宮内さんのおはなし その十七 投稿者:AIAUS 投稿日:4月16日(日)07時31分
お洒落、おしゃべり、かわいいもの、恋愛・・・。

私にはあまり縁がないものだ。
みんなが流行のワンピースを選んでいる時、私は正拳の練習をしていた。
みんなが帰りにアイドルの話をしている時、私は組み手をしていた。
喫茶店で好きな男子を告白しあっている時、私は鼻血を出してひっくり返っていた。

バシッ! バシッ!
私が格闘技を始めた理由。
もっと強くなりたかったから。

エクストリームを始めた理由。
それは綾香さんを追いかけたかったから。

ビシッ! ドガッ!
私がエクストリームを続けている理由。
それは・・・なんだろう?

バシィ!!!

「ふー、やっぱりすげえな。葵ちゃんは」
先輩は私が蹴り飛ばしたミットをはめ直しながら、そう言ってくれた。
「ますます技が冴えてきたんじゃない?」
「そうね。上段回し蹴りの威力は相変わらず見事だわ」
「・・・ハイキックよ」
「・・・上段回し蹴り」
いつもの調子でにらみあっているのは綾香さんと好恵さん。
まだ部活としては認められていない私達の同好会(といっても、私と藤田先輩の二人
しかいないんだけど)は、学校の裏の神社を練習場所として使っている。
綾香さんはエクストリームの先輩で、私のあこがれ、目標の人。
好恵さんは空手道場にいた頃の先輩で、同じ学校でもあることからいろいろと面倒を
見て下さっています。
「そういえば、なんであんたがここにいるのよ?」
好恵さんに突っかかる綾香さん。
「あんたがコーチしていたら、葵がかわいそうでしょ」
「自分より弱い人にコーチされても、葵も迷惑だと思うけど」
「・・・フフフ」
「・・・うふふ」
しばらくにらみ合った後、綾香さんと好恵さんはまた喧嘩を始めた。
このお二人はいつもこんな調子です。綾香さんは好恵さんが私より弱いと言ったけど
それは冗談で、勝ったのはこの神社での組み手一本だけ。
それも・・・先輩がいてくれたから・・・。

お二人の喧嘩のせいで、なんとなく練習がお開きになってしまった。
「まったく。しょうがねえよなあ、あの二人は」
そう言って、笑いかけてくる藤田先輩。
「いえ。こうやって攻防を見ているだけでも、すごく勉強になりますから」
確かに、この綾香さんと好恵さんはすごい。
一つ一つの技の切れ、重さの質というものが違う。
あっ・・・今の好恵さんの掛け蹴り、参考になる!

「・・・本当に。女らしいのって葵ちゃんだけだよな」
えっ?
綾香さんと好恵さんの組み手に集中していた私は、先輩の突然の言葉にびっくりする。
「だって、そうだろ? 葵ちゃんはおとなしくてかわいいし、料理もするし、俺の
こと殴ったりしないしな」
あ、あの・・・。
「うん、うん。まったくその通りだ。綾香はルックスはいいけど性格がアレだし、
坂下はたまに見せる表情が女の子しているのは魅力的だけど、いつもがナニだしな。
やっぱり葵ちゃんが一番だ」
ですから!
「んっ、どうした、葵ちゃん? 後ろなんか指さして」
「あまり、そういうことを言わない方が・・・」
驚愕、そして恐怖。先輩がおそるおそる首を後ろにむけると、そこにはとっくの昔に
組み手をやめて、私達の話を興味深そうに聞いているお二人の姿が。
「ねえ、好恵。たまには二対一なんていうのもいいわよね」
「そうね。練習中なら事故ってことになるし」
「うっ、嘘! いまのなしっ! 綾香はアレだけど女らしいし、坂下もナニだけど
女らしい! これは本気だって!」
ああ墓穴・・・。
お二人に引きずられていく先輩。お気の毒に・・・。
あっ、今の連携! 参考になる!


「それで、藤田とはどうなったのよ?」
学食でお昼御飯を食べている私と好恵さん。好恵さんは一通り空手の話をした後、
いつもこの話題をふってくる。
「いえ・・・別に私と先輩は・・・その」
私の答えもいつもはっきりしない。

私は藤田先輩が好きだ。
ひとりぼっちだった私をはげましてくれたあの人を、私に吹っ飛ばされても笑って
くれるあの人を、落ち込んだ時にはげましてくれるあの人を、私は好きだ。
でも、先輩が私をそう思ってくれるかはわからない。

「しょうがないわよね。昔から葵は・・・」
「すみません」
大げさにため息をつく好恵さんと謝る私。好恵さんが興味本位ではないことはわかる。
だって、好恵さんも私と同じだから。不器用な生き方しか出来ない人だから。
「はっきり言えばいいじゃない。葵ならすぐにOKしてもらえるわよ」
「私なんか・・・」
「NOって言われたら押し倒しなさい! 今の葵なら一撃よ」
「よっ、好恵さん!」
冗談よ、と笑って席を立つ好恵さん。
あっ、私も行かなくちゃ・・・。
合わせて、十一杯のカツ丼を洗い場に持っていくと、私は教室へとむかった。
唖然としているみんなをかきわけて。

廊下で藤田先輩とすれ違う。先輩の横にはきれいな金髪の女性。
宮内レミィ先輩だ・・・。
「よお、葵ちゃん!」
挨拶してくれる先輩に、ぺこりと頭だけを下げて過ぎ去る私・・・。
嫉妬している自分に嫌になる。あんなにきれいな人に勝てるわけがないのに。
なんか・・・今の自分って嫌いだ。

学校の帰り道。
私は見てはいけないものを見て、鞄を地面に落とした。
寄り添って歩いている先輩と好恵さん。
そうか・・・そうだったんですね・・・。
私は何も言えずに、鞄を拾って走り出していた。
「えっ? おーい、葵ちゃーん!」
「葵? 葵ってばー!」
後ろで二人が呼んでいる。
聞こえない。聞きたくない。
言い訳の言葉も。つくろいの言葉も。先輩の声も。


「結局、ここに来ちゃったな・・・」
町中をさまよって、私は学校の裏の神社にたどり着いた。
家には帰る気がしなかった。こんな嫌な自分のままで。
サンドバックを木に吊す。
重い・・・いつもは先輩と一緒にやっていたから。
私は強く頭を振ると、サンドバックにむかって打ち込みを始めた。
バシッ! バシッ!
こうしている間は無心になれる。本当の私でいられる。
先輩に好きだって言い出せない自分。それなのに独占欲でやきもちを焼いている自分。
そんな自分から自由でいられる。

バシッ! ドカッ!
どれくらい打ち込みを続けただろう。気づけば、激しい雨が降っている。
ビシッ! ガスッ!
止まらない。今拳を止めたら、泣き出してしまいそうだから。
ズルッ!
ハイキックを打とうとして、足を滑らせる私。そのまま、濡れた地面に横倒しになる。
「あはは・・・」
情けない。
強くなろうとしたのは本当。綾香さんを追いかけたいと思ったのも本当。
でも、今は先輩がいないと格闘技を続けたくなくなっている自分。
激しく降り続ける雨が、私の体を濡らしている。

もう帰らなきゃ・・・。
私は立ち上がろうとしました。
「えっ・・・?」
体が動かない。
思いに任せるままに無理をし続けたからでしょうか。私の体は立ち上がろうとする
私の意志に反して、ピクリとも動いてくれません。
雨はまだ降り続けています。このままじゃ・・・。
どんどん冷たくなっていく私の体。
「藤田先輩・・・」
最後につぶやいた言葉。最後の時に一緒にいて欲しかった人。
薄れていく意識の中、私は先輩の声を聞いたような気がしました。


暖かい。
小さい頃、お母さんに抱っこされていた時の感覚。
気が付くと、私は神社の御堂の中にいました。
私の横にいるのは、裸の藤田先輩。服が体の上にかけてあるけど、肩はむきだしです。
「えっ、えっ? きゃあ!!!」
びっくりして目を覆う私の顔を見て、安心したように微笑んでいる先輩。
「心配したんだぜ、葵ちゃん。いきなり逃げていくからさ」
探してくれたんだ・・・こんなに真っ暗になるまで。
気が付けば私の体も裸。幾重にも服がかけてある。
そうか・・・暖めてくれたんだ。
「いや・・・その、他に方法が思いつかなかったんだよ! ゴメン!」
「いいです・・・ごめんなさい。先輩。ご迷惑をかけて」
自然と先輩に寄り添う私。今の私はとても素直だ。
「あっ、あの・・・葵ちゃん?」
「私なら・・・いいですよ、先輩」
「だからさぁ!」
「先輩になら・・・」

ゴホン!

突然の咳払いに、ビックリして後ろを向く私。
「悪いんだけど、そういうのは二人の時にやってくれない?」
私の後ろにいたのは、やっぱり裸で寝ている好恵さん。
えっ? えっ? えっ?

「私! 初めてが3Pなんですかー!!!!」

ゴイン!
初めていただいた先輩と好恵さんのつっこみは、とても痛かった。

好恵さんはクラブでの練習中に足を痛めたらしい。それで、藤田先輩は好恵さんの
肩をかついで連れて帰っていた。私はそれを見て、一人で勘違いして・・・。
「どうしても、私も探す! ってさ。すごかったぜ、坂下の奴」
ニヤニヤしながら笑っている先輩。照れて向こうをむいている好恵さん。
「いろいろ探してさ、格闘技をやっている奴なら格闘技で迷いを払うはずだって。
坂下なんだぜ、ここを探そうって言ったの」
好恵さん・・・。
思わず涙ぐむのがわかる。私って、なんてバカなんだろう。
「・・・綾香にも連絡しとかないとね。えーと、もしもし。あやかぁ?」
私の方は向かないで、そのまま携帯電話をかける好恵さん。
「俺もみんなに連絡しとかないとな。えっと、もしもし。レミィか?」
・・・もしかして、私いろんな人に迷惑かけちゃったんですか?

「すっ、すみませーん!」

思わず立ち上がって謝る私。
バサバサバサ。
三人にかけてあった服がまくれ上がる。
目を皿のように丸くしている先輩。
「きっ、きゃああああああ!!!!!!!」
「どっ、どうしたのよ・・・って、きゃああぁあああ!!!!」
「やだぁ! なんで先輩、そんなに元気になっているんですかぁ?!」
「ばっ、バカ! はやくその蛇みたいなものしまいなさいよ!」
真っ赤になっている好恵さん。へー、先輩の言う通りだ。
「へっ、蛇って・・・ちょ、ちょっと待てよ、レミィ!」
「綾香? 綾香?! だから、誤解だってば!!」
「私、今日だったら大丈夫ですけど」
ゴイン!
だから、痛いんですってば、うう・・・。


神社の裏。関係者一同の前で正座させられている私と先輩、好恵さん。
「人が心配している時に、よくもまあ・・・(綾香)」
「手、足?(レミィ)」
「あなたがここまでの戦略家だとは予想外でした・・・(琴音)」
「どうしようか、浩之ちゃん?(あかり)」
うう・・・なんか誤解されてる。
正座させられてお説教だなんて修学旅行みたい。
(ボソ・・・)
隣で正座させられている好恵さんが私になにかささやきました。
(大丈夫。負けていないわよ)
(えっ?)
(格闘を恋愛ができないって言い訳にしたら、承知しないよ)
好恵さん・・・。

「ちょっと! 葵、好恵! 聞いているの!!」
「「はいっ!」」
綾香さんに怒鳴られながらも、私の顔は笑顔だったと思う。

「足が痛てえ・・・」
先輩! 私、負けませんから!

---------------------------------------------------------------------
葵の扱いが酷いというご意見をいただいたので、SSの参考にさせていただきました。
どうもタイトルから長編だと思っていらっしゃる方が多いようですが、「宮内さんの
おはなし」は全て一話完結のSS集です。
それと、レミィは毎回出てきておりますが、必ずしも彼女が中心というわけではなく、
今回のようにチョイ役のSSもたくさんあります。

では、感想、苦情、リクエストなどがございましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで。私は速筆駄文(一時間くらい)なので、リクエストをしたら大変でしょうから、
という遠慮は無用ですよ、GRITさん。

ではでは。