宮内さんのおはなしR その六(VER1.O1) 投稿者:AIAUS 投稿日:4月28日(金)12時48分
新しい学年になって定例の身体測定。
体操着姿の女の子たちが体育館で記録紙を片手に歩き回っている。

「やだー、また体重増えてるよー!」
「よし! 6cmアップ!」

悲喜こもごもの声が響く中、震える手で記録紙を持ち、固まっている少女がいた。
「なっ、なぜ・・・」
手と同じように細かく震えている、頭の黄色いリボン。
彼女の名前は神岸あかり。最近になって髪型を変え、かわいくなったと噂の的になって
いる少女だ。彼女が長年続けたおさげ髪を変えたのは、彼女の幼なじみであり、思い人
でもある藤田浩之にかわいいと思ってもらうため。
それは一応、成功したようである。
しかし、記録紙に表示されている数値は・・・。

「やっほー! どしたん、あかりぃ」
いつも通りのハイテンションであかりの背中に抱きついてきたのは、親友の長岡志保。
あかりは背中に柔らかい感触を感じて、大げさにため息をついた。
「いいよね、志保は。スタイルがいいから」
あかりの言葉を誉め言葉と受け取ったのか、志保は両手を後頭部に組み、本人にとって
はセクシーなつもりのポーズを取る。
「やっぱりわかる? 今年も大幅、魅力アップの志保ちゃんのダイナマイトボディ。
ちょっとセクシーな格好で迫ったら、ヒロなんかいちころかもね」
自信たっぷりの表情でケラケラと笑う志保。
「志保・・・」
「んっ? あかり、何よ、怖い顔して・・・グエ!」
衝撃を内部に残すことによって相手を行動不能にする古武術の奥義。色々な呼び方が
あるが、その技の威力から「心臓潰し」と呼ぶ者もいる。
その一撃を左胸に受け、志保は白目をむいて横倒しに倒れた。
「親しき仲にも礼儀ありって言うよね、志保」
あかりはそう言い残すと、他の女生徒に怪しまれないうちにその場を後にした。


ある女生徒の胸にメジャーがかかる。周りにいた女生徒達はその瞬間に注目していた。
その視線には羨望や嫉妬、憧れなどの様々な感情が入り交じっている。
女生徒の名前は宮内レミィ。日系ハーフの彼女はスタイル抜群。男子並の身長なのに
魅力的な形のバスト、くびれたウエスト。はっきり言って、日本人には望むべくもない
理想的な体型だ。
そんなレミィの姿を見て、あかりは再びため息をつく。
「やっぱり、浩之ちゃんもスタイルのいい子が好きなのかなあ」
愚にもつかない考えだということはわかっている。しかし、記録紙に刻まれた残酷な
数値を見ているとそんな愚痴もこぼれてしまうのだ。
「なんか暗いね、あかり」
不思議そうな表情であかりに話しかけてきたのは、彼女の友人の藍原瑞穂。
瑞穂もあかりと同じく典型的な日本人の体型である。
「瑞穂ちゃんはいいよね、そういうの気にしないから」
「なによ、あかり。こんなもんで落ち込んじゃって」
瑞穂はこともなげにピラピラと記録紙を振ってみせた。
「レミィさんは90cm越えたんだって、すごいよね」
「あんまり言わないで・・・」
まだ暗いあかり。瑞穂はしょうがないな、という感じで首をすくめた。
「私だって3cmぐらいしか増えてないけどさ。しょうがないじゃない、そんなこと
気にしたって」
ガシッ!
瑞穂の肩にあかりの手がかかる。
「さんせんち?」
「どっ、どうしたの、あかり。もしかして、あんた・・・?」
「さんせんちぃぃ!!」
バキ!
頭を一撃されて倒れている瑞穂を見て、あかりは悲しげにつぶやいた。
「瑞穂ちゃんの裏切り者・・・」


何度見ても記録紙の数値は変わらない。当たり前だ。
「浩之ちゃん、女らしくなったな、って言ってくれたのにな・・・」
具体的な数値を突きつけられると、浩之の言葉も霞んでしまう。確かに増えたことは
増えたのだ。増えてはいけないところが。

「神岸先輩。どうしたんですか、顔色が悪いようですが?」
「そうですよ。藤田先輩が心配しますよ」

落ち込んでいるあかりに話しかけてきたのは、後輩の姫川琴音と松原葵。
「育ち盛りの二人にはわかんないよ・・・」
自嘲のつもりでつぶやくあかり。そんなあかりの手を、琴音はしっかりと握りしめた。
「わかります。私、神岸先輩の悩みが」
「わかるわけないよ。だって、未来があるじゃない」
変わらないあかりの態度を見て、琴音は決心したような顔で記録紙を取り出した。
「お見せしましょう、私の数値を」
「なっ、ななじゅうに!?」
「はい。絶望的でしょう、私」
悲しげにつぶやく琴音。その後ろにはなぜか手足をバタバタさせて暴れている葵の姿。
なにかを必死に訴えかけようとしているのだが、その大きく開けられた口からは一言
も発せられてはいない。

「ごめんね、琴音ちゃん!」
「わかってくれましたか、神岸先輩!」

ひしと抱き合う二人の少女。周りの女の子達が怪訝そうな顔で見ていたが、同じ悩み
を分かち合う戦友には関係がなかった。
「・・・! ・・・・・!!!(怒)」
その後ろでは、まだ葵が何か怒って無言で暴れていた。その指差す先は・・・?
琴音の持つ記録紙。その名前の欄には、しっかり松原葵と書かれていたのである。

「ひどいよ、琴音ちゃん! 絶望的だなんて!」
超能力による束縛を解かれて、琴音に詰め寄る葵。あかりはすでにいない。
「わかっていませんね。私の行動の意味が」
大げさにため息をつく琴音を見て、葵はジト目でにらんだ。
「・・・また、難しいことを言って誤魔化す気でしょ?」
「違います。いいですか? 藤田先輩攻略において、神岸先輩の優位は絶対的なもの
でしたよね」
いきなり浩之の話に振られて、葵は戸惑う。
「そりゃ・・・神岸先輩はかわいいし、料理は上手だし、世話好きだし」
あかりの長所を挙げる度にみじめな気持ちになってくる。その全てが、自分にはかなわない
ものばかりだからだ。
「ところがです。今日の身体測定によって、その優位が絶対的なものではないことが
明らかになったんです」
身振りを交えて熱心に話す琴音。普段はおとなしいのだが、浩之のことが絡むと性格
が過激になってしまうようだ。
「どういうこと?」
まるで機密情報を話すかのような慎重さで、琴音はそっと葵に耳打ちする。
(神岸先輩と宮内先輩のウエストの数値は同じなんです)
「ええっ! それって女性としては終わっているよね!」
思わず漏れる驚きの声。我が意を得たり、とばかりに琴音はニッコリとうなずく。
「しかも、胸は全く大きくなっていません」
「そうかぁ・・・そんなオバサン体型なら、私達にも勝ち目があるんだ!」
勢い込んで琴音に話しかける葵。琴音は微笑んでそれに答えていたが、急にその表情
が青ざめた恐怖の表情に変わった。

「終わっている・・・オバサン体型・・・」

地獄から響くような低い声。葵はビクビクしながら後ろを振り向いた。
そこには、濃密な怒りのオーラを発しているあかりの姿が。

「バリアー!」
「十字受け!」
バキャアアアア!!

「よっ、余計なことを言ったのは葵さんなのに・・・ガクッ」
「いっ、言わせたのは琴音ちゃんでしょ・・・ガクッ」
真の怒りの鉄拳の前には、小手先の技術など役に立たないことを若い二人は学び、
そして気を失ったのであった。


憂鬱な身体測定も終わり、みんな教室に戻っている。
「やっぱり・・・大きいほうがいいよね」
楽しそうにレミィと話している浩之を見て、あかりはつぶやいた。
「なんや、えらい暗いやないの?」
話かけてきたのは、クラスの委員長の保科智子。落ち込んでいたあかりは智子の質問
に答えなかった。
「持ってきてないんなら、うちの貸そうか?」
「そっ、そういうんじゃないの!」
そう言って鞄をゴソゴソと探り始める智子を見て、あかりはあわてて声をかける。
「違うん? それじゃ、さっきの身体測定の結果が不満なん?」
「えっ! なんでわかるの!?」
ビックリしたあかりに、智子はヤレヤレといった表情をした。
「記録紙を見て、ため息ばっかりついていたやろ。誰にでもわかるわ」
「うぅ・・・保科さんにはわかんないよ、この悩みは」
恨めしげに智子を見るあかり。そんなあかりに、智子はふいと言った。

「最近な、あんたの声がきれいになったって、藤田君が言っとったで」

「えっ! 浩之ちゃんが?」
「小さい頃はうるさいだけの高い声だったんだけど、今は落ち着いた女らしい声に
なったんやと。妬けるわー」
大げさなリアクションを取る智子に、あかりは顔を真っ赤にした。
「幼なじみなんやろ? 小さい頃から一緒で、ずっとお互いを見とるんやろ? もう
少し自信持ったらどうや?」
自分を元気づけようとする智子の言葉。
「あっ、ありがとう、保科さん」
その時のあかりの笑顔は、いつもよりも明るかった。
「やっと笑った。あんたが落ち込んどると、あの鈍チンが心配してまうからなぁ」
「?? 鈍チンって?」
不思議そうなあかりの顔を見て、思わず吹き出してしまう智子。

「ほんま、似たもの夫婦やな、あんたら」
「やー、気になる! ちょっと教えてよ、保科さんってば!」

二人の明るい声が、午後のけだるい教室を満たしていた。

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おまけ
「アカリ。みんなと一緒にカラオケに行こうよ!」
「うちも誘われてん」
机に座っているあかりに駆け寄る智子とレミィ。

バツン!

何かがあかりの顔に当たる。その物体を見たあかりは・・・。
「うえええーん!!」
泣きながら駆けだしていくあかりを見て、浩之が血相を変えて飛び出してきた。
「おっ、おい! あかりに何したんだよ?」
「?? 胸のボタンが弾けてアカリの顔に当たっただけなんだけど」
「?? 何だよ、それくらいのことで」
不思議そうな顔の二人を見て、智子は心底、同情したように言った。
「あんたら。ちょっとは察したり」

胸から外れたのは、自分のボタンだったことに気づかずに。

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犬丸さんより、「3サイズネタ」のリクエストがございましたのでお応えしました。

全キャラを絡めようかとも思ったのですが、あかり貧乳ネタに絞った方が面白いかな、
ということで以上のような作品に。犬丸さんよりご指摘のあった、あかりの胴回りが
太いことや、智子がレミィ並のスタイルであることは反映できたように思います。

犬丸さんのSSはいいですよ。みなさんもぜひ、
http://w3.mtci.ne.jp/~tears1/
を訪れて見て下さい。新鮮な驚きが待っているはずです。

それでは、感想、苦情、書いて欲しいSSなどがありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで、お気軽にどうぞ。

ではでは。