そしてそれから 投稿者: ESP
 [浩之ちゃーん」
 んっ・・・。
 「浩之ちゃーん、朝だよー」
 聞き慣れた声が、耳に入ってくる。
 間違えようもない、あかりの声だ。
 ってことはもう朝か。
 うーんと背伸びをひとつ。
 痛てててて・・・。
 少し頭が、ズキズキする。
 昨日はちょっと飲み過ぎたな。
 シャッ
 痛む頭をおさえつつカーテンを開いた。
 6月の光は優しく俺をつつみ、さわやかな気分にさせる。
 まっ、今日もいい天気ってことだ。
 そんなことを思いつつ時計を見ると、針は7時30分を指していた。
 週に一度のいつもの時間。
 高校のときは、よくこの時間にあかりがきて俺を起こしてたっけ。
 チャイム連打して、大声で名前呼んで。
 今思うとかなり恥ずかしいな。
 大学に通うようになってからはいつの間にか呼びにこなくなったんだ。
 この時間にあかりに起こされると、なんだか高校時代にもどったみたいな気がする。
 高校時代といっても、まだ4年前のことだけど。
 あの頃と違うところと言ったら・・・。
 「浩之ちゃーん。今日は一限目からでしょー、遅れちゃうよー」
 っとそうだった。
 さっさと用意をしなきゃな。
 
 トントントンと階段を降りて居間に入った。
 「おはよう浩之ちゃん。もうご飯できてるよ」
 「おう」
 「多分二日酔いになってると思っておかゆにしたんだけど・・・」
 「ああ頼む、まだちょっと頭が・・・」
 「だいじょうぶ?昨日はずいぶん飲んでたみたいだけど」
 「ったくあの先輩たちには節度ってものがないからなあ」
 そう言うとあかりは、「だめだよ、気をつけないと」という目でみてきた。
 俺は少し苦笑いをして、「わかった、今度から気をつけるよ」と、ひとこと言った。
 
 今俺の前には、テーブルの上の朝食と、エプロンを付けたあかりがいる。
 言うまでもなく、この朝食はあかりがつくったものだ。
 「あんたたち、そのうち結婚ね」
 そう志保が言ってから一年が経った。
 いつの間にか、季節が四回変わって、
 いつの間にか、年齢がひとつ増えて、
 いつの間にか、あかりとつきあいだして、
 いつの間にか、同じ家に暮らすようになって・・・。
 そう俺は今あかりと同居している。
 別に同棲とかいうわけじゃない。
 他人はどう思うかしらないが本人たちに自覚がないし大切なのは今、目の前にあかりがいる、
 そのことなのだから。
 しかし、あかりが一緒に暮らすって言って俺ん家にきたときはあせったな。
 そりゃいつかはそうなるとは思っていたけど。
 ある日いきなり大荷物をかついだあかりが来て、
 
 「こんばんは、浩之ちゃん」
 「どうした、旅行でもいくのか」
 「ううん、あのね・・・浩之ちゃんの家で・・・浩之ちゃんと一緒にいたくて・・・」
 「はっ?」
 「そっ、その・・・だから・・・浩之ちゃんの家でわたしも一緒に暮らしたくて・・・」
 「お、おい、それって・・・」
 「だ、だめかな・・・」

 別に断る理由もないし、俺もあかりと同じ気持ちだった。
 ようやく幼なじみから関係が一歩進展した二人。
 二人とも素直になれず、幼なじみとしての時間をあまりにも長く過ごしてしまった。
 そんな時間を少しでも取り戻したかった。
 きっとあかりも同じ思いだったに違いない。
 そしてあかりとの同居生活がはじまったんだ。
 最初の頃はなんだか意味もなく緊張してたな。
 あかりはもうおれにとって幼なじみじゃなくて好きな女の子だった。
 そんな女の子と一緒に暮らす。
 そんな風に感じていたからかもしれない。
 とはいえ、何が変わると言うわけでもなく二人でいる時間がふえた。
 ただそれだけのことだ。
 しかし、ただそれだけのことが二人にとっての幸せだった。
 そのことを気付かせてくれたのが志保だったのだろう。
 志保。
 あかりのために身を引いたって言ってたなぁ。
 
 あんたのこと、好きだったんだ

 その言葉は、過去形だった。
 無論、今でも過去形だろう。
 でも・・・
 「・・・ゃん」
 でも俺の気持ちは・・・
 「・・・ちゃん」
 俺は・・・
 「浩之ちゃん?」
 「んっ」
 「浩之ちゃんどうしたの?」
 「い、いやちょっと考え事をな・・・」
 「そう・・・じゃ、わたしおかゆついでくるね」
 そういうと、あかりは茶碗をもって台所へといった。
 何を考えてるんだ俺は。
 一年前と同じことを考えてどうする。
 今の俺にはあかりがいる。
 それが俺が望んだことでもあり、なにより志保が望んだことだ。
 
 一年後、大学を卒業したら俺はあかりと結婚するつもりだ。 
 あかりはジューンブライドにあこがれていたから、ウエディングドレスと教会という組み合わせになるかな。
 その横にはタキシードを着た俺がいて・・・。
 ・・・何か想像もつかないな。
 角隠しをつけたあかりよりは想像できるけど。
 でも、きっとかわいいんだろうなウエディングドレスのあかり・・・。
 「何かいいことあったの?」
 「え?」
 「なにかにこにこしてるから」
 いつのまにかお盆におかゆをのせたあかりがいた。
 自分でもしらないうちに、にやけていたらしい。
 「いや、あかりのウエディングドレス・・・」
 「えっ!?」
 「あっ!いっいや!その・・・」
 あちゃー。
 つい口に出してしまった。
 別に口に出したからどうってわけじゃないけど、何だか恥ずかしい。
 みるとあかりは頬を朱くしてうつむいている。
 しっかり聞こえていたか・・・。
 あかりのことだ。
 その一言で俺が何を考えていたかわかったに違いない。
 しばし流れる無言の時間。
 ・・・・・・・・・・・・
 「浩之ちゃん・・・」
 「な、なんだ?」
 「・・・浩之ちゃん、ウエディングドレスのほうがいいの?」
 「そ、そうだなあかりにはそっちのほうが似合うと思うぜ」
 「ほんと?」
 「ああ」
 「よかったー、わたしウエディングドレスにあこがれたんだー」
 そう言うとあかりは本当に嬉しそうな顔をした。
 きっと、自分がウエディングドレスを着ている姿を想像しているのだろう。
 やっぱりウエディングドレスって女の子のあこがれなんだな。
 ・・・
 俺はこの笑顔にひかれたんだ。
 そして、あかりは俺のことをずっと想っていてくれてて・・・。
 「なぁ、あかり」
 「なに、浩之ちゃん」
 「大学の帰りにお前のウエディングドレス・・・見に行くか」
 「・・・うん!」
 
                                                                 <終>
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  <あとがき>
  読んでいて思わず恥ずかしさのあまり部屋のなかをごろごろしたくなるSS。
  略して、YOHAHNGSS第一弾!
  「そしてそれから」はどうだったでしょうか。
  あっ、あのRPGとは関係ありません、たまたま思いついたタイトルがこれだったんです、念のため。
  はじめましてESPともうします。(ペコリ)
   見ての通りこれは青紫さんの「5年後(志保ED完全版?)」の続きを僕がかってに書いたものです。
  いいのかなぁかってに続き書いて。
  ま、いいや。
  えっ?こんなの浩之とあかりじゃないって?
  それは時間が流れて二人が成長したからです!(言い訳)
  もちろん、かれいなる・・・。
  いやー!石を投げないでー!
  すみません・・・単なる僕の力量不足です・・・。
  次があったらギャグにしようっと。
  では最後に。
  受験生の僕にすてきな世界を教えてくれた原・・・じゃなかった八塚崇乃さん。
  あなたのおかげで僕はこんなに立派になりました(泣)
  大学に落ちたらお世話になります。
  どうでもいいけど「もしも電波が使えたら」の、千鶴カ・ン・ゲ・キッ☆をみて、
  ヒデキ感激!(確かヒデキだったと思う)を思い出した俺って一体・・・
  笑った人、だいぶ年齢をとってますね。
  そしてこんな駄文につきあってくださった皆さん、ありがとうございました。
  かなり長くなったのでこの辺で筆・・・いやキーをおかしていただきます。
  ESPでした。
                                                               98/08/17