春を愛する人 投稿者: ESP
 「今のままじゃあ、お互いのためにならないから・・・さよなら浩之ちゃん」

 そう言って、あかりが去ってから一年がたった。
 あかりは顔色一つ変えずにそう言い、俺は声色一つ変えずに、
 「じゃあな」
 冷静にそう言った。
 桜が舞い散るある日のことだった。

 いつからだろう。
 あんなに望んでいたあかりとの生活に何も感じなくなってしまったのは。
 朝起きて、顔をあわせてドキドキすることも、
 食事のときの何げない会話で笑い会うことも、
 デートのとき手を握って、胸が高鳴ることも、
 いつの間にかなくなっていた。
 もちろんあかりのことが嫌いになったわけじゃない。
 あのときは、あかりのことがなによりも大切だった。
 もちろん今でもそうだ。
 でもそれは恋人のそれではない。
 あくまで幼なじみとしての大切だった。
 分かり過ぎていたんだ。
 お互いが何を考えているか、何をしようとしているか。
 でも、それは今までもそうだった。
 高校のときも上手くいってたんだから。
 しかし、
 幼なじみだから分からなかったこと。
 恋人としてだから分かったこと。
 結局、俺たちに似合っていたのは
 「友達以上、恋人未満」
 そんな使い古された陳腐な言い回しの関係だったのだろう。
 別れてから気づくというのも、なんとも皮肉な話だ。
 いや、別れないと気づけなかったのかもな。

 別れる前日。
 俺とあかりは夜桜を見にきていた。
 場所は、高校のとき二人だけで来たあの公園。
 あかりは、あのときと同じ髪形と服装だった。
 ベンチに座り手作り弁当を食べる。
 何げない会話を交わし、笑い会う。
 こうしていると、あのころに戻ったみたいな気がする。 
 あのときは酒飲もうとして止められたっけなぁ。
 そして、桜が舞い散る中に立っていたあかりを見て・・・
 「もう堂々とお酒が飲めるんだね」
 ふと俺が口をつけたビールを見てあかりがそう言った。
 堂々と酒が飲める・・・か・・・
 あのころとはもう違うってことか。
 物心ついてから俺の隣にはいつもあかりがいた。
 これからもずっとそうだと思っていた。
 でも、なんとなく分かっていた。
 あかりが俺から離れていってしまう。
 そんな気がしていた。
 いつのまにかすれ違っていた二人。
 お互いのことがよく分かっていたから・・・

 今、俺の手の中には一通の手紙がある。
 「結婚しました」
 そう涙でにじんだ字が書かれた手紙。
 それ以外には何も書いていない。
 差出人さえも。
 でも俺には分かった。
 差出人も、空白のところに何を書きたかったのかも。
 そんなことをぼんやり考えながら上を見上げた。
 大きな桜の木から桜の花が舞い散っている。
 またここで花見をすることになるとは思いもよらなかったな。
 「浩之ー!」
 と、俺を呼ぶ声がした。
 ったくやっと来たか。
 「おせーぞ!何やってたんだ」
 「ちょっとね、ん?なにその手紙」
 「これか?いや別になんでもないんだ、それより腹減った!何か食わしてくれー!」
 「まったくキミは花よりだんごを地でいく人だね」
 「ほっとけ、じゃいくぞ」
 「あっ、ちょっと待ってよー」
 そして、あかりの手紙を公園のごみ箱の中に入れた。
 それが、俺とあかりの終わりだから−
                                                <終>
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 <あとがき>
 書いていて収集がつかなくなったSS。
 略してKISSSS第一弾!
 「春を愛する人」はいかがでしたでしょうか。
 とりあえずこれは前回の「そしてそれから」の続きです。
 「そしてそれから」にはたくさんの方からの感想本当にありがとうございました。
 本来ならばお一人ずつにお礼を書きたいのですが、後ろで八塚さんが、
 「はよ書かんかー!」
 といっておられるのですみません、この場を借りてお礼とさせていただきます。
 さて、あかりと浩之の結婚式を期待なさっていた方々。
 本当に申し訳ありません。
 こんなことになってしまいました。
 文章も全然自然じゃないし読みにくかったかと思います。
 あっ最後に出てきた人物はオリキャラです。
 志保とか委員長ではないです。
 本当は会話を主にした「春を愛する人」の別ver.を書こうとしていたのですが、
 結婚式もしくはそれに変わる幸せになったふたりを書こうと思います。
 いつになるかわかりませんがよかったら楽しみにしていてください。
 今回タイトルあのバンドの歌から引用させていただきました。
 それではまたいつか。
 ESPでした。
                         98/09/15