宮内さんのおはなし その十弐 投稿者:AIAUS 投稿日:4月12日(水)05時12分
私の名前は姫川琴音。

望んだわけではないのに、私は人の持たない力を持って生まれてきました。
不吉な事件ばかりを言い当てる私を、みんなは疫病神と呼んで避けていました。
仕方がないのでしょう。
私も自分の赤い瞳を、不気味だと思っていましたから。

彼の名前は藤田浩之。
ひとりぼっちの私に、大きくて暖かい手を差し伸べてくれた人。
馬鹿な私はその大きくて温かい手を何度も拒絶し、時には傷つけてしまいました。
それでも、浩之さんは私にむかって大きくて暖かい手を伸ばしてくれました。

私は恋をしている。
狂おしいほど、彼に恋をしている。



食堂。私は友人の葵さんと一緒に、遅いランチを取っています。
「ほへで、ひょふはほふひはの、ほほへひゃん」
「葵さん。お願いだから、カツ丼を口一杯にほおばりながら話さないで」
軽い頭痛を覚える私。どうして、私より小さい体の中にカツ丼が五杯も入ってしまう
のでしょう? 六杯目も平気でパクパク食べているし。
エコロジーの役に立たないかしら。産廃施設とかで・・・。
「プハッ! それで今日はどうしたの、琴音ちゃん」
私の妄想は、カツ丼を食べ終わった葵さんの言葉に遮られました。
いけない、いけない。今日は大事な話があるのです。
「話というのは他でもありません」
「・・・藤田先輩のこと?」
・・・少し警戒した面持ちで私のことを見ている葵さん。
そう、私達は友達ですが、同じ人を好きになった恋敵でもあります。
「はい。葵さんの健啖家ぶりを鑑賞しに来たわけではありません」
「ケンタンカって何?」
「元気があってかわいい人、という意味です」
私の言葉に照れる葵さん。本当はよく食べる人という意味ですが。

「あー、そうじゃなくて、駄目だよ。琴音ちゃん。藤田先輩にはあかり先輩がいる
んだから。ひっかき回すようなことをしちゃ迷惑だよ」
この筋肉娘は何を言うのでしょうか。戦争と恋愛にはあらゆる手段が許されています。
他人から奪うことだって、恋愛の一つの形です。
まあ、この写真を見れば、葵さんも考えを改めるでしょう。
「これを見てもらえますか」
そう言って私は、数枚の写真を机の上に広げました。
写っているのは、浩之さんに抱きついている金髪の女。他には、白昼堂々と廊下で
浩之さんを押し倒したり、頬にキスをしたり。許されない行為です。(自分棚上げ)
「・・・・・・・」
見れば、葵さんも肩をふるわせて怒っています。
そうですよね。私も未だにその写真を見ると、能力が暴発しそうになりますから。
「琴音ちゃん!」
どうやら、スムーズに交渉がすすめられそう。フフフ・・・。

「写真が趣味だったんだね!」
ズリッ!

私は鼻の頭を思いっきり机にぶつけてしまった。いたひ・・・。
涙目の私を見て、心配そうに声をかけてくれる葵さん。
「琴音ちゃん。頭突きの練習をする時は、布を当ててからしないと・・・」
ちがうっ! 食堂にある机、全部ぶつけちゃろうかっ! 
・・・いけない、いけない。この筋肉娘と交渉するために私はここにいるのです。
セルフコントロール、セルフコントロール・・・よし。
 
「この方は宮内レミィさんです。最近になって、必要以上に浩之さんにアプローチ
をし、大変な迷惑をかけている女性です」
「知ってる! すごくきれいな金髪の人だよね。確かアメリカ出身の日系ハーフ。
明るくて楽しい性格で、クラスの男子の中でもファンの人が多いって言うよ」
なにを言っているのでしょうか・・・葵さんは格闘家を志しているのに、危機管理
能力というものが欠如していますね。
そのすごくきれいで明るい金髪の女性が自分の恋敵になった場合、どう対処する
のでしょう? この場合は、「きれいで明るい人だけど、外人だからすごく毛深い
らしいよ」ぐらいの情報操作はおこなっておくべきだと思います。

「えっ、なに? 手を組まないかって?」
「はい。浩之さんに迷惑をかけないように、宮内さんが彼に近づけないようにしたい。
そのためには葵さん。あなたの協力が必要です」
あくまで低姿勢の私。葵さんは少し照れながら、私にたずねてきた。
「それで、私はなにをすればいいの?」
よし! 策にはまった!

「葵さんにはポイントマンを努めてもらいます」
「ポイントマン?」
「軍事用語で、小隊の一番先頭を任される重要な任務の人のことを言います」
「なっ、なんか凄そう!」
はい。死亡率も六十%で凄いです。
「それで、私はポイントマンとしてなにをすればいいの?」
「浩之さんにレミィさんが近づいた瞬間、「危ない!」と叫んで彼女に崩拳を入れて
下されば結構です・・・」
「そっ、そんな! 素人にそんなことできないよ!」
「大丈夫。私が超能力で威力を弱めますから」
「でも・・・」
「葵さん。私は葵さんがポイントマンにふさわしいと思ったから、この危険な任務
を任せようと思ったんですよ」
葵さんはしばらく考え込む。早くして、もうチャイムが鳴ってしまうわ。
「わかりました! ポイントマンですから!」
フフフ・・・。
ポイントマン。戦場の先頭を歩く者。
言ってみれば将棋の歩。
葵さん。あなたは私の捨てゴマです・・・。


放課後になって。
私は所定のポイントで浩之さんとレミィさんを待ちかまえる。体操着姿の葵さんも
一緒だ。って、なんでそんな目立つ格好を!
「だって、制服で激しい動きをしたら破けちゃうじゃない!」
いけない、いけない。せっかくの捨てゴマの機嫌を損ねては。
もうすぐ鉄格子越しにしか葵さんの顔が見られなくなると思えば、我慢できます。

来た!
教室から出てくる浩之さんにタックルしようと、廊下で待ちかまえているレミィさん!
ちょっと前かがみになったその姿は、金色のタテガミのライオンにも見えます。
「大きいよね、レミィさん」
なぜか私の胸を見ながら言う葵さん。
「ええ、倍近くありますね」
葵さんの胸を見ながら言い返す私。
二人の間で飛び散る火花・・・。

・・・ハッ!

いけない、いけない。こんなところで内輪もめをしていたら、せっかうのチャンスを
逃してしまいます。私は葵さんに目で合図をしました。

「今ですっ!」
「はああああぁあああっ!」
裂帛の気合いを込めて、レミィさんに突進していく葵さん。レミィさんは浩之さんに
注意が向いていて、完全に無防備!
キィィィィィィイイインンン!!!
私はこの時のためにチャージしていた力を、葵さんに放射! さらに突進が加速されて
威力が数倍増した葵さんの崩拳が、レミィさんの脇腹に命中する!

バガシッ!

軽く五、六メートルは宙を舞うレミィさん。
やった! 完全にしとめた!
「えっ、えっ? 私、そんなに強く打ってないのに?」
自分に何が起こったのかわからず、パニックを起こしている葵さん。

私の作戦の目的は、目障りなレミィさんと葵さんの共倒れを狙うことでした。
これでレミィさんは再起不能。葵さんは豚箱行きです!
フフ、フフフフ・・・。
いけない。浩之さんに見られたら、疑われるかもしれない。
私はハッと気づいて、愛しい浩之さんに熱視線を送りました。
あれ、なんで私にブロックサインを送っているのでしょうか?

ア・ブ・ナ・イ、ハ・ヤ・ク・ニ・ゲ・ロ。

「えっ、ええっ? どういうことですか、浩之さん?」
思わず浩之さんの方へ駆け寄りそうになった私の目に入ったのは、ゾンビのように
ゆっくりと立ち上がるレミィさんの姿・・・。
「対アヤカ用の特注ボディアーマーが役に立つとは思わなかったヨ」
え? え? え? どうなっているの?
 「今日の獲物チャンはfighter dogとsilver fox。得物はベレッタね・・・」
イヌ? 葵さんのこと? 銀ギツネって・・・まさか・・・?

BANG! BANG! BANG!

「なっ、なんで私までー!」
「これも将来のコヤシになると思えばー!」
「だから、一緒にしないでってばー!!!」
わー、どうしてこうなるのー!
神様、助けてー!(ご都合女)

私と葵さんがレミィさんの銃撃から逃れ、無事に社会復帰を果たしたのは、それから
三日も後のことでした。
策士、策におぼれる・・・本当だったのね・・・ガクっ。

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東鳩狂四朗さんより、「性格の悪い琴音ちゃんが見てみたい」とのことでしたので、
チャレンジしてみました。いや、結構動いてくれますね。琴音ちゃん。

あかすりさん、毎回感想ありがとうございます。なんとか質を落とさないように
がんばっていこうと思いますので、なにとぞ今後ともお引き立てのほどを。

ではでは。