I for You 第1話 投稿者: ESP
 キーンコーンカーンコーン
 「おっしゃー終わったー」
 これで授業は全部終了。
 今日も一日ご苦労さんっと。
 「おーいあかりー帰ろうぜー」
 「あ、ちょっと待って浩之ちゃーん」
 見るとあかりは黒板を必死に書き写していた。
 まったく、相変わらずとろいやつだな。
 「ほら待っててやるからはやくしろ」
 「うん」
 かきかき
 さわさわ
 「・・・・・・・」
 「ん?どうした」
 「ううん、なんでも」
 かきかき
 さわさわ
 かき・・・・
 さわさわ
 「ねぇ浩之ちゃん」
 「なんだ」
 「どうしてわたしがノート書いてるときおさげ触るの?」
 「いや、このごろずっとあの髪形だったろ。今日久しぶりにおさげだからさ・・・」
 「気になっちゃう?」
 「ちょっとな」
 「あら?ヒロまだいたの?」
 と、そこに志保がやって来た。
 「なんだよ、いちゃ悪いのか」
 「そりゃ悪いわよ」
 「なんだと、てめぇ、この・・・」
 「まあまあ浩之ちゃん、落ち着いて」
 そう言って仲裁にはいるあかり。
 そのタイミングも心得たものだ。
 「で、何か用なの?志保」
 「あ、そうだった」
 ポンっと手を打ちながら、そう言い、
 「ほら、来週バレンタインじゃない、だから一緒にチョコ買いに行こうと思って」
 そういやそうだった。
 ま、俺には関係ないがな。
 ううっ・・・悲しい・・・ 
 「ごめん、今日は浩之ちゃんと帰る約束が・・・」
 「またなのーあんたこのごろずっとそうじゃない、つきあいわるいわよー」
 「そ、そんなこといったって・・・」
 「わかった!ヒロが無理やりさそってんでしょ、それで心優しいあかりは断れないっと」
 「ちょっとまて、どうしてそうなるんだ」
 「あら?違うの?」
 「当たり前だ、俺はお前と違って相手の都合を考える人間なんだよ」
 「それじゃあ、わたしが考えてないみたいじゃない」
 「違うのか?」
 「違うわよ!あかり!こんなやつほっといて帰りましょ!」
 「だ、だからわたしは浩之ちゃんと約束が・・・」
 「あ、あかり、あんた、わたしよりヒロをとるのね・・・」
 「そういうことじゃなくて・・・」
 「ほらほら、邪魔ものは帰った帰った」
 シッシッと手で追い払うふりをする。
 「きー!おぼえてなさいよ、あんたなんかにチョコあげないんだから!」
 「うそつきになるチョコなんていらねーよ」
 「ひ、浩之ちゃん、それは言い過ぎじゃ・・・」
 「あいつには、あれくらいが丁度いいんだよ」
 あかりは、仕方ないなあ、という感じでため息をした。
 まあ、なんだかんだいっていつものことだって分かってるんだろうな。
 「それより終わったのか」
 気がつくと時計の針は四時を指していた。
 「え?うん、終わったよ、待っててくれてありがと」
 「よし、それじゃ帰るぞ」

 そういえば今年は雪が降らなかったなー
 などと、どうでもいいことを考えていたとき、
 「ねえ浩之ちゃん、最近ちゃんと食事してる?」
 唐突にあかりがそんなことを聞いてきた。
 「ああ、きちんと栄養のあるものをバランスよくとってるぜ」
 「でもそれって・・」
 「コンビニの弁当じゃないぞ。ちゃんと自炊だ」
 「すごい!浩之ちゃんどうしたの?」
 「ま、ちょっとした心境の変化だな、いつまでもあかりに迷惑かけられんだろ」
 「ふーん、どんなものつくってるの?」
 「そうだな、昨日はカレーだったな」
 「それから?」
 「おとといは野菜カレーだった」
 「・・・」
 「今日はシーフードカレーにでも・・・ってどうした?」
 「浩之ちゃん・・・カレーばっかり・・・」
 「だめか?色々工夫してるんだけど」
 「そういう問題じゃなくて・・・ほかには何かつくらないの?」
 「そうだな、つくろうとは思ってるんだが何作っていいかわからん」
 「お料理の本とかにいっぱい載ってるよ」
 「俺が料理の本買うようなやつにみえるか?それに本見たって細かいところが・・・
  そうだ、料理教えてくれよ」
 「え?わたしが?」
 「ほかに誰がいるんだ、久しぶりにあかりの料理も食いたくなったしな」
 「うん、美味しいのおしえてあげるね」
 あかりは嬉しそうにそういった。
 「それじゃあ、どんなのがいい?」
 「そうだな・・・簡単で毎日食べても飽きないもの」
 自分で言っててなんだが、かなり都合のいい注文だな。
 そんなもん、あるのか?
 「うーん・・・おみそ汁なんてどうかな、カレー作れるんだったらお米も炊けるんでしょ、
  組み合わせもいいと思うし」
 そっか、みそ汁か。
 確かにあれなら俺にもできそうだ。
 毎日食べても飽きないだろうし。
 「そうだな、そうするか」
 「具はお豆腐でいい?」
 「おう、まかせた」
 「でも浩之ちゃんのお料理つくる姿ちょっと想像つかないな」
 「そうか?まあそうなんだろうけどな」
 「・・・浩之ちゃん日本語が変・・・」
 「ほっとけ」

「お豆腐買った、お味噌買った、えーっと・・・うん!全部そろってる」
 ふと時計をみるともう七時だった。
 うーん、だいぶ遅くなっちゃったなあ。
 浩之ちゃん待ってるかな。
 きっと今ごろ、おなかペコペコにしてるよね。
 ふふ、今日は腕によりをかけておいしいものつくるからね。
 だって、せっかく浩之ちゃんがわたしの料理を食べたいって言ってくれたんだから。
 おみそ汁教えるのが主なんだけど・・・
 でも、いつか毎日浩之ちゃんのおみそ汁つくる日が・・・
 わ、わたしなにを考えて・・・
 ニャーン
 ん?
 今何か・・・
 ニャーン
 「あ、ネコちゃんだ」
 ニャーン ニャーン
 そのネコちゃんは頭をわたしの足にすり寄せてきた。
 「うう、かわいいよー」
 指をだしたら、においをかいできたりして、いかにも子猫って感じがする。
 でも、あんまりかまうと、なついちゃうよね。
 「ごめんね、わたし、もういかなきゃ」
 ニャーン
 そのことばが分かってくれたのか、ネコちゃんはどこかに走っていってしまった。
 「ふう、さてと急がないと・・・あ!そっちは!」
 ネコちゃん、道路のほうにいっちゃった!
 あそこは車のとうりが激しいのに!・・・
 ニャーン
 「あ!危ない!」
 キキーーーー!!!、ドンッ!

 ワハハハ・・・
 テレビからつまらない漫才と観客のつくった笑い声が聞こえてくる。
 現在午後十一時二十一分。
 晩飯はまだ食っていない。
 理由?あかりがまだ来てないからだよ。
 「ったく、なにやってんだよ」
 カチャ
 少しいらだちまじりに電話の受話器を戻した
 こうするのもこれで五回目。
 つまりあかりの家に五回電話をかけたってことだ。
 しかし何度かけてもだれもでてこない。
 あかりの母さんもいないらしい。
 家族で旅行でも行ったのだろうか。
 いや、明日は木曜日だ、学校がある。
 それに、もしそうだとしたら俺とあんな約束はしないはずだ。
 と、そのときテレビが十二時を告げた。
 しゃあねえカップラーメンでも食うかと思ったそのとき。
 プルルルルル、プルルルルル
 電話のベルが鳴った。
 ったくだれだよいまごろ。
 まさか、あかりか?
 カチャ
 「はい、もしもし」
 「あ、浩之君?浩之君ね」
 電話の声は少しあわてた口調でそう言った
 「そうですけど、どちらさまで・・・」
 そこまで言って気付いた。
 これは、あかりの母さんの声だ。
 「どうしたんですか、家に電話してもだれもいないし」
 「それどころじゃないの!あかりが!」
 「あかりが?」
 「あかりが車にはねられたの!もしもし!浩之君聞いてる!?浩之君!?」
 「・・・あかりがはねられた?」

 「で、どうなんですあかりは」
 電話をうけて約三十分後、俺はあかりが運びこまれた病院に来ていた。
 深夜の病院は人気がなく悪い方向に考えをすすめるには絶好だった。
 まさか足が一本少なかったら−
 なんてことまで考えてしまう。
 ま、実際行ってみるとあかりは五体満足な姿でベッドの上で寝息をたてていた。
 最悪の事態は免れたってことだな。
 そして今はあかりの母さんに詳しいことを聞いている途中だ。
 「お医者さまの話では軽い打撲とすり傷ですんだのが奇跡だって」
 「じゃあ大丈夫なんですね」
 「ええ、とりあえず精密検査をして異常がなかったら二、三日入院して退院らしいわ」
 「そうですか・・・よかった・・・」
 「あかりのこと心配だった?」
 「ま、そりゃあ一応」
 「ふーん」
 「な、なんすかおばさん、その含んだ笑いは」
 「やーね、お母さんって呼んで」
 「おばさん!」
 「う、うーん」
 「ほらほら静かにしないとあかり起きちゃうわよ」
 「は、はい・・・」
 「う、浩之・・・ちゃん」
 ん?起きたのか?
 いや、まだ寝てるか。
 ったく、寝言でひとの名前呼ぶなよ
 「う・・・浩之・・・ちゃん、おみそ汁・・・」
 み、みそ汁?
 そんなにみそ汁つくりたかったのか?
 分かってるよ、事故にあっても俺のこと思ってるんだよな。
 俺は少しうなされているあかりの横にいって、
 「こんなときぐらい俺のこと忘れてしっかり休め」
 そういいながら、あかりの髪を優しくなでた。
 「ん、浩之ちゃん・・・」
 ちょっと気持ち良さそうな顔になる。
 「じゃあ、わたしはもう帰るから」
 「あ、それじゃあ俺も」
 「だめよ、浩之君はあかりの看病よ」
 「看病っていっても・・・」
 「いいのよ、一晩中あかりのそばにいるだけで」
 「で、でもだれか来たら」
 「ここの院長先生わたしの知り合いなの、だから大丈夫」
 だからこんな深夜に病院に入れたわけね。
 「また朝ごろ来るから」
 そう言って、おばさんは出ていってしまった。
 「浩之ちゃん・・・」
 俺も帰ろうとおもったがいつのまにかあかりが俺の手を握っていた。
 仕方ない、朝までつきあうか・・・
・
・
・
 「いいの?浩之君あかりのそばにいなくて、もしあかりが目を覚ましたら・・・」
 次の日の朝。
 俺はとりあえず学校に行くことをおばさんに告げた。
 「いいんですよ、目を覚ましたとき俺がいたら学校をさぼったって文句言われますからね」
 「ふふ」
 「どうしたんです?」
 「いえ、母親より娘のことがわかるひとがやっとできたなって思ったの」
 「じゃ、じゃあ僕行きますんで・・・」
 あのひと何言い出すかわからんな・・・

 一人で学校に行くのも新鮮なもんだ。
 そんなことを思っていると見慣れた後ろ姿を見つけた。
 「おっす、志保」
 「げっヒロ!?」
 こっちを振り向いた瞬間、志保は表情を凍らせた
 「な、なんだよ」
 「−ってことは、やばっ、遅刻だ!」
 おい、いつぞやと同じ第一声か?
 「前も同じ受け答えじゃなかったか?」
 「うん、あたしもそんな気が・・・ってそんなことどうでもいいのよ遅刻しちゃう!」
 「だから前にも言ったがフツー朝会ったら、まずはー」
 「や、おっはよー、あか・・・あら?あかりは?」
 「あ?、あかりなら・・・」
 「そうかそうか」
 勝手に納得する志保。
 「なんだよ」
 「アンタ、あかりと別れたのね」
 「あ?」
 「そりゃそうよね、いくらあかりだってこんな甲斐性なしの世話なんていやになるわよね」
 「このアマ・・・」
 「で、ほんとのところはどうなの?風邪でもひいたの?」
 俺が言い返す暇を与えずそう聞いてきた。
 ちっ成長しやがったな。
 それはそうとして、どうする。
 ここでコイツにあかりのことを言うべきか・・・
 でも言うとなあ。
 今日一日で学校中にしれわたるだろうし、
 しかし、いつかはばれることだし・・・
 よし
 「事故った」
 「は?」
 「あかり、事故った」
 「なに?浩之ちゃんニュースでもはじめたの?」
 「信じる信じないはおまえの勝手だ」
 志保は何か考えるようにうつむき、
 「・・・マジなの?」
 と、ひとこと言った。
 「マジだ」
 「ど、どうして事故ったの!?あかり無事なの!?」
 「こ、声が大きい、それとひとつずつ質問しろ」
 「あ、そ、そうね」
 志保が落ち着いたところで今までのことを説明した。
 「じゃあ、あかりは無事なのね」
 「ああ、おまえこのこと言うなよ」
 「分かってるわよこう見えても口はかたいほうなんだから」
 「しらふで酔えるとは器用なやつだな」
 「ちょっとーそれどういう意味よ」
 「別に」

 そんなこんなで志保はめずらしくデマをながすことなく学校が終わった。
 まあ朝のホームルームで先生があかりの事故のことを言ったからクラスの全員が知るところとなったが。
 それでも志保がデマをながすよりは数倍マシだ。
 で、約束を守ったということで志保と二人であかりの見舞いにいくことになった。
 なぜか交通費は俺もちらしい。
 「あかりーお見舞いに来たわよー」
 志保がそういいながらドアを開けた。
 そこにはあかりの母さんとベッドに横たわるあかりの姿があった。
 「よかったー元気そうじゃないのー、この甲斐性なしが大げさに言うから心配したのよー」
 「てめえ、なに根も葉もないこと口走ってんだ」
 「なによ、朝来るときあかりがいないだけで死んだような顔してたじゃない」
 「それ以上デマ言うといくら俺でも・・・」 
 「女の子に手出すって言うの、やってごらんなさいよ」
 「勝手にやってろ」
 「あ、あら?言い返さないの?」
 「俺はおまえと違って病院の中で騒ぐような恥知らずじゃないんだよ」
 「むかつくわねー、あんたがそんなやつとは思わなかったわ」
 そう負けゼリフを言い残し、志保はあかりの方へといった。
 ふふん、まだまだ青いな。
 「浩之君・・・」
 「あ、おばさん、あかり目を覚ましたんですね、元気そうで安心しましたよ」
 「そうね、きっと浩之君が一晩中付き添ってくれてたからね・・・」
 「な、なに言ってんですか!俺はただ・・・」
 「・・・」
 「・・・おばさん?」
 「・・・」
 どうしたんだろうか。
 心なしか元気がないように見える。
 「どうしたんですか?なんか元気がないですよ」
 「そ、そうかしら?気のせいじゃないの」
 ごまかすような、あいまいな返事。
 昨日より落ち込んでいる感じだ。
 「おばさん」
 俺はつとめて静かな声をだして、
 「もしかして、あかりに何かあったんじゃないですか」
 「・・・」
 「だから元気がない、そうでしょう」
 「・・・浩之君」
 「教えてくれませんか、あかりになにがあったか」
 「・・・分かったわ・・・、実は・・・」
 「ちょ、ちょっとあかり!どうしちゃったのよ!」
 まったく、こいつは。
 ひとが大事な話をしているときに何やってんだよ。
 「おい志保、騒ぐなってあれほど・・・」
 「それどころじゃないのよ!ちょっと来て!」
 「なんだ、どうしたんだ」
 「あかりがおかしいのよ!」
 「おかしいって・・・どこがだよ、いつものあかりじゃねえか、ったくこんなとこでも志保ちゃんニュースか?」
 「バカ!いくらわたしでもこんなときにデマなんて言わないわ!」
 じゃあ、いつもはデマ言ってるのか。
 と、喉まで出てきたが必死に引っ込めた。
 眼がいつになくマジだったし、「こんなとき」という言葉になにかひっかかったものを感じたからだ。
 それによく考えてみれば、あかりに何かあったのは事実だ。
 「んで、どうした?あかりがどうしたんだ」
 「あかり、わたしのこと覚えてないのよ!」
 「あ?」
 「だからー!わたしに向かって、あなた誰?、って言ったのよ!」
 「・・・つまり記憶喪失っていいたいのか」
 「そうよ」
 「ばかばかしい、やっぱりデマじゃねえか」
 「ど、どうしてそういいきれるのよ」
 「そりゃ・・・」
 昨日寝言で俺の名前を言ってたからだよ。
 という言葉はあかりの言葉に遮られた。
 「ちょっと・・静かにしてもらえますか?」
 「あ、ああすまん、ほら志保、静かに・・・」
 「ね、あかりわたしよ、わ・た・し、志保よ」
 「テメェ、いきなり割り込んで何分けわからんことを、」
 「ごめんなさい、ほんとに思い出せないの・・・」
 「あ、あかり?おまえまでなにを言い出すんだ?」
 勢いであかりの肩をつかんでしまった。
 「い、いや!放して!」
 「あ、あかり・・・?」
 「あなた・・・誰?」
                  <続>
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 <あとがき>
 曲名タイトルシリーズ第三弾「I for You」
 いかがでしたか(第一.二弾は「春を愛する人」「ずっと二人で・・・」)
 しかしGL*Yの次はLUNAS*Aか・・・
 まあ興味のある人は一度聞いてください。
 どれも名曲ですから。
 さてさて今回は自分にとって初の続き物となりました。
 みなさんに「続きが読みたい」と思ってもらえるようなものを書いていきたいと思います。
 で、「I for You」というタイトルですが、
 話によると「あなたのための私」という意味らしいです。
 なんとなく浩之におけるあかり、という感じがしません?
 さて第2話は・・・
 考えてません!
 いきあたりばったり、それが俺のモットー!
 何話で終わらすのかもさだかではない!
 だいじょうぶなのか・・・
 ESPでした。                              

                                    98/09/26