「ある晴れた冬の寒い日に〜柏木千鶴〜」 投稿者:beaker
冬は、お好きですか?
私は、冬が好きでした


冬はお父さんが構ってくれたから


もうずーっと昔の話になりますけど……そう、梓が生まれてまもない頃だったかしら


私はそれまでいつも私の側にいてくれたお父さんとお母さんが、梓に係り切りになるのを見て


ヤキモチ焼いていたんです


「千鶴はいいこだから」って言われて、ちっとも構ってくれなくて


私は悲しかったんです


だから私は冬、ある寒い寒い日、外でずーっと遊んでいたんです


多分、梓に構うお父さんとお母さんを見たくなかったのかもしれません


帰ってきた頃には私は氷のように冷たくなってました


そしたらお父さんが慌てて「寒くないか? 寒くないか?」って何回も聞いて…………


それでお父さんと一緒にコタツに入ったんです


お父さんは私を膝の上に乗せてぎゅーーって抱き締めてくれて


それがとても温かくて、気持ち良くて


お母さんが温かいホットミルクを作ってくれて


それを飲んでいると何時の間にかお父さんの膝の上で寝ちゃって……


まるで揺り篭に揺られているような心地よさでした


それから毎日私は外で遊んでから、お父さんの膝の上で眠りました


冬が終わっても、寒くなくなるまで


それから楓が生まれても、初音が生まれても


冬のお父さんの膝の上は私専用でした


でもそれからお父さんとお母さんが亡くなって


私は冬が嫌いになりました


私を温めてくれる人は誰もいなかったから


その年、私は初めて冬がこんなに寒かったって言う事を知りました


身体も寒かったんですが、それ以上に心が冷たくなっていくのが実感できました


でも私は妹達の為に、温かさを与えなければいけませんでした


自分の体温が毎日毎日どんどんどんどん下がっていくような、そんな気分でした


そんな時…………あの人が来てくれました


あの人は私に「冬は嫌いかい?」そう問いました


私は「……嫌いです」そう答えました


嘘でした、私は冬が好きでした


あの人に、昔のように膝の上で温めてもらいたかった


でも、何故だか私は、それを言うのがとても恥ずかしくて


下らない意地を張ってしまいました


私が望めば、きっとあの人はお父さんのように振舞ってくれたと思うのに


妹達の手前もあったのかもしれません


お父さんじゃないという意識もあったのかもしれません


けれど、多分私はあの時、あの人に恋をしていたんだと思います


だからあの人にお父さんとして振舞って欲しくなかった


でも結局あの人も、私の手の届く所から離れてしまって


掬い取った雫がポロポロと零れるような気持ちになって


どんなに太陽が私を照らしても、


私の心までは温かくしてくれなかった


きっと私は残りの時間を、凍りついたように過ごさなければならない


そう思いました


でも


暗い海の底から私を連れ出してくれたのはあなたでした


冷たく凍った私を溶かしてくれたのはあなたでした


…………あなたがいてくれて本当に良かった


あなたを好きになれて本当に良かった


耕一さん、今までありがとうございました


そして












これからも、よろしくお願いしますね

http://www.s.fpu.ac.jp/home/s9712056/www/index.htm