いつか…  投稿者:COU


 ――桜の花の舞う季節


「今日もいい天気だ……」
 
 空には白い雲が浮かんでいる。
 庭にでようとサンダルを履きながら、空を見上げてそうつぶやく 
 穏やかなやさしい風が吹き抜けていく



「いいね。たまに、こんな風にユックリ過ごすのも」
 久しぶりの休みを家で過ごすことにしたオレは、今とってきた郵便物を眺めながら
 庭に置いてある椅子に腰掛けた。

「おっ!高校から手紙が来てる………。
 一通のはがきの後ろには ”全卒業生対象・大同窓会開催”と、書かれていた。  
 同窓会か。みんな、元気にしてるかな……」
 
 この手紙の送り主は、オレの母校で教師をやっている、琴音ちゃんだ。
「でも、あの琴音ちゃんが”先生になる”って、言った時は驚いたよな」
 ”昔の自分のように、悩みを持つ子供たちの力になってあげたい” 
 と言って、
 教師を目指すことにした琴音ちゃん……。
 オレたちの卒業式の日は、自分の卒業式でもないのにすごく泣いて、目を真っ赤に腫らしていた。

 泣いてたと言えば、葵ちゃんも大泣きしてたっけ… 
「せんぱ〜いぃぃ〜〜」
 とか言いながら、涙をボロボロ流していた。
 そんな葵ちゃんも、今では女子格闘技界の至宝とまでいわれている。
 本人いわく、 
 ”私なんて才能ないですから、もっともっと頑張らないと” らしい、
 どうにも、葵ちゃんらしいコメントだ。
 
 格闘技と言えば、綾香のヤツだけど……。
 4年前の世界女子エクストリーム決勝で
 葵ちゃんと引き分けた時の試合終了後、
 ”葵、強くなったわねー。あと任したわ!”
 と言って引退、今ではなぜか、ここからすぐの所で喫茶店の女店長をやっている。
 綾香が言うには、
 ”いーじゃない、やって見たかったんだから” だそうです。
 なんとも、綾香らしい理由だ。
 もちろん、セリオが一緒なのは言うまでもない。

 そうそう、雅史のヤツは
 同じ新聞社で働いていた理緒ちゃんと結婚
 今では3人の子供たちのお父さんだ!
 オレ的には、結構お似合いの二人だと思っていたのだが、
 どうも周囲の評価は違うらしく、みんなビックリしたらしい。
 もうすぐ、4人目も生まれる予定だ。

 レミィは、保育園の先生をやっているが
 いまだに、あの妖しい日本語は直らない
 「大変だな」と聞いたら、、
 ”そんな事ないよ、ヒロユキ。I'm very happyヨ! ”
 と、笑っていた。
             
 オレはと言うと、
 来栖川電工に何とか入社、毎日一生懸命(?)働いている。
 上司の長瀬さんや他の人たちとも、仲良くやっている。
 芹香先輩に、この間 ”本社で一緒に働きませんか?”と、誘われたが
 もう少しだけ、ここで働かしてもらうつもりだ。
 
 その先輩だが、いまや来栖川グループの次期総帥とまで言われている。
 なんでも先輩が言うには、ぜんぶ 元オカルト研究会の連中と相談している
 らしいのだが……。たしか…あそこの部員は、ぜんぶ幽霊だったような気がする
 ………まさかね?まあ、あえて深くは追求はしまい………
  
 そうそう、志保のヤツだけど、
 なんとフリーのニュースキャスター兼、流行雑誌のライターを
 やっている。
 ”まっ、才能の違いね、ヒロ!”とか、憎まれ口を叩いていた。
 志保らしいと、言えばらしいが、やはりムカツク
 
 委員長も今や、超売れっ子のファッションモデルだ
 この間も、役者のナントカとか言うヤツと、付き合ってるとか、
 <お母ーさんでもわかるワイドショーこー座>で、[海瀬 ナミ] が、
 言っていた。委員長に真相を聞いたら、
 ”はっ、アホらし。っんなことあるわけナイやろ。わたしが好きなんは一人だけや”
 とかいって、こっちを見て笑っていた。 ………勘弁してくれ、冗談にもほどがある 
(ケド、ちょっと期待してたりして……)とは、口が裂けても言えない。                  


 だけど、懐かしいなぁ
 みんなで最後に会ったのは、俺たちの結婚式以来か。
 他のみんなも元気かなぁ?
 久しぶりに、みんなの顔を見るのも悪くはないよな……。
  

「ただいまぁ〜、ご主人様。いま帰りました」
 を、この声は、 
「あっ、ここでしたか。ご主人様」
 マルチが玄関の方から現れてそう言った。
「なあ、いつも言ってるように、止めないか?その”ご主人様”っていうの、
 昔みたいにヒロユキでいいって」  
「はい。でも、いちよう私のご主人様なわけですから」
「でもなぁ、どうもむず痒くてな、その呼び方……」
 と、俺が最後まで言い終る前に、
 いきなり胸に向かって、突撃してくるものがいた

「ぱぱ、ただいま〜!」
 ポフッ

「おう、ゆかりお帰り」
 突撃してきたのは、娘のゆかりだ。
 元気なのは良いのだが、もう少し落ち着いてほしいと思う、今日このごろ
「きょうね、ままと、まるちにお人形買ってもらったんだー」
「へー、それは良かったなぁ。ゆかり」
「うん!!」
 俺がそう答えると、とても嬉しそうにうなずいた。 
「マルチご苦労様、今日は大変だったろ」
「そんな事ないですよ。ゆかりさんも、とても良い子にしていましたし」
 うん、うんと、ゆかりのヤツも、すこし自慢げにうなずいている。 

「ただいまー」
 と、そこにもう一人帰ってきた
「おっ、おかえり」
「は〜っ、つかれた。どうも苦手だよ、人のたくさん居る所は…」
「ごくろうさん。そうそう、こんなの来てたぞ、同窓会の知らせの手紙、
 マルチは行くだろー?」
「えっ、同窓会ですか?わたくしも一緒に行ってもよろしいのでしょうか?」
「当たり前だろマルチ。もちろんお前も行くだろ?」
 後ろを振り向いて、俺の背後に立つ人物に尋ねる。
 そこに立っているのは………
「うん、浩之ちゃん」
 ・
 ・
 ・
 ・

 「今日もいい天気だ」 
 
  庭の椅子に腰掛けて、空を見上げながらそう呟く。
  
  穏やかなやさしい風が吹き抜けていく………
  どこからともなく、桜の花びらが風に運ばれてきた
  
  今日も空には、
   
   あの頃と同じ、白い雲が浮かんでいた。
 

                       ==完==