宮内さんのおはなしR その五 投稿者:AIAUS 投稿日:4月20日(木)10時31分
学校帰りに、俺はお尻に出会った。

「よお、尻じゃねえか。なにやってんだ?」
「・・・ヒロ。あんた、わざとやってるでしょ」
「まちがってねえぞ、志保。何やってんだ、おまえ?」
かなり前に倒産した建設会社。そのコンクリートの壁に空いた穴。それに頭から突っ込んで
抜けなくなっている志保。
大方、いつものよけいな好奇心で建物の中に忍び込もうとしたのだろう。
ぷぷぷ。なんて間抜けなんだ。
「ひっどーい! 笑ってないでなんとかしてよぉ!」
「パンツ丸出しで親が泣くぞ」
四つん這いになっている志保の姿は、エッチ雑誌かなにかで見かけそうなポーズだ。
「あっ、あっ、あんたねえ・・・」
キレて俺の悪口を並べ立てる志保。
あいかわらず頭悪ぃな、こいつ。
「武士の情けだ。スカートだけはなおしてやろう。じゃあな」
俺はめくり上がったスカートをなおすと、少し離れたところに身を隠した。

三分後。
「ちょ、ちょっとヒロ? 本当に帰っちゃったの?」
以前にマルチに試した時は効きすぎちまったかんな。あいつなら大丈夫だろう。
「おーい! ヒロ! ヒロってば! これ!」
ふふふ。意外に根性なしだな。マルチより時間が早いぞ。
七分後。
「ちょっとぉ、マジで帰っちゃったの。あの薄情者」
そうやってモゾモゾとお尻を動かし始める志保。
おおおっ!
いかん! つい、目が吸い寄せられちまった。
しかし、本気で穴から体が抜けないようだ。
「あーん、もう! 抜けないよう! 志保ちゃんピーンチ!」
まだ余裕があるみたいだから、しばらく観察していよう。
と思った矢先。
ウッ、ウッ、グスッ・・・
泣き声?
やばっ! やりすぎちまったか。
俺はあわてて志保の下へ駆け寄る。
「悪ぃ。冗談だ、冗談。泣くことねえだろ」
駆け寄った俺にかけられた言葉は・・・。

「あいかわらず頭悪いわね、あんた」

多分、壁の向こうでニンマリ笑っている志保。
くっそー、こいつ。ひっかけやがった!(お互い様)
「バカやってないで、なんとかしてよ。乙女のピンチなのよ!」
うーむ。やはり、そうだったのか。

「やっぱりこういう場合、力ずくで引っこ抜くしかねえだろ」
「ちょ、ちょっと、ヒロ?」
俺は志保の体に手をかけ、思いっきり・・・。
「いやーーー!! 犯される!! 助けて、お母さーん!」
志保の体からバッと身を離し、あわてて周りを見る俺。
「馬鹿野郎! なんてこと言いやがる」
多分、壁の向こうでジト目で俺を見ている志保。
「無理矢理で抜けるもんならとっくに抜けてるわよ! それより、ヒロ!」
なんだよ。
「この志保ちゃんの体をタダでわしづかみにして許されると思ってんの!」
「わかった、わかった。後でカツサンドでも置いといてやるよ。そのでかい尻の上に」
「食べれないじゃない! その前に、この志保ちゃんの価値が180円ってどういう
こと? その百倍もらったっておかしくないわよーだ」
1万8000円?
確か財布の中身は・・・?
「本気で探してんじゃないわよ」
ハッ!
正気に返った俺は、志保ちゃん救出プロジェクト(命名、志保)を再開することにした。

「俺が建物の中に入って、中からおまえを外に押し出すっていうのはどうだ?」
「ダメよー。他の入り口が全部ふさがっているから、ここから入ったんじゃない」
「油かなにかを塗って、滑りやすくする?」
「どこにあんのよ、そんなもん」
「こうなったら、レスキュー隊を・・・」
「こんな姿で特番に放映されるぐらいなら、このまま一生過ごす方がマシよ!」
テレビでよくある危機一髪ドキュメンタリーものは、本人の承諾を得てから放映される
から問題はないんだが・・・まあ、確かに大げさだよな。

「Hi! ドウシタノ? ヒロユキ」
「ああ。今、お尻と世界情勢について熱く語っていたところだ」
「尻じゃなくて、志保って言ってるでしょお!」
「What? Hipが志保と同じ声でしゃべってるヨ?」
「レミィ! あんたまでぇ!」
とりあえず詳しい事情を説明すると、レミィはフンフンとうなずいてから地面に
座った。
「果報は寝て待て。少しお話でもしていまショウ」
「そ・・・そうか?」
「あのね、ヒロユキ・・・ぼそぼそ」
「ちょっとぉ、なんとかしてってばあ」
なるほど。そういう手があったか。
俺達は涙声の志保を置いて、世間話に花を咲かせることにした。

夕暮れ近く。
志保の体をレミィと一緒に引っ張ってみるが・・・。
「いだ! いだだだたただた!!!」
まだ無理かよ。
「レミィ。遅くなりそうだから、今日のところは帰れ」
「うーん。わかりマシタ」
「はっ、薄情者ぉー!」
わめく志保を置いて、レミィは帰っていった。
まったく世話が焼ける女だな。


夕闇が降り、外は真っ暗になる。
「・・・ねえ、ヒロ」
「んっ、なんだ?」
「このまま抜けなかったら、あたしどうなるのかな?」
なんか志保の奴、シリアス入ってやがる。よーし・・・。

「その時は俺が面倒見てやるよ」

しばしの沈黙。
「本気?」
「ああ。抜けなかった場合はな。一生面倒見てやってもいいぜ」
気楽な俺に対して、志保の声は真剣だった。
「バカ! あんた、そんなのあかりに悪いじゃない!」
??? なんであかりが出てくる?
「あかりの奴は関係ねえだろ」
うん。あかりはこんな穴に入ろうとして抜けなくなることはないからな。
「みっ、見損なったわよ! ヒロ!」
「だって・・・おまえしかいねえからさ」
こんなバカな真似すんの。
「えっ・・・」
いつもの調子で言い返してこない志保。
「だっ、ダメよ! そんなの!」
なにかムキになっている志保。
「そりゃあ、あたしだってヒロのこと・・・」
グーー!
志保の言葉を遮ったのは、大きな腹の虫だった。

「うううっ・・・恥ずいよぉ」
「志保。大事な話がある」
「なによぉ」
「おまえにも恥という感情が残っていたんだな」
「殺すわよ、ヒロ」
いつもの調子を取り戻す俺達。さて、そろそろだな。

ガシっ!

俺は志保の体を抱え、全力で引っぱる。
「いだー! だから、無理矢理引っ張っても無理だってば!」
「黙ってろ!!」
ズル!
なにかが滑るような感触がして、志保の体がスライドする。
よしっ! やっぱりレミィの言った通りだ。
「おりゃあああああ!!!!!」
「きゃああああああ!!!!!」
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およそ四時間十七分。長岡志保の救出に成功した。


「外国の童話に食いしん坊のキツネの話があってな・・・」
「知ってるわよ。お腹が空いたらその分引っ込んで木の穴から出れた、って話でしょ?」
「そうそう。見事に成功したな」
肩を振るわせている志保。やべえな、さすがにからかい過ぎたか。

「今日は・・・ありがとう」
うつむいて、顔を赤くしている志保。
「なっ、なんだよ。らしくねえな」
「それで・・・ヒロ。さっきの続きなんだけど」
そう言って、志保の奴はへたりこんでいる俺にスッと近づいてきた。
「おっ、おい」
「あたしもね・・・???」

俺の側で固まったまま、目を丸くしている志保。
視線の先を追うと・・・?

「ごっ、ゴメン! 邪魔するつもりはなかったの! 本当よ!」
なぜか焦っているジャージ姿の坂下。スポーツタオルを首に巻いているところから
見ると、ランニングの最中だろうか。
「そっ、それじゃごゆっくり! さよならー!!」
ダッシュで逃げていく坂下を、呆然として目を見合わせている俺と志保。

「なにかあったのか、坂下の奴?」
「潰れた建物、夜中、草むらの中、乱れた衣服、若い男と女・・・」
チーン!
俺と志保は全力で坂下を追いかけたが、なまくらの俺達が女子空手の女王に追いつけ
るわけがなかった。

翌日。
ザワザワザワザワザワザワ。
俺の周りに噂をしている連中の人だかり。
「あの・・・浩之ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「話の出所は?」
頭を抱えた俺が聞くと、あかりは真剣な顔で答える。

「好恵ちゃん情報だよ」
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おまけ
「うえーん。抜けないよ、浩之ちゃーん!」
スポ!
「あれ、なんで?」
「大きさが違うだろ、志保とおまえじゃ」
メキ!
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DEEPBLUEさんよりリクエスト。
「少し幸せな志保を」
幸せなんだろうか?
しかも、好恵ちゃん情報・・・。

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ではでは。