夢と現実 投稿者: BEET
(これは夢だろうか?)
俺は真っ白いスーツに身をつつみ、教会の一室に立っている。
今日、俺はこの教会で結婚式を挙げることになっていた。
俺の生涯の伴侶(これでよかったのかな?)となる女性は神岸あかりである。
高校1年の頃から彼女にたいして恋心を抱いていたが、なかなか話す機会もなく、
彼女には仲の良い幼馴染みがいたため、ひどく近寄り難かったのだ。
結婚にこぎつけるまでにどういういきさつがあったのか俺自身良く覚えていない。
まあいい、俺の頭の中は今の幸せとこれからのことでいっぱいだ。
コンコン
ドアノックの音がした。
「どうぞ、開いてるよ」
と、俺が言うとドアが開いて人が二人入ってきた。
「佐藤に長岡さんか」
入ってきたのは神岸さんの昔からの親友である佐藤雅史と長岡志保であった。
「矢島、おめでとう」
「あかりを幸せにしてあげなさいよ」
と、二人が祝福の言葉をかけてくれた。
「今日、藤田は来ないのか?」
そう、彼女の幼馴染みである藤田浩之の姿がそこにはなかった。
佐藤と長岡さんに神岸さん、そして藤田浩之の4人は中学時代からの仲良しで、
特に藤田と神岸さんの関係は、はたから見れば恋人同士のそれ同然だった。
その藤田のそばにいた神岸さんと結ばれることになった俺を藤田は決して快く
思わないだろう。
「浩之ちゃんには来てほしい」
と、神岸さんが言うので、一応、招待状は出しておいたが。
「浩之とは連絡つかなかったんだ」
と、佐藤が言った。
そうだろう、俺だったら足を運ぶどころかショックで酒でもあおっているに違いない。
それが普通だろう。
それからしばらく3人で話をした。そしてついに開式の時間になった。
俺は神岸さんを迎えに彼女の控室に向かった。
ノックをして中にはいると彼女は純白のウエディングドレスに身をつつみ、シルクの
ヴェールをかぶったまま窓から外を眺めていた。
かわいらしさと美しさが同居した姿に俺の目は釘づけになった。
彼女は神岸あかりであって神岸あかりではないのではないかと思われるほどひどく別人に見えた。
「矢島くん…」
彼女がゆっくりと俺のほうを向いた。
「綺麗だよ」
反射的におれは声をかけていた。彼女が何かを言おうとしたのをかき消すかのように…。
「わたしね…」
と、彼女がいいかけたとき
「行こう、皆が待ってる」
俺は彼女の言葉を遮って彼女の手を引いた。
「うん」
彼女は笑顔で答えてくれた。
(そうだ、この笑顔があればそれでいい、他に何を望もうか)
と、俺は思った。
式は滞りなく進んだ。
式も終り教会のドアをあけると、階段下は学生時代の友人でひしめきあっていた。
「矢島、おめでとう」
「二人ともお幸せに!」
ワーワーキャーキャー騒がしかったが、俺の耳にはクラシックよりも心地よい音楽
に思われた。神岸さんもそう思っているに違いない。ふと彼女のほうを見ると、
うれしさのためか涙をながしていた。
「浩之ちゃんが‥‥いる‥」
「えっ」
俺は自分の耳を疑った。藤田がここに来ている‥。彼女の一言は俺を狼狽させた。
(何故だ‥なぜ藤田がここに…。)
俺はひどくおびえていた。彼女が控室でいいかけた言葉がおれの脳裏をよぎる。
もしかしたら彼女は藤田のことをまだ忘れられないでいるのではないか、
俺の手のなかから抜け出して藤田のところに行ってしまうのではないか…。
俺の足がガタガタと震えだした。彼女の手を引いて一歩踏み出したそのとき‥
俺は階段を踏み外し転げ落ちた。そして目の前が真っ暗になった…。
俺が目を覚ましたとき、そこは俺の部屋だった。そこにはまだ高校生の俺がいた。
(何だ夢か‥‥)
後日、藤田と神岸さんは事実上の恋人となり、俺の夢がまさ夢になることはなかった。


矢島シリーズ(?)第二弾、いかがでしたでしょうか?
起伏のない文章で全然味わいがなかったかもしれません。
感想とかいただけたらうれしいです、また文章が浮かんだら書きたいです。
それと前回のつまらない文に感想をくださった方、有難うございました。