宮内さんのおはなし その二十参(VER1.02) 投稿者:AIAUS 投稿日:4月22日(土)21時26分
最近の琴音ちゃんはなんだか怖い。

「やっぱり、藤田さんに近づく女性は滅殺あるのみですよね」

何のことを言っているんだろう?
話によると、琴音ちゃんが藤田先輩の家に遊びに行ったら、来栖川先輩の会社
で作っているメイドロボのセリオさんが下着姿で藤田先輩といたそうです。
「でも、そんなに大騒ぎすることないと思うけど?」
私の言葉に驚いた顔をする琴音ちゃん。
「なっ、なにを言っているんですか、葵さん! 私があの時、訪問しなかったら、
今頃は藤田先輩は汚されていたんですよ!」
汚されたって・・・。
「でも、セリオさんってついてないでしょ?」
「ついてないって・・・何のことですか?」

「女の子」

あわてて私の口を塞ぐ琴音ちゃん。
「なっ、なんてこと言うんですか! ここは食堂なんですよ!」
さっき自分で、汚された、とか言っていたくせに。
「ははらふぁ、フェイフォフォフォひやひもひほひゃふはんへほはひひほ」
「葵さん・・・わかるように話してください」
それなら、手を口から離してよ。

「だからさ、メイドロボにヤキモチを焼くなんておかしいよ」
私は自分の意見を述べた。だって、いくら人間そっくりに作られているといっても
限度というものがある。えっと、その・・・琴音ちゃんが心配するようなことは
起こってなかったと思う。
「下着姿だって、新しいのができたから藤田先輩に見せに来ただけかもしれないよ。
うん。心配することないと思うけどなあ」
私の言葉に下を向く琴音ちゃん・・・納得してくれたかな?

「甘すぎます」

えっ?
「葵さん! 今、私達がどういう状況に置かれているのかわかっているのですか?」
ええっ?
「そもそも、藤田さんの周りにいる女性で注意するべき人は神岸先輩だけでした!
しかしですね! 現在は積極的なアプローチを繰り返す宮内先輩を筆頭として、
大財閥令嬢、関西人情女、健気路線貧乏人、健気路線人型機械などが蠢いている
んです!」
何をしゃべっているんだろう、琴音ちゃん?
「言わば群雄割拠の恋愛情勢の中で、私達のすべきことは・・・」
私はよくわからなかったので、昼食の続きを取ることにしました。
今日は腹八分目にして、四杯にしておこうっと。

「・・・わっ、わかっていただけましたか?」
肩で息を切らしている琴音ちゃん。
「うん」
嬉しそうな琴音ちゃん。

「よくわからない、ってことはわかったよ」

ゴン!
「だから、琴音ちゃん。頭突きの練習は布を当ててから・・・」
「違いますぅ!」
何を怒っているんだろう?
琴音ちゃんは机に頭突きをして赤くはれたオデコをさすりながら、私をにらんでいる。
あっ・・・涙目。
「わかりました・・・セリオさんの件はもういいです」
やった! わかってくれた!
「葵さん、次の作戦はですね・・・」
・・・駄目だこりゃ。

琴音ちゃんは藤田先輩が好きだ。
それはわかる。私も藤田先輩には好意を持っているから。
でも、だからといって神岸先輩や宮内先輩と張り合ってまで自分のものにしたいと
は思わない。だって、それで悲しい思いをするのは藤田先輩だから。
正直、素直にやきもちが焼ける琴音ちゃんが羨ましいと思う。
だから、私は琴音ちゃんが好きなんだ。

・・・友達としてですから、念のため。


学校の帰り道。
今日は通っている中国拳法の道場がお休みなので、珍しく暇なんです。
「あっ! 琴音ちゃーん!」
校門の前でポツンと一人立っている琴音ちゃん。もしかして、待っていてくれたのかな?
「葵さん、お待ちしておりました」
にっこりと微笑む琴音ちゃん。なんか嫌な予感・・・。
「作戦内容をお伝えします」
だから、あきらめなさいってば!

こうしてつき合ってあげる私も悪いのでしょうか?
琴音ちゃんの作戦はいつも失敗して、必ずオチが待っています。
今日も藤田先輩と下校している眼鏡をかけた女子の先輩を襲おうとして、反撃を
食らってしまいました。
「ううっ・・・ハリセンって、けっこう痛い」
パンパンと何回も叩かれた頭を押さえている琴音ちゃん。
痛そうですね・・・でも!

「こんなこと、頭のメディシングボールと思えば!」

「なんですか? そのメディシングボールって?」
あっ・・・やっぱり知らないか、普通の女の子は。
「砂の詰まったボールで、腹筋を鍛えるためにお腹にぶつけるんです」
「鍛えていませんってば! 頭もお腹も!」
真っ赤になって怒る琴音ちゃん。
もしかして・・・琴音ちゃんも。
「琴音ちゃん! もしかして・・・」
「あっ・・・ちょっと待って下さい! 誰なの、こんなひどいことをして」
琴音ちゃんが抱き上げたのは、一匹の猫でした。

「うー、かわいそう。怪我してるね」
「大丈夫ですよ。動物って自然に回復する力が強いですから」
そう言いながら、丁寧に猫の足を消毒する琴音ちゃん。猫は人に飼われていた
ことがあるのか、公園のベンチに座っている琴音ちゃんの膝から動こうとはしません。
琴音ちゃんはハンカチをちぎって包帯にし、猫の丸い足先にクルクルと巻きました。
「ほら。もう痛くないでしょ」
ナーオ!
「あはは、くすぐったいわ」
猫に指をぺろぺろと舐められて、嬉しそうな琴音ちゃん。
普通にしていれば、充分かわいいのに。
どうして、藤田先輩のことになると人が変わってしまうんだろう。

・・・本気で好きだからだろうな。


翌日。
また廊下で、藤田先輩に宮内先輩が抱きついている。おなじみの光景。
最近は神岸先輩も対抗するようになった。琴音ちゃんの言うところの緊張状態。
「レミィ。あんまり人前でそういうことしない方がいいよ」
「人前でなければいいのデスカ?」
「・・・人のいないところで、浩之ちゃんになにするつもり?」
最近の神岸先輩もなんだか怖い。

その光景を見て、いつもの琴音ちゃんならなにかしていたと思う。
でも、今日はなんだか様子が違う。
「あの・・・猫、いりませんか?」
琴音ちゃんは廊下ですれ違う生徒一人一人に丁寧に挨拶しながら、そんなことを
質問している。
迷惑そうに横に降られる手。
通り過ぎていくみんな。
誰も琴音ちゃんのお願いを聞いてくれない。
どうしたら、助けてあげられるんだろう。
何も思い浮かばない・・・そうだ、藤田先輩なら!

「先輩っ!」

気が付くと、私はにらみ合っている神岸先輩と宮内先輩を押しのけて、藤田先輩の
手を引っ張っていました。

それから後は、本当に早かったです。
藤田先輩が借りてきたデジタルカメラによる、かわいい猫の姿の撮影。
琴音ちゃんが書いた綺麗なポスター。
それをすぐに学校中に貼った私。
怪我をした猫の飼い主になったのは、一年生の優しそうな女の子でした。


「いやー、びっくりしたぜ。いきなり葵ちゃんに手を引っ張られた時は」
「すっ、すみません」
あの時は琴音ちゃんを助けたいという気持ちでイッパイで。
「あやまらなくたっていいって。よかったな、飼い主見つかって」
「ええ、本当に。猫さんも優しそうな人にもらわれてよかったです」
話を聞くと、琴音ちゃんも拾ってきた犬を飼っているそうです。

動物が好きだったんだ。
知らなかったな、琴音ちゃんのこと・・・。

「どうした? 葵ちゃんも頑張っただろ。えらいぜ」
そう言って、私の髪をクシャクシャにする先輩。
あれ? 琴音ちゃんの様子がおかしい。
急に頭を押さえ込んで苦しそうにしている。
「・・・えっ? どうして? ・・・駄目!!」
何か不思議な気のようなものが琴音ちゃんの周囲に沸き起こっています。藤田先輩
があわてて私の前に立ちふさがりました。
「暴走? 離れるんだ、葵ちゃん!」
苦しそうな琴音ちゃん・・・駄目です、逃げるわけにはいきません。

バン!!

何も触れていない。何も当たっていないのに。
藤田先輩と私の体は宙を舞っていました。
もしかして、これが・・・みんなの言っていた・・・。
琴音ちゃんもやっぱり、そうなんだ・・・。

「ごめんなさい、ごめんなさい」
目を開けると、濡れたハンカチで私の顔を拭いている琴音ちゃん。 
どうして、泣いているの?
「俺は受け身が取れたけど、葵ちゃんはモロだったからなあ」
気が付くと、私は藤田先輩に膝まくらをされて寝ていました。
「琴音ちゃん、今日は頑張ったからな。しょうがねえよ」
藤田先輩がそう言うと、琴音ちゃんは頭を横に振りました。
「葵さんは私のためにがんばってくれたのに・・・こんなことに」

「とんでもありません!! 素晴らしい技じゃないですか!」
ガバッと跳ね起きる私。
「「えっ!?」」

「あれですよね。今日のお礼に自分の技を教えてくれたんですよね?」
「いえ、あれは超能力で・・・」
またまた。琴音ちゃん、謙遜しちゃって。
「知っていますよ。あれは中国拳法の秘伝、発頚ですよね!」

「「はあ?」」

まだ目を丸くして驚いているふりをする藤田先輩と琴音ちゃん。
「隠しても駄目ですよ。やだなあ、琴音ちゃんも格闘に興味があったなんて」
「あの、私、格闘なんて・・・」
ゴホン。
藤田先輩はなぜか咳払いをした後、席を立とうとします。
「藤田先輩も、琴音ちゃんも! 私と一緒に練習しましょう!」
藤田先輩と琴音ちゃんの腕をつかむ私。
ジタバタと暴れている二人。
本当に、嫌がる演技が上手いなあ。


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
「どうして、私がこんな目に・・・」
「合宿なんだから、しょうがないだろ」
「どうして、格闘同好会の練習に私が・・・」
バシン!
「ほら、新入部員! しゃべってないで走る!」
竹刀で二人の背中を叩く綾香さん。10kmランニングの途中なのに、二人とも
余裕があるなあ。私もがんばらないと。
「痛いだろ、綾香!」
「痛いです・・・」
恨めしそうに綾香さんを見ている二人の間に、私は割り込みました。

「違います。こういう時は、押忍!竹刀、ありがとうございます! って言うん
ですよ」
私の言葉に目を丸くしている二人。そして、一緒に叫びました。

「「一緒にしないでー!!!!!!!」」
??? 何がでしょう?
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ではでは。