宮内さんのおはなし その三十 投稿者:AIAUS 投稿日:5月15日(月)02時38分
カキーン!

白球が青空を舞っていく。
起死回生のサヨナラホームラン。
「浩之ちゃん、すごーい!」
「Nice batterダヨ、ヒロユキ!」
「藤田君、やるやないか!」
クラスの女の子達の歓喜の声が、本日のヒーローを包む。

今日は学校のクラスマッチ。グラウンドを何枚かのベースに分け、各クラスで球技
を競い合っている。
今、藤田浩之が放った本塁打で、彼のクラスの優勝が決定した。
野球の順位は3位だが、他の球技で好成績を残しているので、総合優勝になったわけだ。
カキーン!
他のクラスがまだ野球の試合をしているが、それが終われば表彰式が始まるだろう。

「こっち向きなさいよぉ、ヒロ。一枚撮ってあげるからさ」

ベースを回るヒロユキに、志保が使い捨てカメラを構える。
「撮らなくてもいいって、別に」
珍しく照れながらも、浩之は志保の方を向いた。

カシャ!
「はおぅ!!」

ファインダー越しにのぞいた浩之の顔は、苦悶の表情にゆがんでいたという。

ここは浩之が優勝を決めた場所のとなりにあるベース。
今、そこで熱い男達の闘いが繰りひろげられていた。
野球部の4番である部長とエースである後輩の対決。
カウントはツーエンドツー。
みんなが固唾を飲んで、それを見守っている。
「だっ、大丈夫? ヒロユキ」
「浩之ちゃん・・・」
「こっ、これってマジでヤバイんじゃない?」
「誰か! 早よ保険の先生呼んで!」
隣りのクラスのベースで、女生徒達がなにか叫んでいるが関係ない。
そう、例え、部長の放ったファウルの打球が、たまたま隣りでベースを回っていた
男子生徒の股間を直撃しようとも、そんなものは無視できる犠牲なのだ。

「いくぞ、一年坊主っ!」
「次は打たせません、先輩!」

男達の熱き闘いは、まだ終わりそうにない。


クラスマッチが終わり、帰宅する浩之。
病院に連れていこうとする保険の先生の手をなんとか振り切り、トボトボと道を歩いている。
「いててて・・・畜生、まだ痛みやがる」
打球が直撃した股間の痛みはまだひかない。

「大丈夫? まだ休んでいた方が良かったんじゃない?」
「ソウダヨ。重傷ネ、ヒロユキ」

心配して帰り道に付いてきてくれる、あかりとレミィ。
「いや、そんなに心配しないでくれ。そっちの方がつらいぜ・・・」
股間を打った時の痛みは、女性にはわからない。
だから、女性は余計に変な心配をするのだが、それは男にとってつらいことなのだ。
「ヒロユキ、歩きづらそうネ。肩を貸すヨ」
レミィは鞄をあかりに渡し、浩之の肩をかつぐ。
「ああ、すまねえな・・・うぐっ!」
突然、患部を襲った激痛にうめく浩之。
レミィの体温を感じて、本来なら絶対安静の分身が反応を示したのだ。
「いてっ、いててて・・・」
「だっ、大丈夫? まだ痛いの、浩之ちゃん?」
あかりが駆け寄って来た。その時に、たまたま担がれた右手の先がレミィの胸に当たる。
反応あり。

「ぐわぁぁぁぁ!!」

自分たちにはわからない男の苦しみに、あかりとレミィは戸惑うのだった。


浩之達の学校は、クラスマッチの翌日は休日である。
「へー、昨日はそんなことがあったんですか?」
一日経ち、なんとか回復することのできた浩之は、公園でマルチと話していた。
「でも、男の方って、そんなに痛いものなんですねえ」
呑気に言うマルチを見て、浩之は少しからかってみようという気になる。
「ああ、死ぬほど痛いぜぇ。マルチにはわかんないだろうけどな」
「ええっ!? 死んじゃうんですかぁ?」
「ああ。ひどい時には割れちまうんだそうだぜ」
「わっ、割れる? こっ、怖いですぅぅぅぅぅ!!」
意味もわからずに怖がるマルチ。だが、すぐに怖がるのを止めて、嬉しそうな顔をした。
「でも、私にはそんな部品はついていないですね。よかったですぅ」
「わざわざそんなもん、つける奴がいるかい!」
つっこみを入れる浩之。
「あうぅぅぅ・・・あっ、綾香さんにセリオさん!」
マルチが見つけたのは、小さな箱を運んでいる綾香とセリオだった。

「あら、浩マルじゃない? 元気してた?」
「変な略し方をするなよ、綾香。それに元気じゃねえ」
「そうですぅ! 浩之さん、昨日は死にそうな目に会ったんですよぉ」
「なになに? 面白そうな話じゃないの?」
浩之は綾香とセリオに、かいつまんで昨日起こった出来事を話した。

「ふーん・・・金的って痛いわよね、確かに」
「ええっ!? 綾香さんってついているんですか?」
バキっ!
煙を吹いて倒れているマルチは放っておいて、綾香は浩之とセリオに話す。
「道場で組み手なんかしているとさ、どうしても当たっちゃうことがあるのよ。
そうしたら、どんな大男でも一発でKO。普段はいばっているくせに、その時だけは
泣きそうな顔になっちゃうのよね、男って」
「いや、実際に体験できたらわかるぞ、その気持ち」
「残念でした。私は花も恥じらう乙女なのよ」
クイッ。
浩之と話していた綾香の袖を、セリオが引っ張る。
「?? どうしたの、セリオ?」
「お預かりしているHMXシリーズのプログラムの中に、それを再現できるものがあると思います」
そう言って、セリオは綾香に箱を差し出す。
「ああ、そう言えば、開発しているメイドロボの中に男性型のやつがあったわね・・・
でも、そんなことまで再現する必要があるの?」
「限りなく人間に近いメイドロボ、それが開発コンセプトですから」
「おい、何の話だ?」
綾香が手にしている小さな箱を不思議そうに見る浩之。
「ねえ、ちょっとマルチで試してみない?」
そう言った綾香の口は、まるで悪戯好きの猫のように笑っていた。

「では、プログラムのダウンロードを開始します」
箱の中に入っていた端末から、開発中のメイドロボのプログラムを落とし始めるセリオ。
「なあ、これって関係者以外、開封厳禁って書いてあるけど、かまわないのか?」
「大丈夫よ。だって、私も浩之も試作品のモニターでしょ? 立派な関係者だわ」
そう言う綾香の瞳はこれから行う悪戯への期待でキラキラと輝いている。
「あ・・・あのう? 私、これから何をされるんでしょうか?」
「ちょっとした実験よ、実験」
ちょっとハイになっている綾香は、ダウンロードが終わったセリオのアンテナから
コードを引き出すと、それをマルチの延髄にある入力用のコード差込み口につなぐ。
「それでは、プログラムを再現します・・・いいですか、マルチさん?」
「よっ、よくないですぅ・・・はおぅ!!」
股間を押さえてうずくまるマルチ。
どうやら、セリオが男性型メイドロボの痛覚プログラムを再現したらしい。
「ねえ、痛い? どんな風に痛いの?」
なぜか楽しそうに質問する綾香に、マルチは答えることはできない。
「・・・わかるぜ。声が出ないくらい痛いんだよな」
心の底から同情する浩之の声に、マルチはうずくまったままうなずく。
「大丈夫ですか、マルチさん?」
「・・・ううっ、この痛みは味わった人にしかわかんないですぅ」
なんとか涙声で答えるマルチ。
「では、次のプログラムの再現を開始します」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
マルチの絶叫をよそに、セリオは作業を開始した。

「お弁当に入っているアルミ剥のかけらを噛んでしまった時」
「あうー! 奥歯が! 奥歯が!」

「かき氷を早く食べ過ぎてしまった時」
「キーンとします! キーンと!」

「タンスの角に小指をぶつけてしまった時」
「いだー! 滅茶苦茶痛いですぅ!」

「鞭」
「あう!」

「ロウソク」
「熱い! 熱いですぅ!」

「さんかく・・・」
「ストーップ! そこまでだ、セリオ!」
さすがにいたたまれなくなった浩之と綾香が、セリオのコードをマルチから引き抜いた。
「まだ、34項目ほどプログラムが残っておりますが」
「えっ、遠慮しますぅ・・・ひどいですよ、セリオさん」
「そうよ、ちょっとやり過ぎじゃない、セリオ?」
自分のことは完全に棚に上げている綾香。
「すいません・・・」
セリオはしょんぼりして頭を下げた。
話が暗くなりそうだったので、浩之は話を別の方向に持っていくことにした。
「しかし、メイドロボって感覚の共有まで出来るんだな?」
「はい。特にマルチさんは人間性の表現を重視して作られていますから、現実に人間
が感じる感覚に近い痛みを感じられたと思います」
「あうぅぅぅ、人間さんって、本当に大変なんですね」
先程の痛みを思い出して涙目になるマルチ。
「じゃあ、セリオはどうなんだ?」
何気なく聞く浩之。
「そうよね、セリオでも再現はできるということよね」
無表情にフルフルと首を横に振り、後退するセリオ。
「プログラムの用意、終わりましたよぉ」
その後ろには、すでにセリオの首にコードをつなぎ終わったマルチの姿があった。


十数分後・・・。
「いやぁぁぁぁ!! こんなセリオさん、いやですぅぅぅぅ!!」
「俺もいやぁぁ!! こんなセリオ、凄くいやぁぁぁぁぁぁ!!」
公園から全力で走り去っていくマルチと浩之。
「待ってぇぇぇ!! 置いていかないでぇぇぇぇ!!」
公園から響くのは綾香の絶叫。

「綾香様、もっと・・・」
「こんなセリオ、いやぁぁぁぁ!!」

場所は公園。
上気した顔のメイドロボに抱きつかれて、綾香は叫んでいた。
「なんで、こうなるのぉぉぉ!?」

自業自得という四字熟語を、後で調べておいて下さい。

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金的は痛いです。いや、マジで。
・・・セリオファン、及び綾香ファンの皆様、ごめんなさい。
そろそろ二人のシリアスも書きますので。

あと、イベントのお知らせがあります。

先日、「競作シリーズその壱」という作品を投稿させてもらったのですが、
それをきっかけに、チャットの席にて、みんなで競作をしようという話になったんです。
それで、どうせなら不特定多数参加にして、たくさんの人と楽しもうということになり、
ここに「競作シリーズその弐」の開催を通知させていただくことになりました。

資格:5月20日(土)までに掲載された作品。
   タイトルが、
   「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢」「お題:会話文のみ」「(自分の名前)」 
   であること。   
  
条件:会話文のみ。(「ねえ、・・・だよ」というようなセリフの文章)
   会話以外での状況説明はなし。(会話の中では説明してかまいません)
   登場人物は二人。(出典元となるゲームは、リーフであれば問いません)
   40行以上。
   擬音は用いないこと。
   ジャンルは問わず。(ギャグ、シリアス、自分の書きたいもので結構です)
   
これらを守ってもらえれば、僕が後でSS書き込み掲示板に名簿を作成し、参加された
方には感想のメールを送ることを約束いたします。
不特定多数の自由参加になっておりますので、振るって御応募下さい。

くわしい事の顛末は、過去ログの5月14日の夜のチャットを読んでもらえればわかる
と思いますが、わからないことがあれば、
aiaus@urban.ne.jp
まで、気軽にメールを送って下さい。
もちろん、メールを送ったからといって参加しなければいけない、ということはありません

皆様の参加、心よりお待ちしております。

えー、では、感想、苦情、リクエストなどもありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
までお願いします。

ではでは。