『夫婦徹底討論!朝まで生昆布(意味無し)』(「競作シリーズその弐NTTTVSその他大勢」「お題:会話文のみ」 from DEEPBLUE) 投稿者:DEEPBLUE 投稿日:5月17日(水)12時13分
夫婦徹底討論!朝まで生昆布(意味無し)




「『チャーリー、僕は監視されている。暗号体で失礼するよ』…と。…ああっ!?」
「…『今、僕がどんなところにいるのかわかるかい?いや、それを知ったらいかにベトナ
ム帰りの君だって、ママのお膝に駆け込まざるを得ないだろうさ』…って、耕一さん!こ
の家が、そんなに怖いところですか!?」
「ち、千鶴さんっ!その暗号文をそんなにすらすら読めるなんて…プロ?」
「……だって、暗号…って、一字置きに”あ”が入ってるだけですし…」
「…」
「えと…さすがに、”チあャあーあリあー”とか…カタカナにひらがなが混じってたら、
わたしにもわかるかなって…」
「……」
「あと…上に、『ヒント:ドあラあ○あもあんあ→ド○えもん だ!』っていうのも、や
めた方がいいかと…」
「………」
「えーと…」
「…………」
「…」
「…ちっきしょう!悪かったなーっ!俺はどうせ文系だよー!」
「こ、耕一さん、逆切れ!?しかも暗号って、文系の範囲なのでは!?」
「…あ。ところで千鶴さん、何?」
「…耕一さん、私達、結婚したんですから…その…そろそろ、さん付けは…」
「あ、ごめん。えと…千鶴」
「はい。あの……あなた」
「………」
「………」
「…や、やっぱ照れるね。どうも…」
「…て、照れますね…」
「ええと…少しづつ慣れていくことにしようか。そういうのは」
「そ、そうですね。少しづつですよね」
「じゃあ改めて…千鶴さん、なにか用?」
「あ、はい。じゃあ改めまして…耕一さん、お勉強の方、進んでますか?」
「うぐぅ」
「うぐぅって…」
「外部に助けを求める手紙なら、このとおり書きあがったけど…」
「なんで助け求めてるんですか!?」
「だってせっかくの休みの日だってのに、千鶴さん、外に出してくれないし」
「ノルマが終わったら出してあげます。近い将来、耕一さんに鶴来屋を背負って立っても
らうにあたって、経営学の勉強は必要なんです」
「いや、でももう…深夜だし」
「…」
「なあ…勉強が必要だってのは、俺にもわかる。努力する気は、俺だってあるさ。こうい
うことになるんだったら、大学もせめて経済を専攻してりゃよかったって、切実に思うよ。
でもさ、もうちょっと、こう…ゆっくり、やんない?」
「ゆっくり…」
「うん」
「…そうですよね。耕一さんには…それだけの時間がある。わたしなんか…」
「え…あ、ちょっと、千鶴さん…?」
「わたしの時は…地獄でした…。突然父に逝かれ…叔父に逝かれ…わたしは…」
「え、あ、う、その、ちょちょ、ちょっと…」
「わたしにだって…夢はあったのに…」
「夢…」
「ふふ。おかしいですか?こんな女に、夢だなんて。おかしいですよね」
「い、いやそんな」
「でも…わたしだって、みんなと同じ…夢を抱いて、大学に入ったんですよ…」
「そうか…千鶴さん、国文学だったね…」
「ええ…」
「まさに、文学少女って感じだものな。よく似合ってるって…あのとき、合格って話を聞
いたとき、思ったよ…」
「そんな…耕一さん。照れちゃいますう…」
「よかったら…聞かせてくれないかい。千鶴さんの夢…」
「それは…今となっては、叶わぬ夢ですから…」
「でも、聞きたいんだ。俺。千鶴さんの…いやさ、愛する人の夢を」
「耕一さん………わかりました。恥ずかしいですけど…聞いてくださいね。…笑わないで
下さいよ?」
「うん」
「…私の夢…小さくて慎ましいけれど、でも綺麗な白い屋根ののったお家に住む私…3階
建てで、10LDKくらいの」
「………小さくて慎ましい…10LDK?」
「芝生の植えられたお庭には、一匹の白い大きなセントバーナードがいて、私の足元にじ
ゃれついてくる。そして私の傍らには…職業お医者さんで弁護士で大学教授な、愛するひ
とが…」
「おいおい」
「でもっ!!」
「うおっ!?」
「そんな平和で慎ましやかな家庭に、破滅の足音が!」
「ええ!?そんな展開!?夢で!?」
「そう。庭にボールが飛びこんでしまったことがきっかけで、そこに住む美しくて優しい
奥さんに出会ってしまった少年(仮名A君)は、ひと目で燃えるような恋に落ちてしまう。
若さゆえの激しい恋情…」
「おいおいおい」
「でも彼女は人妻。背徳の意識に悩まされつつも、その優しさにつけいるように…そのこ
とにもまた、罪悪感をいだきつつ…つい、毎日のように、少年(A君)はその家を訪れて
しまう。夫がいない間、いつも家で一人…寂しかった私もまた、純粋に少年の来訪を嬉し
く思い、手作りのハーブティーやケーキでもてなすの…」
「死な…いや、なんでもない…」
「しかし、ついにその感情の奔流を押さえきれなくなった少年は!荒々しく私に襲いかか
り!そんなつもりは全然無かった私だけど、少年の──いいえ男の筋力には抗えず!その
硬い操の花を、儚く散らせてしまう…」
「……あのう」
「『千鶴さん。ごめん。でも──好きだ。好きなんだ!俺…千鶴さんじゃなきゃ、駄目な
んだ!』『A君(仮名)…私が…悪かったのね。私が、あんまり魅力的すぎたから…でも
…もう、ここにはこないで…。わたしには、愛する夫が…』『千鶴さん…』泣く泣く去っ
て行くA君(希望名称:翔(しょう)・響(ひびき)・その他)。わたしもまた、罪悪感
に苛まれつつ、夫(医者で弁護士で大学教授)を迎える。しかし、愛する妻の様子のおか
しいことに、夫はすぐに気付いてしまう。『どうしたんだい?なにか、変だよ…』優しく
問うてくる夫に、私は耐え切れず全てを打ち明けてしまう。そして、そんな悪い女である
私と、どうか別れてくださいと…。しかし夫は、怒りはせず、ただ黙って優しく私を抱き
しめるのだった。『あなた…?』『ごめんよ…寂しかったんだね。僕だって、悔しくない
と言ったら嘘になる。だって、世界で一番愛する人だから…。でも、だからこそ、君を手
放すことなんてできない。僕は…千鶴、君じゃないと駄目なんだ!』『あなた!』」
「千鶴さん、千鶴さん、あの…そろそろ…」
「『ようし。今夜はハードコアだ』『ああ、いやん、あなたったらあ』…て、え?あ、耕
一さん…やだ、聞いてたんですか?」
「いや、うん、そりゃずっといたから。まあ、いまとなっては後悔してるけどね。深く」
「うふ…恥ずかしい。どうでした?私の夢…」
「うん…突っ込みどころが多すぎて、なにから言ったらいいやら迷うけど……とりあえず、
国文学どころか大学も全く関係ないかな…って」
「あ、それはこれからの伏線となってくるんです。その後ですね…」
「いや、それはその、あとの楽しみにしておくから。また今度、ね?」
「そうですかあ?」
「うん。いやまったく、後の楽しみ。できればかなり後の」
「そうおっしゃるなら…。まあ、ということで、経営のお勉強の重要性は理解して頂けた
と思います」
「え、今の話で」
「そうです。わたしもそんな小さな夢を捨てて、叔父さんが亡くなって後は必死に勉強し
ました。わたしに出来るくらいです。耕一さんだって、大丈夫ですよ」
「いや、でも俺…文系だし…辛いなあ」
「経営は文系ですけど…でも、そうですね。今夜はもう遅いですし…今日のところは、そ
ろそろ終わりにしましょうか」
「ぃやったあ!千鶴さん大好き!」
「うふふ。耕一さんたら…子供みたい」
「そうと決まれば…」
「…え?」

「今夜はハードコアだ!千鶴ぅ!」

「ああっ(はあと)。いやん、あなたったらあ!(大はあと)」




「耕一さん」
「ん?」
「でも…少しだけ、私の夢、叶ってるんですよ」
「…ええ!?まさか少年…」
「ちがいますぅ!…コホン。……素敵な、優しいだんなさまがいること…です」
「…千鶴さん」

「俺の夢も…教えようか」
「え?」
「千鶴さんを…いや、千鶴さんだけじゃない。梓、楓ちゃん、初音ちゃん…みんなを守っ
て、幸せにして…そして、ずっと、死ぬまで千鶴さんの傍にいることが…今の、俺の夢だ
よ」
「こ…耕一…さん」


「ありがとう…ございます」




「ようし!じゃあ感動したところで2回戦だっ!今夜は朝まで鬼モードだぞう!」
「あああんっ耕一さあん!」






<おわり>