宮内さんのおはなし その十九 投稿者:AIAUS 投稿日:4月18日(火)03時41分
みんなが髪を染め始めたのはいつの頃だったでしょうか?
アタシは小さい頃、髪を染めていました。
両親がアタシのことを心配して、髪を黒く染めたのです。
それでもアタシは、違うもの、異なるものとして扱われました。
みんなの黒い髪。
アタシの黒い髪。
何が違っていたのでしょうか。


私とヒロユキ、シホは今、屋上でランチをしています。
「レミィの髪の毛って、本当にきれいだよなぁ」
ポニーテールを結びなおしているアタシの髪を触りながら、ヒロユキはそう言って
くれました。
「Really? アタシの髪、ヒロユキ好きなの?」
「んっ? ああ」
アタシの髪の毛に触るのに夢中なヒロユキ。
「じゃあ、blondeのbabyが生まれるといいヨネ! ヒロユキ」
「ああ。いいよな」
ぶっ!
まだパンを食べていたシホは、アタシの横でパンを吹き出しました。
「汚ねえぞ、志保」
「そうダヨ。Bad girlね、志保」
「あっ、あのねえ。真っ昼間の屋上でそんな話する方が悪いんでしょ!」
なぜか志保は真っ赤になって怒っています。
「Why? なにがおかしいの?」
「だから・・・その、あれよ」
「なんか変だぞ、お前」
「あんたらが変なんでしょー!」
仲良く喧嘩をしているヒロユキと志保。アタシはその横で、金髪のbabyを抱く自分
の姿を想像して幸せになっていました。


学校の帰り道。
アタシと約束していたヒロユキは、校舎の前でシホと喧嘩しています。
「・・・だから、別に普通なんだって! レミィの場合は!」
「あたしの言いたいのはそうじゃなくて・・・おや、レミィ?」
アタシのことで喧嘩をしていたのでしょうか?
「どうしたの? ヒロユキ。シホ」
「ああ。なんでもない。こっちの話だ」
「そうよぉ。ぜーんぶ、このヒロが悪いんだから」
「お前もだろ」
「なんでよぉ」
違和感。喧嘩をしている二人の前で、アタシはそんな思いを抱きました。

くいくい。
喧嘩をしていたヒロユキの袖を引いているのは、彼の友達のセリカ先輩。
「あっ、悪ぃ。ちょっと待っててくれ」
「なによー。逃げる気ぃ?」
手でシホを追い払いながらセリカに引かれていくヒロユキ。
本当にきれいな黒い髪。
アタシは風にそよぐ自分の髪を見ながら、そんなことを思いました。
「どうすんのよ、レミィ。あんたのハズが浮気しているわよ」
遠くで話しているヒロユキ達を見て、シホがふざけた調子で言ってきます。
ハズとはhusband。夫のこと。
「シホ。シホの髪はなんで茶色なの?」
「えっ? そりゃ一応染めてるから」
アタシは質問を繰り返しました。
「でも、やっぱり黒いんだよね」
「んー。まあ元々茶髪ぽいけどね。黒いといえば黒いわよねー」
アタシの質問の意味がわからずに首をかしげているシホ。
ヒロユキ・・・やっぱり黒い髪が好きなのかな・・・。
「でもいいわよね、レミィは。染めなくてもきれいなんだもん」
聞き慣れた言葉。きれいだ。美しい。うらやましい。
でもそれは、変わっている、珍しい、おかしい、と同じ意味。
「悪ぃ、お待たせ! どうした、レミィ?」
「ううん。なんでもないヨ。ゴメンね。アタシ、今日は一人で帰るから」
そう言うと、アタシは一人で駆け出していました。

「どうしたの、レミィ。なんだか顔が暗いわよ」
家にいたのはお母さん。アタシの顔を見て心配そうにしています。
「Mam。アタシ、また髪を染めようかと思うの」
アタシがそう言うと、お母さんはアタシをソファーに座らせ、Hotmilkを作って
くれました。
「藤田さんとなにかあったの?」
いつも着物姿のお母さん。きれいに結い上げられた黒い髪。
「ヒロユキ。黒い髪が好きみたいなの。だから・・・」
「藤田さんが染めろ、って言ったの?」
優しい笑顔でアタシに聞くお母さん。
「違うの。でも、アタシの髪が黒いほうがヒロユキも・・・」
「レミィ」
お母さんが私を抱き寄せます。
「お前はお父さんと私の自慢の娘です。その金色の髪も青い瞳も、お父さんから
もらった大事なものでしょう?」
「Yes・・・」
「なら、自分に誇りを持ちなさい」
「Mam・・・」

バウッ! バウバウッ!
ジュリーが吠えている。
「ぎょえー!! なんでこの犬、私にばっかりからむのよぉ!!」
シホの声? アタシは玄関へと向かいました。

「よっ。一人で帰っちまったからどうしたのかと思ったぜ」
玄関にいたのはヒロユキ。手には小さな紙袋を持っています。
「せっかく先輩が薬を持ってきてくれたのに、しょうがねえよなあ」
そう言えば、ヒロユキがセリカ先輩の薬の話をしてくれた時に、試しに飲んでみたい
と言った気がシマス。
そんなアタシの些細な言葉を、ヒロユキは覚えていてくれた
「あの・・・アリガトウ」
紙袋を受け取って目をそらしているアタシの髪を、ヒロユキはそっと手に取りました。
そして、照れくさそうに微笑みます。
「それとな・・・俺は本当にきれいだと思うぜ。レミィの金色の髪」
わかってくれた。わかってくれていた。アタシの不安を。アタシの気持ちを。
「ほら。早く飲まないと効果がなくなるって先輩が言ってたぜ」

ヒロユキからもらった薬は少し苦くて、そしてとても甘かったデス。

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おまけ
「どっ、どこまで追っかけてくるのよー!!!」
ピタっ!
「やっ、やっとあきらめたわね、このバカい・・・・カチ?」
BAOOOMMMMM!!!!!
そして、ジュリーは悠然と戦場を去っていった。
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このSS、最初はあかりと浩之の姿を見てレミィが嫉妬する、って話だったんですよ。
でも、途中で気づいてしまった。
「あかり、髪黒くないやん」
ははは。

感想、苦情、書いて欲しいSSなどがありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
へお願いします。
ではでは。