宮内さんのおはなし その弐 投稿者:AIAUS 投稿日:4月7日(金)05時24分
「ヒロユキ! またゲームセンターに行こうヨ」
レミィがそう言い出したので、ゲームセンターに行くことになった。
あかりや志保を誘ったのだけれど。
「ごめん。今日は調べ物があるから」
「志保ちゃんってば、今日はヒマじゃないのよ。残念ねぇ」
と、断られた。なんか、最近あいつら、付き合いが悪いよな。
「Don't mind! 二人でも楽しいヨ」
レミィは相変わらずマイペースだ。マイナス思考をする回路がないっていうか。
琴音ちゃんと足して二で割ったら、ちょうどいいかもな。
そんなことを考えながら歩いていると、レミィが思いついたように言った。
「今日はShotingじゃなくて、別のゲームがやってみたいヨ」
そう言われてもなあ。格ゲーは瞬殺されそうだし、パズルは苦手そうだしな。
あっ、そういえばあれがあるじゃないか。
「レミィ。ダンスは好きか?」
「Dance? うん、好きだよ。でも、今日はゲームセンターに行くんじゃないの?」
「大丈夫、大丈夫。レミィ、Let's Dancing!」
「Yah! Let's Dancing!]
俺の下手くそな発音に、レミィは元気良く答えてくれた。その場で踊り出さなけれ
ば、もっと良かったのだけれど。

駅前のゲームセンターに着いた。今日は珍しく空いている。
「ほら、レミィ。これがダンスゲームだ」
そう言って俺が指し示したのは、ゲーセンの真ん中に置いてあるDDR。百円で遊ぶ
のは常識だよな。
「What's? どうやって遊ぶのですカ?」
「画面に表示される矢印に合わせて、床の矢印を踏む。簡単だろ?」
「こうですカ?」
なぜかおっかなそうにステップを踏むレミィ。でも、なかなかさまになっている。
「じゃあ、まずはビギナーからな。いくぜ!」
「OK! Let's Dancing!」

結果。
レミィが俺のベストスコアを追い抜くのに、30分もかからなかった。
「Yah! It's very very fantastic! ヒロユキ、楽しいネ」
「......」
少し汗ばんで上気した顔ではしゃぐレミィに、俺は答えることができなかった。
嘘だろ、一番難しいモードにしてあんのに。
むきになって普段とてもやらないようなハードな曲を踊ったせいで、俺はグロッキー
状態になっていた。

こっ、これが肉食人種と農耕民族の差ってやつか(偏見)。

そんなことを考えながらへばっている俺の背中をドンと叩く奴がいた。
「いてぇ! だっ、誰だ?」
「はろぉ。どうしたの、こんなところでへばっちゃって」
俺の背中を張り飛ばしたのは来栖川先輩の妹、綾香だった。本人は軽く叩いたつもり
だろうが、一般人の俺にとってエクストリームチャンピオンの張り手はきつ過ぎる。
「ヒロユキ。友達ですカ?」
いかん、いかん。レミィをほったらかしにしちまった。
「おう。これは来栖川先輩の妹の綾香」
「これってなによ。これって」
俺の手首を極めながら、にっこりと微笑む綾香。骨が破滅の音を立てていなければ、
正体を知っている俺でも赤くなっちまうようなとびきりの笑顔だ。
「はじめまして。来栖川綾香よ。綾香でかまわないわ」
「宮内レミィ。レミィでいいでス」
そう言って二人は握手する。おお、なんかインターナショナル。
ようやく関節技から解放された俺は右手との無事な再会を喜びながら、そう思った。

「でも、あんたも隅に置けないわねぇ。こんなきれいなステディがいるなんて。
姉さんや葵に言っちゃおうかしら」
「ステディ?」
なんか前にも同じようなことを言われたような気がする。レミィにだっけ?
「レミィ。ステディってどういう意味だっけ......うわ!」
いきなりバーを乗り越えて抱きついてきたレミィ。そして綾香に向かって微笑む。
「Yes! 私とヒロユキはstedyな関係デス。ねえ、ヒロユキ」
ちょっ、ちょっと待て! だからステディって何だ?
「ふうん? だったら、浩之のstedyってたくさんいるのね?」
猫科の猛獣を思わせる笑顔の綾香。負けじと威嚇しているレミィ。

おっ、俺を置いて話を進めるんじゃない!

「ちょっと。そこどいてよ」
言ったときには俺を押しのけて、DDRの操作盤の上に乗っている綾香。レミィは無言
で隣の操作盤の上に乗る。
なっ、なんか火花が散っている!
「勝負は一回のみ。ランクは最難関で。いいわね」
「OK。愛は戦って勝ち取るものネ!」
訳がわからん。呆然としている俺を置いて、二人は猛烈な勢いでステップを踏み
始めた。綾香はなんか上手いのはわかるとして、初めてのレミィまでばっちりターン
決めているのは何故だ? 二人とも全然外さないので、まるでシンクロして踊って
いるようにも見える。

そもそも、なんでこいつら、いきなり喧嘩してんだ?

そこで、俺は急にステディの意味を思い出した。
あっ、そうか。それでこいつら......。
俺がはっきりしないからいけないのか。
だが、そんなことより俺は、しなけりゃいけないことがある。
あいつら、一回勝負って言っていたよな......。

俺はその時、集中していた。
つんつん。
これまでの人生でそう何回もないぐらいの集中度だ。
つんつん。
言ってみれば、これから任務に取りかかるゴルゴのような.......。
つんつん。
「って、誰だよ! さっきから背中をつついているやつは!」
俺が振り返って怒鳴ると、そこにはビックリした顔のあかりと、ジト目で俺をにら
んでいる志保がいた。
「あっ、あかり...さん、と志保さん?」
なぜか敬称で二人を呼ぶ俺。ジト目で俺を見ている志保と涙目のあかり。
「やっぱりね。こんなこったろうと思ったのよ」
「浩之ちゃん。嘘だよね......」
額に流れる冷や汗を感じつつ、俺はたずねた。
「どっ、どこから見ていた?」
「あんたが腕立て伏せみたいな構えをした時から」
「あかり。調べ物ってまさか......」
「うん。雅史ちゃんが「浩之がいる時はDDRしないほうがいいよ」って言ったから」
まっ、雅史の奴ぅっ!
男の純情を理解しない馬鹿者め! 決定、こんどから奴の名は男色男爵!

「ふーん。あたしたちのパンツ、のぞいてたんだ」
げっ!
「ヒロユキ。下着をpeepingしていたノ?」
OH MY GOD!
すでにプレイを終えて、一部始終を聞いていた両雄の怒りのオーラは、振り向かな
いでも肌で感じられるほどだった。
「エクストリームのチャンピオンがいるんじゃ、あたし達の出番はないわねぇ、あかり」
「あの、来栖川さん。半殺しでいいですから。殺さないで下さいね」
にっ、にっこり笑うな、二人とも!
「前の時は不可抗力だったけど。今回は有罪ね」
振り向くと、そこには俺を処刑するために近づいてくる綾香。
やっ、やばい。殺されてしまう。
誰かに助けを求めようと視線を巡らすと、そこには綾香の隣で聖母のような微笑み
をたたえているレミィ。
「レっ、レミィ! 助けてくれ!」

「ヒロユキ。どっちの色が好きだった?」
突然のレミィの質問にみんなが状況を忘れて固まる。
「あっ、あんたねえ。女性としてこういう行動を許せると.......」
「志保は黙ってて。ねえ、ヒロユキ、どっち?」
どういうつもりだ?
しかし、どっちのパンツが良かっただろうか。
綾香の引き締まった体を包むあの純白も素晴らしかったが、やはりレミィの桜色の
方が庶民的な趣っていうか、幼かったあの頃のスカートめくりを思い出させると
いうか。
「レミィの方だ」

「ひっ、浩之ちゃん」
「浩之」
「ヒロ」
男らしく敢然と言い放った俺から、三人はゆっくりと離れていく。
「OK。ヒロユキはredが好きなのね」
やはり、俺の男気に押されたか。どうだ、雅史。男色男爵のおまえには真似
できまい......。
???
「レミィ。どちらかというとピンクじゃないのかって、おい!」
自分に酔っていた俺の目の前にいるのは、拳銃を構えたレミィ。
ちなみにベレッタ92FSだ。
「redが好きなのよネ。今からたっぷり見せてあげるヨォ!」
「こっ、ここは法治国家の日本だーーー!」


とっくにゲームセンターを避難していた三人は、銃声が響く建物を後にしていた。
「ちょっとかわいそうだったかな」
「いくらヒロでも、鉄砲で撃たれたら死んじゃうんじゃあ?」
「大丈夫よぉ。姉さんの薬を飲んだって平気なんだから」
「そんなにヤバイの、その薬?」
「ヤバイってもんじゃないわ。あれでメイドの数が足りなくなったのが、HMXシリーズ
の開発のきっかけなんだから」
「へぇーーーーー」

翌日の新聞にゲームセンターが全焼した事件が掲載されたが、浩之とレミィは無事に
登校してきたことを記しておこう。

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本日、二回目。
すいませんね、ネタが尽きたらおさまると思いますので。
感想がありましたら、
aiaus@urban.ne.jp
まで。

ではでは。