宮内さんのおはなしR その参(VER1.01)  投稿者:AIAUS 投稿日:4月19日(水)16時27分
「Good morning! ヒロユキ」
大胆に腕をからめるレミィさん。照れながらも、あえて振りほどかない藤田さん。
本来ならば、そこは私の場所なのに・・・。

いけない。いけない。
この前の作戦は失敗してしまいました。
恋敵であるレミィさんと葵さんの共倒れを狙ったのですが、作戦は失敗。私と葵さん
は銃撃に怯える三日間を過ごす羽目になってしまいました。
レミィさんの積極的なアプローチであかりさんのプレゼンスが崩壊しつつある今、
なんとかして私の優位を確保しておかないと・・・。
そもそも恋愛のライバルである葵さんを利用するという発想がよくなかったのかも
しれません。
藤田さんに好意を寄せていない女性と言えば・・・。


「はい。なにかご用ですか」
私にむかって丁寧に会釈するのはHMX-13、セリオさん。
マルチさんと違って無機質な彼女なら、藤田さんに興味を持つことはないでしょう。
「セリオさんにお願いしたいことがあります」
そう。今回はライバルの排除ではなく、正攻法で藤田さんの心をキャッチ!
これこそが正統派ヒロインの王道でしょう。
「この手紙を藤田さんにお見せすればよろしいのですね」
私の思いのたけを綴ったラブレターを読めば、いくら鈍感な藤田さんでも心を動かし
てくれるに違いありません。
「お願いします。ちゃんと藤田さんに見せて下さいね」
「はい。了解しました」
丁寧におじぎをするセリオさんの姿が、この時は頼もしく見えたものでした。


「琴音ちゃん。話があるんだけどさ」
藤田さんが私を呼び出したのは、放課後になってからでした。
きゃー、もう返事を下さるなんて。
私はドキドキしながら藤田さんと一緒に屋上へ向かいました。

「あの、それでお話って・・・」
「ああ、あのな・・・」
真剣な顔で私を見つめている藤田さん。このまま気を失ってしまいそう・・・。
私の顔はきっと赤くなっています。
でも、なんで藤田さんの顔は青冷めているのでしょう?

「とりあえず、今日のところはこれで」
そう言って藤田さんが私に手渡したのは、お札が三枚。しかも、諭吉さん?
「あの、これってどういう意味ですか?」
私の言葉に驚愕する藤田さん。
「すまねえ! 後でまた持ってくるから! 今日のところはそれで勘弁してくれ!」
事情がさっぱりわかりません。
「あの、お手紙、読んでくれたんですよね?」
恐る恐る聞く私に、藤田さんはビクビクしながら手紙を差し出します。
あれ? これって私が作った便箋と違う・・・。
「・・・・・・」
私はセリオさんが藤田さんに渡した手紙を読んだ後、黙って駆け出しました。
もちろん、三万円はきちんとお返ししてから。

「まっ、待ってくれ! 一つだけ教えてくれ! 俺の恥ずかしい秘密! どこで知った
んだああああ!!!!」

背中から藤田さんの絶叫。
壊す。あのメイドロボ、壊してやるぅ!


「どういうことですか、セリオさん!」
他に人もいる喫茶店だというのに、思わず声が荒くなってしまう私。
セリオさんはいつも通りの無表情で私の顔を見ています。
「言われた通りに藤田さんに手紙をお見せしたのですが」
「中身が改竄されているじゃないですか!」
「私なりに効果的なラブレターであったと思いますが」
「脅迫状って言うんです! ああいう手紙は!」
息を切らしている私の顔をまじまじと見るセリオさん。

「心拍数に異常が見られますが?」

「あんたが異常にしてるんでしよぉお!!!!」
ハッと気づくと、私を見ている他のお客さんたち。
いけない。いけない。クールビューティな私が、そんな声を出しては。

「一つだけ教えて下さい。どうして私の手紙を書き換えたんですか?」
そう。これははっきりさせておかなければなりません。まがりなりにも作戦のパートナー
として彼女を選んだのは藤田さんに好意を持っていないという大前提があるからです。
もしもセリオさんが藤田さんと私の仲を嫉妬して今回のような暴挙に出たのだとすれば、
作戦自体を根底から練り直さなければなりません。
「あのままの文面では姫川さんの要求が満たせないと判断したのです」
「あのままの?」
ポカンとした顔で聞き返す私。

「恋しい、恋しい、浩之さん」

いきなり私の書いたラブレターの文面を朗読し始めるセリオさん。
「あなたのことを思い、今日も眠れぬ夜が続きます」
きゃああああ!!!! なっ、なんてことを!
「私は以前から・・・モガモガ」
私はセリオさんの口を押さえると、周りのお客さん達を見回します。さっと目をそらす
みなさん・・・ううっ、変な奴だって思われている。
「へをははひてふははい」
「わかりました! わかりましたから! ここから出ますよ!」
私は顔を真っ赤にして、逃げるように喫茶店から出る私達。
お気に入りの店だったのに・・・もう行けなくなってしまいました。ううっ・・・。

一般的なラブレターから、脅迫状めいた手紙への書き換え。
ようするに、セリオさんはセリオさんなりに気を使っての判断だったのです。
藤田さんの変貌ぶりから見ると、確かに効果的であったのかもしれません。
しかし、私はそのような手段で藤田さんの心をつかみたいわけではないのです。
私が欲しいのは奴隷ではなく、生涯のパートナーなのですから(それはそれで怖い)。

「事情はわかりました。でもセリオさん。好きな人に好きって言ってもらうのと、
好きって言わせるのは違うんですよ」

わからない、という意味なのか、セリオさんは少し首をかしげます。
そう。セリオさんはメイドロボ。好きという感情はわかりにくいのかもしれません。
「申し訳ありません」
ペコリと頭を下げるセリオさんを見て、私はクスリと笑いました。
やはり、恋愛というのは自分の力で勝ち取るものですよね。


翌日。きちんと書き直したラブレターとお詫びの品を持って、藤田さんの家に向かいました。
玉の肌はきちんと磨きをかけてきましたし、下着も上下ともに新品です。しかも、
今日は大丈夫な日なんです!(何が?)
これだけ準備を整えておけば、まさに完璧と言えるでしょう。
私は藤田さん攻略のための準備が整ったことを確認すると、ドキドキしながらチャイムを
押しました。

ピンポーン!

「はい。どなたでしょうか?」
そう言って扉を開けたのは、なぜかネグリジュ姿のセリオさん。
藤田さんは青い顔で二階へと逃げていきます。

「もしかして、昨日のもわざとですか?」
ニヤリ。

結果。
藤田さんの家は崩壊。
私は善戦したのですが、スタミナ切れでセリオさんに敗れてしました。
ううっ、やっぱり排除路線にしておくべきでしたぁ(涙)
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ゆきさんの「ニヤリセリオが見たいです」のリクエストにお答えしました。
全ての作品に対する感想文ありがとうございます。読むの大変だったでしょう(笑)
琴音もお気に入りだったようなのでからめてみたのですが、いかがだったでしょうか?

それでは感想、苦情、リクエストなどがありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
までお願いします。

ではでは。