宮内さんのおはなし その十参 投稿者:AIAUS 投稿日:4月12日(水)10時48分
「ヒロユキは幽霊って信じる?」
放課後の教室。することもなくだべっている俺に、レミィは無邪気な顔でそんなことを
聞いてきた。まー、こないだまでの俺なら、幽霊なんて信じなかっただろうけどなー。
「信じる、というよりも現実にいるぜ、幽霊って」
「OH! Ghostを? ヒロユキ、見たことがあるの?」
ある。オカルト研究会の部室の中での降霊会、あの時に聞いたラップ音とうごめく
白いモヤは、自然に発生するもんじゃねえ。それがいわゆる幽霊なのか、っていうと
断言はできねえけど、確かに、この世には目に見えないなにかが存在する。
「聞かせて、聞かせて。オバケの話」
うーむ。先輩は人に話すなって言っていたしな。
俺がレミィにせがまれて困っていると、クラスメートの男子が俺を呼びに来た。
「藤田ー! 三年の女の人が、お前に用事があるみたいだぜー!」
あれ、今日は何か約束があったっけ?
レミィは俺の話を聞きたいらしく、まだ腕をつかんでいる・・・おお、そうだ!
「レミィ! オバケを見たくねえか」
「What? オバケ?」
「ああ、本物のオバケだ」

予想通り、俺を廊下で待っていたのは来栖川先輩だった。
「......」
今日は天気予報が外れて晴れました。
「......」
降霊の儀式が可能ですが、今日の夜は開いていますか?
やっぱり。先輩から俺を呼び出すのはそういった関係だろうしな。
「ヒロユキ?」
レミィが俺の袖を引っ張るので、俺は先輩にレミィのことを切り出した。
「レミィも幽霊が見てみたいって言うんだ。連れていっていいかな?」
先輩は少しの間だけ考えた後、こくりとうなずいた。

「Oh! Witch's room! 」
オカルト研究会の中にある頭蓋骨のレプリカ(だよな)、謎の生物の標本(謎?)、
うねうねと動く植物(見なかったことにしよう)などを見て、はしゃぐレミィ。
「ねえ、セリカ先輩。なに、これなに?」
俺は困っている先輩を見かねて、レミィに釘をさした。
「ほら、先輩がこまっているじゃねえか。おとなしくしていろ」
「・・・ハーイ」
しょんぼりするレミィ。感情表現が激しいのは相変わらずだ。
考えてみれば、レミィと来栖川先輩って正反対だなー。太陽と月というか、陰と陽と
いうか。綾香はあれで先輩に似ているところがけっこうあるもんだが・・・。
俺がくだらないことを考えていると、先輩は無言で暗幕を閉めた。
「真っ暗デース!」
「.......」
大騒ぎするレミィと、無言でロウソクに火をつける先輩。
うーむ、正反対だ。。
先輩は俺とレミィを長椅子に座らせ、自分はいつもの魔術師の格好に着替えると、
アイウエオ順に五十音が書かれた布をテーブルの上に広げる。
「こっくりさん?」
俺が疑問を口にすると、先輩はこくこくとうなずいた。
「でも、これって日本の儀式じゃねえの?」
「・・・・・・」

先輩の説明では、この種の儀式はテーブルゲームという西洋で生まれたものが先祖で
日本では明治時代から入ってきたものが「こっくりさん」として普及したのだそうだ。
なるほど、黒魔術の歴史も奥が深いぜ。

「ヒロユキ・・・セリカ先輩、何を言っているの?」
ああ、レミィには聞こえねえんだよな。俺はかいつまんで説明すると、ようやく納得
したようだ。
「セリカ先輩がこれからするのは、Summonのことネ」
サーモン? シャケがどうかしたのか?
「.......」
始めていいですか?
おっと、静かにしねえとな。

「...ab..ab..me.re.ce....ab..so..mele..fio...」

真っ暗な部室の中に響く呪文。ようやく、レミィも緊張してきたようだ。
ボっ!
突然、先輩の上に青い炎がともる。ヒトダマ・・・だよな。
レミィはびっくりして、そのヒトダマを指さして叫んだ。
「プラズマだヨ」
前言撤回。

「.......」
静かに! 召還した方の機嫌を損ねます。
ヒトダマにもいっちょまえに感情なんかあんのか?
よくわからなかったが、俺とレミィは先輩の言うとおりに静かにすることにした。


「......」
「えっと、コインに指を乗せてください・・・こうか?」
「OK?」
先輩が出したコインは俺達が「こっくりさん」で使うような十円玉じゃなくて、なに
かエイの絵が描かれた禍々しい黒いやつだ。
うーむ、なんかおっかねえ。そういえば、さっきからなんか肌寒いしな。
レミィもようやく緊張してきたのか、さっきから黙っている。
そして、先輩もコインの上に指を置き、ようやくこっくりさんの形になった。

「.......」
それでは知りたいことを質問して下さい。
先輩が俺達をうながす。
うーん。といっても、特に知りたいことってねえよな。明日の数学のテストの問題
くれえか。でも、召還された幽霊がそんなもん知るわけがねえし。
俺が悩んでいると、はっきりした声でレミィは質問した。
「ヒロユキは、私のことをどう思っていますカ?」

わー、そんなことは直接本人に、じゃなくて、先輩の前でそんなことを聞くんじゃ
ねー! 
あわてふためいている俺、頬を紅潮させているレミィ、だが先輩は無反応。
・・・うーむ、リアクションがないのも傷つくぜ。

スススー
前触れもなく、俺達三人が指を置いたコインが布の上を滑り始める。そして、先輩
の上に漂う召還霊の答えは・・・。

カ・ラ・ダ・メ・ア・テ

「「「・・・・・・」」」
沈黙につつまれる俺達。レミィの視線が怖い。
「セリカ! これ本当なの?」
こくこくとうなずく先輩・・・って、おーい! ちょっと待てー!
「ヒロユキ・・・」
カチャリと撃鉄が上がる音。俺は死を覚悟した。

「.......」
えっ、藤田さんは私のことをどう思っていますかって。
「そうだなー、放っておけないっていうか、守りたくなるっていうか・・・」
「ヒロユキに聞いたんじゃないよ」
器用に左手で俺にベレッタを突きつけるレミィ。ごめんなさーい!
スススー
コインは音も立てずに布の上を滑っていく。

オ・カ・ネ・メ・ア・テ

「...baldo..baldo..zamela..bale..」
「ヒロユキ、最初は腕、足?」
わー、ちょっと待てよ、おまえら! 俺にも質問させろー!

「レミィは俺のことをどう思っている!!」
スススー
エ・モ・ノ・チ・ャ・ン

「おい、レミィ」
「What?」
レミィは額に大粒の汗をかきながら、俺から目をそらしている。
「チガウ! チガウヨ、ヒロユキ! アタシを信じないの?」
「俺の時はあっさり信じたじゃねえか・・・」
自然と声が低くなる。このヤロー。
「あの、あのネ・・・そうだ。セリカ先輩はヒロユキのこと、どう思っているノ?」
ごまかす気だな、そうはいかねえ。
だが、コインはさらに衝撃的なニュースを、俺に伝えたのだった。

スススー
キ・ョ・ウ・ノ・イ・ケ・ニ・エ

「せんぱぁい」
思わず涙声の俺。
「アタシもデスカ?」
別のことを心配しているレミィ。
先輩はふるふると首を横に振る。
先輩は嘘はつかねえ、ということは・・・だ。


「最初からおかしな気配がすると思っていたんだよな」
俺は二人の指を払いのけてコインをわしづかみにすると、さっきから妙な気配のする
一角に叩きつけた。

バチィ!!!!!

火花のような閃光が飛び散る。
そして、俺達を見て楽しんでいた何かは、その姿を現した。
「Ghost!」
「下がってろ、レミィ」
俺は銃を構えるレミィを押しのけて、壁から染み出てきた白いモヤに殴りかかる!
バシィ!
手応えがないかと思いきや、俺が殴った幽霊はダメージを受けている。
「...de...ga..malice!」
先輩の放った呪文の閃光がひるんだ幽霊をつつむと、さっきまでの薄気味悪い気配
は嘘のように消えてしまったのだった。

「幽霊はいなくなったの?」
ボっ!
先輩の上で自己主張しているヒトダマ。あれ、じゃあさっきのは?
「.......」
「えーと、さっきのは幽霊ではなくて、悪魔の一種です」
えー!
「ヒロユキ、デビルをやっつけたの?」
びっくりする俺とレミィ。悪魔と幽霊じゃあ恐ろしさが段違いだ。
「.......」
儀式と正反対の答えを教えて憎み合わせ、その憎悪を見て楽しむ悪魔です。
ははぁ、なるほどね。日本のこっくりさんもキツネが憑くとかいうもんな。そんな
悪魔がいてもおかしくはねえのかも。
俺が納得していると、レミィはなにか考え込んでいる。
「どうした、レミィ?」

「カラダの正反対ってココロだよね、ヒロユキ」
急に当たり前のことを聞いてくるレミィ。
「当たり前じゃねえか」
「それじゃあヒロユキは、アタシのココロが欲しいのネ!」
うん? そういうことになるのか?
「I love you!」
俺に飛びつこうと間合いをつめるレミィ。
わー、だから、先輩の前じゃ嫌だって!
ムギュ!

先輩が俺の足を踏んでいる。動きを止める、俺とレミィ。
「...お金ではないのですね」
レミィにも聞き取れる大きさで、はっきりと言葉を口にする先輩。
そして、じっと俺の目を見る先輩。
その顔は紅色に染まり、俺の言葉を待つ。

「ヒロユキ!」
「.......!」
レミィと先輩は俺の腕をつかんだまま、一歩も譲り合わない。
あー、腹減ったー。
ため息をついて、俺は先輩の頭に浮かぶヒトダマを見る。

おい、幽霊。おまえ、この始末どうしてくれるんだ?
俺が恨んだような目でヒトダマを見ると、そいつはバツが悪そうに揺れた後、消えち
まったんだよ。トホホ・・・。

この後、先輩が「意見をはっきり言える薬」を俺に飲ませて俺が失神するまで、
二人の押し問答は続くことになった。
正反対って言ったけど、無茶するところは変わんねえよ。
まったく、しょうがねえなあ(こいつが一番悪い)。

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おまけ

「大丈夫かいな。藤田君」
「よお、いいんちょ。あいかわらず大きなデコだな」
メキ!
先輩の作った薬のおかげで、俺の入院は二週間延びた。
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さて。来栖川先輩のSSです。
でも、悪魔って素手で殴れるもんなんだろうか。
黒魔術の歴史うんぬんは創作ですので、つっこまれてもお答えできません。

ではでは。