宮内さんのおはなし その二十四(VER1.01) 投稿者:AIAUS 投稿日:4月23日(日)19時54分
「にゃはははは!」

あかりが笑っている。雅史の小咄がヒットしたらしい。
「えー、一枚、二枚、三枚・・・ところで、浩之さん、今何時だい?」
なぜか講談師姿の雅史。
「やだー、雅史ちゃんったら!」
「面白いデース!」
「・・・」
雅史の小咄を大笑いしながら聞いているあかり、レミィ、先輩。
俺は桜の木の下で、四本目の缶に手を出した。
「こらこら、あんた飲み過ぎ」
俺の手をつねったのは志保。
「いいだろ。当分終わりそうにないし」
「やっぱり、あんた達の友達だけはあるわね」
横で俺と一緒に缶を開けているのは綾香。あまり飲むことがないのか、もうほんのりと
顔が赤い。人に文句を言うわりには志保の奴も飲んでいるが、こいつは全然平気そうだ。
「えー、金は天下の回りものと申しまして・・・」
また新しい小咄が始まった。

俺達はいつものメンバーにレミィ、先輩と妹の綾香も加えて、お花見に来ていた。
駄目というあかりに無理矢理飲ませて、宴会ペースに持ち込んだのはよかったの
だが・・・。
「雅史が漫才好きだったなんてねー」
「漫才じゃねえ、落語だ」
雅史の落語ショーが唐突に始まり、俺達三人はおいけてぼり。
「あははは!」
「Very fun!」
「・・・」
あかりやレミィ、先輩の楽しそうな笑い声が桜の下で響く。
「ちょっと! あんたも何か面白い話でもしなさいよ」
あいかわらず脈絡のない志保。
「おめーこそなんかないのか。いつものガセネタとかよ」
「ガセネタじゃないわよ! あたしの情報はいつも最先端をね・・・」

グシャリ!

綾香の手の中で、まだ中身の残っている缶が音を立てて潰れた。
「つまんない」
そうつぶやいた綾香の顔は赤く、目は座っている。
嫌な予感が・・・。
「あんたたち、何か面白いことして」
目が座ったままの命令口調。
(おっ、おい。志保、おまえ何かやれよ!)
(急に言われても出来るわけないでしょ!)
綾香の様子がおかしい。何かぶつぶつと文句を言っている。
こうなったら・・・。
「とっておきの持ちネタを! コント「マヨネーズ」・・・グエ!」
綾香の投げた空の缶が俺の頭を直撃する。
「だれが雅史の真似をしろって言ったのよ。面白いこと!」
じょ、女王様モードか? このわがままぶりは。
「えーと、それじゃ古今東西とか・・・」
無難なところを志保が提案する。そうだな、三人いればゲームもできるし。

「そうだ! 野球拳にしよう!」

飲みかけの缶を振り回して、とんでもないことを言う綾香。
「やーきゅう、すーるなら・・・」
歌まで知っていやがるし・・・。
本当にこいつ、来栖川のお嬢様か。
「どっ、どうすんのよ!?」
「とりあえず言われた通りにするしかねえだろ!?」
仕方なく、綾香の親父臭い歌に合わせて踊る俺達。
ううっ、なんでこんな目に。
「はい! あうと、せーふ、よよいの」
「「よい!」」
俺の出したのはチョキ。
志保のは・・・パー。
やったぜ、俺のトレーナーは無事に保護された。
「本当に・・・脱ぐわけ?」
上目遣いに綾香を見る志保。綾香は新しい缶を飲みながら、無言でうなずく。
「わかったわよ! ほれ!」
志保は勢いよく上着を脱ぎ去ると、手をチョキにしたままの俺をにらみつけた。
「ヒロ! 次は負けないからね!」
お前まではまってどうする・・・。
俺は助けを求めようとして雅史達を見た。
「・・・待っている俺の方こそ退屈でならねえ。ああ、ならねえ」
小咄をしながら、なぜか欠伸のまねをしている雅史。笑いながら聞いている三人。
駄目じゃん。

俺はグー。
志保の奴はチョキ。
「なんであんた、そんなにジャンケン強いのよ!」
ほとんど下着姿同然になった志保が怒る。ちなみに、割とスポーティだ。
「知るか! おまえが勝手に負けてんだろ!」
やばい・・・俺が無敗で勝ち続けてしまったために、時間がかせげなくなってしまった。
綾香は妖しい笑顔を浮かべて俺達の方を見ている。
(どうすんのよ。他に人がいないからマシだけど、ここで志保ちゃんの100万ドルボディ
を見せるわけにはいかないわよ)
(ああ。お前の100円ショップボディなんか見たくねえからな)
「ふっ、ふふふ・・・」
「へへへへ・・・」
にらみ合って、不敵な笑みを交じわす俺と志保。とにかく、ここは俺がわざと負けて
時間をかせがねえと。綾香はあんまり強くないみたいだから、先に潰れてくれるかも
しれねえ。
(大丈夫。志保ちゃんとっておきの秘策があるわ)
俺にむかってウインクを飛ばす志保。
「ほら、客を待たすんじゃないわよ」
外野席のおっさんのように文句を言う綾香。
「やーきゅう、すーるなら・・・」
仕方がなく踊り始める俺と志保。
秘策ってなんだ?
「あうと、せーふ、よよいのよい!」
俺はパー。
志保は・・・まっ、まさか! 伝説の禁じ手を!

「どう? 志保ちゃんハンドにおどろいた?」

志保の手はまるで拳銃ごっこをする子供がそうするように、人差し指と親指だけが
伸ばされて他の指は握られている。
握られた小指、薬指、中指は固きグー。伸ばされた人差し指、親指は鋭きチョキ。
開かれた手の平は広遠なるパーを表す。
これぞジャンケンの三種あらゆる手に勝利できる禁じ手、ピストル。
さすが志保。
俺が幼稚園の頃、あかりに使って泣かせていた手をここで使用するとは!

「なによ、それ? ジャンケンじゃないわよ」

すでに真っ赤な顔をしている綾香は、飲み終わった缶をゆらしながら俺達をにらんだ。
「えっ・・・だから、あたしが勝ったじゃない?」
「ズルしたってこと?」
しまった! パチモノとはいえ来栖川のお嬢様に、庶民ルールは通用しなかったか!?
綾香はゆっくりと立ち上がると、志保のブラに手をかけた。
「ほら、早く脱ぎなさいってば」
「いやあ! 助けて、ヒロぉ!」
いっ、いくら志保とはいえ見殺しにするわけにはいかない。
他にギャラリーがいないとはいえ、公園で生乳をさらすのはあいつでもきついだろう。
だが、俺の実力で綾香に勝てるだろうか?
駄目だ・・・何秒かせげるかの問題だな。
他の連中は?
「ほれ、権造。この前おまえにやった・・・ああ、だんな様からいただいた」
顔を上げ下げしながら小咄を続ける雅史。
「あはは。権造ちゃん、ピーンチ!」
「・・・」
だっ、駄目だ。まだ続けてやがる。
雅史の奴、一体いくつネタを持っていやがるんだ。
「ほーら、勢いよくいきましょうね」
「ちょ、ちょっと! マジで止めて、ヤバイってば! ヒロぉ!」

BANG! BANG! BANG!

公園に響く銃声。宙を舞う綾香の体。
「無理矢理はよくないヨ、綾香」
ベレッタ92を握っていたのは・・・レミィ?
「ちょ、ちょっとあんた! 殺しはまずいでしょう。ヒロ、スコップ持ってんの!?」
錯乱してとんでもないことを言う志保。
レミィは得意そうに指を振った。
「9パラだから大丈夫デース!」
「そんなわけ・・・わー! ゾンビ!」
ムクリと上体を起こして頭を振る綾香を見て、悲鳴を上げる志保。
「何回見てもぞっとしねえよな。なんで、綾香は銃に撃たれても平気なんだ?」
「日頃の鍛錬の賜物よ」
「あう、あう・・・」
何か言おうとしている下着姿の志保を押しのけて、綾香はレミィに近寄った。
「いきなり不意打ちとは、やってくれるわねえ」
「綾香も嫌がる志保を脱がそうとしてたデショ?」
レミィの言葉に首をかしげる綾香。
「なんで、私が志保を脱がす必要があんのよ」
こいつ、さっきまでのこと、すっかり忘れていやがる!

「うふふふふ・・・」

突然、不気味な笑い声をあげる志保。
びっくりして志保を見る俺達。
「綾香! あんたにもやってもらおうじゃないの、野球拳を!」
何を言い出す、志保。
「OH! 面白そうデスネ!」
話を合わせるな、レミィ。
「いっ、嫌よ。そんな馬鹿なことできるわけないじゃない」
自分のしたことは棚に上げて拒否する綾香。
「やらないと・・・バラす!」
綾香のこめかみに流れる一条の汗。
「あんたがファンの女の子に何をしたのかぜーんぶ、週刊誌にリークしてやる!」
「いやあぁぁぁっ!!! なんでも言うことききますからぁ!」
下着姿で大見得を切る志保にすがりついて哀願する綾香。
「一体、何をしたのでショウ?」
俺も気になる。


結果。
俺の右手はどうしてしまったのだろう?
目の前にいるのは、下着姿の綾香とレミィ。うーむ、いいのだろうか。
「なっ、なんであんたそんなに強いのよ!?」
「勝てないデース!?」
俺には二つの選択肢が残されている。

1.酔ったふりをして野球拳を続け、男の夢を完遂する。
2.ここでお開きにし、通常の宴会にもどる。

まあ、順当に言って2だよな。
こんな公園で下着姿になっているというだけで、充分に警察沙汰だし。
「おい、もうそろそろお開きに・・・」
「あに、やっへんの? 浩之ひゃん」
正気の世界に帰ろうとした俺を押しとどめたのは、すでに酔っぱらってあちらの世界
に旅立っているあかりだった。

おかしい。
確率的に言って、俺が無敗で志保、綾香、レミィ、あかりを下着姿にできることは
あり得ない。俺が負ける確率を50%、勝つ確率を50%として、一人当たりの着衣
の枚数を・・・。

「ほれりゃ、浩之ひゃん。いくよー」
青縞のパンツをはいているあかり。ブラはすでに取れ、左手で隠している。

いっ、いくらなんでもまずいだろ! 全裸は!

あかりは俺の心配をよそに、黄色いリボンをひらひらさせながら踊っている。
「よよいのよい!」
俺はチョキ。
あかりは・・・パー!?
いかん! 罪深い俺の右手は、幼なじみのあかりを猥褻物陳列罪という恥ずかしい罪
に陥れてしまったのか!
苦悩する俺の目に入ったのは、握られた先輩の拳。

「あはは。引き分けらね、浩之ちゃん」
「助かったぜ、先輩!」
俺は先輩の見事なフォローに感激の声をあげる。
「ひっく」
??? 先輩、なんか顔が赤くない?


志保のスポーティなスポーツブラ。綾香のセクシーな黒の下着。レミィの大胆なデザイン
のブラ。あかりの控えめながらスタンダードな魅力を持つ青のストライプ。
数々の輝かしい戦果を、俺の右手は残してきた。
「なっ、なぜだ」
疑問の声が思わずもれる。
いつも通りぼーっとしている先輩から繰り出される三種の攻撃に、俺の右手は連敗を
喫している。
気がつけば、俺もトランクス一丁。

「おっ、おい。もうやめねえか?」
「「「「やーきゅう、すーるなら」」」」
俺の休戦の申し込みなんか無視して、みんなは大声で唄っている。
「・・・・・・」
先輩、頼むから踊るのはやめて、イメージが・・・。
「よよいのよい!」
俺はパー。
先輩は・・・。

「やっ、やめろ! マジで勘弁してくれ! なっ、頼む」
桜の木を背に、懇願するパンツ一丁の俺。
「駄目らよ、浩之ちゃん」
「勝負ごとだからねー」
「じたばたするんじゃない」
「ヒロユキ、怖がらなくていいのヨ」
俺に迫ってくる下着姿のみんな。全員、目は座っている。
こっ、こわい!! 嬉しい状況だと思われるかもしれないが、とてつもなく怖い!
「せっ、先輩! なんとかしてくれ!」
懇願する俺の目に映ったのは、綾香と同じ妖しい笑顔。
「・・・・・・」
やっ、優しくしますからって、一体何をっ!!
「雅史! 助けてくれ!」

「これがいわゆる、間抜け落ちにございます」
おじぎしている場合じゃねえ!

「いやあああああぁっ、お母さーん!!」
これ、俺の悲鳴。
「そうそう、お母さんといえば、つい先日も・・・」
「人の悲劇をネタに・・・」
俺の怒号は、むらがってくるみんなにかき消された。


桜が散っている。
俺の純情も今、散ろうとしている。
別のジャンルになってしまうのではないか、という俺の心配をよそに、女達の暴挙は
続いている。

「桜の季節も終わり、夏も近づこうとしています・・・」
いいかげん、小咄やめれ。
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おまけ

劇中に表れた「缶」は、すべてノンアルコールです。あしからず。
(白々しい)
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野球拳ってよく聞くけど、やったことがある人の話って聞きませんね。
ちょんまげ、はされたことがあります(泣)。

感想、苦情、書いて欲しいSSなどがありましたら、メールにてお願いします。

ではでは。