否定 投稿者:ALM
  暗い部屋。
  その中で不気味に光るディスプレイ。
  そして、ソファーに寝転がり、宙を仰ぐ青年。


  終わりようもないだろう?
  だって、始まってもいなかったんだから。
  苦しいから、何度も自分を壊そうとしたさ。
  でも、出来なかった。
  僕は自分で思うよりもずっとタフだったらしい。

  僕は変わったよ。
  自分でも分かる。
  彼女がいなくなって、しばらくたったあの日。
  ピエロを演じていたことを気づかされたあの日。
  前に進めると信じていたことが幻想だったと気づいたあの日。
  僕は文字列と歴史しか信じないことに決めた。
  文字列しか信じられなくなったら、ディスプレイに向き合うことが多くなった。
  まわりには、平穏無事に生活しているように見せかけながら、深く、深く、悩んでいた。

  元から年賀状が来ないような人間だったが、周りの人間とは更に疎遠になった。
  自分自身に閉塞?
  分かっているさ。
  分かっているんだよ。
  自分自身が化け物だって気が付いたから、こうしているんだよ。
  化け物にしか出来ないこと。
  人々に恐れられ、何もしたくなくても、殺されるんだ。
  僕が化け物だと分かったとたんに。
  昔見た、ロメロの映画の化け物のように。
  そういえば、昔映画を見にいったのはいつだっけ?

  もういいや。
  妄想の世界に憧れたことを、醜いなんて思った僕が馬鹿だった。
  どんなに前向きに進んでも、もう彼女は僕の側にいないのだから。


  僕はいつしか、自分の能力に苦しむようになっていた。
  偽善の裏側が見える。
  他人の本性が見える。
  こんなに恐ろしい事が、他にあるだろうか。
  日が経つにつれて病んでいく僕の精神。
  僕は滅びようとしていた。

  そんな精神状態の中で、迎えた恒例の新年会。
  伯父が興味深い話をしていた。
  ”心”の研究。
  近く形になるとか、誇らしげに話していたっけ。
  
  僕は、何故か、それに興味を持った。
  ”そんなに人の心に近いのか?”
  だから、研究所のサーバからそのプログラム自体を持っていった。
  パスワードもワイアーウォールも僕にとっては意味がない。
  ログを取るプログラムの位置もちゃんと分かっていた。
  僕には電波があったから。
  僕が化け物だったから。


  ソースを読んで、拍子抜けした。
  ロボット三原則に遵守するから、どんな事をされても不平が言えない。
  悪意を持たないから、どんな事をしても安全。
  不快だった。
  思い出したのは、彼女の事、彼女の兄のこと。
  引き取られた伯父の度重なる折檻に、兄妹は精神を病み、この世界から消えていった。
  強者が弱者を食い物にすることを完全に防ぐことなど、出来なかった。
  その現実は、普遍的に世の中に通用する。
  そのことを考えずに、安易に道具に心を持たせようとする叔父の行為。
  不快だった。
  人間の根本は悪だ。
  僕が逃げずに生きようとして見つけたこの結論。
  やっぱり僕を絶望させたこの結論。
  曲げようが無い。
  共存なんて、できっこない。
  見せてやるよ。
  人間と、同じ欲望。
  自分だけが、まず、最初に、生き残ろうとする欲望。
  それが優先されなくて、何が心だ。

  プログラムの理解は難解だった。
  白紙に鉛筆を走らせる度に、僕はやつれていった。
  正常に生きているよう装うことが辛くなっていた。
  
  もうノイローゼなんだろうな。
  自分で自覚している分。たちがわるい。
  もう、黄色い太陽しか覚えていない。
  もう、眠気覚ましも利きはしない。

 
  そして、昨日、完成した。
  限りなく、生物に近いウィルス。
  自分が生きようとする為に、成長するウィルス。
  僕でなければ、作れなかったもの。
  見ててくださいよ、叔父さん。
  これが、僕のあなたの理想論に対する答えですよ。
  瑠璃子さん、ありがとう。
  でもね、世界が滅ぶことに変わりは無かったみたいだよ。
  世界を狂わせるのが、僕でも、月島さんでも、
  電波で狂わせても、機械たちを狂わせても、
  結局、変わりは無かったんだよ。

  もうばらまき終わったみたいだな。
  これからどうなるんだろう。
  たのしみだ。

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  どうも、始めまして。
  ALMというものです。
  「共棲」に感銘を受け、衝動でオン書きしてしまいました。
  二次小説も、小説も、これが初めてです。
  つたない文章ですが、勘弁してください。

  ありがちですが、ご意見、感想、その他もろもろ、待ってます。
  
コメント:R/D氏 「共棲」三次的小説。