夢の対決!外道浩之VS超矢島 投稿者:DEEPBLUE 投稿日:4月13日(木)10時31分
CAUTION!
以下の文章は、自分で言うのもなんですがそれなりにお下劣です。
この文章を読むにあたって、以下の行動は大変危険なのでやめて。


#1 18歳未満の方の閲覧
#2 あまつさえ、わからない単語等をご両親に尋く
#3 婦人団体等にDEEPBLUEを売る

────────────────────────────────────────




  夢の対決!外道浩之VS超矢島




「なあ、藤田。頼みがあるんだ」
 それは、光のどけき昼休み。
 矢島は、友人である藤田浩之に話しかけていた。
「………(ぷい)」
 露骨に黙殺する浩之。
「おおおおい!藤田、聞け!」
「うるせえなあ…見ての通り、読書中なんだよ」
 片手に持った文庫本の背表紙をこれ見よがしに掲げて見せる浩之。
「麗らかな午後に窓辺にてひとり読書を嗜む…知的さと優雅さと(せつなさと心強さと)
を兼ね備えた俺にしかできない技だ」
「『白衣の堕天使肛虐の宴』でか」
「ああ。いいぞう、この作者のは。これはあの名作『人妻監禁調教』の続編的作品なんだ
が、前作のヒロイン静江の娘、和美が今回のヒロインとなっている。とくにここ、主人公
の『口先だけでいくら抗って見せても無駄さ。お前には淫乱の血が流れているんだ』とい
う台詞は、前作のファンには涙なくしては読めないところだ」
「知るか。っていうか教室内でそれを朗読するな。それより、頼むよ藤田。話を聞いてく
れ」


──中略。


「ふぅーーーーう」
「なんだよ、その長い溜息は」
「あかり、ちょっとこっちこい」
 あかりの座る席に手招きする。
「なに、浩之ちゃん」
「お、おい。そんな、いきなり!?」
 動揺する矢島を無視して、続ける浩之。
「前に教えてやった言葉があるな。あれを、ここで言え」
「ええ!ここで!?」
「そうだ。はやく言え」
「で、でも…」
「いいんだぞ。俺は別に」
「……」
「誰もお前に強制はしない。自分で考え、自分で決めろ。まあ、後悔の無いようにな。ち
なみに言っとくが、断った場合はわかってるな」
 強制というか、明確に脅迫だ。
「…………」
 やがてあかりは、意を決したように、真っ赤な顔で口を開いた。
「……わん」

わん!?

 突如なる非日常の襲来に、空白と化す矢島の意識。
「…わ、わたしは浩之ちゃんのい、犬です…ご、ご主人さまの命令なら、どんな、恥ずか
しいことでも、従います…」

いかん!既に調教完了だ!

 矢島の頭に直接、3千の英霊たちの声が響く。

否!

 思わず返してしまう矢島だが、もちろん根拠はない。むしろ反証ばかりが目立つ。

っていうか誰だよ3千の英霊って!

「わかったか、矢島。つまりはこういうことよ」
「…ふ」
「ふ?」
「藤田の大馬鹿三太郎!お前の母ちゃんどすこい(仮)!あと、なんていうか…ちくしょ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 滂沱の飛沫を引いて走り去っていく矢島。

「…何が言いたかったんだろう、矢島」
「嫉妬してるんだよ…」
「いや、そうだろうけど…」
「わたしに」
「…ええ!?」
「浩之ちゃん優しいから…他の子が好きになっても全然不思議じゃないよ…」
「いや、ちょっと…」
「でも…わたしは浩之ちゃんじゃなきゃ…」
「あの、おい」
「見捨てないでね、浩之ちゃん」
「ああ、えと、はい」


 くそう!あのスケベ野郎め!
 ミスターHめ!
 HUJITAのHはエッチのHだ!
 いや。”エッチ”なんてちょっとトレンディーっぽい言い方、ヤツには不相応!
 かといってSEXなんて文学っぽい単語も駄目だ!
 貴様なんか、まぐわいだ!まぐわい!
 これから貴様のことを冒険野郎マグワイバーって呼んでやる!
 そして、待ってろよマグワイバー!
 俺は貴様に、必ず復讐を遂げてやるからな!
「って、ぎゃーっ!」
 校門を出るなり車に轢かれる矢島。
 幸いというかなんというか、それは救急車だったため、矢島はそのまま乗せられ運ばれ
ていった。



「いかん!すでに心停止しかけている!」
「大量に失血もしています!」
「病院に連絡だ!着き次第処置を!」



 突然で申し訳無いが、話は二日前にさかのぼる。
 この話は一応東鳩ものなので直接明かすわけにもいかないが、場所はとりあえず海にほ
ど近い某温泉地としておこう。
 人物たちは、この地に長く住む、さる名家の四姉妹とでもしておこう。

「千鶴姉!あんたいいかげんにしなよ!」
 日本家屋の広い邸内に、次女の怒声が響く。
 さきほど、四女を診てもらったお医者さんを見送った、そのあとのことだ。
 四女は、長女の「お願い」を聞いて──すなわち彼女のつくった鳥とキノコのクリーム
シチューを味見して──倒れたのだった。
 四女は、優しい子だ。
 こんな荒んだ世紀末。
 極東という精神の荒野に降り立った、一人の天使。
 そんな感じ。
 だから、四女には長女の一生懸命な「お願い」を断り切れなかった。
 正確には、その必死さをあらわすような潤んだ瞳に押されたから。
 さらに正確に言うなら、その瞳の奥に冷たく宿る仄かな輝きに怯えたから。
「もう他に誰も食べてくれる人いないからって、また初音の人の好さにつけこんで!この
偽善者!」
 この言われようには、反省してしゅんと(したフリを)していた長女もさすがにかちん
ときた。
「もう。事あらばひとのことを偽善者偽善者って。今日だってわたし、ちゃんと人知れず
良いことをやってきたんですからね。ぷん」
「自分でばらしてちゃぜんぜん人知れずじゃないと思うけど、とりあえず、なに」
「ええ。駅前で、お嬢さん献血にご協力お願いしますって言われちゃったんで、ええ、い
いですよって」
「ふーん、献血……………」
 言いかけた次女の口元が、引きつる。隣にいた三女の顔も、一気に蒼白となる。
「「って、アホーーーーーーーーーーーー!!」」
 次女はおろか、日頃おとなしい三女も揃っての思い切った怒声に、長女はただただ驚愕
した。


その後の展開は、みなさんの予想通りだ。


 ずうん、という重い音とともに、病院各施設を烈震が襲った。例えるなら、震度6だ。
 例えてないが。
「何事だ!」
 発震源と思われる場所(部屋)に、人々が集まる。どうしてそこがわかったのか。話せ
ば長くなるが、短くすればその部屋のドアとかふっとんでいたからだ。
「……………」
 室内では、看護婦がひとり、腰を抜かして座り込んでいた。
「なにがあったんだ、君!」
「あうあう」
 答えようとして歯の根が合わないことに気付いたか、彼女は右手で天井を指差し示した。
 全員の視線が、そこに集まった。
 天井に、ではない。
 天井がないところに。
 ありていにいえば、天井にブチあけられた穴に。
 ここは2階で、この棟が5階建てだから、差し引き残り3階分ほどあるはずだが、見上
げる彼らの視線の先には星が瞬いていた。



う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜るるるるるるるるるるるる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

る〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(祝・キマイラ最新刊発売しかしこの話冗談じゃなく作者が生きてる間に終わるのか記念)

矢島、病院の屋上で月に吼える事。

「うわっ!?なんだありゃ!」
「ばけもんだ!おい、早く警察!」

──!

 矢島は、とっさに声とは逆の方角に駆け出すと、屋上から地上に向けて一気に、躊躇な
く身を躍らせる。

 彼が通常の人間であれば、そのまま地上に大輪の花を咲かせることになるのだが、いま
の彼は普通ではない。そもそも人間であるのかどうかも、もう怪しい。
 軽い音とともに見事な着地を決めると、そのまま走り出す。
 轟々という風の唸りが、耳の横を通りすぎて行く。
 計るものがないのでわからないが、100Km/hは軽く出ていることだろう。
 矢島はいま、己の身体能力に感動していた。


すげえぜ、俺!
これなら、あの伝説の格闘家オーガにだって…………………
……………………………………………いや、ガイアぐらい………



…………………夜叉猿くらいになら、(多分)勝てる!


 高揚している割に微妙に自己評価の冷静な矢島。


いや、巨大猿なんかどうでもいいんだ!
あいつだ!藤田浩之!
あの局地的あばれん坊将軍に、血の制裁を!
いまこそ復讐の宴を!
そして、神岸さんを変態の手より救い出す!
──じっちゃんの名にかけて!


 夜の大空におととし亡くなった矢島甲三郎氏(享年78)の穏やかな笑顔が、瞬く星座
となって浮かんでいた。




「あなたが、藤田さん?」
 放課後、浩之は他校の女生徒に呼び出されていた。
 寺女の制服の、二人の少女。片方は、セリオであった。
 そして、もうひとりは。
「君は……」
 あかりとともに、浩之に付いて来ていた雅志が、軽い驚きの声をあげる。
「…こんにちは、佐藤さん」
 つい先日、「ぼく、好きなひとがいるんだ…」の一言で見事雅志にフラれた、田沢圭子
嬢である。
 そのこと自体は、本人もう吹っ切ったつもりでいる。
 今日たずねてきたのは、それとは別のことだ。

「藤田さんに、セリオのことで相談あるんだけど…」

 最近、友人であるセリオが、特定の男の人の話をよくするようになった。
 セリオが自分から話題を提供するということだけで驚きなのに、しかも知らない男の話
だ。
 で、問い詰めてみると、どうやらその男は雅志の友人である藤田浩之という人物らしい。
 そこで自分が友人として、当人に会いに来たのだ、と圭子は説明した。
 浩之当人は、セリオのことをどう思っているのか?を聞くために。
 っていうか、つまるところあんたこの子になんかやっちゃいけないちょっかいをかけて
るんじゃないのか?ということを尋ねるために。

 じつのところ、もちろん浩之はセリオに、すでにちょっかいどころかそれはもう色々な
ものをかけたりかけられたりしていた。

 それと知らない圭子は親友のため、いざとなれば遠慮無くスカートのポケットに忍ばせ
たメリケンサックにものをいわせる腹積もりができていた。
「ぶっちゃけた話、あなたはセリオのことを一人の女の子として大事にしてあげられるん
ですか?出来るなら出来る、出来ないなら、もうこの子に変に思いこませるようなこと、
しないであげて欲しいんです」
「田沢さん……」
 無表情だし顔色もさっぱり変化なしだが声だけは見事と言っていい心配げな感じで、セ
リオが声をかける。
「心配ご無用!ついでに心配ゴムも無用だ!」
 どこに根拠があるのか、浩之は自信に満ちた笑みで断言した。いらないことも一緒に。
「いや、でもやっぱりそれはつけようよ、浩之」
 隣の雅志がつっこむ。
「ばっきゃろう、雅志!お前は何もわかっちゃいねえ。例えば葵ちゃんなんかは鍛えてる
おかげで締まりが良いからまだいいが、レミィなんてもともとが大きいからもはやガバガ
ぎゃーっ」
 どこからともなく飛来した矢が浩之の額を射抜いた。
 矢浩之となった彼の姿に、動物愛護団体はカンカンだ。
「うん…でも僕の場合は後ろの穴だし…もちろん、毎日浩之のために中まで丁寧に洗って
るつもりだけど、でも浩之いつも急に求めてくるし…。僕は別に良いんだけど、でも、も
し浩之に変な病気でも…」
「てめえ、このバカ!(ばしっ)俺達のことは口外するなといつも言ってるだろが!」
「あうっ!ご、ごめんよ浩之ぃ」

 彼らがいったい何の話をしているのか、まだ子供の筆者にはさっぱりだが、PSオンリ
ーの読者やこっそりいらしてる18歳未満の読者の方々のために、ここは無理を押して説
明せねばなるまい。

 これはつまり、(多分)雅志の家やレミィの家で水漏れがするので輪ゴムなどで止めて
おかなければ大変だよということなのだ(と思う)。
 雅志が言う浩之が急に求める、というのは、家に遊びに来た浩之が突然水が飲みたいの
茶をだせだのとわがままを言うことを表しているのだ。おそらく。
 水道の蛇口の中まで丁寧に掃除をしているなんて、雅志って綺麗好きだね。

 PSオンリー読者及び18歳未満読者対策、完了。

「それに、お前のケツは俺のモンだ。お前がいつも綺麗にしておくのは当たり前のことだ」
 筆者の必死の心遣いを早くもぶち壊しにする浩之。
「浩之……」
 潤んだ視線を返す雅志。浩之という男は、こういうやりかたで数々の女の(男も)心を
わし掴みにしているのである。
 おいてけぼりの圭子は、どうやら自分のフラれた理由が男であるらしいと知り、しかも
すでに調教完了と知りもう怒りで脱魂しそうであったが、全力な精神的努力をもってこれ
をこらえる。
「…………あの…」
「む!?すまん忘れてた。わけあって名は明かせないが、俺達のことはチャーリー&ジョ
ニ―と呼ぶが良い」
「急に何を。さっきまでさんざん浩之雅志って呼び合ってたじゃない」
「ぐぬっ!?いや、実はそれはセンチメンタルナイトのラジオネームだ。俺の本当の名は
柏木耕一、こいつが長瀬祐介。他人に言いふらすならこの名で流せ。間違ってもさっきの
名は出すんじゃねえぞ」
「名前なんかどうでもいいのっ!」
「──まあ、そうだな」
 なぜかあっさりと引く浩之。
「そんなものは、お互いの障害にはなり得ない」
「は…?」
「他の娘たちと違い、いかにも普通の女の子、というところが良いな。ショートも好みだ」
「あの…」
 話の方向と浩之の視線が突然おかしな色合いを帯びてきたことに、狼狽する圭子。
「ここで会ったのも何かの縁。お前もおとなしく、俺の12番目の攻略可能キャラとなれ
い」
 すでにセリオも公式扱いしている浩之が、自慢の指さばきをあらわすがごとき(奇妙な)
手運動をみせびらかす。
「いやあああああああ!?」



「そこまでだ!」



 全員の視線が、声に集まる。
 そこには、マントに身を包んだ一人の男が立っていた。

「地獄の底から、帰ってきたぜ…」

 渋みのある声とともにマントを投げ捨てる、男。
 いままで車田正美的にマントの影に覆われていた、男の顔が露わになる。

 その人物こそ!

「なんだ、矢島か」
 あっさりとした浩之の言葉とともに、何事もなかったかのようにさっきの続きに戻る矢
島以外の人物たち。
「いやあああっ………あ、いや…そんな…」
「おおおおい!無視するなあ!」
 思いっきり声を張り上げる矢島。
「なんだよ。用があるなら、早く言え。忙しいんだから」
 ようやく顔を向けなおす浩之。そして一瞬なぜか不満そうな表情を見せ、それから慌て
て自分を取り戻した表情で制服の乱れを直す、まだちょっと息の荒い圭子。
「男子三日会わざれば剋目して見よ、と言うが…貴様は相変わらず外道のようだな、藤田。
……3秒、待ってやる。──おとなしく神岸さんを解放しろ!」
 カッコ良く指なんかさしてみたりする矢島。
「え?私、別に…」
「つかまってるのはあたしーーーーーーっ!!」
 きょとんとするあかりに、圭子の全力のつっこみがかぶさる。
「ぐぬう。ではこうしよう!その見知らぬ娘さんと引き換えに、神岸さんは俺に明渡すと
いうことで!」
「知らない人間を勝手に売るなあっ!」

 正義不在の世紀末。そんな哀しい時代に、僕らは生きている。

「ならばやむをえまい…なるべくならば、使いたくはなかったが…お前には、この力をみ
せてやるしかないようだな。──地獄の特訓によって得た、俺のこの力を!」
 細かい嘘をつく矢島。

 しかし、経緯はともかく力を得たという点に限っては嘘ではなかった。
 矢島の、全身の筋肉が急激に膨張し、服が破れ落ちる。
 代わりに、ざわざわと波立つように、太い体毛が肉体を覆ってゆく。
 食いしばられた歯は太く、そして鋭く尖って行く。ことに二本の犬歯は唇からはみ出す
ほどに長く。

 そして。


くうぅおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 人間ではあり得ない圧倒的な量の音が、大地を振るわせ空を貫く。
 完全に獣化を遂げ、狼男の如き姿となった矢島。
 そう。
 彼はいま、まさに世界最強──

──とりあえずこの町内では最強の生物であった!


(うわっ)
 さすがにびびりが入る浩之。ちょっとだけちびってしまったのは、男同士の秘密だ。
 しかし。
(……でもまあ、所詮矢島だしな)
 そう考えるだけで、この現実を前にしてももう余裕で大丈夫のような気がしてくるから
不思議だ。
 とにもかくにも、浩之はほぼ一瞬で冷静さを回復していた。
(この状況に対抗できるのは…お、そうだ)
「セリオ」
 浩之の声に、セリオが無表情顔を振り向かせる。
「なんでしょう。浩之さん」
「頼む。──お前が必要だ」
「私が──」
 セリオの優秀なAIはすぐに意味を了解する。
 たしかに、あの獣人に対抗しうる戦闘力をもつ者は、この場ではセリオしかいないだろ
う。
 だがセリオは、すぐには返事をしなかった。
「…………」
 無言で、じいっと浩之の顔を見詰めるセリオ。
 メイドロボなのに即座に命令に応えないセリオに、しかし浩之はいらついたりはしなか
った。
 そこはそれ、男と女(ロボ)の機微というやつだ。
 浩之はその点、百戦練磨であった。
「どうした?セリオは、どうして欲しいんだ?」
 優しく肩を抱き寄せて、関係ない人間が聞けばさぶいぼがたちそうな軟派声で囁く浩之。
「…わたしが、勝ったら………」
「ああ」
「……なでなで、してくれますか」
「いいぞう。セリオはどこをなでなでされたいのかな?」
「……それはメイドロボの倫理条項に抵触するので、ここでは言えません…」
「ええから、言うてみ?ほれ?」
 なぜか関西弁。
「…………ひどいです、浩之さん…」
 ちょっと拗ねたような、潤んだ上目づかいで浩之を見上げるセリオ。
 最近プログラマーを脅しつけて、サービス残業でプログラミングさせた表情のひとつだ。
 作らなければ会社の監査部に『実は夜な夜なセクハラされてます』と言う、と脅された
プログラマーは、泣きながら徹夜していた。
 その日は彼の娘さんの誕生日だったらしく、泣き声の漏れる電話口に向けて必死に謝る
彼の姿が可笑しくも滑稽だった。
 つぎは「ほんとは寂しいけれどあなたを心配させたくない。だからわたしのことは気に
しないで良いのよ。でもそれは建前だから、ほんとに行ったりしたら嫌よ」という意味の
寂しげな微笑を造らせる予定だ。
「わかったよ…この続きはベッドで、な…」
 軽く耳にくちづける、浩之。
 見守るあかりと雅志の瞳に激しい嫉妬の炎が燃えるが、調教済みの二人は口に出しては
何も言えなかった。
 そして、セリオは。
 外面はあくまで無表情のままだが、内部的などこかにしっかりスイッチが入ったようで。

「それでは、軍事用プログラムダウンロード。対象物完全排除モードに移行します」

 きっぱりとした声とともに体中のいろんなところが開き、いろんなものが顔を覗かせる。
 それらすべてが、獣人矢島に冷たく熱い顎を向けていた。

 そのことに、すっかり自分に酔っていた矢島がようやく気付いたとき。


──ウガ!?


 いちいちカッコつけて吼えたりしていた矢島は、それにまったく反応することが出来な
かった。




 ミサイルx8、ガトリング弾x114、炸裂弾x24、とどめにレーザー照射約四秒。




 砂埃が消え去ったあとには、ただ一個の炭化した肉塊があった。
 獣の力と科学のパワー、科学の圧倒的勝利。
 それはある意味、人類の繁栄と科学におしつぶされた無残な自然の姿──そういう悲し
くも数多い光景の中のひとつとも言えるかもしれない。
 だからこそ我々人類は、そういった己自身の罪に対して、決して目を背けていてはいけ
ないのだ。
 この場合はあまり関係ないが。

 とにかく、激戦の末矢島は敗れた。まったく見せ場のないままに。


「……う…えっく…えぐ…ひっく…」
 やがて炭の塊の中から、哀しげな泣き声が聞こえてきた。
「あれ。まだ生きていやがる」
 無防備に炭山に近づいてゆく、浩之。
 灰やら炭やらを払ってやると、中から全裸・真っ黒・頭部アフロ化した矢島が、体育座
りですすり泣いていた。
「なんだよう…俺を笑いにきたのかよう」
「いや、なんか哀れだから」
 まるでフォローにならないことを言う浩之。
「なんでだよ…なんでみんなお前のものなんだよう…」
「いや、なんでって言われても。生来の魅力とか?」
「俺はどうすればいいんだよ。どうすれば幸せになれるって言うんだ?」
「あー…そうだなあ。……とりあえず、髪を伸ばして、リボンをつけろ。そうすれば、お
前にも違う幸せがまってるよ、矢島」
「髪を伸ばして、リボンを…」




『ほら。クッキー、焼いてきてやったぜ…』
 あいつに、少し照れながら可愛い包みを渡す俺。


『お前があの時、俺の乙女を守ってくれたんだよな…あのとき、お前が俺を乙女にしてく
れたんだ…』
 大嫌いだったはずのあいつを、自分でも驚くほど素直に好きと…好きだということを認
めている、俺。


──そして
『お前の…部屋とか、だったら…』




「たしかにかなり違ってきそうだが、俺、その幸せ、やだ」
「じゃあヒゲを伸ばしてリボンをつけろ」
「どうしてリボンにこだわるんだよ」
「じゃあ何にこだわれと言うんだ」
「別にこだわらなくてもいいから、俺に普通に幸せな人生をくれ」
「………贅沢なやつだな」
「なんでだー!?」

 …激しい言葉のインファイトをかましていた二人は、そこに近づく第3者の影に気付か
なかった。


 がこっ

 ぼこっ


 何かが潰れるような音とともに、仲良く昏倒する浩之と矢島。
 傍らに立つのは──血塗れのメリケンサックを右手に握った、田沢圭子その人だった。
「藤田さん──いやむしろ藤田。あなたにセリオはまかせられない」
 矢島はついでのようだ。
 圭子は呆然とした顔の(いつもそんなような顔だが)セリオを振り返った。
「セリオ。気付いたの、あたし…たったいま。あたし、あなたを守りたい。…あなたと、
ずっと一緒にいたい…」
 圭子の、真摯なまなざしと言葉に──動かぬはずのセリオの表情が、微妙に…だが確か
に、動いた。
「………田沢…さん」
「圭子って呼んで」
「…圭子、さん……」
「セリオ」
「…圭子さん」
「セリオっ!」
「圭子さん」
 いつしか二人の距離は0になり、圭子とセリオはしっかりと互いの体を抱きしめていた。
「いこう…セリオ。新しい、私達の時間に」
「はい、圭子さん」
 圭子の手を握ったセリオは、少しだけ(昏倒する)浩之を振り返る。
 過去の自分の想いとともに。
 それとの、決別のために。


 ごめんなさい、浩之さん。
 今思えば、あなたへの想いは、多分憧れのようなものだったのだと思います。
 わたしは今…本当の恋を知りました。
 そう、それはさなぎだったわたしが、蝶となって大空に飛び立つように。
 あなたには、本当に感謝しています。
 この想いを…わたしに、教えてくれた人だから…。


 浩之の骸にむけて、全部棒読みでそこまで言ってのけたセリオは、圭子と手に手をとっ
て楽しげな無表情で去っていってしまった。

「………いっちゃったね」
「…うん」
 あとに残されたのは意識を失った二人と、あかりと雅志。
「……浩之ちゃん、起きてこないね」
「…そうだね」
 もう辺りはすっかり薄暗く、太陽は地平の向こうに沈みかけている。
「雅志ちゃん」
「ん」
「帰ろっか」
 にこやかに右手を差し出す、あかり。
「…そうだね」
 その手を取る、雅志。
 夕日を背にして手をつないだ二人の影が、長く長く伸びていた。
 長く伸びたふたつの影も、仲良く手と手でつながっていた。
「そういえば、二人でこうして帰るのって久しぶりだね」
「そういえばそうだね。小学生以来かな…」
 すこし照れくさそうな微笑みを浮かべ、楽しげに談笑しながら、あかりと雅志の二人も
また、去っていった。
「今日、両親出かけちゃっててさ…」
「そうなの?じゃあお夕飯つくりにいってあげるよ」
「え、ほんと?嬉しいなあ…」

……










 親切なホームレスの人の通報で浩之と矢島の二人が発見・保護されたのは、深夜の2時
を回ったころのことである。
 覚醒した二人は前後の記憶を失っており、なぜ学校の校庭で抱き合うように倒れていた
のか(しかも片方は全裸)、まるで覚えがないということだった。




<終わり>