そのコトに気が付く度に僕がただ口にするひとことは、 「ああ、そうなんだ」 ただそれだけだった。 そのひとことのあとで体を動かすと、意識が冴えわたるのだ。 一瞬前の憂欝も、僕を縛ることはない。 全てが思い通りになるという、確かな実感。 他人の病んだ心をひねりつぶし、自分の病んだ心を研ぎ澄ます。 不条理な行動は、化け物たる僕にのみ許される特権だ。 その感覚を味わうためにさながら麻薬中毒になった更年期の不細工なおばさんのようにその言葉を呟き、その度に僕のまわりの人間が病院の白い壁の向こうに消えるのだ。 そして世界は平衡を保つように動き、結果、僕に力が集まる。 僕はその力を大切に、大切に、しまいこむ。 龍舌蘭の果汁を穴蔵に注ぎ入れる猿のように。 時間は、それを人間さえ魅了する美酒にする。 僕がしまった力は何になるのか、僕にはまだ分からない。 力は、それを外気にさらさぬ限り、時によって風化することを自ら選びはしないのだから。 かつて僕が憎んだ白い壁の向こうの暴君たちは、この感覚が心地よかったのだろうか。 彼等の中で、僕の身の回りで暴れ、最も僕を傷つけたあの男は、まだ僕を知らぬままでこの世の春を謳歌しているのだろうか。 アンテナの低さが自分たちの命取りになるとも知らずに。 僕に強く生きることを許さなかった世の中は、まだ回り続けている。 中心軸には、吐き気をもよおさせる格好をした詐欺師たちが自己満足のためにお祭り騒ぎを繰り広げる。 羊たちはそれが当たり前だと思っている。 本当に、耐え切れなかった。 だから、こうなった。 最後には、きっと何も残らないと思う。 それでも、僕は不快なものを取り込み、自分を大きくする。 そうすれば、少なくとも僕自身が不快になることはないだろうから。 自分自身が醜くなったとて、誰も涙は流さない。 望むところだ。 醜く膨れ上がった姿を、彼女に見せつけてやろう。 もし、自分のしたことに知らん振りを決め込んで、悲しげな目で僕を見つめるのなら、頭からかじってやろう。 目を覚ました後、きっと彼女はそうするだろうから。 無責任に、僕が化け物になったことを非難するだろう。 自分自身が化け物だったことを棚に上げて。 風の強い朝 君のいない朝 何をすればいい? いちばん大事な人をなぜ僕は 憎んでしまったのか? 砂のように ただ時間だけ 手のひらから こぼれていく コ−トを着て 渋谷に出る インテリアを 置き去りにして・・・ (インテリア/RAZZ MA TAZZ) きみがいれば、なにもいらなかったのに・・・。 コメント:怪物になった少年は、ひとりごちる。