──あれから。 マルチとの別れからしばらくたったある日。 俺は公園で見知らぬおっさんに話し掛けられていた。 おっさんは、鳩に餌をやりながら、俺にこんなことを聞いてきた。 「あなたは…どう思います」 視線は餌をついばむ鳩たちに向けたままに。 「──メイドさんルックにガーターベルトは、あったほうがいいかどうか…」 「…いいに、決まってるじゃねえか」 青い空を見上げながら、俺は一点の躊躇もなく応えていた。 「あったほうがいいに、決まってるじゃねーか」 「そうか…」 おっさんは、立ち上がった。立ち上がってまっすぐ俺を見て、 「君は、我々の見こんだ通りの男のようだ」 そしてその手を差し出した。 「いっしょに、来るかね?」 その時──俺にはわかった。これは、宿命(さだめ)なのだと。 俺は微笑み、その手を取っていた。 「ああ──」 世界をこの手に。 そして──選ばれし者だけの、新たな世界を! 美しい世界を! 「朝日が…昇るぜ」 「ああ──我らの出発の門出を祝うかのようだ」 さっきまで昼だったが、俺達は昇る朝日に向かって歩き始めた。 そしてそれこそが──俺達の長き戦いの道程への第一歩であった。 マルチ、忘却。