宮内さんのおはなし その十四 投稿者:AIAUS 投稿日:4月13日(木)12時48分
「あっ。おーい、瑞穂ちゃーん!」
あかりが私の姿を見つけ、遠くから駆けてくる。
うーむ、なんかあかりって本当にワンコみたいだよね。

私の名前は藍原瑞穂。この学校の生徒会で会計をやっている以外には紹介すること
もない、地味な高校生だ。
私に向かって駆けてくるのは、友達の神岸あかり。以前は私と同じように地味だった
けど、髪型を変えてからはイメージが変わった。男子の中でもかわいらしくて性格の
いい彼女を慕う人は多い。

「どうしたの、あかり?」
私とあかりは友達だけど、普段は一緒には帰らない。あかりには特別に仲のいい三人
の友達、藤田君と佐藤君、長岡さんがいるからだ。あの四人の仲は特別で、私はその
輪の中に入ろうとは思わない。
あかりは私に追いつくと、息を切らしながら言った。
「浩之ちゃん、今日は用事があるんだって。だから、一緒に帰ろうよ、瑞穂ちゃん
プッ!
「あれ、なんで笑ってるの?」
「だって、あかりがあの藤田君を「ちゃん」付けで呼ぶから」
藤田君は男子の中でも大柄で、態度はぶっきらぼう。怖いというイメージはあるけ
ど、どう考えても「ひろゆきちゃん」ではない。
「えー、おかしくないよ。浩之ちゃんは浩之ちゃんだもん!」
ププッ!
私はあかりのこういう子供っぽいところが大好きだ。
「わかった、わかった。「ひろゆきちゃん」ね」
「あー、バカにしてるー!」
私とあかりは、そんなふうに他愛のない話をしながら、帰り道を歩いていった。


「あー、みずほお姉ちゃん!」
大きなボールを抱えたまま私の方に駆け寄ってくるのは、近所に住んでいる新城さんち
の娘のさおりちゃん。たしか、来年小学校に上がるはずだ。
コテ!
「わっ、たいへーん!」
あかりが全然大変じゃなさそうな悲鳴を上げているうちに、私はさおりちゃんに駆け寄る。
「うっ、ううぅぅ・・・」
今にも泣きそうになっているさおりちゃんを抱き上げると、私はその頭を撫でた。
「ほーら、さおりん。それぐらいじゃ泣いちゃ駄目だぞー」
「ぐす、ううっ・・・」
「ほら、ほら。泣かない、泣かない」
私がしばらく頭を撫でていると、さおりちゃんは落ち着きを取り戻したようだ。
「うん。さおり、泣かないよ!」
いつもの太陽みたいな笑顔。やっぱり、さおりちゃんは笑顔が一番かわいい。
???
あかり、なんで笑っているの?

「・・・だって、瑞穂ちゃんって鉄の女ってイメージがあったから」
デコピン三回で理由をはいたあかり。あかりはたまにとんでもないことを言う。
「ううー、だからデコピンはいやだってばー。ゆるして、瑞穂ちゃーん」
まったく、しょうがないな、あかりは。

あと、九十七回残っているのに・・・。

と、私がデコピンの素振りをしていると、私の袖が後ろから引っ張られた。
「だれ?」
「・・・瑞穂おねえちゃん」
私の背中にいたのは、やはり近所の長瀬さんちの息子の祐介君。さおりちゃんと同い年。
女の子みたいなかわいい顔の男の子で、バレンタインデーの時とかは大変らしい。
「どうしたの、祐介君?」
「とって」
祐介君の背中には、ランドセルみたいにしがみついているさおりちゃんの姿。
「やだー、祐君! おんぶしてよー!」
さおりちゃんは祐介君のことが大好きで、いつもべったりくっついている。祐介君
はそれが恥ずかしいのか、いつも迷惑そうだ。
「ほら、さおりん。祐介君がいやがってるでしょ」
ひょいと私がさおりちゃんを抱え上げると、さおりちゃんはジタバタと暴れた。
「やだー、あいしあうふたりをひきさくのー!」
なにを言ってんだか。
「駄目だよ、さおりん。瑞穂って鉄の女だから」
口元を押さえながら、とんでもないことを言うあかり。
「あたし、まだおんなをすててないもーん!」
あかり、さおりちゃん・・・・・・。

「うえーん、ごめんなさーいぃ」
「ううぅ、もうしませーん」
私は赤くなった人差し指を濡れたハンカチで冷やしながら、祐介君に謝った。
「ごめんね、ほったらかしにして」
「いいよ。ありがとう。とってくれて」
いつものポーカーフェイスでお礼を言うと、祐介君は砂場へと駆けていく。
「あー、待ってよー、祐くーん!」
全然こりずに、後を追いかけていくさおりちゃん。
それを見て、優しく微笑む私とあかり。
「なんか、子供の頃を思い出すよね」
「あかりの子供の頃って、あんな感じだったの?」
「うん!」
嫌がる藤田君の後ろをついていくあかり。でも、それって・・・。
「今と変わってないじゃん」
「あー、ひどーい!」
そんなふうにしばらくあかりと公園でじゃれあった後、私は家に帰った。


日曜日の商店街。
今日は夏物のバーゲンがあるというので、あかりと一緒にひやかしに来た。
「ねー、瑞穂ちゃん。これいいよねー」
「うん。でも、こっちの色もいいよねー」
洋服を体に当てて、クルクルと回る私達。いかにも厳選しているようだが、実は買う
つもりはない。ごめんね、店員さん。
あれ・・・?

デパートの婦人服売場に、藤田君の姿。
おかしい。男の子はここには用事なんてないだろう。
私があまりよくない視力でがんばって観察してみると、藤田君のとなりには金髪の
女性の姿。えっと、留学生の宮内レミィさんだっけ。
私は振り向いて、後ろにいるあかりに教えてあげることにした。
「ねえ。あかり、藤田君がいるよ」
「浩之ちゃん・・・」
手にした服を床に落とすあかり。その顔色は青い。
何かあったのかと思ってまた藤田君の方を向くと・・・。

あっ・・・。

藤田君と宮内さんはキスをしていた。遠くからではよくわからないけど、藤田君は少し
かがんで、宮内さんに顔をくっつけている。
ダッ!!
「あかりっ! あかりー!」

あの後、あかりはデパートから走って出ていった。外はもう暗くなっている。
家に電話をしてみたが、あかりはまだ帰っていないという。
かなりショックだったみたいだ。
だって、幼稚園の頃から好きだった男の子が、目の前で他の女の子とキスをしていた
んだもの。恋愛の経験がない私にだって、その傷の深さは想像できる。
「まったく。藤田君も藤田君よねー」
私はブツクサ文句を言いながら、あかりを探していた。これは二人の間の問題で、
私は関係ないことだってわかっている。でも、あかりは私の大切な友達だ。
「あかりー! どこにいるのー!」
デパート周辺は十分探した。これは家に帰っているか、それとも別のどこかで落ち
込んでいると考えるのが自然だろう。

あっ、やっぱりここにいた。
「・・・・・・・」
あかりがいたのは公園のブランコだった。落ち込む場所まで子供っぽい。
「ほら。帰ろうよ、あかり」
私が手を引っ張ると、あかりは力なく首を振った。
「ここにいたって、気持ちが暗くなるだけだよ、ほら」
あかりは動かない。相当、傷つけられたようだ。
仕方がないので、私は隣のブランコであかりが元気になるまで待つことにした。

一時間後。
「・・・ねえ、瑞穂ちゃん」
「なに?」
「幼なじみって、恋人にはなれないのかな・・・」
そういうことを聞かれても困る。私は恋愛の経験がない。
「藤田君と宮内さんがそうだって決まったわけじゃないでしょ」
「でも、キスしてたんだよ・・・」
「あっちじゃ挨拶みたいなもんでしょ」
「レミィが他の人にキスしているとこ、見たことないよ・・・」
むー、困った。説得する材料がない。

「お姉ちゃん。泣いているの?」
突然、私達の前に小さな女の子が現れた。
「「きゃあっ!」」
私とあかりはビックリして、ブランコからずり落ちる。
あ・・・えっと、近所の月島さんちの瑠璃子ちゃん?
「驚かせちゃったね」
私達二人が尻餅をついているのを見て、瑠璃子ちゃんはクスクスと笑っている。
「だっ、駄目だよ。こんな遅くまで遊んでちゃ」
「お姉ちゃん。泣いていたの?」
あわてて赤くなった目をこするあかり。瑠璃子ちゃんは感情の読みとれない目で、
じっとあかりを見ている。
「泣かないでいいのに。変なお姉ちゃん」
よくわからない言葉に、困惑する私とあかり。

「イヤリング。お兄ちゃんにそう聞いてみて」

瑠璃子ちゃんはそう言い残すと、尻餅をついたままの私達をおいて、自分の家へと
駆けていった。
「イヤリング・・・?」
婦人服売場。藤田君と女の子。イヤリング・・・。
「あー、なるほどね」
あかりはまだわかっていないようだ。
「えっ、あの、どうなったの?」
「いいから。ほら、あかり。今日のところは帰りなさい」
私があかりの手をつかむと、やっと素直に立ち上がった。


翌日の帰り道。
「えへへー!! ぶいっ!」
昨日の泣き顔がどこにいったのやら。あかりはとても上機嫌だ。
「もうー、浩之ちゃんったらー」
ハイテンションなあかりの耳に光るのは、かわいらしい銀のイヤリング。
藤田君が昨日、デパートで買い求めていたものだ。
横にいた宮内さんは多分、アクセサリーの見立てにつき合っていたのだろう。
宮内さんにイヤリングをつけて選んでいた藤田君の姿を後ろから見て、私達はキス
をしていると勘違いしたのだ。
「それでねー、瑞穂ちゃん・・・もう。ちゃんと聞いているのかなー?」
イヤリングをプレゼントされた時のあかりの喜び様は凄かった。その場で藤田君に
抱きついて、ほっぺただけどキスをしたのだ。みんながまだ帰っていない、放課後
の教室で。藤田君は逃げるようにダッシュで帰ってしまった。
「やっぱりわかんないよねー。好きな人にプレゼントをもらう嬉しさって」
ぷち。

指が痛い。
私は赤く晴れ上がった指を公園の蛇口で冷やしていた。
「・・・瑞穂お姉ちゃん」
あれ、祐介君と瑠璃子ちゃん?
珍しい取り合わせだよね。
「・・・もう、泣いてないよね」
多分、私は持っていない力。不思議な力を持つ女の子は、私にそうたずねた。
「ありがとう。瑠璃子ちゃん。あかり、すごく喜んでいたよ」
その後、私に泣かされていたが・・・。
「あー、瑠璃子ちゃん! 駄目だよ、祐君もっていったらー!」
元気な声で駆けてくるのはさおりちゃん。ふふっ、やきもちかな。
私は久しぶりに晴れやかな気分で、晴れ上がった春の空を見た。

----------------------------------------------------------------------
おまけ

「祐君は駄目だよ。女の子を泣かせたら」
「うん。二人とも幸せにするよ」
???
「恋愛って、タブーがある方が燃えるよね」

その日、私は初めて祐君の泣き顔を見た。
かわういかもしれない。(ショタコン)

---------------------------------------------------------------------
PS版の東鳩の「あかりがねんざ」イベントで出てくる瑞穂似の女の子。あの子、
あかりを「あかり」って呼ぶんですよね。まあそれで、雫の瑞穂とは違う、きつめ
のキャラクターにしてみました。分析癖とかはそのままで。

メールくれた方にはリクエストSSをサービスしておりますので、感想、苦情、意見
などをお待ちしております。

ではでは。