「約束」第27章 もう一つの約束  投稿者:DOM


「約束」
The Days of Multi <番外/時空編>
第27章 もう一つの約束



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<おもな登場人物>

 柏木耕治    かつての次郎衛門。官は能登守。能登以下10ヶ国の守護。雨月城主。
 禧子(よしこ) 耕治の妻。前天皇の娘で「六の宮」とも呼ばれる。「虫めづる姫君」。
 小太郎     耕治とリネットの間に生まれた男子。本名は耕嗣(やすつぐ)。
 マルチ     21世紀初頭に製造された試作型メイドロボ。
 セリオ     マルチと同時期に製造された試作型メイドロボ。
         自律型データベース「セレナ」の中によみがえる。
 HM1377  22世紀から来た20体のメイドロボ。
         戦闘用にカスタマイズされている。
 長瀬源忠    もとの中村新左衛門。畠山氏の旧臣で今は柏木氏に仕える。京都目付。
 佐々木氏興   もとの京極氏広。近江守、近江・飛騨の守護。
 ゆい      柏木氏に滅ぼされた小笠原信清の娘。
 早良(さわら) 22世紀、榊原宇宙開発研究所のメイドロボ部門の責任者。
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「早良(さわら)君。
 君は自分のしたことがどういうことか、わかっているのかね?」

 あるものと言えば四角いテーブルと金属製の椅子だけという殺風景な部屋の中で、初老の男が神経
質そうに言った。
 髪の毛には大分白いものが混じっている。

「貴重な宇宙開発用のロボットを、無断で改造してしまったんだぞ?
 それも、あろうことか戦闘タイプに……」

「改造と言っても、二、三のマイナーチェンジと、
 エネルギーレベルのアップ程度です。
 その気になれば、HM−1377は、改造などしなくても十分戦闘使用が可能な……」

 テーブルの反対側に座っていた早良が、淡々と言いかけると、

「滅多なことを言うもんじゃない!」

 初老の男が慌てて遮った。

「我が榊原宇宙開発研究所は、国からの多大な資金援助を仰いでいるんだぞ?
 君の不用意な発言が外に漏れたら、大変なことに……」

「それは重々承知しております。
 ただ、宇宙開発用メイドロボは、様々な不測の事態に対処できるよう、
 高度で多様な機能を持っておりますので、実戦にも立派に耐えることが……」

「そんなことはわかっている!
 しかし、あれの用途は宇宙開発のみに限定されており、
 断じて戦争目的などに使われるはずはないのだ!」

「もちろんです。私はただ、事実を述べたまでですよ」

「ともかく! ……君が職務上の権限を利用して、
 200体のHM−1377に私的な改造を施したことは確かだ。
 その点は認めるね?」

「はい」

「よろしい。それが第一の点だ。
 第二に、君は研究所の資金を流用して、用途不明の機械を作成し……」

「あれは時間航行機(タイムマシン)だと申し上げたはずですが?」

「そんなたわ言が通用するとでも思っているのかね?
 時間航行は理論的に不可能だということは、
 20年以上も前に証明されたじゃないか?」

「確かに『20年前の技術では』タイムトラベルは無理でしたね。
 ですが、今は違います」

「我々を煙に巻こうとしても無駄だよ。
 あの妙な機械は、今その構造を徹底的に分析中だ。
 本当は何を目的としたものか、間もなく突き止められるだろう。
 ……今のうちに正直に話しておいた方が、君のためだと思うがね?」

「あれは時間航行機です。それが正直なところです」

「……あくまでしらを切るつもりかね?
 それならそれで、調査結果が出るのを待つまでだ。
 さて、第三の点だが……」

 初老の男はいったん言葉を切ると、早良に向かっていかめしい顔を突き出した。

「君の管理下にあった、改造HM1377のうち20体と、
 自律型データベース1基が紛失している。
 どういうことか、説明してもらおうか?」

「ですから、時間航行機で過去へ送ったのですよ」

 うんざりしたように言う早良の顔を、相手はじっと見つめながら、さらに質問を重ねた。

「どこへ売ったのだ? まさか国外ではないだろうね?
 戦闘型に改造されたメイドロボが他国に流れたりすれば、由々しい事態になるのだぞ?」

「何度聞かれても、私の答えは同じです。
 ……私は彼らを、タイムマシンで過去へと送り込んだのです」

「すると何かね?」

 男は嘲るように言った。

「君が200体ものメイドロボをわざわざ戦闘型にカスタマイズしたのは、
 彼らを、現代科学が否定しているはずの時間航行機によって、
 すべて過去に送り込むためにほかならない、とでも言うのかね?」

「その通りです」

 バン!

 初老の男は耐えかねたようにテーブルを叩いた。

「いい加減にしろ!」



 22世紀後半。
 人類の科学技術は飛躍的に進歩しつつあったが、そのすぐれた技術をもってしても、どうにもなら
ないことがあった。
 それは、燃え尽きようとする星の命を長らえさせることである……

 すでに20世紀において問題化しつつあった自然破壊は、21世紀に至ってピークに達し、地球と
いう惑星そのものの生命に致命的な打撃を与えるに至った。
 その事実は自然界の様々な現象に如実に現れ、世界各地で異常気象が発生し、地震や洪水などの天
災が猛威をふるい、深刻な食糧不足や未知の疫病の蔓延などが相次いだ。
 「死に行く惑星(ほし)」……それが地球の別名となったのである。

 22世紀に入ってからの科学者の労力は、その大半が、この惑星の生命回復のために注がれたと
言ってよい。
 ……が、2100年代も半ばに至る頃には、彼らの試みは結局徒労に終わるであろうという悲観的
見解が定着しつつあったのである。

 もはや地球を救うことはできない。
 そこで科学者たちは、それまで培われてきた技術を、惑星救済のためでなく、別の方向へと注ぎ始
めた。
 すなわち、人類の宇宙への移住のためである。

 もちろん、宇宙船によって近隣の惑星を訪れる程度のことなら早くから実現していたが、本格的な
永住となると話は別である。
 第一、よほど地球と諸条件の似通った惑星でなければ到底住みつくことなどできないわけだが、こ
の広い宇宙の中でそういう星を都合良く見つけることは、極めて難しい。
 むろん太陽系内には、適当な惑星は見当たらない。
 別の星系をしらみつぶしに探して、人類の移住可能な星を見つける必要がある。
 しかも、何十億という人間が大挙して移住しなければならないとなると、想像を絶するほどの準備
が必要だ。
 まず、それだけの人数を一度に運ぶだけの宇宙船を整えることからして、ほとんど不可能に近い。
 では、ありったけの宇宙船を使って「ピストン輸送」をすれば良いのか?
 だが、移住先は恐らく気が遠くなるほどの距離にあるだろう。
 ピストンどころか、先発隊が無事目的地にたどりつけるかどうかも定かでないのだ。

 与えられた時間はどんどん消費されていく。
 日増しに悪化して行く状況から見て、人類が23世紀を迎えるまで生き延びられるかどうか予断を
許さないほどになっていた。
 しかも、第二の地球となるべき惑星は、まだ見つからない……



 早良は、榊原宇宙開発研究所のメイドロボ部門の責任者であった。
 この研究所は、かつての来栖川エレクトロニクスのメイドロボ技術を受け継いだ榊原グループが興
したものであるが、宇宙開発の重要性が高まるに連れて政府も高額の援助を行なうようになり、今で
は半官半民の色彩が強まっている。

 早良自身は、もともとタイムトラベルの研究が専門であったのだが、「時間航行は不可能」という
見解が学界で定説となったため研究費用を得られなくなり、やむなくメイドロボ研究へと路線を変更
した男である。
 だが、宇宙開発用のメイドロボとそれに必要な装備を研究していくうちに、ひょんなことから、タ
イムトラベルの鍵となるべき技術を見い出したのであった。
 そしてその時、彼の頭に、突拍子もないアイデアがひらめいたのだ……

 早良は、密かに時間航行機の完成を急ぐ一方で、自分の管理下にある200体のメイドロボを戦闘
型にカスタマイズした。
 そして、タイムトラベルが可能になるや否や、20体のHM−1377と、自律型データベース
「セレナ」を、戦国時代初期へと送り込んだのである。

 もちろん、最終的には200体全部と、その数の匡体の「意識統一」が可能なだけの自律型データ
ベースを送り込む予定であった。
 しかし、まだ開発されたばかりのタイムマシンは、作動のためのエネルギーを蓄積するのに長い時
間を要する。
 メイドロボの第一陣を送り出して、次の20体のためにエネルギーを貯えようとしていたところを、
かねて早良の行動に疑問を抱いていたある研究員の密告によって、上司たちに取り押さえられてし
まった。
 いったん調査の手が入ると、メイドロボを改良したことも、得体の知れない機械(タイムマシン)
を勝手に作成したことも隠しようがなく、その結果、早良は厳しい追及を受けることになったのだ。

 特に問題とされたのは、20体のメイドロボの行方である。
 上司たちは、HM−1377が戦闘用に改造されていた事実からして、早良が秘かに他国へ「兵器」
または「兵士」を横流しするつもりだったのだと考え、失われた20体がすでに国外へ持ち出された
かどうか知ろうと躍起となっていた。
 早良の正直な説明は一笑に付され、誰も真面目に取り合おうとはしなかった。
 それほど彼のプランは突飛だったのである。



「……早良君。事は緊急を要するのだ。
 『メイドロボを使って歴史を変えるつもりだった』などというおとぎ話はやめて、
 洗いざらい話してくれないか?
 HM−1377が国外に持ち出される前に押さえることができれば、
 このことがマスコミに漏れないよう手を打つことも可能だし、
 君の処遇もある程度配慮することができる。
 だが、もしも、日本製の戦闘用ロボットが外国の手に渡って、
 それが実戦に使用されたということにでもなれば、
 とても隠しおおせるものではない。
 そうなれば、もはやこの研究所だけの問題ではすまなくなる。
 政府の責任も追及されるだろうし、
 深刻な国際問題に発展することは、目に見えているのだぞ?」

「ですが、私は最初から真実を申し上げています。
 ……地球の寿命はあとわずか。
 しかも、他の惑星への移住計画は全く目処が立っていません。
 このまま人類が滅んで行くのを指をくわえて見ているよりは、
 いっそ歴史をやり直して、もっとましな未来、
 少なくとも、人類が22世紀で滅んだりすることのないような未来を
 築くことができるようにしよう、そう思ったまでのことです。」

「……もし君が本気でそんなことを実行しようとしたのなら」

 初老の男は疲れたような口調で続けた。

「君は狂っている……」



「大内と山名が手を結んだそうな」

 京にある長瀬源忠からの報告を受け取った耕治は、険しい顔でセリオに言った。

「狙いは明らかに、柏木への対抗、と知らせて来た」

「−−大きないくさになりそうですね」

 セリオの声は落ち着いていた。
 いずれ、西国との関係も日程に上るはずと、前々から考えていたからだ。
 山名氏も大内氏も、幕府から見ると外様大名の雄で、両者の支配地域を合わせると、中国地方から
北九州までの大半をカバーする一大勢力である。

「無理にいくさをする必要はあるまい。
 我らが西国を侵す意図なき事を明確にすれば、恐らく……」

 耕治が眉をひそめながら言うと、

「−−柏木家には近江や美濃を侵略する意図などありませんでしたが、
 それでも京極や土岐は反柏木の兵を挙げました」

 セリオが淡々と返した。

「−−まして、大内も山名も、いずれは天下に号令せんものと機会を伺っています。
 百歩譲って、こちらに西国進出の企てなしと納得してもらえたとしても、
 だからと言って柏木家と事を構えるのをやめるとは、到底考えられません」

「…………」

「−−もちろん、交渉によって友好関係が築けるのなら、
 それに越したことはないのでしょうが……
 いくさになることは覚悟の上で臨んだ方が良いでしょう」



 セリオはこれまで何度となく考えては迷い抜いてきたことに、ようやく先頃結論を下すことができ
た。
 ここまで来た以上、柏木氏が天下を取って、この時代に可能な限り理想的な国づくりに励むべきで
ある、と。
 そして、そう結論を下した途端、何もかも吹っ切れたような気になったのである。

 自分たちがこの時代にやって来た本来の目的は、依然として不明のままだ。
 多分それを知ることは、永久に不可能だろう。
 だが、今は……新たな目標ができた。
 もう迷わない。20体のHM−1377と共に、柏木氏による国家統一を果たすのだ……

「−−源忠殿や氏興殿と相談して、和戦両様の構えをしなければならないでしょう」

 ようやく見い出した「生きがい」のせいか、淡々とした語り口の中にも力強い響きの籠るセリオで
あった。



 早良は、タイムトラベルに際して、メイドロボにも自律型データベースにも、外面的な指令は一切
与えなかった。
 「より良い世界をつくるために歴史を変えよ」などという大それた命令を外から与えたなら、いく
ら従順なメイドロボでも受け入れるわけがない。
 「歴史を変える」ということがどんなに重大なことか、メイドロボたちも知っているからだ。

 だから、早良は、おのおののメイドロボと自律型データベースの深層意識の中に植え込むことにし
たのだ。
 「乱れたところに秩序をもたらし、分裂したものを一つにまとめる」志向を。
  そのために、「最も相応しいと思われる人材を探し出して主人と仰ぐ」志向を。
 HM−1377もセレナも、自分たちがこの時代に送り込まれた目的を知らなかったわけではない。
知っていながら、気がつかなかっただけである。
 今や、自らの内奥にある志向に従って、「柏木耕治を主と仰ぎ、日本国をひとつにする」決意を固
めたセリオは、実はこの時代に送り込まれた本来の目的を、知らぬ間に把握し実行しようとしていた
のだ。



「いいお天気ですねぇ」

 新たないくさの間近なことも知らず、屋敷の庭先に降り立ったマルチは、空を見上げながら目を細
めていた。
 少し離れたところに六の宮がいる。
 傍らにいるゆいに、庭木の葉についた毛虫を指し示しながら、この醜い生き物がやがて目も覚める
ような美しい蝶に変わる、と一生懸命話している。
 ふたりの姿は、傍から見ると、年の離れた、しかし仲の良い姉妹のように見えた。

 マルチの隣には小太郎が立っている。
 彼は、子どもながらに、再びいくさの迫っていることを感じていた。
 このところ頻繁に、父親が難しい顔をしてセリオと何事か話し合うようになったからだ。
 経験から言うと、それは大抵、いくさの前触れなのである。

 自分もやがて元服し、初陣を飾る日が来るだろう。
 いつかきっと、「日本一武勇之者」と言われる父親に負けない、立派な「つわもの」となってやる……

 ……が、小太郎は本質的にいくさ好きではなかった。
 リネットの気質を受け継いだのかも知れないし、マルチと一緒にいる時間が長いせいかも知れない。
 だが、一番の原因は、やはりいくさによって母を、それも自分の目の前で失ったことにあるのだろ
う……

 小太郎はふと、マルチを見た。
 リネット亡き後の母親代わりであり、姉のような存在でもある、優しい娘を。

 ……マルチには、いつまでも変わらないでいてほしい。
 自分の傍を去らないでいてほしい……

「……マルチ?」

「はい? 何でしょう?」

「小太郎に約束してくれ」

「お約束、ですかぁ?」

「そうだ。いつまでも息災で、小太郎の傍にいると、約束してくれ」

「……はい。承知しましたぁ」

 そう言いながら、マルチは胸の中で、さまざまな「約束」を思い出していた。

 最初のご主人様である浩之と交わした、「いつまでも一緒にいよう」という約束。
 瀕死の芹香に誓った、「耕一さんを助ける」という約束。
 リネットが次郎衛門と結んだ、「生きるも死ぬもふたり一緒」という約束……

 守られた約束。
 守られなかった約束。
 いろいろな思いが込められた、さまざまな約束……



    誠実な人間ならだれでも、自分が交わした約束を守りたいという思いを持っている。
    だが、いつでもその思いを貫けるわけではない。
    人生には常に不測の事態があり、いくら頑張っても力及ばぬこともあるのだから。
    それでも、人は約束を交わし続けるのだ。
    明日への希望と願いを込めて……



「誠か?」

「はい、お約束しますぅ」



    そしてまたひとつ、新たな約束が交わされる……




「約束」
The Days of Multi <番外/時空編> 完


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−「約束」 あとがき−

「楓属性の浮気者」DOMでございます。
ここまで駄文におつき合いくださり、本当にありがとうございました。
「約束」は、これですべて終了です。

「The Days of Multi」の続編か番外編を書きたい、とお知らせしたのが9月のこと。
それから長期出張があったり、思わぬスランプに陥ったりしたため、
11月下旬からの10日ほどで後半の12ヵ章を書き上げなければならないという、
私としては異例のスピードを強いられることになりました。
空き時間はほとんどSS書きに追われていたような……
うう、しんどかったです。


さて、この作品、一応<時空編>と名づけただけあって、
タイムトラベルの問題がひとつのネックになっています。
私はさほどたくさんの(タイムトラベルを扱った)SFを読んだわけではありませんが、
知っている限りで申しますと、
「過去を変えてはならない」ということがほとんど不変の原則となっています。
それは時には「間違った方向に向かおうとする『過去』を修正する」という
バリエーションをとることもありますが、根本は同じことです。

しかし、もしかすると、積極的に過去を変えてしまおうとする
タイムトラベラーもいるのではないだろうか、
そして、その行為に少しでも弁解の余地があるとすれば、どういう場合だろうか?
そんな事を考えたのが、この<時空編>執筆のひとつのきっかけです。

人類の滅亡がかなりの確実性を持ったものとして迫っている状態で、
タイムマシンが完成したら−−
過去を変えることによって、人類の歴史をもう一度やり直すチャンスが与えられるのではないか、
今度はもっと賢明にふるまうことができて、滅亡を避ける道が開かれて行くのではないか−−
そう考える人間が出て来てもあながち不思議ではない、と思います。
(その考えが正しいかどうかは別として)

「約束」は、そうした事が実際に起こったとして、
本来なら無名の武士で終わるはずだった次郎衛門が、日本でも有数の大名へと成長し、
いよいよ天下人へと雄飛するか……というあたりで終わっています。

次郎衛門/耕治は本当に天下を取れるのか。
取れたとしたら、そのことが後の日本の、そして世界の歴史にどういう影響を及ぼすのか。
そもそも、ここまで歴史が変わった場合、
21世紀の柏木家や来栖川家のあり方に支障をきたすことはないのか
(ヨークも死んじゃいましたし、転生の問題がどうなるか)。
……などの問題は、読者の皆さんのご想像にお委ねしたいと思います。


それにしても、この話。
私にしては珍しく、最初から最後まで構想が決まってから書き出したので、
スラスラいくかと思いきや。
「10章くらいで完結」のはずが、15章に伸び、20章に伸び……
図書館への投稿を開始した時には、20章くらいまでできてまして、
「22章で必ず終わるはずだから、目処がついたぞ」なんて考えてたんですが、
結局終わってみれば全27章……(汗)

これも実は、25章を書き終わった時点で、
「こりゃ、何とかしないと30章までいっちゃうのでは?
 それじゃ、出かけるまでに投稿し切れないかも」
という危機感に見舞われまして、先に27章(最終章)を書き上げてしまいました。
これで、26章を使って穴埋めをすれば、全巻の終わり……という変則的な書き方をして、
ようやく締めくくったものです。
そうでもしないと、どこまで伸びて行ったことか……(苦笑)


参考までに、私のもともとの構想というのを、そのままここに挙げておきます。

 HMのタイムトラベル
 マルチ、眠りからさめる
 リネット・次郎右衛門との出会い
 HM20体、隣国に出現、「鬼」と恐れられる
 隣国の要請により、次郎右衛門を頭とする討伐隊の遠征
 HMと次郎右衛門の戦い
 次郎右衛門、戦場でエルクゥ化、マルチの記憶回復
 (芹香の予見と死、香織による芹香の意志の遂行、マルチ眠りに就く)
 マルチ、次郎右衛門をマスターと認識
 HMたち、マルチを母と確認
 次郎右衛門、主君に命を狙われ、逆に主君を討つ
 領土拡大
 京都を勢力範囲に
 皇女の降嫁決定
 歴史を変えるための計画
 滅亡に向かう世界
 芹香の微笑

このメモ書きがすべてでした(笑)
一見してわかるように(わかります?)、大筋は構想通りなのですが、
細かいところが大分変わっています。

たとえば当初の予定では:
1.冒頭に、HM−1377がタイムマシンで過去に送られるシーンが来る。
2.マルチはその時(22世紀)、HM−1377たちと同じ研究所にあるカプセル内で、
  およそ100年もの間眠り続けていたが、タイムマシンの作動と共に眠りから覚める。
  マルチはこの時のために、(芹香の意を受けた)香織の魔法によって眠らされていたのである。
3.マルチも、タイムマシンでHM−1377たちの後を追う。
4.HM−1377たちが到着したのは(近江ではなく)能登の隣国だった。
  鬼退治の討伐隊は、隣国の要請を受けて、天城氏の家臣で構成されたもの。
5.マルチの記憶は、メイドロボたちとの戦いの最中に、
  次郎衛門が解放したエルクゥパワーがきっかけとなって、完全に回復する。
  そのため、マルチは思わず次郎衛門に向かって「ご主人様」と叫ぶ。
  その声でマルチに気がついたメイドロボたちは、マルチを自分たちの「母」と認識し、
  争いをやめる……つまり、セレナもセリオも登場しない(爆)
6.最後は、都から嫁いで来た皇女に会ったマルチが、
  「マルチさん、ありがとう。約束を守ってくれて」と微笑む芹香の幻(?)を
  見るところで終わり。
……というような感じでした。
ひょっとして、こっちの方が良かったですか?(笑)


そのほかメモにない事柄、例えばリネットやヨークの死などは、
実際書くうちにどんどん話の流れが変わってしまった結果だとご理解ください。
……しかし、ちゃんとメモ書きまで作ってあるのに、
どうしてこうも予定と違った展開になるんだろう?(汗)

佐々木氏興は、最初の構想では登場しないはずだったんですが、
書き始めてから、佐々木浩との関係を思いついて出演決定。
次に静原主水が(因みに、「静原」は香織の中学時代の同級生の名字です)。

それじゃいっそ、長瀬主任に相当する人物にも出てもらおうか、ということで、
「長瀬新左衛門」が一応決まったんですが、
どうもわざとらしい気がして、長瀬とは無関係の「中村」姓で登場してもらいました。
しかし物語の進行と共にまた気が変わり、マルチの記憶回復を手伝ってもらうために、
姓名とも変えてもらって「長瀬源忠」になったわけです。

また、皇女六の宮は、
最初「来栖川院」とか何とかにできないかなと思ってたんですが(笑)、
下手をするとパロディになってしまいそうだったので、やめました。
結果として、皇女は芹香そっくりとまではいかないが、風貌が似ている、
という程度で落ち着きました。
「虫めづる姫君」も、ほとんどその場の思いつきです。
余談ですが、「堤中納言物語」に出て来る本物の「虫めづる姫君」は、
爬虫類、少なくとも蛇は苦手だったはずです。

……などなど、結局は構想があってもなくても、
その場のキーの勢いで、展開が変わったり、どんどん長くなったりと、
処女作以来の製作態度がそのまま継続していることを、改めて実感した次第です。


しかし、図書館に投稿を開始した当初は、
処女作「The Days of Multi」が最初で最後の作品になるだろうと考えていた私ですが、
その後、<綾香と浩之編>他を追加できるわ、こうして番外編をアップできるわ、
スランプの間は「迷作」を書き散らすわで、
いつの間にかかなりの量のSSをネット上に残すことになりました。
これもひとえに、拙い文章にもかかわらず「面白い」と言ってくださった皆様のおかげです。


これでしばらく波乗りできなくなるので、皆様とも一時お別れですが、
できるだけ近いうちに、またどこかでお目にかかりたいと思います。

まさた館長様、いろいろお世話になりました。
読者の皆様、ここまでのご声援、本当にありがとうございました。

       1999.12.6                 by  DOM