねぇ、まったく!」

結婚の記事・・・書かない方が良かったかもしんない。

---------------------------------------------------------------------
おまけ

「週間レディジョイ」が発売された翌日。

「ねえ、ヒロユキって洗濯はできるよネ?」
「ん? そりゃあ、一人暮らしだからな」
「掃除もマルチに教えているぐらいだから、得意だよネ?」
「まあ・・・できないことはないけど?」
「料理もできるよネ?」
「・・・・・・・」
「ヒロユキ?」
「なあ、レミィ? もしかして全部、俺にやらせるつもりか?」

「結婚って、難しそうデス」
レミィは大げさにため息をついた。
--------------------------------------------------------------------
日々野英次さんのリクエスト、「相田響子SS」にお応えしました。
どうでしょうか? 働く女性に焦点を当ててみたのですが。
でも、御陰様で痕キャラ初参入になりました。日々野さん、ありがとうございます。

それで、競作イベントのお知らせがあります。
日々野さんも巻き添えにされた、かなり大所帯のものなんですよ。
(日々野さん、ごめんなさい)

先日、「競作シリーズその壱」という作品を投稿させてもらいました。
それをきっかけに、チャットの席にて、みんなで競作をしようという話が盛り上がりました。
それで、どうせなら不特定多数参加にして、たくさんの人と楽しもうということになり、
ここに「競作シリーズその弐」の開催を通知したいと思います。

資格:5月20日(土)までに掲載された作品。
   タイトルが、
   「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢」「お題:会話文のみ」「(自分の名前)」 
   であること。   
  
条件:会話文のみ。(「ねえ、・・・だよ」というようなセリフの文章)
   会話以外での状況説明はなし。(会話の中では説明してかまいません)
   登場人物は二人。(出典元となるゲームは、リーフであれば問いません)
   40行以上。
   擬音は用いないこと。
   ジャンルは問わず。(ギャグ、シリアス、自分の書きたいもので結構です)
   
これらを守ってもらえれば、僕が後でSS書き込み掲示板に名簿を作成し、参加された
方には感想のメールを送ることを約束いたします。
不特定多数の自由参加になっておりますので、振るって御応募下さい。

くわしい事の顛末は、過去ログの5月14日の夜のチャットを読んでもらえればわかる
と思いますが、わからないことがあれば、
aiaus@urban.ne.jp
まで、気軽にメールを送って下さい。
もちろん、メールを送ったからといって参加しなければいけない、ということはありません。

皆様の参加、心よりお待ちしております。

感想、苦情、書いて欲しいSSがありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで。
ではでは。