宮内さんのおはなし その二十壱(VER1.01) 投稿者:AIAUS 投稿日:4月21日(金)00時42分
私の名前は藍原瑞穂。
生徒会で会計係をやっている以外は、特に紹介することもない普通の女子高生だ。
生徒会というと堅いイメージがあるけど、実際にやっていることは雑用係の井戸端
会議。今日の議題も取り上げる価値があるのかわからない(校舎裏のゴミについて
だったと思う)ことを問題にして延々と話している。
「・・・以上です」
私の向かい側にいるのは同じ生徒会役員の太田さん。彼女の役目は書記だけど他の役員が休み
の時は議事の進行を努めることもある。
いつもは和やかなペースで進む会議・・・でも、今日は違った。
「ねえ、瑞穂。今日の太田さん暗いよね」
「さあ?」
「二日目なのかなあ・・・イタ!」
私は足を踏んづけて隣りの子を黙らせると、太田さんを見た。
確かに暗い。なんていうか、背景に縦線が入っている
いつもの太田さんはこんな人じゃない。
歯に衣を着せないというか物事をズバズバとはっきり言う人で、典型的な生徒会タイプ。
顔も知的な美人タイプで性格も明るく、友達も多い・・・はずだ。
しかし、今日の太田さんは暗かった。特に意見らしい意見も出ないままに会議は終わる。
太田さんが部屋から退室すると、みんなは一斉に息を吐き出した。
「おい! どうしたんだよ、太田のやつ。なんかあったのか?」
「知らなーい。大学生の彼氏と喧嘩でもしたんじゃない?」
「えー! あのTD大学医学部の?」
「そうそう。写真見せてもらったけど、結構格好いいんだぁ」
うわさ話は苦手だ。特に恋愛関係は。
私は荷物を片づけると、早々に席を後にした。

学校の帰り道。
校門にいるのは友達のあかり。
あかりの横にいるのは藤田君・・・かな?
私はあまり目が良くない。成績は学年でも上位の方だけど、視力は多分学校で最下位
に近いだろう。女一人で娘を養っている母に心配をかけたくない。そうやって努力し
た結果だから、別に恥ずかしいこととは思わないけど。
「OH! ヒロユキ!」
私の側を走り抜けていくのは留学生の宮内レミィさん。
あかりの恋敵だ。
あっ、藤田君に抱きついた。
遠目から見てもあかりが怒っているのがわかる。でも、あかりははっきり口に出せないんだ。
(私の浩之ちゃんに触らないで!)
って。そう言ってしまえば話は簡単なのに。
藤田君も藤田君だ。
どうして、あかりと宮内さんのどちらかをはっきりと選ばないのだろうか?
私にはわからない。
私は男の人を好きになったことがないから。


毎月買っている雑誌を鞄に詰め、私は本屋を後にした。
「おい。さっきの女、見たか?」
「おまえ、声かけてみろよ」
そんなことを話しながら私の横を通り過ぎていく軽薄そうな格好の男達。
私のお父さんもそんな人達の一人だったのだろうか?
少し気になって、男達が通ってきた路地に入ってみる。
そこには知った顔がいた。

「うっ、うっ、ううっ・・・」
制服姿で、路地裏に座り込んで泣いている太田さん。
「ちょ、ちょっと! 乱暴でもされたの!」
私はあわてて太田さんに駆け寄る。服の乱れなどがないことから、どうやらその心配
はないらしい。
太田さんはまだ泣き続けている。
「とにかく! こんなところにいたら駄目。さっきも変な男達が噂してたよ」
私が腕を取ると、太田さんはその手を振り払った。
「・・・ほっといてよ」
頑なに拒む太田さん。私は少しキレてしまった。

「あなたね! 独りになりたいんだったら、自分の部屋で泣けばいいでしょ!」

私の剣幕に、驚いた表情で太田さんは顔を上げる。
「誰かにかまって欲しい。だから、こんなところで泣いてんでしょうが」
「・・・私」
「ほら。話くらいなら聞いてあげるから。とにかく立ちなさいって」
私が手を引っ張ると、今度は太田さんも素直に立ち上がった。

午後の喫茶店。
「・・・それで、もう君とは会えないって拓也さんが言うの」
失敗した。生徒会の子の言う通りだった。もろに恋愛沙汰。
私はこういうのは苦手なのに・・・。
「ちゃんと話はしたの? 理由がわからないと相談に乗りようがないよ」
「ううん・・・多分、私が子供過ぎたんだと思う。拓也さんにわがままばかり言って・・・」
またブルーになる太田さん・・・だから、よくわかんないんだってば!
「えーっと・・・とにかくさ、日を改めてみたら」
「拓也さんといられない日なんて考えられないよ・・・」
駄目だ。恋愛音痴の私が恋愛現在進行型の太田さんの相談に乗れるわけがない。
なんとかして話を変えようと私が外を見ると、そこには瑠璃子ちゃんがいた。
知らないお兄さんに手を引かれている。
「・・・拓也さん」
その知らないお兄さんの方をせつない目で見つめているのは太田さん。
「えっと、もしかして太田さんの彼氏の名字って、月島?」
どうして知っているの? という顔で太田さんはコクンとうなずいた。


太田さんを家まで送り、私は公園にたどり着いた。
おせっかいだとは思うのだけど、物事を途中で投げ出すのは私の性分じゃない。
予想通り、公園には妹の瑠璃子ちゃんを遊ばせている月島さんの姿があった。
「月島拓也さんですね?」
「はい・・・僕に何か?」
振り返った青年は、確かに美形だった。私はよくわからないけど、知的なハンサム
というのはこういう顔なのだろう。太田さんがあんなに夢中になるのも仕方がない
と思う。
「太田さんのことで聞きたいことがあるんです。少し時間いいですか?」
月島さんは黙ってうなずいた。

月島さんの家に通される。
「お姉ちゃん・・・遊んでくれるの?」
私の顔をじっと見る瑠璃子ちゃん。
「ごめんね。私、お兄さんと話があるから」
「うん。一人で遊んでいるね」
そう言ってトコトコと歩いていく瑠璃子ちゃん。お兄さんの方は私に二階の自分の
部屋に入るように手招きで知らせる。
おせっかいだな、今の私って。

「香奈子は悪くないんだ。全部、僕が悪いんだよ」
椅子に腰掛けた月島さんの顔は苦悩に満ちていた。
「何が悪いのかおっしゃってくれないと、太田さんがかわいそうです」
毅然という私。うん、変なことは言っていない。
「君・・・ナボコフは知っているかい?」
???
「ロシアの亡命貴族さ。僕の愛読書の著者でもある」
そう言って月島さんが渡してくれた本の題名は・・・

「ロリータ」

???
なっ、なんなの? これ?
「付き合い始めた頃はよかった! 香奈子も初々しくて、僕も抵抗は感じなかった!」
いきなり力説を始める月島さん。
「でも、今となっては! 香奈子の成長した胸、足首、うなじを見る度に! その
大人びた言動を聞く度に! 僕は自分の本能と戦わなければならなくなった!」
おい。
「病気と言われてもかまわない! 僕は! 僕は・・・」
「お・・・お話はわかりました。太田さんにそのことは?」
「言えるわけがないじゃないか! 僕が瑠璃子の写真をコレクションしていること
とか、たまに公園でかわいい子供を捜しているとか! そのために小児科医を目指して
いることとか!」
めっ、めまいがしてきた・・・。
「とっ、とにかくこれで・・・」
逃げなければ、精神が崩壊してしまふ。
「待ってくれ!」
月島さんが私の肩に手をかける。
「君ってなかなかチャーミング(死語)だよね」

そういう趣味の人にそういうことを言われても嬉しくない!

私の放った垂直落下式ブレーンバスターで、月島さんは気を失うことになった。


私は青い顔で月島さんの家から出た。
「なっ、なんで・・・拓也さんの家から」
外にいたのは太田さん。もう勝手にやってください。
「あのね、太田さん。月島さんと仲直りできる方法があるよ」
「えっ?! どうすればいいの?」
「まず、自分を香奈子って名前で言うの。それから、格好もなるべく子供っぽくて
胸を強調しないデザインのものを。最後に、語尾に「だよ」「もん」って付ければ
完璧」
キョトンとした顔で太田さんは私を見る。
「私、あなたの言っていることの意味がよくわからないんだけど・・・」
「違う! 香奈子、みずぴーの言ってることよくわかんないもん!」
頬に両手を当ててイヤイヤをしながら叫ぶ私。
「・・・藍原さん?」
「みずぴー! 月島さんと仲直りしたくないの!」
「!」
しばしの特訓の後、太田さんは月島さんの家に入っていった。
それから後のことは知らない。
私はダッシュでその場を逃げ出したから。



「ねえ、瑞穂。今日の太田さん、おかしくない?」
「そうよね。なんか頬が艶々しているっていうか、腰の張りが違うっていうか?」
「明るくていいんじゃない?」
私は関わりたくないので、ずっと黙っていた。

「はーい! それでは今日の会議はお・し・ま・い! みんな、おつかれ様!」

あれから見事に仲直りが出来たのか、幼児言葉のままの太田さん。
言えない・・・私がそそのかしたとは。
「あれー? みずぴー、どうしたの? なんか暗いぞー?」
「太田さん、お願ひ・・・みずぴーは止めて」
「香奈子ちゃん! そう呼んでくれないと止めてあげないもん」

太田さんのハイテンションは三日程で元に戻った。この三日間は「嵐の三日間」として
みんなの記憶に残ることになる。

こんなことから、私と太田さんは友人になった。
「ふう。最近はつまらない議事が続いて嫌になるよね、瑞穂」
いつも通りの太田さん。私は疑問をぶつけてみることにした。
「あの、太田さん・・・一つだけ聞きたいんだけど」
「香奈子ちゃん!」
「・・・香奈子ちゃん」
「どうしたの、瑞穂」
平然とした顔で答える香奈子ちゃん。
「やっぱり、月島さんの前だと子供言葉なの?」
私の質問に、香奈子ちゃんはウインクした。

「ひ・み・つ・だもん」

・・・・・・・。
とんでもないことをしてしまったような気がする。
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おまけ
「祐君は違うよね」
「うん。僕、拓也お兄ちゃんとは違うよ」
「よかった・・・」
「だって、人妻もいけるから」

やっぱり、祐君の泣き顔ってかわいい。
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痕のキャラも出して下さいって言われたんですが、難しいですね。高校生のヒロイン
が二人しかいないし(・・・初音もそうなのか?)。
それでは、感想、苦情、リクエストがありましたらメールでお願いします。

ではでは。