宮内さんのおはなしR その七 投稿者:AIAUS 投稿日:5月4日(木)23時08分
「んー。I feel good!」
そう言って、気持ちよさそうに背を伸ばしているレミィ。
レミィが海が見たいと言うので、俺達は休日を利用して海岸に来ていた。
「SFで見る海とは、また違うものネ」
SFっていうのは、サンフランシスコのこと。レミィはそこで育った。
カリフォルニア州ではロスに次ぐ大きな都市で、海に面した街だそうだ。
「レミィから見たら、池みたいなもんだろ。日本の海なんて」
「ううん。海の色は違うけど、とてもきれいで大きいヨ」
屈託なく笑うレミィ。
「そうか? あんまりわかんねえけど」
防波堤に座っている俺は、ポリポリと頭を掻いた。スキューバダイビングをやっている
雅史とかなら話すことがたくさんあるんだろうが、俺は釣り以外には海に用事はない。
せいぜい、子供の頃に行った芋洗いの海水浴ぐらいか。
「ヒロユキもカリフォルニアの海を見てみたいの?」
俺の横に座ってきたレミィは、興味津々といった顔で聞いてきた。
「そりゃあ・・・一度くらいはな」
外国の海と日本の海の色は違うんだろうか?
映画とかでやっている海の色は、わざとらしいくらいに透き通った水色で、いまいち
海という感じがしない。なんか、高級ホテルのプールみたいだ。
実際に本物を見てみたら、日本の海がどうなのかわかるような気もする。
「じゃあ、アタシと一緒に見に行きまショウ!」
「おいおい・・・俺、そんなに金持ってないって」
アメリカっていうと身近な感じもするが、飛行機で十時間以上かかる。運賃だって
高校生の小遣いでいけるような額じゃない。

「・・・ダイジョウブ。アタシ、待てるから」

少しせつなそうな顔をして言うレミィ。
「あ・・・もしかして」
レミィは俺を軽く俺を肩で押した。
「いや、あー、そうだな。将来的にはそうなるかもな」
我ながら歯切れが悪い。でも、レミィはそんな俺の言葉を聞いて嬉しそうに目を輝かせた。
そして、目を閉じてゆっくりと顔を俺の方に向ける。

「ヒロユキ・・・お願い」

・・・・・・。
これは、あれだよな。して欲しいってことだよな。
俺はレミィの肩を抱くと、緊張しながら彼女の唇に顔を近づけた・・・。

「・・・・・・・・」

淡く濡れたレミィの唇。それはとても小さくて、きれいだった。

「・・・・・・・・」

レミィの肩を抱く手に力がこもる。彼女も少し震えているようだ。

「・・・・・・・・」

彼女の呼吸を感じる。彼女の鼓動を感じる・・・誰かの視線も感じる。
???

「ん・・・続けて、続けて」
防波堤で抱き合っていた俺達に視線を送っていたのは、マウンテンバイクに乗った
見知らぬお姉さんだった。


「あはは、邪魔しちゃったね」
せっかくの時間を邪魔されたレミィは、むこうでふくれている。俺は知らない人に
恥ずかしいところを見られて真っ赤になっていた。

「はるか」

ショートカットのお姉さんはいきなりそう言った。
「わたしの名前。君の名前は?」
「えっと、俺は藤田浩之といいます。あっちの女の子は宮内レミィ」
「ふーん・・・ハーフなんだね」
なんか、マイペースというか調子の狂うお姉さんだ。
「えっと、サイクリングの途中だったんですか?」
ここら辺ではあまり見ない顔だ。
「ん・・・連れを待っているところ」
ここで待たないで欲しいんだけど・・・。
「ヒロユキ。知り合いの人なの?」
ようやく機嫌をなおしたのか、レミィが会話に加わってくる。
「いや。全然知らない人だ」
「ん・・・わたしも全然知らない」
レミィがポカンと口を開ける。
うーむ、マイペースなレミィでもはるかさんには調子を狂わされるみたいだな。

シャカシャカシャカシャカ

遠くから響いてくる自転車を漕ぐ音。

キキキキキキー!!

「はるか! おまえ、飛ばしすぎなんだよ!」
汗だくになって叫んだ自転車に乗ったお兄さんは、やっぱり知らない人だった。


「いやー、ごめんな。はるかがなんか迷惑かけたみたいで」
気さくな調子で謝っているのは、藤井冬弥さん。ここからかなり離れた大学の学生で、
はるかさんとは同じ学年らしい。
「かけてない・・・見てただけ」
「それが迷惑だっての。こいつ、いっつもこんな調子でさ」
何て答えていいのかわからず、愛想笑いをしている俺とレミィ。
「君たち、高校生? いいね、若いっていうのは」
「はい。俺もレミィも今、高校二年生です」
「そうか。僕も高校の頃は・・・」

長い。
もうその年で爺に近くなっているのか、冬弥さんの話は長かった。
高校の時にあったイベントから思い出まで一通り。長い話を聞くのが苦手なレミィは
俺の肩を枕にして寝息を立てている。
「・・・でさ。そうだろ」
「はい、ええ。そのとおりですね」
俺は近所の爺さんのありがたい話を聞かされる若者の心境で冬弥さんの話を聞いていた。

「・・・あっ。飛んでいく」

俺と同じように退屈そうにしていたはるかさんの手から、一枚の写真が飛んでいった。
風に吹かれて、それは海の方へと待っていく。

「・・・飛んじゃった」
「おっ、おい。はるか、あの写真って?」
冬弥さんの問いかけに、はるかさんは黙ってうなずく。
「待ってろよ!」

ザッパーン!!

俺達が止める間もあらばこそ、冬弥さんは海に向かって飛び込んでいった。
「ん・・・冬弥も飛んでいった」
「ちょ、ちょっと待って! そんなに落ち着いている場合じゃ・・・」
「・・・What? 騒がしいネ」
寝ぼけているレミィが海に落ちないように支えながら、俺は写真にむかって泳いでいる
冬弥さんに叫ぶ。
「いくら春になったからって、無茶ですよ! もどってきてください!」
まだ泳ぐには厳しい温度だ。大切なものなのかも知れないけど、写真一枚ぐらいで
大げさすぎる。
冬弥さんは黙って、水面に浮かんでいる写真に向かって泳いでいく。
「・・・・・・」
それを黙って見つめているはるかさん。
一体、何の写真なんだろうか?
「ヒロユキ・・・トウヤ、ダイジョウブなの?」
「ん・・・大丈夫。冬弥だもの」
はるかさんはそう答えたけど、目はずっと冬弥さんの姿を追っていた。


「なんだよ、はるか! この写真は!」
なぜか怒りまくっている冬弥さん。
「ん・・・この前の飲み会で由綺と理奈さんに脱がされて、上に乗られている冬弥の
写真」
「なんでそんなもん、意味ありげに見てたんだよ!」
「退屈だったから」
はるかさんの調子に、へなへなと腰砕けになる冬弥さん。どうやら、他の写真と勘違い
して海に飛び込んだらしい。
「もういい・・・ヘックション!」
冬弥さんはくしゃみをした。当たり前だ。こんな冷たい海の中に飛び込んだのだから。

「あ・・・」

いきなり、俺達の後ろを指差すはるかさん。
「ん?」
「What?」
つられて俺とレミィが振り返るが、そこには何もない。
「「なにもない・・・・うわ」」
俺とレミィはあわてて下を向いた。
だって、はるかさんがビショ濡れになった冬弥さんを抱きしめて、キスしてたんだぜ。
かなり濃厚なやつを。
冬弥さんはビックリして離れようとしているんだけど、はるかさんの力が強いのか
離れられないみたいだ。
「・・・ヒロユキ。見たら失礼だよ」
「レミィだって見てるじゃねえか」
「ニャハハ・・・」
キスが終わるまで、俺とレミィは見ないふりを続けていた。

「それじゃ、ごめんな。いろいろ恥ずかしいところ見せてしまって」
「いえ、いいですよ。冬弥さんもお元気で」
通り一遍の挨拶を交じわす俺と冬弥さん。
レミィとはるかさんも何か話している。
「じゃあな!」
「・・・またね」

シャー!!

嵐のような二人組は、やっぱり嵐のように唐突に去っていった。

「ねえ、ヒロユキ」
二人が去っていったのを確認すると、レミィは情熱的に腕をからめてきた。
「おっ、おい。突然だな」
「だって、ハルカが人目が気になるのは、まだ恋していない証拠だって言うんだもん」
あちゃー、はるかさん、レミィにそんなことを言っていたのか?
でも、女の子にリードさせるのは失礼だよな。
「俺はレミィに恋してるぜ」
「Me too」
自然にふれ合う手と手。俺とレミィは、夕方の防波堤でお互いの唇を重ねた。

「・・・・・・・」

???
「はるかさん?」
「ん・・・続けて、続けて」
レミィははるかさんを無視して俺を抱きしめているが、はっきり言って恥ずかしい。
やはり、俺はまだ人目が気になってしまう。
「なんで、戻ってきたんです?」
ちょっと強い口調になる俺。はるかさんは静かに笑うと、一枚の写真を俺の胸ポケットに
押し込んだ。
「記念にあげる」

シャー!

それだけ言って、はるかさんは去っていった。


「・・・何者なんだろう?」
「この二人、テレビに出ているよね」
写真に写っているのは、全裸でひざまずいている冬弥さん。なにかの罰ゲームなのか
情けなさそうな涙目になっている。その上に、赤い顔で笑って座っているのは・・・。

今、一番売れているアイドルの森川由綺と緒方理奈。

「どういう関係なのでショウ?」
「・・・謎だな。あの二人」
俺とレミィは狸に化かされたような顔をして、防波堤にたたずんでいた。

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おまけ

「ねえ、ヒロ! 知ってる? アイドルの緒方理奈が危ないところでバイトやってた
って噂」
「・・・女王様の?」
その話はでっち上げであることがわかるまで、かなりの信憑性を持って俺達の間で
広まっていた。
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伊勢さんよりリクエスト、河島はるかを出して、にお応えしました。
いや、すみません。ゲームが手元になかったので、こんなのはるかじゃない、という
出来になってしまったかもしれません。
チャットで人に聞いたりして一生懸命調べたんですが。
東西さん、水方さん、その節はお世話になりました。
伊勢さん、三人組のSSもすぐに仕上げますので、もう少し待って下さいね。

感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
までお気軽にお願いします。
ではでは。