『touch』(「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢」「お題:会話文のみ」 from DEEPBLUE) 投稿者:DEEPBLUE 投稿日:5月17日(水)12時10分
touch





「え、えっと…」

「……」

「あの…ゆ、祐君遅いね。お茶淹れるって、どのくらいかけてるんだろ」

「そうだね」

「…」

「…」

「あの…ね、月島さん」

「…?」

「き、緊張しない?こういうの」

「どうして?」

「どうしてって、その…あはは、恥ずかしいんだけど、その…初めてなんだ、あたし。男
の子の部屋に、遊びに来るのって」

「そうなの?」

「う、うん…月島さんは…違うの?」

「初めてじゃないよ。多分ね」

「多分、て…。でも、初めてじゃないんだ…。あ、あはは、そうだよね。今時ね」

「うん。お兄ちゃんの部屋とかね」

「…あいた。…家族は抜いてよ」

「どうして?」

「どうしてって…」

「どうして、緊張するの?」

「あ、そっちか…。うん、その、別に理由があるわけじゃ…ないんだけど」

「そう」

「うん…」

「…」

「…」

「ね。月島さん?」

「何?」

「月島さんはさ、その…どうして、祐君に出会った…ってゆうか…仲良くなったのかな…
って」

「どうして?」

「え、あ、あの、別に…ただ、その…」

「…」

「その…」

「…」

「…」

「…長瀬ちゃんはね。おんなじクラスだったんだよ。1年生のときにね」

「そう…なの?じゃあ、それで仲良くなったんだ?」

「ううん」

「違うの?」

「長瀬ちゃんがね。『助けて』って、言ってたの。だから、助けてあげたの」

「助けて…祐君が?何を?」

「…」

「あ…ごめん。言えないよね」

「ううん。でも…それは、いつか…長瀬ちゃんから聞くほうが、いいと思うよ」

「祐君から?…話して、くれるかな?あたしに…」

「…どうして?」

「だって…」

「…」

「…あ。でもでも、それじゃ、月島さんって、祐君の恩人ってことなんだよね」

「…ううん。違うよ」

「え。でも、助けてあげたんでしょ?」

「うん。でも、長瀬ちゃんも…わたしを助けてくれたから。それに、わたしは、長瀬ちゃ
んを、泣かせちゃったから。…ええと、なんていうのかな、こういうの…」

「『お互いさま』?」

「…うん。『お互いさま』」

「そう…」

「沙織ちゃんは?」

「え?」

「長瀬ちゃんと、どうして会ったの?」

「ああ、あたし?あたしはそんな、みっともいい話じゃないんだけど…その、3年生にな
って、同じクラスになって。わたし、すっかり知ってるつもりで、肩とか叩いて声かけち
ゃって。で、いざ話そうって時に、よく考えたら名前しらないじゃーん、て感じで。あは
はは、ドジなんだー、あたしって。どうして祐君のこと知ってたつもりでいたのか、全然
わかんないんだけどね。錯覚ってやつかな?」

「……」

「不思議…だよね。でも、そんな気がしたんだ…会う前から、ずっと、知ってたような…」

「そう」

「うん…だから、あたしもほら!単純だから!…こういうの、運命っていうのかなって…
あ、あたし何言ってんだろ、月島さんに…。…でも、錯覚、だよね。それも…」

「…どうして?」

「どうしてって、その…わかるから…」

「…?」

「祐君は、多分…月島さんのことが、好きなんだと思うから…」

「…」

「…えと。月島さんは…どうなの?祐君のこと……その……好き?」

「うん。長瀬ちゃん、好きだよ」

「そ、そう…そうだよね。やっぱりね…」

「沙織ちゃんも」

「…え!?」

「長瀬ちゃんも、沙織ちゃんも、お兄ちゃんも、お父さんもお母さんも、みんな…好きだ
よ」

「あ…あのね。あたしの言ってるのは、そういう意味じゃなくて…」

「沙織ちゃんは?」

「え!?あ、あたし!?あ、えと、つ、月島さんのことは、うん、嫌いじゃないよ。好き
だよ。あ!でも、好きとかっていってもそういう意味じゃなくて、その…」

「…ありがと」

「え」

「ありがと」

「あ…うん」

「じゃあ、長瀬ちゃんは、好き?」

「ええ!?」

「沙織ちゃんは、長瀬ちゃん、好き?」


「…えと」



「……う、うん……」



「月島さん、どうして笑うのお…」

「嬉しいから」

「嬉しい?」

「うん。長瀬ちゃんを、好きでいてくれて、嬉しいから」

「え、その…そ、そう…」

「じゃあ、わたしは…もう、行くね」

「え…あ、ちょっと月島さん?」

「さよなら」

「どこいくの?祐君、もうすぐ来るだろうから…」

「もう、眠いから。行くね」

「ね、眠いって…」

「ねえ、沙織ちゃん」

「え?」

「長瀬ちゃん、頼むね」

「え?」

「わたしはもう、出来ないから、…だから、バトンタッチ」

「ばとんたっちって…」

「ね。頼むね。長瀬ちゃんを。ね」

「ちょ、ちょっと待って。頼むって、いったい何を…」

「助けてあげて」

「助ける?」

「沙織ちゃんなら…できるから」

「あ、ちょっと月島さん?月島さんてば?」

「あ…もう。勝手だなあ。祐君になんて言おう。月島さんが…」



「…月島…さんが…」





「月島さん……って、誰…だっけ…?」





「あ…あたし、何言ってんだろ…あたし、一人じゃない」

「…でも…」

「なにか…誰か、隣にいたような…となりがこう、あったかい…ような」

「も、もしかして幽霊とか!?ひゃあああっ…」

「……ん」

「…でも、なんでだろ…怖く、ないや……」



「──あ、祐君、おかえり。いまね…」






<おわり>