宮内さんのおはなし その四 投稿者:AIAUS 投稿日:4月8日(土)11時54分
「ヒロユキ、メイド欲しいノ?」
学校の帰り道。レミィの家にメイドロボがいるという話をしていた。
「あー、俺もメイドロボ欲しいなー」
と言うと、レミィは興味津々といった感じで、そんなことを言ってきた。
「いや。だって、そうだろ。俺、今ひとり暮らしだしさ。家事をやってくれる奴
がいると、すごい助かるんだよなぁ」
俺が単身赴任のサラリーマンのようなことを言うと、レミィは嬉しそうに手を叩いた。
「じゃあ、アタシがヒロユキのメイドになるヨ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。レミィをメイドにするわけにはいかねえよ」
「Why? どうして? アタシ、ヒロユキの役に立ちたいヨ」
「だって、レミィにそんなことさせられねえよ」
「......アタシ、残念デス」
レミィはがっかりした顔で俺を見ている。や、やめてくれ。俺はその目に弱いんだ。
「いや、その、レミィが個人的に御飯とかを作りにきてくれるのはありがたいんだ
けどな。メイドになるっていうのは無理だろ」
「Really? ヒロユキ、アタシの料理、食べたいデスカ?」
「もちろんだぜ」
結局、明後日の土曜日に俺のうちに御飯を作りに来てくれることになった。
なにがきっかけになるか、わかんないもんだな。


土曜日。
ピンポーン!
チャイムが鳴る。さて、レミィの奴、どんな料理を作るのかな。
俺がドキドキしながら、ドアノブを回すと、そこには予想外の人物がいた。

「おはようございまーーす!」
「おはようございます、浩之さん」

なんでマルチとセリオがここにいる?
俺が疑問に思っていると、後からレミィがやってきた。
「Good morning! ヒロユキ!」
「グッドモーニング。レミィ、おまえが二人を呼んだのか?」
いつもの制服ではなく、青いメイド服でかしこまっているメイドロボ二人を指しな
がら、俺はそう言った。
「Yes! メイドの先生としてお呼びしました!」
うーん。
「今日はレミィさんがメイドの勉強をしたいというので、ご訪問させていただきました」
あいかわらず表情の変わらないセリオ。
「はい! 一緒にメイド道を究めるのですぅ」
あいかわらず明るいマルチ。
とほほ、せっかく二人っきりで手料理が食えると思ったのになぁ。
俺はちょっとがっかりしながら、三人を家の中に招き入れた。

「埃は空気中を漂うので、まず高い場所から掃除します」
おいしい食事はまず清潔な環境から、ということで三人は掃除を始めた。
「セリオ。これは燃えるゴミですカ?」
「はい。市の焼却炉で焼却可能なゴミです。来週の火曜日に投棄して下さい」
「セリオさーん。この雑誌は捨ててもいいんでしょうかぁ?」
「私の一存では決めかねます。浩之さんの指示を仰いで下さい」
うーむ、さすが来栖川の誇る高性能メイドロボ。マルチとレミィの面倒を見ながら、
てきぱきと自分の仕事をこなしている。ところで、何でレミィまでメイドの格好を
しているんだ?
「まず形から入るのは、日本人の常識ヨ」
さいですか。
掃除はすぐに終わり、料理を作ることになった。ほとんどセリオがやっているよう
だけど、まあいいだろ。こんな土曜日も悪くはないさ。

できあがった食事は予想以上のものだった。
「すげえうまそうだな。ありがとうな、レミィ、マルチ、セリオ」
テーブルの上に並ぶのは、ごはんに魚の蒸しもの、サラダ、スープ、黒い固まり。
黒い固まり?
「ムニエルは私が。サラダとスープはレミィさんが。ミートボールはマルチさんが
作りました」
「あぅぅ、すいませーん」
ああ、やっぱりマルチか。
「いいって、マルチは学習型だからな。そのうち上手くなるって」
焦げたミートボールをほおばりながらマルチの頭をなでてやった。俺を見る二人の目
がちょっと険しかったのは気のせいだろう。

食事も終わり、テレビなんか見ながら居間に座っている俺達。
「ああ。面白い番組ねえなあ」
チャンネルを変えながら、退屈そうにしている俺。

チュ!
いきなりセリオが近寄ってきて、俺のほっぺたにキスをした。
「......なっ、いきなりなにすんだよ」
「ヒロユキ! なにをしているネ!」
「あうぅう! セリオさーん!」
セリオの予想外の行動にパニックになる俺達。
「頬にさきほど食べた御飯粒がついていたため、きれいにさせていただきました」
俺から体を離し、しれっとした顔で言うセリオ。
「手で取ればいいでショ!」
「そうですぅ! 私達は御飯を食べるようには作られていませーんっ!」
俺はセリオの唇が触れた頬を手で押さえながら、怒っているレミィとマルチを見ていた。
けっ、結構ドキドキするな。

「これがメイド道です。レミィさん、マルチさん」

怒っている二人にむかって、セリオは普段よりも強い口調で言い放った。
「「メっ、メイド道?」」
声をそろえるレミィとマルチ。
「ユーザーにより長く愛されるようにメイドロボの間でつちかわれた技術の集大成。
それがメイド道です」
ババーン!
タイミング良くテレビから効果音が流れる。呆気にとられる俺、他二人。
「おい。お前らってまだ一歳にもなってないだろ......」
「遙かギリシア、ローマの時代から、メイドの歴史はさかのぼることができます。
メイド道はそのような先達の経験を良き戦訓とし、編み出された技術です」
チャララーン!
また都合良く、テレビから効果音が流れる。
ほんまかいな......。
二の句がつげない俺が助けを求めるように二人を見ると、レミィとマルチは尊敬の
眼差しでセリオを見ていた。
だっ、だまされている......。
「メイドって、奥が深いデース!」
「セリオさん、すごいです! 尊敬しますぅ!」
長瀬のおっさん、ウイルスでも仕込んだんじゃねえだろうな。
俺が疑いの目でセリオを見ていると、再びセリオは俺に近寄ってきた。
「どうなされたのですか、ご主人様」
そう言って、俺に必要以上に接近するセリオ。前屈みになるので、どうしても彼女の
胸が俺の視界に入る。
おおぉぉ!
「......と、このように普段より近いパーソナルスペースを維持することもコツの
一つです」
セリオが急に顔を離したため、体勢を崩す俺。やばい、目が釘付けになっていた。
「それでは、レミィさんがやってみて下さい」
げっ!
ちょっ、ちょっと待て!
「えーと、こうデスカ?」
そう言って、俺に接近するレミィ。ぐっ、セっ、セリオとは違った光景、迫力という
か青春の絨毯爆撃というか、とっ、とにかくレミィの胸が、今、俺の眼前に!
「とても効果的です。心拍数の大幅な増加が見られました」
「Oh! アタシにもメイド道ができるのネ」
また急に体を離され、体勢を崩す俺。
「次は私がいきますっ!」
「あっ、マルチさんは......」
セリオの制止を遮って、前屈みで俺に接近するマルチ。
シーン。
テレビも緊迫した場面で音も静かだ。
「どっ、どうですか!」
顔を真っ赤にして体を離すマルチ。今度は俺も体勢を崩さない。
「心拍数は平常と変わりません、効果がないようですね」
ガガーン!
テレビの効果音と一緒によろめくマルチ。おお、犯人と倒れ方までそっくりだ。
「なっ、なんでですかぁ! お二人にはできたのにぃ!」
「マルチさんのディフォルメされたデザインの胸では、効果がきわめて薄いことは
予測済みでした。申し訳ありません」
「あっ、あやまらないでくださーい!」
真っ赤になって怒るマルチ。けらけらと笑っているレミィ。
あー、びっくりした。セリオのやつ、本当にただの練習だったのか。
まあ、さすがの俺でもマルチの胸は守備範囲外だしな。
「ヒロユキのメイドはアタシの方がむいているみたいネ!」
なんて余計なことをレミィが言わなかったら、後の悲劇は回避できたかもしれない。
プチーン!
本当にタイミングいいな、このテレビ。
「こっ、こうなったら実力行使ですぅ!」
ソファーに寝そべっている俺の上にマルチは飛び乗ると、突然、俺の来ているシャツを
引っ張り始めた。
「おい、なんの真似だ、マルチ」
「よいではないか、よいではないかですぅ!」
また変な番組みたな、こいつ。
あらよっと。
ゴロンと俺が体を回すと、マルチと俺の体勢はそっくり入れ替わる。
「はっ、はわわわ!」
「しょうがねえなぁ」
俺に覆い被さられる形になったマルチは震えていた。
「すびばせーん!」
「怒っちゃいねえよ。気にすんな、お前にはお前のやり方があるんだからよ」
「あぅー、浩之さん......」
ババーン!(くどいけどテレビ)
「それです! それこそがメイド道の神髄です!」
見つめ合う俺とマルチを遮るように、セリオが突然、声を上げた。
「「「しっ、神髄?」」」
「意識せずして主人の好意を得ること。許されない失敗さえもが生活のアクセント
として許容されてしまうこと。それこそがメイド道の神髄です!」
なんか葵ちゃんみてえだな。今日のセリオ。
「Excellent! 尊敬シマース!」
「そっ、尊敬だなんて。えへへ」
腕立て伏せのポーズの俺の下からズリズリと抜け出しながら、照れるマルチ。
ああ、今日はなんか疲れる日だ。

「それじゃあ、こんなポーズも効果的なのネ」
「はい。心拍数の上昇が認められます」
「セリオさん! こんなポーズはどうですか」
「非常に効果的です。しかし、このようなアレンジも可能かと思われます」
それからの三人は、俺の前でいろんな悩ましいポーズを取ったわけで。
俺はまだ高校二年生なわけで。廊下ですれちがっただけで記憶に残るようなかわいい
女の子達が俺の前でそんなことをしているわけで。
はっきりいって理性にも限界ってものがあるわけで。

「もっ、もう、もう辛抱たまらんですたーい!」
「「「あれー、お戯れをー!」」」
ピンポーン!
俺が三人に向かってルパン飛びをかますのと、チャイムが鳴るのは同時だった。
なんだ、またテレビか?
俺がテレビの方に目をむけるとなぜか扉を開けて居間に入ってくる、あかりと綾香の
姿が目に入った。
「なにしてるの、浩之ちゃん」
なぜに?
「あんた、うちのセリオになにしてんのよ!」
あかりと綾香が俺の家に?
「なんかドタバタしているから、どうしたのかな、って思ったんだけど......」
「二人があんまり遅くまで帰らないから、迎えに来たのよ!」
はあ、さいですか。しかし、これにはやむを得ない事情というものがありまして。
なあ、三人とも。
「「「ご主人様が!!!」」」
おひ。
「「「私達は嫌だって言ったのに!!!」」」
ちょっと待て。なんで息ぴったりにシンクロしている。
「「「無理矢理あんなことやこんなことやそんなことを!!!」」」
「まだなにもしとらーーん!」
思わず口をついて出た魂の叫びは、あかりと綾香の耳にもしっかりと届いていた。
「なにかするつもりだったんだ」
「このくされ外道!」
あひーん!


「もしも奥様に発見された時は、あのような回避方法が有効であることが証明され
ています」
「効果てきめんですぅ!」
「はい。数多くの先達の犠牲の下に、この技術は開発されました」
「奥が深いのネ、メイド道」
机の下に隠れている三人はボコボコにされている浩之を見ながら、メイド道について
語り合ったのだった。

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おまけ。

来栖川邸の前に立つセバスチャンと長瀬祐介。
「祐介。今日はおまえに一子相伝の秘伝を伝えようと思う。その名も.......」
「しっ、執事道?」
ババーン!

おわり

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短くて面白いのって難しいですね。
才能がある他の作家さんがうらやましい。

ではでは。