宮内さんのおはなし その十壱(VER.1.01) 投稿者:AIAUS 投稿日:4月11日(火)09時22分
学校の帰り道、俺とあかりは公園で泣いている、小さな女の子を見つけた。
「うえーん、うえーん!」
「どうしたの、転んじゃったのかな?」
おせっかいなあかりが女の子に声をかける。
しょうがねえなあ。
よく見ると、泣いていた女の子はこの前のガキンチョだった。たしか、名前は
「さおり」だったかな。
「おう。さおりじゃねえか。どうした?」
おれがしゃがみこんで顔をのぞきこむと、さおりは木の上を小さな指で指した。
うん? また猫か?
「祐くーん、祐くーん!」
ゲゲゲっ!
公園で一番高い木の枝に、さおりと同じくらいのガキンチョがつかまって震えている。
やばい。猫なら高いところから落ちたって死にはしないが、あんな子供が落ちたら
骨折ぐらいはしちまうぞ!
「...どうしよう、浩之ちゃん」
青くなって俺の方をみるあかり。
「あかり。俺の肩の上に乗れ!」
前に太助を助けた方法でやってみよう。
「そんな。浩之ちゃんを踏むなんてできないよ」
ためらうあかり。俺はあかりの体を持ち上げると、肩車の要領で体を持ち上げた。
「きゃっ!」
「悲鳴はいいから! 早く立ち上がれ!」
俺の剣幕に驚いて、祐君とかいうガキンチョがつかまっている木を支えに、あかりは
俺の肩の上に立った。
「駄目...とどかないよ」
くそっ! 駄目か!
「祐くーん! 祐くーん!」
「浩之ちゃーん...」
はしごかなんかあれば...いや、あともう一人いれば届く。
「何しよるん、二人そろって」
不思議そうに遠くから俺たちを見ている委員長。
「ハシゴだー!」
「あわ、あわ、あわわわ! 怖いよー!」
俺はあかりを肩に立たせたまま、委員長の方へ駆け寄った。

第二次祐くん救出作戦。
「誰がハシゴやねん...」
「まあまあ。人助けだろ」
俺が一番下になり、その上にあかりを立たせ、さらに委員長を立たせる。
よっし、これで完全に届くはずだ。
「うー、重いー」
「神岸さん、言いにくいことはっきり言うなあ」
委員長のつっこみに、プルプルと首を横にふるあかり。
「嘘や。まかしとき。あの坊主はうちが助けてやるさかい」
委員長は器用に枝葉に手をかけると、木の枝につかまっているガキンチョに手を
のばした。
「ほうら、ボン。お姉ちゃんが助けにきてやったでえ」
俺は一番下だから見えないけど、たぶんにっこり笑って祐君に手を差しのべている
委員長。震えている祐君は、一言だけしゃべる。
「大阪の人?」
「うちは神戸や!」
突然、大声を上げる委員長。あかりがびっくりして体勢を崩したため、俺達三人は
バランスを崩して倒れ、仲良く木の下に積み重なることになった。
「お兄ちゃんたち...大丈夫?」

「いいんちょ...」
「保科さん...」
ジト目で委員長を見る俺とあかり。
「すんまへん。ほんま、ほんまに堪忍したって。条件反射なんや」
両手をそろえてペコペコ謝る委員長。
しかし、委員長の大声に驚いたのか、あの祐君とかいうガキ、さらに高い場所まで
登っていやがる...あー、これはもうレスキューでも頼んだ方がいいかなー。
「祐くーん! そんな高いところから落ちたら死んぢゃうよー!」
途方にくれる四人。
「どうしたの、ヒロユキ?」
そんな俺達に声をかけてきたのは、レミィだった。


第三次祐くん救出作戦。
まず委員長の肩の上にあかりが乗る。さらに、その下からレミィが持ち上げる。
そのレミィを俺が持ち上げれば、なんとか手ぐらいは届きそうだ。
「Let's try!」
レミィは二人を肩に乗せて、軽々と立ちあがる。おー、パワフルガール!
そして、俺は三人を肩に乗せ、立ち上がろうと...立ち上がろうと...したんだが。
「重すぎるー!」
よく考えたら、いくら木を支えにしているといっても、俺一人で三人を支えるのは
無理だ。肩が、腰が、足首が悲鳴を上げつつある!
「無理、無理だ。立ち上がれん! 三人とも降りてくれ!」
悲鳴を上げる俺。しかし、肩にかかる重量は全然変わらない。
「重いー! はやくどいてくれってば!」
「本当に立ち上がれないノ?」
「無理だって! こんなに重いものかついだことねえぞ! あー、重い!」
........?
気づくと、あかりと委員長はとっくに地面に降りていて、俺の肩の上に乗っている
のはレミィ一人。レミィは肩を振るわせながら、懐からなにか取り出そうとしている。
「アタシ、そんなに重いのデスカ...?」
流れる冷や汗。だが、立ち上がって逃げることはできない。
だって、本気で重いんだよ、この日系ハーフ!
あー、やめろ! 9mmパラベラムは嫌ー!
「あっ、浩之さーん! こんにちはー!」
「こんにちは、皆さん」
俺の危機を救ったのは、メイドロボの姉妹だった。


第四次祐くん救出作戦。
「まず、人間が直接、あの高所へむかうのには危険が伴います」
「おまえら、木登りとかできねえの」
「あうー、無理そうですぅぅ」
「あらかじめデータ検索を行っておりましたが、該当するデータはありませんでした」
うーむ、そうか。「木登り」なんてデータはねえよな。
「ですから、私は新しい計画を発案します」
「「「「「おおー!」」」」」
みんなの口から感嘆の声が出る。さすがは最新型! 頼りになるぜえ。
「名付けて、HMX-12打ち上げ計画」
「えー、私がロケットになるんですかぁ?」
表情が変わらないセリオと、びっくりして口を押さえるマルチ。
「??? ようわからんけど、説明してもらえるか」
セリオはポケットから蝋石(チョーク)を取り出すと、俺達に説明を始めた。

1.セリオがマルチを、祐くんがいる地点を通過する放物線軌道で投げる。
2.マルチが祐くんをキャッチする。
3.そのまま落下して祐くん救出作戦完了。

「「「「おおー!」」」」
「わっ、私は落下したら、どうなっちゃうんですか!」
パニックを起こしながらセリオに詰め寄るマルチ。
「下で私達が受け止めるため、祐くんは無傷で助かると予測されます」
「だ、だから、私はどうなるんですかー!」
涙目で訴えるマルチの肩を、セリオはポンと叩いた。
「人間のお役に立つのが、メイドロボの使命ですよ」
「いやぁあ! いやですぅうう! スクラップになるのはいやですぅうううう!」
「HM-13は大量生産されております。マルチさんの死は無駄にならないかと」
「そっ、そんな事故車のパーツ取りみたいなのはいやですぅううう!」
その後、俺達四人がセリオにつっこみを入れたのはいうまでもない。


他に方法が思いつかないので、人海戦術で攻めることにした。かたっぱしから電話
をかけまくり、暇な奴を呼びまくる。

「なんなのよー!(志保)」「大丈夫ですか、先輩!(葵)」「,,,,(芹香)」
「ずいぶん大騒ぎねー(綾香)」「ふん(好恵)」「なになに、藤田君(理緒)」
「はい、藤田さん(琴音)」「なに、浩之(雅史)」
「くわぁあああああああっつっつうう!」

最後のじじいの叫び声で、みんなが驚いてひっくり返る。
「お嬢様を電話で呼び出すとは不届き千万! 成敗してくれるー!」
「馬鹿野郎! てめえのでかい声で祐くんが落ちちまったらどうするんだ!」
セバスのじじいを黙らせて、俺は事情と対策を説明する。
要するに、一人で持ち上げなければいいんだよ。
俺は何段で祐くんに届くようになるか、セリオに計算を頼んだ。

第五次祐くん救出作戦。
「よし。俺とセバス、レミィが一番下な」
俺とセバスはすぐに肩を組むが、レミィは不満そうな顔をする。
「...どうして、男の子の雅史の下がアタシなノ?」
「それは体じゅ...身長の問題だよ。身長の問題」
「僕よりもレミィの方が身長が高いからね」
雅史、ナイスフォロー! ヤック一回、ご招待決定ー!
レミィはなにか英語で文句をいいながら、俺と肩を組む。
まず俺とレミィ、セバスが肩を組む。その上に綾香、坂下、雅史。さらにその上に
マルチ、セリオ、葵ちゃん。さらにさらにその上に、志保と委員長。またその上に
琴音ちゃんと先輩。さらにその上に理緒ちゃん。最後に、あかりだ。
「えー! 私が一番上なの! やだよ、怖いよ!」
びびって首をプルプルと横に振るあかり。
「バカ! あのガキンチョはその一番上と同じ高さにいるんだぞ」
俺はあかりの肩を揺さぶりながら、横にいるさおりを見る。
「うっ、うっ、祐くん。祐くん......」
もう叫ぶ元気もなくなって、地面にへたり込んでいる。
「あかり...」
あかりは少し迷った後、俺の顔を見つめていった。
「浩之ちゃん! 私、やってみるよ」
いよっし! さすがあかりだ!

六段重ねだったが、セリオは強度も計算していてくれたため、死ぬほどつらいという
わけでもない。だが、重いことは重い。
「おーい! まだかー!」
俺は上を見上げて、あかりに呼びかける。
「ちょっと待ってー!」

(ここから、あかり視点)
ううっ、怖いよー!
風がビュー、ビューって鳴っているし、やっぱり足下がグラグラするし。
でも、祐くんもこの怖さと戦っているんだもんね。がんばらなきゃ!
「ほら、祐くん。もう大丈夫だよー」
少し震えながら手を伸ばす私。
あれ、ちょっとこの子変だよ?
ブルブル震えているけど、顔は無表情でなんか携帯電話のバイブみたい。
「......あっ、やっとつながった。そう、瑠璃子さんはそこにいたんだ。うん、
わかってる。すぐにそばにいくよ」
何?
電波系の男の子?
私が不思議に思っていると、男の子は枝から体を滑らせる。
「あっ、危ないっ!」
思わず手を伸ばす私。そして、みんなのバランスが崩れた。

「こんなこともあろうかと、エアバックを搭載しておきました」
「あぅー。いつの間にこんな装備がー」
「今頃は大衆車でも常識ですよ」
「ですから、私は車じゃありませーん!」
まるでおすもうさんのようにふくらんでいるマルチちゃんとセリオちゃん。その
二人の上に落ちたので、私達は怪我をせずに済んだようだ。
「いたた、かなわんわ、ほんまに」
「痛い...どうして...」
それでも無傷というわけにはいかなくて、みんな思い思いのところを手でさすって
いる。
そうだ、祐くんは?
あの子は大丈夫なの?

「...高い場所にいると、よく届くんだよ」
「わけのわからんこと言っているんじゃねえ。自分で降りられるんなら、どうして
最初からそうしなかったんだよ!」
浩之ちゃんがものすごい剣幕で男の子を怒っている。
「浩之ちゃん、止めてあげて」
「馬鹿野郎! みんな怪我じゃすまなかったんだぞ!」
わかる、浩之ちゃんの言いたいことはよくわかるよ。だけど、今は許してあげて!

「赤、黒、白、黒、はいてない、花柄、紫、青のストライプ、赤、緑、黄色、青、
白、くま」

???
祐くんがいきなり、意味不明のことを言った。あれ、浩之ちゃんの顔が青くなって
いるよ。
「お前...なんでそれを...」
「あかりお姉ちゃんはくまさんだね」

くま。くまさん。赤や黄色、ストライプ、くまさん。
今日の私のパンツの柄は.......?
「私にあんな格好いいこと言っておいて、自分はずっとパンツ見てたんだ」
しかも、全員チェック入れてやがるし。
ゆらりと殺気が立ち登るのが、自分でもわかった。
「まっ、待て。あのガキのでっち上げだ!」
周りを見ると、みんな自分の銃やグローブ、鉄パイプ、宙に浮かぶ石、高分子ブレ
ード、モップなどを手にしている。
やっぱり、当たっているよね。
「...さよなら、浩之ちゃん」
私は自分の分がなくならないうちに、彼に殴りかかった。


「祐くーん! 大丈夫だった?」
「うん。大丈夫だよ、さおりん。それじゃ、いこうか」
手をつないで仲良く駆け出す子供達二人。
この幸せが、多くの犠牲の上に成り立っていることを、我々は忘れてはならない。

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おまけ

「ねえ、長瀬さん」
「セバスチャンでございます」
「セバスチャン。はいてないって誰なのかな。女の子ではいていない人はいないだ
ろうし、僕も黒のブリーフをはいているし」
「.......」
「まさか.......」
「男は越中にございますぅううううう!」

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やはり長い。
浩之ボコボコネタも飽きられているかもしれない。
さて、次はどう展開しましょうか。