超闘士スフィー 投稿者:DEEPBLUE 投稿日:4月2日(火)21時30分

嘘前回までの嘘あらすじ

 スフィーは健太郎のもとに帰るために、父と祖父とをその手で倒す決意をする。
 苦戦の末父の側近「十神将」を倒し父と対峙するも、流石にグエンディーナの王は強敵
だった。
 魔神の力を宿し、ついに最強最大の魔法”真・業魔獄炎天地陣”の封印を解く父に、裏
投げからのV1アームロックで辛くも勝利を収めるスフィー。
 しかしその時、途中から仲間になった戦士Aは絶体絶命の危機を迎えていた。
 一方リアンは、謎の神殿にてグエンディーナ創生の真の秘密を知る。
 波乱尽くめの決勝リーグ、敵チームの汚いワナに、タケオのハットトリックは唸るのか。

 
 
「まじ!かる!さんだーーっ!」
 スフィーの拳が唸りをあげる。
 超高速で繰り出される拳は、空気との摩擦によって電撃を生じる。スフィーの、最も得
意とする攻撃魔法である。
 それ魔法違うとか言われても困る。これが魔法なのだ。精霊?何ですかそれは。非科学
的な。
「ふ……未熟なりスフィーちゃん」
 前国王にしてスフィーの祖父。そしてかつて、グエンディーナビューティフルガイコン
テストで四年連続の覇者として君臨した経歴をもつ、洗練された肉体美の持ち主であるじ
じい(以後じじい)は、必殺の破壊力を有する電撃を一瞥して、鼻で笑った。
「ふん!」
「な……!あたしのまじかるサンダーを、片手で受け止めた!」
 スフィーの言葉通り、その雷はじじいの掲げた左手の中に、包み込まれるように受け止
められていた。
 電撃って手で受け止められるの?とかいう部分を疑問に思う向きも多いかと思うが、こ
の点についてはそれだけこのじじいが凄いのだ、ということでご納得頂きたい。
「さあ、もう無駄な夢は捨てて大人しくワシの言うことに従っているのだ、スフィーちゃ
ん。お前はワシの選んだ婿と結婚する。若かりし頃のワシに似た美青年とじゃ。そして数
年後、お前は”私がこの夫(ひと)を愛したのは……本当は、おじいちゃんに似てたから。
私は……無意識のうちに、この人を身代わりにしてたんだわ。本当に愛するおじいちゃん
とは、どうあがいたって結ばれることは出来ない。それは禁断の愛だから……”という己
の気持ちに気付き、罪の意識にさいなまれるというシナリオよ」
「うわっ、何勝手な妄想吐いてるのよお祖父ちゃん!」
「ふっ。何とでも言うがいい。すでに裏には、お前のためにグエンディーナ特選洗脳隊を
待機させておる。ワシの中ではもう、若妻となったお前が禁じられた想いと知りつつも一
夜限りの愛を求めて祖父の部屋を訪れ、そんなこと予想もしていなかったワシは動揺しな
がらも何とか平静を装い孫を諭すがお前は聞き入れない。涙ながらの血を吐くような告白
に、ワシは……というところまで話が進んでおるのだ。もう誰も、ワシの野望を止めるこ
とは出来ん!」
「くっ、なんて卑劣な……っ!」
 己の祖父の、そんなフランス書院文庫の特定ジャンルを愛読しているかのごとき破廉恥
妄想ぶりに歯噛みするスフィー。
 ここで祖父を倒さねば、いろんな意味で自分に未来は無い。
 しかし。
(勝てるのか……?たかだかマウンテンゴリラさんクラスのわたしが、シロナガスクジラ
さんクラスの魔法使いである、お祖父ちゃんに……!)
 マウンテンゴリラやシロナガスクジラとは、この場合魔法使いとしての位階(レベル)
をあらわす。
 シロナガスクジラさんの位階をもつのは、この国広しといえどじじいただ一人。これは
すなわち、最強の証と同義と言って良い。
 しかもシロナガスクジラさんといえばその優雅な物腰のために人気も高く、大海の波間
に泳ぐその姿を見るためにわざわざツアーすら組まれるほど。特に欧米各国における贔屓
されっぷりが、凄まじいのだ。
 対してゴリラさんは年々のジャングルの減少と共に数が減り、今や絶滅の危機に瀕して
いる始末。そのイメージの方もまた、藤子系いじめっこタイプを揶揄する言葉として、低
下する一方と言える。
 だが――。
 スフィーは思う。
 みんな、ゴリラさんの本当の姿を知らないのだ。
 あの眼を見るがいい。あの黒くてつぶらな、理性的な輝きを湛えた瞳を。
 ゴリラさんは本当は、とても穏やかで優しい心をもった動物なのである。”気は優しく
て力持ち”とは、ゴリラさんの為にあるような言葉だ。
 それをみんな、あの逞しい身体だけで恐くて凶暴だと判断してしまっている。
 人間に例えるなら、外見でクラスの皆に恐がられ距離をおかれているけど、だけどあの
人雨の日に、捨てられて濡れた子猫を抱いていた――そんな立場に、今ゴリラさんはある。
 自分でも何を言いたいのかイマイチ良く分からなくなってきたが、とにかくゴリラは決
してクジラに劣るものではないということだ。
 そう――。
(クジラ食って、何が悪い!)
 スフィーの闘志が、炎と燃えた。

 ちなみに、日本でも別にシロナガスクジラは食わない。

 しかしそんな実孫の闘志を、じじいは一笑に付す。
「さあ……ゆくぞスフィーちゃん。ワシのこの最大奥義で、おしおきしてやろう」
 じじいの両眼が、闘気を発して輝く。
「!……まさかっ!?」
「奥義!まじかる・グラヴィティィィッマグナムッ!」
 じじいの叫びとともに空間に黒い渦が生じて、スフィーを襲った。
 じじいの光速を超える拳が、アインシュタインの法則に従い無限にまで重さの高まった
その先端に重力崩壊を生じさせ、ブラックホールを作り出したのである。
 奥義・まじかるグラヴィティマグナム。
 歴代の王家の者の中でも、この禁じられた技の使い手は少ない。
 光速の拳を放つまでなら誰でも到達できるのだが、この技は慣性の法則により自らの生
み出したブラックホールに自ら飛び込んでしまう危険性を併せ持つ諸刃の剣であるのだ。
ブラックホール出現直後、理論上無限の重さをもつことになる己の拳を強引に引き戻すこ
とが可能な強靭な肉体が必要なのである。
 今もボクシング界に伝わる「パンチは打つ手より引く手の方が大事」という言い伝えは、
もともとこの魔法の修練から来ているとも言われる。
 過去、この魔法を体得せんとした多くの才気溢れる若者たちが、己自身の技に飲み込ま
れ命を失っていった。数多の悲劇の上に成り立つ、業深き拳。
 それを実の孫娘に向けるじじいもまた、業の深き男である、と言えよう。

 ちなみに、スフィーやリアンを向こうの世界に送った魔法はこれの応用技で、集中連打
によりさらに大きなブラックホールを形成し、最終的に異界への門を開く魔法である。
 もちろん、ただ異次元の門を開いて放り込むだけなのでどこに行ってしまうのか知れた
ものではないのだが、その程度の運も持ち合わせない者に王族の資格は無いのである。
 なんと厳しい習俗、通過儀礼であろうか。所詮、いまだに絶対王政を敷いているような
国だということか。

「くっ……」
 危うく直撃は避けるも、その一撃でスフィーはもう満身創痍である。
 もう一度食らえば、終わる――!
「絶対的な力の差というものがわかっただろう、スフィーちゃん。さあ、もう一度だけチ
ャンスをやる。――ワシと背徳的な愛に生きるのだ!」
 もはや建前も何も無く、本音全開な台詞を言い放つじじい。
 しかし――話し合いをしようというそこに、致命的な隙が生まれた。スフィーにとって
の、チャンスが。
「いまよっ――必殺っ!」
 さりげなく懐に入れていた手を、抜き出す。そこに握っていたものと一緒に。
「まじかる・トカレフっ!」
 連続した銃声が、スフィーの握るトカレフ(中国製レプリカ)から発せられた。

「おぶっ」

 腹を押さえ、喀血するじじい。
 ブラックホールの超重力に抗うほどの筋力を持つ超人といえど、銃弾を受ければ死ぬ。
暗黒社会に生きる者どもの、冷たい真実。
「おどれ……スフィー、まさかおどれにワシのタマぁ奪られるとはのう……」
「ええ年食って欲の皮つっぱらせとくと、ロクなことないっちゅうこっちゃ、先代の。年
寄りは年寄りらしゅう、とっとと引っ込んで残り少ない余生大事に、隠居生活送っとりゃ
あえかったんじゃあ……」
 
 ノリノリの祖父と孫。

「いやスフィーちゃん……マジメな話。銃器類はちょっと反則じゃないかね……?」
「お祖父ちゃん……これがあたしが留学生活で学び、身に付けたパワー。人類の叡智の結
晶――科学の力よっ!」
「科学の……力!これが……」
 ものは言いようだ。
「ふ……スフィーちゃん。留学生活で学んだのはジジくさい骨董の知識だけかと思いきや
……成長、したのう……」
 納得するじじいもじじいであるが。
「あー!じじいのクセに骨董バカにしないでよ!こないだお祖父ちゃんの割れたお茶碗、
接ぎ直してあげたりしたじゃない!」
「む!?黙れ!そんなもの魔法で直せ、魔法の国の王女!だいたい、若いもんは若いもん
らしく、サーフィンに興じたあと夜は浜辺のキャンプファイアで白いギター弾きながら仲
間達と青春を語らったりせんか!」
 せっかくいい感じにおさまりかけたのを、じじい呼ばわりで台無しにするスフィー。そ
して、微妙に年代不明な青春謳歌イメージをいだいているらしいじじい。
「うっわ、今時どこの若いもんがそんな寒いことやってるのよ!お祖父ちゃんの正体、ま
さか鉄球兄弟の片割れじゃないでしょうね!?」
「貴様、血よりも濃い絆で結ばれた鉄球兄弟をバカにするのか!おのれ、もう孫でもなけ
れば――嫁でもない!」
 怒りのあまりに、膨張した筋肉が腹にめり込んだ鉛玉を弾き出す。
 その傷痕は、北斗七星を描いていればかっこ良かったのかもしれないが、実際は微妙に
蟹座風味だった。
「はじめっから、嫁じゃないっ!」
「もうおまえなんか、愛人じゃ!もしくは愛奴」
「うわ、最低!」

 かくして、両雄の激突は避け得ぬものとなった。

 両腕を鳥のように優雅に、大きく広げる鶴の構えを取るじじい。
 応えるように、左腕をゆらりと前方に掲げる蛇の構えを取るスフィー。
 やはり最後は、王族同士の戦いらしく、グエンディーナ王家に伝わる秘拳・蛇鶴八拳で
勝負をつけるものと――二人は言葉も交わすことなく、同じ結論に至ったものらしい。
 代々、グエンディーナにおいて王位継承などで王族同士が争うときは、その伝統に基づ
き必ず両者ともにこの拳をもって戦い、勝負を決したとされる。
 そして今、この血を分けた実の祖父と孫もまた、その血塗られた歴史をもつ奥義で、己
の望む道を切り拓かんとしている。どちらもが、そう――愛ゆえに。

 双方ともに、卓越した実力を有する魔法使い。
 勝負は、一撃で決する。
 ゆえにこそ、構え相対したまま、二人は動くことが出来なかった。
 二人の死合(しあい)は、次第に千日戦争(ワンサウザンド・ウォーズ)の様相を呈し
つつあった。


 一方その頃、グエンディーナ創生の秘密に迫りつつあるリアン。謎の神殿の巫女の語る
その話は、佳境に入ろうとしていた。

「そう、戦争のときはね。みんな苦労したんだよ。だからあなたも、お父さんとお母さん
のことをよく聞いて、兄弟仲良く、真面目にすごさないといかんよ……」
「いや……あの、巫女さん?お聞きしたいのは、そういうことじゃなくて……」
「はーな〜もーあら〜しもーふぅみこぉえーてー」
(う、歌いだした!どうすればいいんだろう。こういうとき、どういうリアクションとれ
ばいいんだろう。……姉さぁん……)

 神の声を聞くという、伝説の巫女。花渡キクさん(98)は現在、心身今だ壮健なれど、耳
が少々遠くなりつつあった。



 嘘次回の嘘予告

 遂に「地獄巡り三十八回廊」を制覇したスフィー達の前に、死んだはずのあの男が立ち
ふさがる。
「ど、どうして……なぜあなたが!」
 一度は友と呼んだ男との、生死を賭けた戦い。
 スフィーのまじかるサンダーは、凍りついた奴の心に届くのか。

 次回最終回、『全国制覇!熱き友情のホイッスル』
 お楽しみに!